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第164話 最終話 その黄金色に輝く魂に、感謝を込めてー4

~幾星霜の時を経て~


 俺は目を覚まそうとしていた。


「お兄ちゃん、起きて……お兄ちゃん、起きてよ」

「むにゃむにゃ……」


 いや、やっぱり寝よう。

 おやすみ、凪。


「こら、お兄ちゃん! もう朝だよ!」

「あと五分……」


 うるさいなぁ、俺は眠いんだ。昨日は徹夜でレポートだったんだから。


「おらぁぁぁ!!」

「……うぉ!?」


 俺は布団をひっくり返された。

 最悪な目覚めである。


「おはよう、お兄ちゃん。最愛の妹に起こされた気分はどう?」

「兄は、最愛の妹の優しい抱擁で目を覚ましたいんだが?」

「はいはい」


 そういって、凪は部屋を出て行ってしまう。

 昔はあんなにお兄ちゃんっ子だったのにな、思春期か。

 眠たい目を擦りながら、一階に降りると味噌汁の良い匂いがする。


「ほら! 灰! 朝ごはん食べて大学に行く! 留年なんかしたら母さん、許さないわよ!」


 テーブルに並ぶ朝食と、少しよれたスーツを着ている父さんが新聞を読んでいる。

 席について欠伸をする。


「おはよう、灰。大学はどうだ?」 

「結構楽しいよ。天体学部……ロマンだね」

「そうか、新しい星をみつけちゃったりしてな」

「あはは、ムリムリ」


 そんな日常の会話だった。

 俺は大学一年生、東京でまぁみんな聞いたことある結構良い大学の天体学部。


「ママ! 私のリップしらない?」

「知らないわよ」

「あれーどこいったんだろ」

「父さん。中学生が化粧だって、色気づいてるよ。凪」

「そんな年だからな。思春期ってやつだ」

「もう……今日彼氏とデートなのに」

「「なに!?」」


 俺と父さんは立ち上がる。


「冗談だってば。二人とも私の事好きだよね」


 それを見て凪はふふふと悪そうに笑う。 

 小悪魔系妹である。でもそんないつもの日常の朝だった。

 朝は少し生意気な妹に叩き起こされる。

 口うるさい母さんと、穏やかな父さんと朝食を取り、そして大学に向かう。


 何でもないどこにでもある日常だ。

 そして俺は大学へ向かう。

 

「よぉ、灰」

「さ、佐藤…………」


 チャラチャラした男が校門前で俺を待っていた。

 へへへと笑いながら取り巻きの男達と俺に寄ってくる。

 そして。


「頼む!! レポートうつさせてくれぇぇぇ!!」

「お願いだ、灰様!!!」

「靴なら舐めますんでぇぇぇ!!」

「またかよ。お前ら、ほんとに留年するぞ」


 スライディング土下座だ。彼らはゼミのメンバーである。

 佐藤は、俺の高校からの友達である。

 よくこの大学入れたなとは思うが、まぁ結構要領はいい奴だ。

 

「よぉーし、わかった。今日の昼飯おごりでどうだ」

「三回おごりな」

「ぐっ…………よし、買った!」

「ほい、売った」


 まぁ調子が良い奴らだが、腐れ縁である。

 憎めないんだよな、なんだか。

 



「では、今日も張り切って宇宙について考えていくことにしよう」


 田中教授が、登壇する。

 天文学部教授であり、JAXAにも顔がきくすごいエリートだ。噂では元NASAの職員でもあるとか。


「優秀な諸君なら、世界的宇宙雑誌Nature Astronomyは隅々まで読んで、日々情報をインプットしていると思うが……」

(いや、してないです)

「先日、興味深い発表があった。ほとんど与太話……と見ていいだろう。あるいは偶然に偶然が折り重なったかだ。NASAは40億光年以上離れた星からモールス信号のように点滅する光信号をキャッチした。200億光年以上離れた星すら観測しているのだからそれ自体は不思議なことではない。だが、そのキャッチした信号が面白い」

「へぇ……なんだろう」

「モールス信号と仮定して、翻訳すると『成功した』と翻訳できるそうだ」


 成功した? なんのこっちゃ。


「ただの偶然で、光がそのような点滅を繰り返しているだけ。というのがNASAの見解だが、もしかしたら知的生命体がいるのかもしれない。あまりに遠く、我々が生きている間に星間ワープの技術は完成しそうにもないが、しかし、どこか違うところで我々と同じように、天文学を学ぶ生命体がいる。そう思うとワクワクしないかい?」


 眼鏡をくいっとあげる田中教授は嬉しそうだ。

 確かに、なんだかロマンがあるなぁ。


「せんせー、それよりみどり先生との新婚結婚生活についておしえてくださーい。やっぱり大学で愛を育んだんですか」

「こ、こら! 佐藤君! そういうプライベートな質問はだな!」


 田中教授が慌てている。

 みどり先生という同じく天文学部出身の若い先生とつい最近、結婚したのだ。

 新婚さんだな。羨ましい。

 俺の彼女? 出来たことないです。


「はぁ……」


 そんなこんなで授業がおわり、俺は一番前に座っている女の子を見つめていた。

 黒い髪がサラサラで、誰もが目を奪われるほどの美少女だ。

 あまりに綺麗すぎて逆に誰も声をかけられない高根の花。

 

 しかし、俺だけが知っている。

 ちょっと前にふとノートが目に入ると、可愛いウサギの絵で「ここ大事!」なんて吹き出しを書いてたりする。

 それが可愛くて、気づけば目で追っていたりする。

 もちろん、ウサギだけではない。

 なんというか、色々可愛いのだ。あと所作が綺麗。お嬢様なんだろうか。良い匂いもする。少し虐めたくなるようなそんな感じ。あ、今のは変態っぽいから無しで。


 まぁつまり……好きだ。片思いである。


「ほう……龍園寺彩か。お目が高いこって。さすがに高望みじゃね?」

「ちょ、佐藤!? ち、違うって!」

「……お嬢様タイプの箱入り娘でござるな。攻略難易度S級と見た」

「ふむ、同じゼミの仲間としてここは拙者が助太刀いたそう。ああいう手合いは押しに弱いと相場が決まっている」

「レポートの礼だ。任せとけ、ナンパなら毎日してる」

「ちょ、バカ! お前らやめろ! それに毎日してるって毎日失敗してると同義だろ!」


 佐藤達が、授業終わり俺に肩を組んだと思ったら龍園寺さんに突撃しやがった。

 お前らみたいな毒物を彼女に近づけさせるわけにはいかない。


「龍園寺さん! 今日暇? 灰が遊びたいんだってさ」

「え!? 天地君がですか?」

「そうそう。あいつが、龍園寺さんのことが好……」

「おらぁぁぁ!!」


 俺は佐藤にドロップキック。

 

「はぁはぁはぁ……き、気にしないでね! いや、もうほんっとこいつらバカで」

「……ひ、ひま……ですよ?」

「へぇ?」

「ど、どこか行きますか? 天地君」


 少し顔を赤くして俺を上目遣いで見る龍園寺さん。

 俺は倒れている佐藤を見る。

 サムズアップしている。俺は小さくサムズアップを返しておいた。



 俺は龍園寺さんとデートをすることになった。 

 渋谷である。理由はない。

 若者は渋谷で遊ぶと思ったからだ。俺は全然詳しくないけどな。


「どうして……その……OKしてくれたんですか?」


 すると龍園寺さんが、髪を三つ編みにして眼鏡をかける。


「……もしかして」

「実は大学デビューなんです。えへへ……挨拶は……初めましてですね」


 高校の頃、通学する電車でいつも近くにいた三つ編みおさげ眼鏡の地味な女子高生がいた。

 満員電車、その日たまたま俺の近くにいたその子は痴漢されていた。

 俺は、すみませんと言いながら無理やり間に入った。それだけのことだ。

 

「助けてくれてありがとうございます」

「あぁ、いや。ごめん、もっとかっこよく助けてあげれれば」

「私にはあの方が嬉しかったです、大事になるのは恥ずかしいので」

「そっか……でも全然気づかなかった。なんというか……お嬢様って感じで」

「それは褒めていただいていると受け取ってもいいのでしょうか?」

「うん、とても清楚系って感じですごい好き」

「──!?」


 うつむく龍園寺さん。

 しかしすぐに顔を上げて少し睨むようにじとっとした眼で俺を見る。


「天地さん。実は女性の扱いに慣れていますね。でも私そんなにチョロくはないです。痴漢から助けたからって甘くみないでください」

「慣れてる? 彼女できたことないからよくわからないけど……残念ながらモテないし」


 なんとなくこんな会話した気がするなと思いながら、俺達はその辺をぶらついた。

 不思議だ。

 女性と話すのは苦手な俺が、龍園寺さんだとスラスラ話せてしまう。まるでずっと一緒にいたような……そんな感じ。


「天地さんは、どうして天文学部に?」

「え? そうだな……なんだが星が好きなんだよね。ロマンチスト……ってわけじゃないんだけど」

「私も星が好きですよ。この広い宇宙……どこかに私たちと同じように生きている人がいて、今この瞬間にも、私たちと同じように考えているかもしれない。そう思うと……なんだがワクワクします。それに私、月から地球を見るのが夢だったりするんです」

「わかる。俺も一生に一度は見てみたい」

「不思議です」

「そうだな」

「あ、いえ……私、男性と話すの得意ではないんですけど……天地さんだとすごく話しやすいです。もしかして前世恋人でした?」

「それ、男に言ったら勘違いするから気を付けてね」

「…………勘違いじゃないって言ったら……どうしますか?」

「ふぇ?」


 彩がぐいぐいくる。俺の眼を見ながら、ぐいっと体を寄せてくる。

 顔が強い。非の打ち所がないほどに可愛くて……あれ? 彩? なんで俺は龍園寺さんを彩って呼ぼうとしてるんだ。


「灰さん、前世って信じますか?」

「前世!? そ、そうだな……でも輪廻転生とかは何となく信じてる。魂はずっと星を巡っていて、もちろん記憶はなくても魂には刻まれた記憶があって、それで元恋人が惹かれ合ったり、なんというか……偶然じゃなくて、必然であってほしい。そう思ったりするかな。はは、ちょっとロマンチストだな」

「素敵な考えだと思います。…………じゃあ」


 そういって俺の手を握る彩。

 

「今日の出会いは偶然ですか? 必然ですか? それとも、運命ですか?」


 渋谷スクランブル交差点。

 彩が顔を赤くして、俺を見つめる。恥ずかしそうだ。

 俺も同じぐらい真っ赤なんだろう。見つめ合うと近づいて、このままキスできそうなほどの距離にいる。

 人通りが止まることのないこの交差点で、俺達の運命も交差したのかもしれない。


「見て、あれ……」

「イチャイチャしやがって」

「若いっていいわねぇ」


 なんて詩的なことを思っていたが、公衆の面前だったことを忘れてお互い、急に恥ずかしくなった。


「す、すみません! わ、私なんかおかしくって!」

「ご、ごめん! 俺も!!」


 背を向けて、やっぱり真っ赤になりながら、目が合うと俺達は笑ってしまった。

 全てが始まった、この交差点の真ん中で、もう一度俺達の運命は始まろうとしていた。


『これは、余計なお世話だったかな? しかし……このタイミングでここにいるなんて……これも星の巡る因果……歴史の修正力とでも言うのかな』

「「え?」」


 まるで心に直接話しかけるような、でも確かに聞いたことのある声がした。

 一体なんだろうと、周りを見渡すとみんなが空を見上げている。


 俺も空を見上げたら、空が裂けた。

 何かが起きる。

 俺は彩を引っ張り、抱きしめた。彩を守らないと、無意識にそう思った。


 次々とスマホ片手に写真を撮る通行人。

 その裂けた空からまるで、箱が落ちてきた。

 木の葉のように、ゆっくりと重力に反して落ちてくる。


 信号が変わり、クラクションの音が鳴り響く。

 それでもまっすぐと、俺達のほうへ落ちてくるキューブ。


 誰も見たことがない、きらめく黄金色に輝いて。


 俺達はただそのキューブを見つめていた。

 ゆっくりと開かれた黄金のキューブ。

 中から現れたのは、黒い髪のまるで王子様のようなイケメンだった。

 映画の撮影かと思うほどの非日常の光景に、ただ唖然と見つめた。


『やっぱり君たちは魂に刻まれた運命で結ばれてるのかな?』


 俺と彩を見て、その人は言った。

 まるで俺達を知っているかのように。


 ゆっくりと歩いてきて、そして彩と俺の手を取った。

 重ね合わせて、にこっと笑う。


『龍園寺彩さん。自分の命を懸けてでも愛する人を救いたいと思うその心は、間違いなく黄金色の魂です。あなたの覚悟に心から感謝と尊敬を』

「え?」

『そして灰君、ありがとう。ありがとう……なんどありがとうと言ってもこの感謝は伝えきれないけど。その黄金色に輝く魂が、魔力欠乏症という世界を覆う闇すらも照らし、救ってくれたことに、あの時代に生きた全てから心からの感謝を』

「あ……あなたは誰でしょうか」


 するとその人は俺達の手のひらの上に何かを置いた。

 それは小さな黄金色のキューブだった。


『僕と、兄のゼウス。二人で決めたんだ。君はどう思うか……悩んだけどね。でも世界のために戦った君の……そして君たちの黄金の戦いが、忘れ去られていい記憶ではないと。新天地に飛ぶ前に、僕たちの魔力の大半を使って、届けることにしたんだ』

「ど、どういう……」

『こういうこと』


 直後だった。 

 そのキューブが開き、光の粒子が世界に散らばる。

 俺と彩の体にも、その光は入っていく。


 記憶の光。

 星の記憶。

 そして俺達の戦いの記憶。

 

 そのすべてが世界を駆け巡る。

 あぁ、そうか。俺達は……戦ったんだ。

 

「ハデス……さん」

『また会えて嬉しいよ、どうだろう。僕たちの星からメッセージは届いたかな? 僕たちは新天地で、魔力無しでも生きていけるように、研究を進めることにしたんだが……』

「…………はい……届いてます。成功したと」

『そっか、よかった』


 俺はハデスさんと抱きしめあった。


『灰君、最後にもう一度だけ言わせてほしい…………本当にありがとう』

「……はい! どういたしまして!」

『彩ちゃん、灰君!! その黄金色に輝く魂に、感謝を込めて……末永くお幸せに』


 そしてハデスさんはにこっと笑って、光と共に消えてしまった。

 でも、ハデスさんは遠い星できっと幸せな生涯を送った。ヘラさんとアナスタシアちゃんと、最愛の家族達と。


 俺は彩を見る。

 彩は俺を見る。

 先ほどまでとは違う眼でまっすぐと見つめ合う。


「前から思ってたけど、彩って結構無茶するよね。目の前で恋人に死なれたらトラウマになるよ?」

「灰さんを死ぬほど愛してますから。重い女は嫌ですか?」

「大好き」


 俺は彩を引っ張った。

 そして交差点の中心で、抱きしめる。

 

「も、もう! みんな見てますよ?」

「何十億年も待ったんだ。もう我慢しなくていいよね」

「ど、どういう……」


 そして強くキスをした。

 まっすぐと彩の眼を見て、俺は誓う。


「愛してる。結婚しよう」

「…………はい!」


 この日、俺達は永遠の愛を全てが始まったこの場所で誓い合った。

 


 


 数か月後。

 その結婚式は、とんでもない規模で行われた。

 ハデスが世界に散りばめた星の記憶は、灰にとって縁の深い人たちだ。

 だが、その人たちが問題だった。


 テレビのキャスターが報道し、世界中が注目するほどの結婚式に参列したのは。


「世界的ハリウッドスターの王偉様がご来日されました! 天地灰さんとは兄弟だとおっしゃっており……」


 ニコッと笑う王偉。アカデミー賞を何度も取った世界的大スターの来日。

 さらに中国の要人も多く参列している。闘神ギルドのメンバーだった。


「俺は、兄弟席に座った方がいいのか?」

「王さん、この時代では盃交わしてないでしょ」

「確かに。今日交わすか!」

  

「続いて、ボクシング世界ヘビー級チャンピオン!! アーノルド・アルテウス選手です!」


 サングラスと入れ墨だらけ。

 風貌は変わらず、しかし王者連続防衛記録を塗り替え続ける暴君の登場。


「HAHAHA。地味な式場だな。もっと派手にやれよ。なぁ、レイナ」

「…………しくしく」

「なんだ、お前泣いてんのかよ」

「ふふ、この子灰君のこと大好きだからね。大丈夫よ、レイナ。結婚してても奪えばいいの」

「いや、ダメだろ……灰も大変だな」



「こちらも世界的女優! 日本人でありながら、世界的モデル! テレビをつければ見ない日はない銀野レイナさんです! なぜか少し泣いているようです! そのお隣は、お母様でしょうか。まるで姉妹のような美しさです!」


 銀色の髪、蒼い瞳。 

 しかし泣きながら、でも嬉しそうにレイナも式場に入る。

 そのレイナと仲良さそうにしているのは、レイナの母だった。


「空手金メダリストの天道龍之介選手! さらに、各界隈の著名人が、財界、芸能界、政界と一体何人登場するのか」

「遂にあいつらも結婚か。まぁ……ハッピーエンドでよかったじゃねーか」


 灰の交友の深かったのは上位攻略者。

 その誰もが、何かの才能に秀でた者たちだった。

 そして、最後に黒塗りの高級車から降りたのは。


「日本国首相! 龍園寺景虎様です! 新婦の祖父としてのご入場です!」

「ガハハ! 儂、超嬉しい! 灰君は次の首相になってくれんかのぉ……なぁ、田中君」

「会長……じゃなかった。首相、それは無理ですよ。彼はうちの研究室がもらいますから」


 そんな派手やかな出席者が次々と式場に入場していくなか。


 一方、親族控室。


「父さんは緊張で吐きそうだ。一体、灰の交友関係はどうなってるんだ? 変わってくれないか? 凪」

「はは、お父さんスピーチ頑張ってね。みんないい人だからさ」

「今日はよろしくお願いします」

「あ、いえ! こちらこそ!」


 灰の父と、彩の父、そして凪たち。

 事情を知らない両親たちが緊張しまくっている控室。


「龍園寺首相のお孫さんとうちの子なんて」

「いえいえ、そんな。うちもおじいちゃんが特別なだけで、後は全員一般人ですから。それよりも灰君の交友関係に私たちもびっくりで」


 灰の母と彩の母が、ずっとそんなそんなと言い合う。

 二人とも普通の主婦である。


「そろそろ時間みたいだよ! いこ!」




 カランカランと祝福の鐘が鳴る。


 新婦の父から引き継いで、バージンロードを歩く二人。

 行きのバージンロードは「過去」の道だった。

 二人が歩いてきた道のり、世界を救い、暗い闇すらも照らしてきた黄金の戦いの道。


 そして到着した先は現在。

 今、二人は愛を誓う。


「新郎。健やかなる時も、病める時も豊かな時も、貧しき時も、彼女を愛し、彼女をなぐさめ命のある限り真心を尽くすことを誓いますか?」

「はい、誓います」


「新婦。健やかなる時も、病める時も豊かな時も、貧しき時も、彼を愛し、彼をなぐさめ命のある限り真心を尽くすことを誓いますか?」

「はい、誓います」


 指輪を交換し、誓いのキスをする。


「綺麗だよ、彩。世界一綺麗」

「灰さん、私の扱いがうまくなってきてませんか? 調子いいこと言って!」

「そ、そんなことないよ?」

「ほんとに?」

「ほんとだよ?」

「ふふ、じゃあ……すっごく嬉しい! えい!」

「おぉ!?」


 飛びつく彩を、灰は受け止める。

 お姫様抱っこだが、足が震えている。

 

「ま、魔力がないから……」

「え? もしかして、きついって言うんですか?」

「いえ、全然余裕ですよ、姫様!!」


 ぐいっと力を入れて立ち上がる。

 そして帰りのバージンロードを進む。

 そこは、「未来」の道。


 両脇には、二人を惜しみない拍手で祝福する仲間たち。


「おめでとう、お兄ちゃん。彩さんちょー綺麗!」

「おめでとう、灰君。おめでとう、彩君」

「Congratulations。二人とも」

「恭喜。灰、彩」

「おめでとう、坊主。おめでとう、彩」

「おめでとう。彩、灰君」


 次々とお祝いの言葉がライスシャワーと共に降り注ぐ。

 だが一人、少し暗い顔をしている。

 それに気づいた彩、そしてその気持ちも理解している。


 だから。


「レイナ!!」

「え?」


 その手に持つブーケを投げる。

 受け取ったレイナは彩を見る。

 彩はおいでと手を広げる。


「1番は私だからね。負けないんだから。だから……一緒に幸せにしてもらおう!!」

「…………うん!」


 飛びつくレイナ、抱きしめる彩。

 二人をお姫様抱っこして、踏ん張る灰に、笑うみんな。

 

「首相、どうしますか? お孫さんが二人とも持っていかれましたよ?」

「ガハハ。まぁかまわんじゃろ。世界一甲斐性はあるしのぉ。日本の法律的にはNGじゃが……しかし! 儂が許す!」


 少し照れくさそうに、彩とレイナをお姫様だっこし、『未来の道』をなんとか進む。


 この先は、どうなっているのかは誰にもわからない。

 神の眼をもってしても、未来だけは見通せないから。

 それでも、どんな暗い闇が来たって、きっと乗り越えられるだろう。


「灰、大丈夫?」

「灰さん、大丈夫ですか?」 

「これぐらい余裕!! よし、いくぞ!」

「はい!!」

「うん!!」


 その黄金色に輝く魂は、幾星霜の時を経ても色褪せることはないのだから。


「「未来へ!!」」



 灰の世界は神の眼で彩づく――完。





あとがき。

まずはここまでお待たせして、それでも呼んでくれた読者に最大の感謝を。

灰の世界、幾星霜を超えて完結しました。

どうだったでしょうか。私としてはとても満足いくラストを書けたと思っています。

皆さんの心に何か残ってくれたなら、1作者としてとても嬉しく思います。

ここで灰の世界は終わってしまいますが、新たな物語も始まります。


タイトル

魔術世界の神域料理人~魔王も勇者も、現代最高の魔術師達も、その料理人に恋焦がれる~

URL

https://book1.adouzi.eu.org/n8336ll/


どうか応援してくれると嬉しいです。

それと、コミックガルド様でコミカライズが始まっております。


https://comic-gardo.com/episode/2550912965479359181


私から漫画家さんにしてあげられる最後が、読者を漫画につれていってあげることです。

どうかコミカライズも応援してあげて頂けると嬉しいです。


では、次回作でまたお会いできることを楽しみに待ってます!!

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― 新着の感想 ―
いやー最高だった 全てが好みの展開だし2日で全部読んでしまった 忘れた頃にもう一回読み直したい
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