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第148話 世界を覆う闇ー2


 ほんの少し前。


 円卓の騎士が地下施設を襲撃し、田中達が捕まり、灰たちが脱出した後のことだった。


「灰君たちは無事じゃろうか」

「…………今は祈るしかありません。でもきっと彼なら」


 景虎と田中は拘束されながら会話した。

 目の前には黒の騎士達。

 円卓には劣るとはいえ、S級ですら勝てるかわからないほどの強者が10人近く。


「大丈夫だ。凪……お前の兄貴はすげぇ奴だからな」

「天道さん……はい、お兄ちゃんは絶対になんとかしてくれるはずです。だから私も負けません!」


 天道の隣で凪も頷く。

 アーノルドが明けた穴の向こうからは激しい戦闘音。

 そしてその音が終わったと同時に、円卓の騎士達が登ってきた。


「S級キューブは二つ。ここは二手に分かれましょう、ガラハッド副団長。上位円卓の四人がいれば倒せるはずです。残りは副団長と」

「…………そうだな。敵は神装と神の騎士、そしてあの銀色の女の三人だ。それでいこう」

「「はっ!!」」


 凪たちはその話の内容に耳を傾けた。

 

「どうやら灰君は逃げられたようですね」

「あぁ……しかし、そうか。やりきったんじゃな……アーノルド。王君」


 景虎達が見る穴の先。

 おそらくそこではアーノルドと王偉が死んでいるのだろう。

 灰たちを逃がすために。


 それがわかったが、何もできない悔しさで景虎は拳をぎゅっと握った。

 済まないとただ心の中で謝ることしかできなかった。


 それから円卓達が出ていき、残ったのは黒の騎士達。

 円卓の一人、ガウェインと名乗る騎士が部下に絶対に手を出すなと命令していった。

 身の安全は保障されたのだろう。


 そう思った1時間後ぐらいのことだった。


「ハロー! ごきげんよう、人類解放軍のみなさーん!」


 陽気な声で、現れたのは見た目はまだ20代ほどの若い女性。

 露出の高い黒スーツのスカート、ばっちりなメイク。

 一見すると、新入社員のようで、しかし社長秘書のような女だった。


 しかし、入ってくるなり、黒の騎士達が全員敬礼で出迎える。


「…………ビビアン」

「あら、景虎じゃなーい。お久しぶりね」


 その姿を見て、龍園寺景虎は思わず立ち上がった。

 景虎は、何度もその女と会っている。

 その女は、世界ダンジョン協会会長であり、ダンジョン協会自体の創始者だったからだ。

 昔から若かったが、何年たっても年を取らないのも魔力が原因だと噂された女傑。


 しかし、その正体は。


「魔力石の流れを追っていくと不自然にダンジョン協会に流れておった。しかし……まさかお前さんが滅神教の黒幕じゃったとはな」

「滅神教の黒幕? あはは、違うわよ。お師匠様とは関係ないわ。マーリン様は、どうやら一人でハデス様が復活される前に神の眼を手に入れようとしたみたいだけど、まぁ昔からあの人白の神に対してめっちゃキレてたからね。それに……手が付けられなくなったらって思いはわかる。まぁ私はハデス様復活に尽力してたけど! 忠臣って感じ」

「で、そんなお前さんが一体何しに来た?」


 するとビビアンはニコッと笑って景虎の前にジャンプ。

 そしてその腹部を殴る。


「ぐふっ!?」

「さっきから馴れ馴れしいんだけど。私あなたよりずっと年上なのよ?」

「がはは……年の割には若く見えるぞ」

「どうも……まぁいいわ。神の騎士が来る前に逃げましょっと……えーっと、いたいた」


 そしてビビアンが見るのは。


「――!?」

「こんにちわ。凪ちゃん」


 ――天地凪。


 田中が立ちはだかるように前に立つが蹴られて飛ばされる。


「またお前たちは人質などと姑息な手を使うのか!!」

「あら……私たち戦争してなかったっけ? ふふ……抵抗しないの?」


 すると凪が立ち上がり、大人しくついていこうとする。


「抵抗しても無駄ですから。その代わり、皆を傷つけないでください」

「あらとってもキュート。いいわよ、そのほうが楽だし……はーい、撤収撤収。みんな解散していいわよ」


 その言葉と同時に、黒の騎士達もビビアンについていき消えてしまった。

 


◇現在


「灰君! 凪ちゃんが攫われた!!」

「――!?」


 俺は、思わずライトニングを使おうと思ったが、また同じように罠があった場合のことを考えるとそれはできない。

 凪を誘拐したということは、俺をおびき出すのが作戦だろうか。

 

「何か要求は……」

「いや……特にはなかった」

「…………」


 凪をさらった目的はなんだ? 

 わからないが、攫ったということは殺すためではない。

 というと、やはり人質だが……何か要求があるのかもしれない。


 今は……待つしかない。


「くそっ!!」


 焦燥感に駆り立てられる。

 今すぐ凪の下へと飛んで救出したいが、今は抑えろ。


「灰さん!」

「灰!」


 レイナと彩も追従してくる。

 

「灰君、一旦落ち着いて状況を整理しよう。見たところ……S級キューブは攻略してきたんだね?」

「はい!」

「…………そちらは?」


 俺の後ろにいるミラージュさんを見る田中さん。

 

「含めて全て話します。この人は味方であるということだけ……それと田中さん。世界中のキューブを攻略したいです」

「世界中の!?」


 俺は田中さんに状況を全て話した。

 田中さんは了解したと言って、少し検討するとのこと。


 対応方法はきっと田中さんが出してくれる。

 だから俺は頷き、そして俺達は地下施設に戻る。

 まずはレイナと彩の治療、俺も少し傷ついたのでヒーラー職の人たちから治療室で治療を受けた。

 そのあとは、俺達はアーノルドさんが空けた地下通路への穴へと向かった。


 そこではアーノルドさんと偉兄の遺体が綺麗にしてもらって、寝かされていた。

 会長が引き上げて、埋葬する準備をしてくれていたそうだ。

 埋葬場所は、地下施設の上にある墓地。

 

 火葬は設備的に難しいという事情もあったが、葬式をしてあげるような時間もない。

 それでも何かしてあげたかったから、俺は二人の墓石を剣を使って自分で掘った。


 『世界を救った二人の英雄、ここに眠る。』


 名前と共にそう刻んだ。

 俺以外にも、人類解放軍の人たちが次々とその墓地へと頭を下げに来る。

 みんな泣いていた。


 偉兄に対してと同じくらいアーノルドさんのお墓でも泣いている人がいた。

 アーノルドさんは、慕われている。

 墓の前で号泣するのは、米軍が多いようだ。


「アーノルド、5年前のあの日から……変わったの」


 するとレイナも泣いていた。


「私にも謝ってくれた。心から謝罪する。滅神教を俺は誤解していたって。それから……すごく優しかった。ううん、ほんとは元々優しかったんだと思う」


 アーノルドさんは身内を滅神教に殺されたらしい。

 だから滅神教を許せなかったそうだが、自分が操られた経緯から悪いのはマーリンただ一人だということを知った。

 だからレイナの母を殺したことを悔いて、謝罪したそうだ。


「ずっと……許せなかった。いつか殴ってやろうと思ってた!!」

「…………うん」

「でも……アーノルドが優しくて……口は悪いけど、みんなを守ろうとしてくれて! 私……私!!」


 俺はレイナを抱きしめた。

 気づけば俺も泣いていた。

 もっと話したいことがあった。もっとアーノルドさんのことを知りたかった。

 いくら後悔しても、もうその時間は帰ってこない。


 そして偉兄の墓石の前でも多くの人が泣いていた。

 偉兄は本当に偉大な中華の大英雄であり、世界の大英雄だった。

 俺にとっては兄貴だし、ほんとによくしてもらった記憶しかない。


 彩が泣いていた。


「王さんは……いつもお調子者で……ムードメーカーのようで……いっつも……笑わせに来るんです。灰さんの服装と髪型にして、ただいまとかいきなり私の部屋に来たりするんですよ。そのたびに怒ると、ははは! って楽しそうに。でもそれが……私を元気づけようとしてるのがわかって……灰の嫁なら、俺の妹みたいなもんだって!!」

「はは……偉兄らしい。うん……偉兄らしいよ」


 やっぱり俺は泣いてしまった。

 思い出す日々、兄弟の契りを交わした日。


 話したりないことが山ほどあった。

 二人とも、もっとたくさん……一緒に。


 それから俺達はしばらく泣いていた。

 気づけば雨が降っていた。

 汚れた体を水が洗い流す。少しだけ体が冷めてきたけど、今はこの雨が気持ちを落ち着かせてくれた。



 すると田中さんがやってきた。


「灰君、準備にはあと半日ほどかかりそうだ。お風呂に入って休むといい」

「……でも」

「いいや、入りなさい。お風呂は心の洗濯だ。たとえ君の体力が魔力によって理外のものになったとしても、その精神はまだ一人の男の子なんだから」

「……はい。そうさせてもらいます」


 そして俺はお風呂に向かった。

 どうやら田中さんが気を利かせてくれたようで、大浴場は俺一人だった。

 

 ――はずだったんだが。


「レイナ、彩? なにしてるの?」

「服を脱いでる」

「見ればわかるけど……」

「あ、あんまりこっちを見ないでください……少し明るくて恥ずかしいです」


 レイナと彩が一緒に入ろうとしてくる。

 俺は外で待ってるから先に入っておいでといった。

 無理やり二人に手を引っ張られて、脱がされた。


「彩、前と後ろどっちがいい?」

「え、えーっと……後ろ?」

「じゃあ私が灰の前を洗うね……全部綺麗にするね、灰」


 タオル一枚で風呂椅子に座る俺の前に、同じくタオル一枚のレイナが跪く。

 そしてにこっと笑った。

 俺は顔を赤くした。


「や、やっぱりレイナが後ろ!! 私が前!!」

「むぅ……まぁいっか」

 

 すると背後からむにゅっととんでもなく柔らかい感触が。

 振り返ろうとすると、タオルが一枚床に落ちた。

 レイナのだった。

 

「洗うね。灰……おっぱい好きだよね」

「レイナ!?」

「レイナ! い、今は普通にして!」

「灰を元気にするってさっき話したよ。彩も頑張って?」

「…………そ、そうね。そうよね!」


 思考の回らない頭。

 目の前で彩がタオルを脱ぎだした。

 俺は思考が完全に停止した。


「め、目を閉じてください。灰さん」

「…………ひゃい」

 

 そこから起きたことは覚えていない。

 とんでもなく柔らかい感触が全身を包んだということだけだ。

 俺は気づけば浴槽にいた。

 

「……はっ!? 俺はなにを……?」


 レイナは嬉しそうに俺の腕に引っ付いている。

 彩は顔をトマトみたいに赤くして、お風呂でぶくぶくと沈んでいた。

 俺と目が合うと、さらに深く沈んでいく。


「彩すごく気持ちかった。またしてね」


 彩の恥ずかしがっている姿を見ると、思わずからかってしまいたくなる。


「…………か、灰さんが望むなら…………がんばりましゅ。ぷしゅーー」


 俺はそれを見て思わず笑ってしまった。

 笑ってしまったんだ。


「灰、やっと戻ってくれた」

「え?」

「ずっと辛そうな顔してた。アーノルドたちを置いていってからずっと……張り詰めてて壊れてしまいそうだった」

「…………そっか。だから元気にしようとしてくれたの?」

「うん。彩と一緒に……灰を元気づけたいって」

「そっか」


 どうやら俺は二人に心配をかけてしまったようだった。

 アーノルドさんと偉兄のことはやっぱり悲しい。でも……前に進まなければ二人の死を無駄にしてしまう。

 俺は託されたのだから。


 だから。


「きゃっ!?」


 俺は彩とレイナを強く抱きしめた。


「ごめん、心配かけた。俺……頑張るよ。頑張って……凪を救う。そして……世界も救う。だから……二人とも手伝ってくれ!!」

「うん、もちろんだよ」

「はい!!」


 そのあと三人で、たくさん料理を食べて、ゆったりしたベッドで朝まで眠った。

 ふかふかで、二人の体温で温かくて。

 疲労もあったのだろうが、俺はすぐに眠りについてしまった。

 

 そして、今。

 自然と目が覚めて、眠っている二人を撫でて、外に出た。

  

「…………あれ?」


 太陽の光だ。

 あ、そうか。円卓のスキルで曇り空だったんだ。

 確か、天候操作というスキル持ちがいた。

 しかし、その円卓はレイナと彩とミラージュさんが倒している。

 戦闘タイプではなく、支援タイプだったからミラージュさんの策略で選ばれたのだろう。


 顔を上げる。

 それでも少しだけまだ残っている曇天。

 風が吹いた。

 雲が動いて、その切れ間から太陽が地上に差し込む光が目に見える。

 

 その光が運命か偶然か、俺を指した。

 眩しいなと思いながらも俺は笑って、上を見た。


「よし!!」


 たくさん食べて、たくさん寝た。

 体調は万全、今なら何でもできそうなほど魔力が溢れている。

 

「勝つぞぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 俺は思わず叫びたくなって叫んでしまった。

 すると。


「おぉぉぉぉぉぉ!!!」

「え?」


 田中さんが後ろで叫んだ。

 驚く俺を見て笑う。

 そして続くように。


「ぬぉぉぉぉぉ!!」


 会長も叫んだ。

 どうやら俺が外に出るのに気付かれていたようで、そしてレイナと彩まで現れた。


「おぉぉぉぉぉぉ!!!」

「「おぉぉぉぉぉぉ!!!」」


 その声は、地下施設全体にまで伝播して。

 一体何人が叫んだのかわからないが、全員が心の底から、そして腹の底から声を出した。

 

 勝つぞ。

 心を一つにした。


 この戦いに勝利して取り戻す。俺達の世界を。



◇一方、凪



「あれ? ここは?」 


 凪は目隠しをされて、移動させられた。


 そして外されて、目を開けると豪華絢爛という言葉が真っ先に出てくる部屋にいた。

 まるで中世の貴族のようなヨーロッパ風の豪華な部屋、真っ赤な絨毯に花柄の家具類。


 ふかふかのソファに座っている自分。

 あたりを見渡すが、誰もいない。

 そのとき、コンコンコンとノックの音がした。

 警戒するが、どうせ自分程度が抵抗したところで何もできないと、握った拳を解いた。

 しかし、捕虜である自分にノック? と思いながらも返事をする。 


「…………どうぞ」

 

 入ってきたのは、男の人だった。

 年は若く、20代だろうか。

 貴族のようで、それでいて軍人のような、そんな黒を基調としたビシっとした服をきている。

 整った顔はまるで王子のようだった。


(うわぁ……すごいイケメンだぁ……)


 まるで乙女ゲーに出てくる黒髪イケメンの王子様みたいな人だなと凪は思った。


「こんにちは。まずは手荒な真似をしてすまない、凪ちゃん……でいいかな」

「…………あなたは誰ですか」


 捕虜である自分に対して、とても丁寧に接してくれている。

 それだけで少し警戒が解けてしまうが、次に続く言葉を聞いて凪は戦慄した。


「僕は、ハデス・ディース。黒の帝国の皇帝だよ」

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