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第145話 幻影ー2

 ミラージュ・アストレア。

 ともにライトニングさんの下で修業し、成長し、切磋琢磨したランスロットさんの親友。

 俺が最初に手に入れた力――ミラージュの元となった神の騎士団の中核メンバー。


 ガラハッドは無理やり剣を抜き、そしてミラージュさんに切りかかる。

 ミラージュさんは、避けて、俺達のほうへ飛んでくる。


「ごめん、仕留められなかった。やっぱりあの力反則じゃない?」

「大ダメージを与えただけ、十分です!」

「うん……それと気になっていると思うから先に言っておく。凪ちゃん達は全員無事だ。黒の騎士何人か見張りに残しているけど、絶対に誰も殺すなと命令しておいた」

「はい!!」


 にこっと笑うミラージュさんは、指で魔力を操り、文字を作り出す。

 俺の眼には地下施設で円卓が攻めてきたときもガウェインではなく、ミラージュ・アストレアという名前も、本当の姿も見えていた。

 

 だからこそ、この人が味方であることはわかったし、先ほど空に刻んだ文字で、わざと負けろという指示も受け取っていた。

 凪たちのことも、正直不安だったが、任せられたのもこの人がいたからだ。


「ごめんね、アーノルドさんと王偉さんは助けられなかった。さすがにあれだけ円卓に囲まれると対処ができない」

「…………悪いのは弱い俺です。円卓が全員揃っているあの場面では逃げるしかなかった」

「うん。でもここには円卓の中でも下位しかいない。まぁその代わりやばいのが一人いるけど」

「はい」


 円卓は今、ガラハッド含めて三人。

 こちらは俺とミラージュさん、レイナと彩の四人。

 ミラージュさんが作りたかった状況通りだった。


「仕方なかった…………今はそう思って…………後悔は、終わった後に死ぬほどします!! だから二人のためにも絶対に勝ちます!」


 俺は涙を流しながら、その眼を黄金色に輝かせる。


「うん……そうだね」


 

 残り二人の円卓が、ガラハッドのそばにいくが、ガラハッドがいらんと払いのける。


「まさか……最も信頼していた部下が敵とはな」

「そりゃ、あなたに好かれるために理想の部下を演じてましたから。よかったでしょ? 何でもいうこと聞いて、超優秀」

「…………いつからだ?」

「ランスロット君に神の眼が渡る直前ぐらいかな。君たちの動きが怪しすぎたから……まぁ、潜入してたらアテナ様に一緒に封印されたんだけど! 爆笑」


 笑い事ではないが。

 つまり、俺が昔出会ったのは。


「そう、あれは姫様が作り出してくれた僕の魔力の分身。あの世界だけで再現可能な魔術だけど。でも僕の魔力で、僕と同じ強さを再現してるんだけど、よく倒せたね」

「死にかけましたよ、本当に……この眼がなきゃ相手にもならなかった」


 するとミラージュさんは俺の眼を見て嬉しそうに、にこっと笑う。


「ありがとう。僕の光を受け継いでくれて。ランスロット君の光と……その眼を受け継いでくれて」

「感謝するのは俺の方です!」

「……積もる話もある。言葉にできない思いもある。でも!!」

「……はい!」


 俺は剣を構えた。

 二人ならこのガラハッドにも。

 と同時に、ミラージュさんに腕を掴まれて放り投げられた。


「えぇ!?」


 方向はS級キューブ。

 そして俺は吸い込まれる。


「ミラージュさん!!」

「共闘したいところだけど、今の僕たちじゃ、勝てない。だから30分だ。30分だけ、何とか持たせる。この二人だって守って見せる。だから強くなって帰っておいで。待ってるよ、友よ」


 その眼を見て、覚悟を見て。

 俺は頷く。

 ミラージュさんなら絶対に二人を守ってくれると確信した。


 だから、俺は昔のように。


「あぁ! 任せろ、ミラージュ君!!」


 友を信頼し、キューブへと。





「さてと、君たちにとっては誰だよお前って感じだとは思うけど……いてぇ!?」


 彩がミラージュの指をかんだ。

 そして血を舐める。


「…………いいのかい。僕を信用して」

「あなたが誰かなんて知りません。灰さんがあなたを仲間だと言ったなら! あなたは私の仲間です!」

「あなたを守る。だから私たちも守って」


 彩の手が赤く光る。

 首飾りをミラージュは受け取った。


 レイナも真・覚醒を発動し、剣を握る。


 レイナと彩がミラージュの両腕に立つ。


「うっひょー、両手に花だ。気分最高!! 爆美女だぜぇ!!」


 テンションの上がるミラージュは笑う。


「……軽薄?」

「なんだか掴みどころのない人ですね」

「ふふ、そうだよ。だって僕は……」


 次の瞬間、ミラージュが視界を埋め尽くすほどの数に分身を生み出す。

 

「「幻影(ミラージュ)だからね」」


 驚く円卓。

 レイナも彩も言葉を失う。

 ガラハッドだけは、まっすぐとミラージュを見つめていた。





 最速でクリアしろ!

 俺は獣のキューブの完全攻略条件を最速で達成しようと、一秒たりとも無駄にせずダンジョン内を飛び回った。

 本来ならスキルの詳細を見て、対策を立てて、安全マージンを取り戦う。

 だが、今はそんな時間はない。

 

 幸いこのダンジョンの完全攻略条件にノーダメージの条件はない。

 ならば多少のリスクは犯していい。


 最速で、クリアしろ!


 中は密林のようになっていた。

 獣のキューブというだけあって、まるでアマゾンのようだった。

 獣というより、蟲のほうが多い気がするが、だがやはり支配しているのは獣だろう。


 ドスン! 

 

 ドスン!!


 地響きとともに俺はそれを見つけた。

 完全攻略条件の一つ。


「ベヒモス」


 その魔力、実に200万ごえ。

 エクストラボスと同じ魔力の魔物が、大きな草原で眠っていた。

 ピンク色の肌は、岩のように硬そうで、その牙だけで2トントラックよりも大きい。

 体長は……300メートルはあるだろうか。その質量は、俺が見た魔物の中でも群を抜いていた。


 切りかかれば切れるだろう。

 だが、象につまようじで挑むような心もとなさを感じる。

 単純に、命に届くまでに距離があり過ぎる。


 もちろん戦えば、俺の魔力は300万。

 いずれは倒せるのだろうが、一分一秒が惜しい今、真正面から戦いたくない。


 俺に気づいたのか、殺意をもって突進してくる。

 当たれば俺でも死ぬかもしれないが、さすがに遅すぎる。

 

「悪いが急いでるんだ」


 だから俺は。


「ブモ!?」


 裏技を使う。

 ベヒモスに触れて、真・ライトニング。

 上空へ転移。


 転移、転移、転移。

 そういえばどこまでこの世界はあるのか、知らないなと思いながら転移を繰り返すと、まるで空のような壁がある。

 そうか、やはりこの世界は大きな大きな箱なんだな。

 魔力という力を使って循環している箱。だから封印が崩れるんだ。永久機関なんて存在しないのだから。


 まぁ今はそんなことはどうでもいい。

 距離にして、1キロぐらい上空にベヒモスは浮いている。

 そこからの自由落下。

 速度はぐんぐんと上昇し、そして。


 ドスン!!!!!!!!!


 キューブ全体が揺れたような音。

 そしてベヒモスは討伐された。魔力の鎧は纏っていたが、さすがにこの威力を防げるほどではない。


 アテナさんの完全攻略の声とともに俺はラスボスの部屋へと向かう。

 ボスは、一言でいえば……パンダ?

 パンダというほどに可愛くはなく、デスパンダという感じだが、その戦闘技術は確かに凄まじく、まるで会長と戦っているような感覚だった。

 しかし、俺の魔力は300万。

 組み立てるのもいいが、ここはごり押しで行かせてもらう。

 

 パンダの拳を受け止めて、そのまま力で押し返す。

 組み伏せたパンダに、剣を突き刺し、勝利した。


「…………はぁはぁ」


 ここまで一切の休憩なし。

 体力の消費が激しいが、そして最後のエクストラボスが登場した。


「なんとなく……そう思ってたよ。多分逆なんだろうな。俺達の神話に似てるんじゃなくて、お前たちが神話になったんだろ」


 ため息がでるほど、美しい銀色の毛並み。

 それでいて、すらりと伸びた両足は、間違いなく音速すら置き去りにする速度を出すだろう。

 鋭利な牙と、少しだけ滴る涎。


 狼だった。


 神話に出てくるあの狼が、俺のイメージ通りに、震えるほどの存在感とともに。


「狼神フェンリル……なんだか少しだけ、感動しちゃうな」

「グルル…………」

「でも……感傷に浸っている時間なんてない。最速でやらせてもらう!! 真・ライトニング!!」


 稲妻となる。

 フェンリルも駆ける。

 俺よりは遅いとはいえ、視認するのがやっとの速度。

 音速はこえ、もし第三者がみていたなら、ここには誰もいないようにすら見えるだろう。


「…………目で見てから思考するな」


 騎士団長――アーサーと戦った時を思い出せ。

 あのときは、移動しようと思ったところを注視して転移した。

 そこに思考というプロセスが挟まり、稲妻の速度には程遠かった。


 だからこそ、今このフェンリルにも追いつかれたり、捕まらない。


 ならばどうするか。

 簡単だ。

 一手先じゃない。転移したいと思ってから飛ぶんじゃない。


 10手先まで、どこに転移して、次にどこに転移するかまで組み立てろ。


 そうすれば。


 バチ! バチ! バチ! バチ! バチ! 

 バチ! バチ! バチ! バチ! バチ!


 まるで落雷のように、俺は最速になれるはずだ。

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