第157話 白と黒、そして灰色ー6
この世界に存在し、魔力があるものすべてにステータスは宿る。
魔獣の素材、キューブ、人、スキル。
すべてにだ。
しかし、まさかこの星――地球にまでステータスがあるとは思わなかった。
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※アクセス権限Lv2では参照しかできません。
名前:地球
分類:惑星
残魔力数:63億720万1231
星の記憶:アクセス権限がありません。
・基本情報
年齢: 46億3798万1022年
直径: 12742km
質量:5.972 × 10²⁴ kg
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そこには、全て確認するにはあまりにも多い地球の情報が表示されていた。
だが、先頭に特に目の引く項目がある。
残魔力数と星の記憶だ。
残間力数は、63億ほど。しかし、1秒で2~3ほど減っている。
星の記憶。
これにはアクセス権限がないと言われた。
一体これは。
「この星の残魔力数はいくつになってる? それに、どれぐらい減っていく?」
「63億……1秒で2、3ほど減っている」
「………………そうか。何もしなければまだ猶予は20年ほどはあるな」
「この残魔力数……これは星の魔力なのか」
「あぁ、そうだよ。僕たちの魔力は、すべてはこの星の魔力を使っている。生まれ落ちたその時から、星に魔力をもらってね。君たちが化石燃料と呼んで消費しているエネルギーのように、この星のエネルギーは無限ではないということだ」
ハデスの話通りなら、俺達の魔力は星の魔力をもらっていることになる。
そのときどうなる。
この星の魔力が失われたとき、一体…………!?
「まさか……AMSは」
「そうだよ、君たちがAMSと呼ぶ魔力欠乏症……その正体は、この星が尽き欠けている魔力を、星の魔力を譲り受けて生まれた生命体から取り戻そうとする現象のことを呼ぶんだ」
「――!? なぜ……それがわかる」
「僕たちの時代に発生した魔力欠乏症……その正体を掴もうと、僕たちは魔術……つまり星の魔力を使った術式に詳しい人財を集めて研究を続けた。そしてある一つの説に……君も良く知るマーリンとビビアンがたどり着いた。それが、星自体の魔力欠乏だ。誰もが否定したが、僕はマーリンの考えを否定できなかった。なぜなら仮にそうだとするならば、僕の兄……ゼウスがすべてを知ってなお、諦めたことに説明がつくからだ。といっても僕も半信半疑だった」
AMSは再発する。だがその実態は再発ではなく、また星が魔力を奪い返そうとする現象だとハデスは言う。
それならば、確かに治療方法は、存在しても一時的な解決にしかならない。
魔力石を用いて補充しても、星自体の魔力がなくなれば魔力を持った獣、魔獣も生まれない。
「でも……この未来に飛ばされて、すべてを理解した。今の時代は……あの時代に比べて、空気を漂う魔力が薄すぎる。理由は明白。魔力が一度尽きて、封印の箱と共に過去からある程度の魔力だけが飛ばされたからだ。つまりマーリンの説は正しかった。今君が神の眼で実際に確認したようにね」
20年前、いや、25年前か。
世界にキューブが降り注ぎ、そしてキューブに触れた人類は魔力に覚醒した。
それは過去の魔力が込められたキューブに触れることで、魔力を受け取ったから。
それと同時に、過去からこの星に魔力がまた与えられた。
そういうことだろうか。
「君たちにとっては災難。というしかないね……だが、星の魔力が尽きて、死んだも同然の星にまさか生命が宿るとは、正直僕たちも驚いてるんだよ。アテナだけは見えたいたのだろうか。神の眼で。しかし、それでも天文学的数字だろう。あらゆる奇跡が重なって君たちは生まれて、僕たちはこの時代にやってきた」
ハデスは俺達を指さした。
「もう一度言う。君たちにとっては災難だ。だが、魔力欠乏症は魔力を持つすべての生命体が対象だ。キューブに触れて魔力に覚醒した君たち人類、もちろん僕も、魔獣たちも。次は誰が星に狙われるかもわからない。しかし星の魔力が消えていくにつれ、その数は指数的に増加し、最終的にはすべての生命が息絶える」
「解決方法は……」
「残念ながら……ない。僕の兄があらゆる手を尽くして、解決策は存在しないと諦めたとおりに。この星の魔力を復活させる方法はない」
俺は全身から力が抜けるような感覚だった。
ハデスの話通りなら、俺達人類に残された時間はあと一年だけ。
なら一体何のために俺は戦ってるんだ? そう思ったとき、しかし俺はハデスの顔が絶望していないことに気づく。
「違う、何か別の方法があるんだな? それが本当なら神の眼が欲しいなんて言わないはずだ」
「…………そうだよ、それが僕の計画だ」
ハデスはにやりと笑った。
この絶望的状況をひっくり返す作戦があるという。
「君は魂とは何だと思う」
「……心だと思う。経験で、考え方で、愛だったり、悲しさだったり、ありとあらゆる生きた証だと思う」
「うん、僕もそう思うよ。ランスロットの魂を受け継いだ君ならわかるだろう。魂とは生きた証、そして経験したすべて。つまり記憶だよ」
ハデスの質問は要領を得なかった。
しかし、いってることはわかる。
生まれ持った魂なんかなくて、その人の人生こそが魂になっていくと俺も思うから。
「しかし君は天地灰だ。主人格である君がランスロットの記憶を体験してもそれは君という人間が体験しただけの記憶になる。これを魂の融合と呼ぼう。経験があるだろう? まるでランスロットになったような気分になるときが」
アテナさんを抱きしめたとき、キスしたとき。
俺はランスロットさんに心を明け渡した。まるで自分がランスロットさんになったような気分だった。
「だが、記憶がまったく無く、主人格すら無い空っぽの器が、他人の記憶を体験したとき、それは魂の融合ではなく、魂の上書きといえるだろう」
「それがどうした。そんな人……まさか」
「そうだ。闇の眼を使えば、記憶すらも消すことができる。魂すらも殺すことができる。そして、君もよく知る白の国の魔術――記憶の継承。これは神の眼を持つものが、星からその者の記憶を抽出し、誰かに分け与える魔術だ。アテナが多用していただろう?」
俺が何度も経験した記憶の旅。
黄金のキューブをクリアしたときにも見た。
そして、ランスロットさんと戦った時もだ。
俺は何度もそれを経験している。
「ハデス、お前がやりたいことは……死者蘇生なのか」
「ふふ、そうだよ。本来ならば星の魔力が尽きたなら魔力生命体とも呼べる我々に生きる術はない。しかし! 悠久の時を経て、君たちは生まれた! 魔力が尽きたこの星で、奇跡的に僕たちの記憶を受け継げるほどの知的生命体となってね。しかし、すでに魔力に覚醒した君たちでは無理だ。だが、生まれてくる子供は、キューブに触れなければ魔力に覚醒しない。たとえ、星の魔力が尽きても死ぬことはない!!」
「その子供たちの記憶を消して、そして死んでいった黒の帝国の民たちの記憶で上書きする。それがお前の目的か」
「あぁ、魂の上書き。これが僕の計画――黒の輪廻転生計画だ」
そしてハデスは俺の眼を指さす。
「さぁ、その眼を渡してもらおう。妻と娘と愛するすべての民たちが星の記憶の濁流で、僕を待っているから」




