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第154話 白と黒、そして灰色ー3

 神の眼がアーティファクトだという衝撃を受けながらも、俺達は今後の作戦を立てることにした。

 ハデスが、神の体と融合――つまりアーティファクトの適合者になる前に見つける。


 しかし、一向に手がかりがないので全力で世界中を捜索だ。

 だが、今日はその前に今まで動き続けていたので、休憩することになった。

 田中さんのいつもの休むのも大事というやつだ。

 といってもまだ朝なので、寝るのもなと思ったそのときだった。


 バシッ! バシッ!


「いてぇ!?」


 俺は叩かれた。

 しかも二人? 大きな手だ。

 なんだと後ろを見ると、俺の背中を叩いた二人が見合わせて驚く顔をしている。

 

 景虎会長とライトニングさんだった。


「すまない、景虎殿。お先にどうぞ」

「いやいや、ライトニングさんからで構わんぞ」


 ふふっと笑う二人は、どこか似ている雰囲気だった。

 頼りになる。というところと大きな包容力のようなものがだろうか。

 俺にとってはどちらも師匠だからかもしれない。

 会長には、神の眼を手に入れてから武術の稽古をつけてもらったし、ライトニングさんはランスロットさんの師匠としてだ。


 するとライトニングさんがごほんと咳払いして言った。


「我々、白の国では戦の前には宴をする風習がある。戦いの勝利を願ってだ。我々は今から命を預け合う仲だろう?」

「ガハハ! まさか同じ提案をしようとしているとはな! しかも季節は春。桜咲く季節だぞ、灰君」


 俺は首を傾げた。

 一体何を言うつもりだろうか。というか久遠の日から春とか桜とかあったのか。

 いや、そりゃあるか。別に地球と太陽の関係は何千年と変わってない。

 季節は太陽の光をどれだけ長く受けるか。地軸だったりが関係している。

 桜だって人間が品種改良したわけでもなく、昔から存在していたのだろう。


 いや、まぁそんなことはどうでもよくて。


「二人とも。ど、どうしたんですか?」


 にやっと笑った会長、ライトニングさんも笑う。

 そして俺をライトニングさんが叫んだ。


「勝利を願って……宴だぁぁぁ!!」

「宴じゃぁぁぁ!!」

「宴!?」


 ライトニングさんの声に、白の国の国民たちも呼応するようにこぶしを上げた。

 会長の声に、大人たちが嬉しそうに、田中さんはやれやれと……しかし少し嬉しそうな顔で笑った。


「田中君! ありったけの酒をもってこい! 飯もじゃ!! 今日はたくさん食べて、たくさん英気を養い、たくさん寝るぞ!」

「会長!? 何言ってるんですか!?」


 すぐに命を懸けた戦いがあるというのに、だめでしょと俺は田中さんを見る。

 眼鏡をくいっとあげて、田中さんは悪そうに笑った。


「どうせなら派手にやりましょう。世界中に声をかけます。なに、灰君なら一瞬でまとめて転移できます」

「田中さん!? い、いいんですか? そ、その戦いの前に」

「灰君、だからだよ。だからするんだ」


 そうと決まれば早かった。

 そういえば田中さんバーベキューとか好きな以外とお祭り男だった。

 人類解放軍はその統率された組織力で地上に、一瞬でバーベキュー場を設置。

 火は田中さんが一瞬で起こすし、どこにあったんだと言うほどの大量の冷凍肉やら野菜やらが運び出される。

 

「あんなのどこに……」

「黒の帝国は、都市部だけしか支配しなかったから普通に畜産は続いてたよ。もぐもぐ」


 レイナが俺の隣に来た。 

 すでにおにぎりを食べている。でっか……そのおにぎり。


 そのあと俺は言われた通り、拠点を巡り、たくさんの人を転移させた。

 その数総勢……いや、わからないな。なんだか本当にお祭りみたいだった。

 人、人、人。出店のようなものまで用意されている。


 バチッ!!


 すると雷鳴が何度も響いた。ライトニングさんだと思うが、なんだろうとそちらに行くと。


「あぁ……4月ってそういう……まぁ確かに宴といえばお花見なのかな?」


 ライトニングさんが巨大な桜の木を根っこから抜いて、その辺に適当に植えていた。

 なんだか倫理的にどうなんだと思うが、植えなおすだけならいいのかな? どこからもってきたのやら。


 だが、綺麗だった。

 ピンクの花びらが舞い散り、太陽は燦燦と輝いている。

 まだ少しだけ肌寒い気もするが、日光の元だとぽかぽかと温かい。

 

「灰さん、お花見ですよ。なんだが……普通の一日みたいですね」

「綺麗だね。灰」


 すると彩も俺の隣に来た。

 お昼ごろ、準備も終わり、いよいよという時間。

 中央の台座に、景虎会長がのぼる。

 

「急ですまなかった!! だが、皆も知るように決戦は明日かもしらん。命を懸けた戦いになる。甘いことは言わん。今日限り、二度と会えない者もでてくるじゃろう」


 拡声器いらずの大きな声、全員が耳を傾けた。

 

「だが、その戦いに我々はとても心強い味方を迎えることができた。かつてこの国に住んでいた住人達じゃ!!」


 するとライトニングさんが壇上にあがる。


「ライトニング・ラインハルトだ。世界の歴史はすでに共有されていると聞く。我々の不甲斐なさが生んだ戦いを、今を生きる者たちに押し付けて、本当に済まないと思っている」


 そういって、頭を下げるライトニングさん。

 すると一人の攻略者が反論した。


「あんたがいなきゃ、俺達はいなかった!」

「そうだぜ! あんたたちが過去で命懸けで戦ってくれたから、未来の俺達があるんだ!」

「聞けば、白の国は遠い昔の日本っていうじゃねーか! なら俺達家族だ! 一緒に戦おう!!」


 その言葉にライトニングさんは嬉しそうに顔を上げた。

 そしてその手を強く握り、胸をドン!っと魔力を全力で開放させながら叩いた。

 まるで爆弾のような音、風圧でよろめくみんな。

 魔力の余波が、雷鳴とともに、心臓まで揺らすほどの覚悟を放つ。


「友よ、よろしく頼む」


 俺達は全員頷いた。

 

「では、最後に…………灰君、君の言葉を聞きたい」

「え?」


 会長が俺を見る。  

 ライトニングさんが、そして白の騎士団が、世界中の攻略者が俺を見る。

 一歩下がりそうな俺を彩とレイナが後押しした。


「灰さん、ビシッと決めてください。あなたは世界の英雄なんですから!」

「灰。頑張って」

「で、でも俺は……」


 こんな大勢の前で挨拶? いやいや、ムリムリ。

 恥ずかしい。俺なんて30人クラスの前で手を上げるのすら恥ずかしいんだぞ。

 そのとき、また一人俺の背を押した。


「灰君、君の心を。ありのままに。それできっとみんなに伝わる。さぁいっておいで!」


 それは田中さんだった。

 俺は苦笑いしながら、それでももう逃げられないなと渋々と檀上にあがる。

 そしてスキルを発動した。


 スキル・心会話。

 俺の声を、心で会話するスキルだ。

 言葉が伝わらなくても、そうすれば俺の心がまっすぐと届くと思ったから。


 だから心のままに話した。


「えーっと何から話せばいいか。そうですね…………俺は彩が好きです」

「へぇ!?」


 周りからひゅーひゅーと声が聞こえる。

 彩を見ると、顔を真っ赤にしながら俯いている。

 相変わらず、すぐに顔が赤くなる彩だ。


「滅神教に襲われた彩と共に戦ったのが、初めての思い出でした。それからも、俺は何度も彼女に救われました。俺が今生きているのは、間違いなく彩のおかげです。彩の作ってくれたこの剣と、その…………何度も諦めそうになったとき、浮かぶ彼女の顔がもう一度立ち上がる力をくれました。俺は……彩が大好きです」

「わ、私も…………す、好きです」


 やはり会場が沸いた。

 そして、次に俺はレイナを見る。


「俺は彩以外にもたくさんの人に助けられました。レイナは覚えていないですが、レイナにもずっと昔に助けてもらいました。あの日……俺は多分、初恋しました」

「私も初恋は灰だよ。最初で最後。死ぬまであなたが好きだよ。彩と一緒に」


 周りからひゅーひゅーとまた茶化すような声がする。

 俺は恥ずかしくて顔を赤くする。レイナは羞恥心というものを全く知らない。

 ごほんと俺は咳払いして、言い直す。


「えーっと、次に黄金のキューブ……とんでもない試練でした。一体だれが考えたんですか?」 


 すると、どっと笑いが起きる。

 神の騎士団のみんなとライトニングさんだ。

 いや、ほんとに誰があんなの考えたの?


「俺はそこで田中さん達と出会いました。最悪の試練だからこそ、最高の仲間を得ることができました。田中さんに命を助けられたし、田中さんの命も助けました。田中さんにはそれからもたくさん助けられて、数えきれないほど助けてもらって……そのとっても……大好きです!」

「あぁ、私はあの日からもらってばかりだがね。私も灰君が大好きだよ」


 にこっと笑う田中さん。

 俺は少し恥ずかしくてやっぱり顔が赤い。


「そして景虎会長もです。テレビで何度も見てきた会長は、まるで本当のおじいちゃんのようで、やっぱり会長も大好きです。天道さんは、なんだか親戚のお兄ちゃんって感じですね。少し悪い感じの。でも……やっぱり大好きです」

「がはは! 儂も灰君が大好きじゃよ。実の孫のようにな」

「俺も坊主のことが好きだぜ。あんなに小さかったのに、こんなに大きくなりやがって……年はとりたくねぇもんだな」


 たばこを吹かせ笑う天道さん。

 がははといつも通り大きな声で笑う会長。


 それを見たら嬉しくなる。

 

「偉兄も、アーノルドさんも、俺は他にもたくさん……お世話になった。助けられた。俺一人じゃ、この場所には絶対に立てなかった。きっともう随分前に死んでいる。今俺が生きているのは、皆のおかげです」


 全部俺の本心だ。

 だから俺の心をまっすぐと言う。


「そして、俺には自分の命に代えてでも救いたい人がいます。俺の妹の凪です。…………俺はゴミでした。ずっとずっと暗い底にいて、前も見えない闇の中をもがいていました。魔力は5、両親は死んでいて、毎日食べる物にも困るほど貧乏で、そして妹の凪はAMS、魔力欠乏症を発症しました。追い詰められて、何度も死にたいと思った。すべてを諦めて楽になりたかった。死ななかったのは、ひとえに……世界一愛する妹のおかげです。凪を一人にしたくない。その一心で生きてきました。だから俺の命を救ってくれたのも……また凪です。世界一大好きな妹です」


 俺はそして頭を下げた。


「その凪がハデスに、黒の帝国に攫われました。敵は強大です。どれだけ強いのかもわかりません。でも……俺は凪を救いたい!! だから力を貸してください!!」


 大きな声で、そしてずっと頭を下げた。

 少しだけ静寂。

 そしてそのあとだった。


「あたりまえだぁぁぁぁ!!」


 叫んだのは田中さんだった。

 顔を上げると、にっこりと笑う田中さん。

 それに追従するように、その声は連鎖し、気づけば空気が震えるほどの歓声となる。


「素晴らしい激だった。心のこもった君ならではのな」


 するとライトニングさんが前に出た。

 そして拳を掲げて。


「勝つぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!」


 とんでもない声量で叫んだ。

 それを見た世界中の攻略者は、同じようにこぶしを上げて叫ぶ。


「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!」」


 彩もレイナも同じように叫んでいた。

 精一杯声が枯れそうになりながら大きな声で。

 ライトニングさんと、会長が俺を見る。

 俺は頷き、こぶしを掲げた。


「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!」


 勝つ。絶対に。

 そう心に刻んで、腹の底から声を出した。


 そのあとは、夜までドンチャン騒ぎの大宴会だった。

 そして全員が体を休めて、翌日。


 すべてが終わり、始まる日へ。

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