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第141話 世界最強ー1

 まっすぐ向けられた殺意、そして9体の円卓。

 俺達はおそらく罠にかかった。

 どこに現れるかわからない俺達を探すよりも、すでに居場所が割れているであろうこの地下施設で待機する方が得策。

 当たり前だ。

 モードレッドが死んで、俺が現れたのだから全力で見つけようとするに決まっている。

 しかし、速すぎる。まるであらかじめわかっていたような周到さだ。もしかして情報が漏れていた?


「灰さん!!」

「わかってる!! 真・ライトニング!」


 俺は即座にスキルを発動した。

 ここは一旦みんなを連れて退避しないと。

 そう思った……しかし。


 バチッ!!


「――!?」

 

 スキルの発動に失敗した。

 なぜだと、俺は神の眼を発動する。


 周囲一帯の空間が歪み、魔力で包まれている。

 これは何らかのスキルだ。おそらくは円卓の騎士の誰かのスキルだろうと、あたりをつけて全員を見る。


 そして見つけた。

 名をトリスタン。

 そのスキル名に、空間支配とある。

 詳細を見ると、空間転移系のスキルを無効化するスキルのようだ。


「なぁ、今。俺の事見られてるよな? バレた? うわぁ、まじかよ。さすが神の眼」

「どうやら、本当に神の眼は持っているようだな。トリスタン、お前は下がれ。あいつを逃がすわけにはいかん」


 すると一人の男が前に出た。

 

「私の名前は、知っているだろうが……ガウェインだ」

「ガウェイン?」


 ぼさぼさの髪、無精ひげ。

 見た目はまるでハリウッドでアクションスターをやっているような30代ごろの男。

 だが、しかし……この眼に映るのは。


「――!? なんで」


 ガウェインが俺に向かって切りかかる。

 俺も瞬時に剣を抜いて応戦する。この程度の奇襲、ランスロットさんの剣技の前では無意味。

 簡単に受け止める。


「…………ふふ」


 今、ガウェインと名乗る男は確かに笑った。

 しかし、問答無用で切りかかってくる。


「なぜ……」

「察しろ。その眼で」


 俺は後ろの円卓達を見る。

 全員が魔力200万、300万の化け物たち。

 そして何より、背後に控える男。


「……ガラハッド」


 先ほど副団長と呼ばれていた――名をガラハッド。

 眼帯をしている。整えられた髭、鋭い眼光。

 一見すると油断している。だが、まっすぐとその片目で俺を見据えていた。


 今の俺の魔力200万では歯が立たない。

 あれはアーサーと同じ類の存在だろう。

 それにモードレッドは戦闘タイプではなかったのだろうが、ここにいる9人の騎士達は一人一人が、とんでもなく強力なスキルを持っている。

 

 何よりも、トリスタンの空間支配で俺のライトニングが封じられている。


 俺は冷や汗を流した。

 どうする。考えろ。最善を。

 できなければここで全員死ぬぞ。


「灰君!! 君は逃げろ!! なんとしても!!」

「坊主!! 俺達のことはいい!!」


 捕まっている田中さんと天道さんが叫んだ。


「…………」


 俺はガウェインと剣戟を繰り返しながら、田中さん達を見る。

 そしてその隣にいる同じくスキルで拘束されている凪も。

 その眼は、田中さんと同じ言葉を訴えていた。


 逃げろ。

 全員がそう言っている。


 逃げる? みんなを置いて?


「逃がすわけがないだろ。陛下にその眼を献上しなければならない」


 その言葉を聞いた瞬間、副団長ガラハッドが前に出る。

 本能が言っている。

 鋭利な刃物が喉ものに突き付けられて、すぐ目の前にある死の感覚。

 何度も経験してきた感覚だ。戦ってはいけないと俺の全身の細胞が警鐘を鳴らす。


 そのときだった。


 ドン!!!


 爆発音とともに、訓練場の床が抜けた。

 アーノルドさんが、床を全力で叩いて壊したからだ。

 突然のことで、全員一瞬気が逸れる。俺達は落下した。


「彩!!」


 落下中。

 アーノルドさんは、自分の手の皮膚を少しだけ嚙みちぎる。

 赤い血が流れて、それを彩の前に差し出した。その意味は。


「……!? …………わかりました!」


 アーティファクト製造を求めたということ。

 その血を舐めて、光り輝く赤い色。

 鬼神――ハクキの魔石。最上級のアーティファクトがブレスレット型として製造される。


 ドスン。


 俺達が着地した場所は、地下鉄の通路だった。

 凪たちは、壁際にいたので落ちていない。

 しかし、頭上を見上げれば円卓の騎士達が次々と降りてきた。

 

「レイナ、彩。灰を連れていけ」

「――!? アーノルドさん!! なにするつもりですか!!」


 レイナが俺の手を握って引っ張った。

 彩も同じように引っ張った。

 二人とも唇を噛みしめて、耐えているような顔だった。


 俺とは違う。

 何年も戦い続けてきた彼女たちだからできる顔だったのだろう。

 でも俺は。


「アーノルドさん! みんなで戦えばきっ――ぐふっ!?」


 直後、俺は膝をついた。

 アーノルドさんの不意打ちで、みぞおちにパンチを食らった。呼吸ができない。

 

「HAHAHA、やっと殴れたな。おい、レイナ」

「……うん」


 にやっと笑って背を向ける。

 俺は偉兄に担がれて、遠のいていく背中を見つめることしかできなかった。



 


「逃がさん!」


 直後、円卓の騎士の一人が灰たちを追うように走る。


「俺に背を向けていいのか?」

「――!?」


 魔力の開放――獣神化。

 地下鉄を埋め尽くすほどの膨大な魔力の塊が、その騎士の頭を背後から掴み、そして。


 ドン!!


 全力で壁に叩きつけた。

 大きく揺れる地下鉄は、ボロボロと崩れ落ちる。

 灰たちへ続く道は埋もれてしまった。そしてもちろんアーノルドたちの退路も。


 兜が取れて、傷だらけの顔を出す騎士は、怒りと共に剣を抜いた。

 

「調子に乗るなよ!!」


 切りかかる。

 アーノルドは避けない。

 腕を差し出すようにその剣を受け止めた。


「――!?」


 ガキン!という音と共に剣が弾かれ、騎士は目を見開く。

 その一瞬の隙で蹴られて体勢を崩した騎士。


 まずいと顔を上げたそのときだった。


「HAAAA!!!!」


 下段突きが、その騎士の顔をぐちゃっと潰した。

 血が滴る手、飛び散る鮮血。紛れもない脅威。


 騎士達は、威圧された。

 最強を誇る円卓達が、思わず一歩下がりかける。

 しかし副騎士団長――ガラハッドだけは、前に出て剣を抜いた。


「矮小な人間共の中に、円卓の上位に座っていてもおかしくない男がいると聞いていた。確かにその強さ……脅威的だな」

「あぁ? 仲間が死んだのに随分余裕だなぁ」

「まぁ円卓と言えど末席などそんなものだ。各国からの数合わせと言ってもいい。弱い奴が死ぬのは当然だからな」


 汚れたサングラスを外して暴君は、にやけ顔は消えてまっすぐと騎士達を見る。

 だが、確かにその額には汗をかく。


「だからお前が死ぬのも当然だな、アーノルド・アルテウス」


 暴君として頂点に座ってきた自分。

 しかし、初めて格上と感じる強さが、ガラハッドから漏れ出している。

 そのときアーノルドの横に、一人の男が立つ。


「で、てめぇはなんで残ってんだよ」

「兄貴なんだ。弟は守るさ。それに……お前ひとりじゃ荷が重いだろ?」

「…………サポートしろ、王」

「あいよ、わがまま大王」


 アーノルドと、王偉はしかし、臆さず立ち向かう。

 灰たちが逃げる時間を稼がなければと、命を懸けて。

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