第161話 その黄金色に輝く魂に、感謝を込めてー1
久遠の時代。
俺はハデスさんと手を繋ぎ、そして過去へとジャンプした。
「一体……ここは」
「本当にできた……のか?」
星の記憶を見たら、久遠の時代とは約46億年前だった。
確かに、昔何かでこの星は46億年前ぐらいにできたとかそんなことを聞いた気がする。
でも実際は違う。46億年前に星の魔力が尽きて一度死んだ。
だが魔力無しで、奇跡と共に復活したんだ。
本当はもっとずっと前からこの星は存在していた。
正確に言うと……笑ってしまうほど昔だ。そりゃ魔力も切れる。
「ここが久遠の時代……魔力が満ちている。それになんて空気が美味しい。自然豊かでいいところだ」
星の魔力は1000億を超えていた。
しかし、そもそもほぼ全員が大量の魔力を持ち、至るところで大量に消費しているこの時代。
1秒当たりの消費は、俺の時代の比ではなかった。
しかし、見渡す限りの大自然。
どうやらハデスさん達の時代は、魔力に頼っているので環境汚染とは無縁のようだ。
そう思うと、なんだかエルフみたいだな。
「あ、あれ? ハデスさん!?」
「…………そうか、なるほど。同じ魂は二つ存在できない……ということか」
すると隣にいるハデスさんが、光の粒子になっていく。
「すぐに行く。ここで待っててくれ」
そして、消えてしまった。
よくわからないが、俺はその場で待機した。
「灰君!! せ、説明をしてくれないか!!」
と思ったらものの数分でハデスさんが走ってきた。
なんだか服装が違うし、ちょっとだけ若い?
「あ、あの俺が先に説明してほしいんですが……ハデスさんですよね?」
「あぁ、おそらくこの時代の僕と、転移した僕の魂が融合したんだと思う。同じ時空に同じ魂は存在できないということだろう」
「なるほど?」
難しいが、なんだかそんなSF小説を読んだ記憶がある。
俺が融合しないのは、この時代に俺がいないからなのだろう。
まぁ星の魔力なんてある時代だ。星がなんかうまいことやってるのだろう。
「で、君がやったことは?」
「すみません、できるかどうかも微妙だったんですけど、できました。ここは過去です」
「やっぱり時空跳躍……そ、それは神の領域だよ?」
「僕たち神域ですし」
「いや、そうだけども」
「でも魔力を46億消費しました。これは跳躍というより、星の記憶を使った時間の巻き戻しに近いのかもしれません」
「巻き戻し。なるほど。星の記憶を下に時間を巻き戻したと。いや……しかし、可能なのか? パラドックスは? パラレルワールド? 多次元宇宙?」
ハデスさんが色々と呟きながら混乱しているが、できたものはできたのだ。
神の眼で、星の記憶。つまりこの時代を見て、そして星の魔力を使い、神・ライトニングで時空を跳躍した。
というわけである。
「ハデスさん、ここはこの世界で最初のAMSが発生した年です」
「最初の……?」
「ハデスさん、隠密は使えますよね?」
「あぁ、もちろん」
俺とハデスさんは、隠密とミラージュを使い、自身より魔力の低い相手には見えない状態で移動する。
どちらも魔力が億越え。
見つかるわけもない。
ハデスさんの案内の下、黒の帝国へと向かう。
そしてハデスさんが住んでいた城の窓から俺達は見た。
「可愛いですね。それに奥さんも……彩にちょっと似てますか」
「…………うん」
ハデスさんは泣いていた。
そこには、ヘラさんと、アナスタシアちゃんが楽しく遊んでいたからだ。
アーサーとガラハッド、二人と追いかけっこをしていた。
そしてステータスを見ると、ヘラさんは……すでにAMSだった。
「ありがとう、また二人を見れただけで……僕は」
「何を言ってるんですか。ここから救うんですよ」
「一体何をやる気なんだい? いくら時間を飛び越えても、この星の魔力は回復しないんだよ? 未来は変わらない。この星が死ぬことには」
「はい。それに過去を変えてしまったら、未来が大きく変わってしまう恐れがあります。僕たちが生まれなくなる可能性も」
「そ、そうだよね。その可能性もある」
「でも方法が一つあるんです」
俺は空を見上げ、にやりと笑った。
しばらく後。
俺とハデスさんは白の国へと向かった。
目的はゼウスさんに会うためだ。
「白の国……か。あの時は見る余裕はなかったが、やはり穏やかで綺麗な国だな……随分と久しぶりに感じる」
「ちょっと位置は今の日本とズレてるんですね。でも……綺麗な国です」
ここは、アテナさんとランスロットさん、そしてハデスさんのお兄さんの国だ。
未来の日本でもある。
が、地殻変動とか起きたのだろう。全然違う場所にあった。
あと桜が咲いてた。
心地よい風と温かさ、春かな。
「ランスロットさんは、まだいないんですよね」
「そうだね、ランスロットを送り込んだのはもう少し先だ」
「じゃあ……ゼウスさんに会いに行きましょう!」
「いや、しかし……この国は閉鎖的で、よそ者がおいそれと会えるような……」
「大丈夫です。力技で」
「……灰君、なんだか楽しそうだね」
「楽しい……わけじゃないです。嬉しい……ですね。僕はハデスさん含めてたくさんの記憶を体験しました。そのどれもが心が張り裂けそうな思いでした。それを解決できると思うと、とても……嬉しいです」
「そうか……ありがとう」
「ハデスさんとも、なんだか仲良くなれそうな気がします。なんというか……田中さんに少し似てますね」
「田中さん?」
「いえ、僕の大好きな……友達の話です」
そして俺とハデスさんは、白の国の神の城へと向かった。
当たり前のように門番に止められる。
「ゼウスさんに会いたいんですけど」
「何者だ!!」
「えーっと、じゃあライトニングさんはいますか?」
「まずは名乗れ!! 見ない顔だな。それに来ている服もおかしい。怪しい奴め!!」
俺の服は現代の衣服である。
そういえばハデスさんとの戦いでボロボロだった。
門番が今にも剣を抜きそう。
しかし、次の瞬間。
バチッ!!
「私に用があるそうだな? 名を聞こうか」
俺の首すじに剣が当てられる。
稲妻のような速度。しかし、俺はその剣をつまむ。
ピクリとも動かない剣を見て、その人は、警戒を最大にまで上げる。
が、俺はなんだか嬉しくて笑ってしまった。
なぜなら、そこには。
「ライトニングさん。少しお若いですね」
少し若いライトニング・ラインハルト――神の騎士団団長がいた。
「灰君、説得は無理だ。ここは隠密で、兄さんに」
「大丈夫ですよ。俺にはこの力があるんで」
そして俺は星の記憶にアクセスした。
過去に戻ろうとも、星の記憶は取り出せる。そこで取り出したのはライトニングさんの記憶だ。
俺はライトニングさんに、その記憶を渡す。
戦いの歴史、そして俺と出会った日のことを。
「これは…………ゼウス様の記憶の旅!?」
光の粒子が、ライトニングさんに入っていく。
記憶の旅へ。
そしてほんの少し放心していたライトニングさん。
「……そういう……ことか」
「通してくれますか? ライトニングさん」
俺を見て嬉しそうにニコッと笑う。
「もちろんだとも。全員、道を開けろ!! 我らが英雄の帰還だぞ」
「そんな大層な……」
ライトニングさんは、この国でゼウスさんの次ぐらいに権力を持っているそうで。
神の騎士団団長は伊達ではない。軍のトップなら当然か。日本でいえば防衛大臣みたいなものなのかな?
ただし、最強のだが。
ライトニングさんの声一つで、全員が道を開けてなんなら頭を下げる。
国賓とでも思っているのかもしれない。
そして案内されたのは玉座の間の入り口。
少しだけ待って、扉が開いた。
そして、そこに座るのは。
「初めまして、天地灰です」
全知全能の神――ゼウスさん。
俺をまっすぐと見つめる。
おそらく俺と同じ眼で。




