第147話 世界を覆う闇ー1
俺のランスロットさんの極みの剣技。
しかし、すべて捌かれる。
そも、技量だけでもガラハッドは、ランスロットさんとも戦えるほどの剣の技術を持っていた。
「……君と戦うのは初めてだな」
「当たり前だろ!!」
「いや、灰。お前ではなく、ランスロットのほうだ……確かに、これほどの使い手。出会ったことがない」
振り下ろされる剣、ギリギリで受け止める。
剣と剣が鍔迫り合う。
「しかし、便利なものだな。記憶を継承するというのは……白の神だけが使える魔術か」
ほんの少し前まで、俺の剣技は、付け焼刃程度の剣技だった。
もちろん魔力5のゴミの時代から必死に努力し、会長にだって師事して鍛え上げた。
凪を救うために、基礎的な訓練は毎日欠かしたことはない。
だが、人生を剣に捧げたこの人たちと切り結べるわけはない。
しかし、俺には記憶がある。
剣に生きて、剣に人生を捧げた最優の騎士の鍛え続けた珠玉の記憶が。
だがそれをもってして、ガラハッドは剣技だけでも上回っているように感じた。
俺はガラハッドを見る。
そのスキル『未来視』。そして、その能力は。
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属性:スキル
名称:未来視
効果:対象の1秒先の最も確率の高い動作を予測する。
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「卑怯とはいうなよ?」
「言わないさ!!」
切りかかられて、剣を上に掲げて受け止めようとする。
しかし、事前にそう受け止められるとわかっていたかのように、腹部を蹴られた。
ギリギリでガードはしたが、先ほどからこの未来視によって、すべての攻撃は看破され、防御すらも貫かれる。
俺は一歩後ろに下がる。
ミラージュさんは、戦えるような状態ではない。
「灰さん! 私も!」
「いや……だめだ。二人だと一瞬で死ぬ」
レイナと彩は……力不足だ。
はっきり言って一刀だって切り結べない。
ランスロットさんの剣技、そして神の眼による魔力の動きを感知してやっと戦える。
そんな相手だ。
これで手負い。
ミラージュさんが、一撃背後から入れてくれなければ…………。
「……そうか。その手があるか」
未来視と、正々堂々、そして極まっている剣技。
不意打ちはほぼ不可能の状態。
俺の位置は常に把握されているし、俺の動きは常に予測されている。
俺は大きく息を吸い込んだ。
そして作戦を頭の中で組み立てた。
一発で決める。全部出し切って、ガラハッドを倒す。
ミラージュさんが、与えたダメージが完全に回復してしまう前に、ここで倒す!
俺の眼は、覚悟とともに黄金色に輝いていることだろう。
それを見てガラハッドは、少し嬉しそうに笑った。
「目的は別として……今は一剣士として」
「お前を倒す!!」
俺は腰につけていたスタングレネードに手をかけ、投げた。
輝く閃光、しかしガラハッドはこれを知らないはずなのに目を閉じた。
いや、おそらくは事前に調べていたか、人類解放軍の誰かが使ってしまっていたかだろう。
しかし、知っていても見えないことには変わりはない。
視界が一瞬で閃光で埋め尽くされる。
「確かに視界は消えたが、お前の位置も、動きも見えている」
正々堂々により、俺の位置、俺の動きは目を閉じても把握されている。
さらに未来視によって俺の動作も予測されているのだろう。
目を閉じたまま、やはり今までと全く同じように、軽々しく受け止められる。
しかしそれもわかっていたことだ。
俺は鍔迫り合いしながら、その手を伸ばして、ガラハッドの手に触れた。
「……転移か? どこにいくのやら」
「……さぁ、どこだろうな」
アーノルドさんですら、いきなりの転移には魔力が揺れて動揺した。
だが、事前にわかってさえいれば、ガラハッドなら余裕で対応するのだろう。
それでも。
「真・ライトニング」
俺はガラハッドと共に転移した。
場所は上空。
高さは100メートルもない。
「なんだ、溶岩の中にでも行くのかと思ったが」
「その程度で、お前が死ぬわけないだろ」
俺が下。
ガラハッドが上。
その態勢のまま、切り結ぶ。
空中で、最高速で全力で。
考える隙を与えるな。
思考の余裕を与えるな。
この一太刀で、殺すつもりで、一刀に全力を込めろ。
それでやっとこの相手には戦いになる。
「ははは! 俺とここまで切り結べるのはアーサー以来だ!! よくぞ、ここまで練り上げた! ランスロット!!」
ガラハッドを蹴り、受け止められる。
しかし、威力でさらに上空へ。
俺は真・ライトニングでガラハッドの目の前に転移して追いかける。
居合の構え。
だが、そんなことはわかっているガラハッドが、受け止めようと剣で守る。
しかし、次の瞬間。
ピカッ!!
俺の背後から閃光が輝く。
もう一つの、スタングレネードだ。
地面から空へ、天地が逆転したように光で照らす。
「なるほど」
「――ライトニング」
構えそのまま、振り切って。
振り切る最中に転移したのは、ガラハッドの背にできた影。
真・ライトニングは見えてさえいれば飛べる。
しかし、スタングレネードの世界では、視界がないので飛ぶことはできない。
だが、ライトニングは別だ。
対象の影になら確定で飛べる。
スタングレネードの光が作り出したガラハッドの背の影に転移。
そして背後からの一撃。
これで決まる。
普通の相手なら。
ガラハッドには未来視がある。
その力は、俺の動きの予測。そして魔力すらも感知されているから俺のスキルすらも予測されている。
背後に片手だけで、魔剣カリバーンを回し、受け止める。
俺の決死の一撃は、受けられた。
「悪くはなかったな。上位の円卓でも今ので死んでいるだろう」
俺の全力を上空で受け止めたガラハッドが、隕石のような速度で地面に落ちる。
そして着地し、目を見開く。
なぜなら。
「信じてたよ、お前なら今のも受け止めるぐらいは」
「…………!?」
ピカッ。
最後の一つが輝いたから。
魔力が揺れて、初めての動揺。
俺の動きは読めても、閃光中にバレないように落としたスタングレネードまではわからないはずだ。
そして三度目の閃光が世界を支配する。
「ライトニング」
ガラハッドの影へ転移。
そして切りかかる。
完ぺきなタイミング、これ以上はないと言えるほどに。
それでも。
「ここまで死を感じたのは、初めてだ!!」
ガラハッドは受け止めるだろう。
ほんの短い時間だが、この敵ならばここまでやっても超えてくる。さらにもう一つやっても超えてくる。
俺にはその核心があったから、命を懸ける賭けをした。
スカッ。
「――!?」
受け止めるはずの剣がない。
閃光の中、正々堂々のスキルと未来視で俺の動きは完璧に把握していたガラハッド。
なのに、本来くるはずの衝撃が手元に来ない。
当たり前だ。
俺は今、アーティファクト――つまり龍神の白剣を持っていないのだから。
俺の動きはわかっても、俺がその手に何を持っているかまではわからない。
もし気づかれていたら、俺のステータスは大幅に落ちているので一瞬で力負けして死ぬだろう。
でも、気づかれていないなら、完全に虚を突ける。
そして、最後に俺の分身が、俺に剣を投げた。
真・ミラージュで作り出した分身は、正々堂々の効果を受けず、感知されない。
だから俺は、三つ目の閃光が輝き、俺から目を離した一瞬に、真・ミラージュで作った分身へとアーティファクトを手渡していた。
「――見事」
ガラハッドは笑った。
俺の剣が、 固い鎧を貫き、そして手に残る嫌な感触とともに、貫いた。
血が流れる。
俺達と同じ、真っ赤な血が。
ごふっと口から血を流しながらガラハッドは俺に体重を預けるように倒れこんだ。
剣を落としたガラハッド、俺はゆっくりと受け止めて、優しく降ろした。
「負けか……仕方ないな」
負けたはずのガラハッド、しかし俺が感じたのは強敵を倒した高揚感などではなかった。
俺はこの感覚を知っている。
そうだ、あの滅神教のフーウェンを倒した時のような……何か別の形の正義を倒したときのような感覚だった。
「教えてくれ、お前たちの目的を。AMS……魔力欠乏症なら……治療方法はすでに知ってるだろ。なぜまだ神の眼が欲しい」
アテナさんの話では、過去治療方法を巡って黒の帝国との戦争になったらしい。
しかし、この時代では俺がすでに治療方法を世界に広めてしまっている。5年あったんだ。黒の帝国が知らないわけがない。
「…………知っているさ」
するとガラハッドは、胸の前で逆十字。俺はその記憶が確かにある。
彩と初めて出会った時だ、滅神教のフーウェンが死に際に行ったのと同じ。
そして俺の眼を見て、閉じかけた目で言った。
「お前はどちらの選択をするのだろうな。一見、清廉潔白で、その実、残酷な白の神か。それとも悪逆非道に見えて誰よりも優しいあの方か……」
「どういうことだ……何を言ってる」
「アテナすら知らない白の神が隠している真実があるということだ。ふっ……それを知った時、お前がどんな表情をするのか」
そして、ガラハッドは、俺の眼を指さして言った。
「考えろ。その大層な眼で……見た真実を。正義とはなんなのかを。考えろ、神の騎士」
するりと零れ落ちた手、ガラハッドの状態が死となった。
すると、黒い粒子が空へと飛んでいく。魔力のようだ。
俺はただそれを眺めて、動けなかった。
アーサーもガラハッドも、己の揺るがぬ正義のために戦っているように見えた。
「灰君……今はただ勝利を喜ぼう」
「ミラージュさん」
俺の隣に、ミラージュさんが膝をつく。
一緒にガラハッドを見つめ、その眼を優しく閉じさせた。
「灰さん……一度、戻りましょう。凪ちゃん達も助けないと」
「……うん!」
俺は頷いた。
ミラージュさんが円卓の騎士ガウェインとして部下達に凪たちの安全は保障させている。
戻れば戦闘は避けられないが、このメンバーなら円卓の騎士でもなければ大丈夫だろう。
そして俺は凪にライトニングを発動しようとした。
が、彩に止められた。
また罠が仕掛けられていたら大変だからである。
なので少し時間はかかるが、真・ライトニングで視界内に転移し、少しずつ近づくことにする。
といっても雷の速度なので、ほんの数分で到着したが。
そして地下施設の近くで警戒しながら近づくと。
「あれ? 田中さん?」
入口には田中さんが立っていた。
神の眼で見ても、確かに田中さんだった。操られているわけでもない。
「田中さん!!」
「灰君!!」
周囲に何も魔力反応がないことを確認し、俺は田中さんの隣に転移した。
「黒の騎士達は!」
すると田中さんが慌てて俺の両肩を持つ。
「すまない、灰君。落ち着いて聞いてくれ」
「どうしたんですか?」
「凪ちゃんが…………攫われた」
「え?」




