第140話 騎士団長アーサー・ペンドラゴンー3
「よし」
俺は立ち上がる。
アーサーにボコられて、ほとんど息をしていない侍のような鬼を殺した。
あれだけのダメージを受けて死んでいないあたり、さすがS級のボスで、魔力90万越えだ。
だが俺は最後のとどめを刺すように、その胸に剣を下した。
そして絶命した。
『条件を達成しました。エクストラボスを召喚します』
「よかった。やっぱりソロ攻略は一人で攻略すればその扱いなんだな」
アーサーがめちゃくちゃにしていったからもしかしてと思ったが、問題ないようだ。
おそらくはソロで条件を達成したらなのか? それとも、ソロでダンジョンに入ったら?
その辺は詳しい定義はわからないが、夜泣村でオークのダンジョン崩壊のときもそうだった。
中には、渚ちゃんもいたが、問題なく条件を達成したことから、おそらく入るときや中での一緒に過ごした活動時間がなどが関係するのだろう。
まぁそんなことは今考えることじゃない。
今から戦う相手は。
「鬼神……」
たった一体でも国を亡ぼす化け物なのだから。
それはいつものように、天井から大きな真っ黒な穴をあけて降りてきた。
見た目は鬼だ。
だが白い。
真っ白で、一切の濁りなく、そして神々しい。
およそ、伝説となっているような妖怪は過去のこういった魔獣が形を変えて伝承されたのではないかと思うほど。
その鬼は伝説のような見た目をしていた。
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名前:鬼神――ハクキ
魔力:2000000
スキル:雷神、鬼神装
攻撃力:反映率▶75%(+30%)=2100000
防御力:反映率▶50%(+30%)=2100000
素早さ:反映率▶75%(+30%)=1400000
知 力:反映率▶50%(+30%)=1400000
※鬼神装の効果で全ステータス30%上昇
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当たり前のように魔力200万越え。
簡単に死ねる相手だ。
でも。
「死ぬわけにはいかないんだ。なんせ……世界を救わないといけないからな」
負けるわけにはいかない。
◇
「これで全部か」
「ふぅ……円卓はこなかったな。まぁこいつら程度なら俺たちでもなんとかなる」
S級キューブの外、そこには黒い鎧を着た騎士達が倒れていた。
数は10人ほど、松明の明かりしか照らされない夜、アーノルドたちは勝利した。
倒れている黒い騎士の鎧を剥ぐアーノルド、そして眉をしかめる。
「ちっ……」
そこには自分達と何も変わらない見た目の人間がいた。
「信じられるか。何年前かもわからない昔、こんな奴らがこの世界に生きてたなんてよ」
「信じるも何も目の前で現れたのなら信じるしかないだろう。アテナという神がいっていたこと、鵜呑みにはしたくないが……実際に灰は帰ってきた」
それを見て王偉も椅子に座った。
この五年で、彼らは嫌というほどこの敵と戦った。
そしてそのどれもが、やはり中身は人と同じ。ただ魔力が高いだけの人だった。
「しかし、お前に人殺しの良心があるとは思わなかったな。アーノルド。灰に負けてから改心したか?」
「殺すぞ。別にこんな奴ら何人殺そうが心が痛んだりしねぇよ。ただ……哀れだと思っただけだ」
それを見て、彩とレイナも会話に混ざった。
「アーノルド……操られたことあるもんね」
「やめろ、レイナ。それは記憶から消したんだ」
「いえ、忘れさせませんよ。あなたは操られながら私を殺そうとしたのですからね! レイナのママもうそうです、一生悔やんでください!」
「ちっ! その借りは返しただろうが」
「いえ、まだまだ返してもらいます。具体的には人類を救うまで」
「…………けっ。じじぃの横で震えてたガキが良くもまぁここまで育ったもんだ。俺を見てションベン漏らしたくせに」
「そ、それはまだ小さいときでしょう! 子供に威圧するあなたが悪いんです!」
「でも今は……少し柔らかい。アーノルド、やっぱり変わった。優しい何かを感じる」
「…………けっ」
「おい、見ろ。わがまま大王が照れて……うぉ!? やめろ、お前が殴ったら俺でもケガする」
そういってアーノルドは背を向けてしまった。
残り三人はやれやれと、キューブを見る。
「灰……早くかえってきてね」
「灰さん……待ってますから」
◇一方、灰
ボロボロの灰と、ボロボロの鬼神。
両者の傷は浅くない。
ライトニングとミラージュで応戦する灰だが、鬼神は圧倒的に知力が高かった。
その知力は数値としてではなく、戦闘という面でいえばその技術力は達人クラス。
まるで日本ダンジョン協会会長・龍園寺景虎と戦っているような感覚すら覚えていた。
正面から戦えば龍神オルフェンでも負けるだろう。
それほどの強さを鬼神――ハクキは有している。
だがこちらも達人という意味で言えば、剣の極みに達している。
ランスロットの記憶の旅という、血反吐吐く修行を体験した灰は、その剣技だけでも頂点に触れる。
「真・ミラージュ!」
二つに分かれた灰、だが片方はスキルも使えず意志もない。
魔力100万の分身といえど、このレベルの相手に対しては、ただの人形でしかない。
だが交差するように動き回れば、一瞬ではどちらが本物かなど判断できない。
二人が同時に切りかかる。身体能力は全く同じ。
鬼神は、焦るがここはいったん引くしかないと一歩下がる。
――バチッ!
「真・ライトニング」
しかし、背後に稲妻の速度で回り込まれる。
瞬時に振り向き、殴りかかる超反応。この敵は、視界内であればどこにでもこの速度で移動する。
それを理解していた鬼神は、その視界を塞ぐように距離を詰めた。
だが。
「ライトニング」
「――!?」
消えた。
そして自分の胸が貫かれていることに気づいた鬼神は、わなわなと震えながらその場に倒れた。
ミラージュで作り出した分身の影に転移する。
真・ライトニングはその視界内にしか飛べないし、鬼神もずっとそう思っていた。
が、そう思わせていた。
通常のライトニングは任意の影に飛べるため、ミラージュの分身の影にですら飛べる。
思わぬところに転移して、不意を突いたことにより闘いは決着した。
「はぁ…………普通に何回か死にかけた」
ため息を吐きながら淡い光に包まれて、外に出る。
キューブは完全攻略となり、その魔力は灰に渡った。魔力100万追加。
これによって灰のステータスは。
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名前:天地灰
状態:良好
職業:神の騎士【真・覚醒】
スキル:神の眼、アクセス権限Lv2、心会話、最優の騎士、真・ミラージュ、真・ライトニング
魔 力:2000000
攻撃力:反映率▶75(+80)%=3100000
防御力:反映率▶50(+80)%=2600000
素早さ:反映率▶50(+80)%=2600000
知 力:反映率▶75(+80)%=3100000
※最優の騎士発動中+30%
装備
・龍神の剣=全反映率+50%
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ゆっくりとキューブが開いて、地上に戻る。
そしてそこには。
「おかえりなさい、灰さん」
「おかえり、灰」
みんなが迎えてくれる。
「しかし……お前。なんだそれ」
「……本当に強くなってやがる」
「もちろん!! 偉兄も、アーノルドさんもありがとうございます」
「けっ。なら次だ。さっさと最強になれ」
そういって背を向けたまま手を振るアーノルド。
「じゃあ、一旦帰って食事含めて補給。そしてすぐに次のキューブに向かいましょう!」
「了解。じゃあみんな手を」
俺は全員と手を繋ぎ、凪を思い浮かべる。
ライトニングで飛ぶときは、飛びたい人を思い浮かべなければならない。
すでに凪の影は踏んでいるので、この時代でもライトニングで一瞬で飛べる。
そして。
「ライトニング」
バチッ!!
帯電し、空間を跳躍する。
向かう先は、日本の巨大地下施設。
凪の下へ。
だが、俺達が見た光景は。
地下施設の訓練場である大広間、そして。
「お、きたぞ。団長は? まさか負けた?」
「いや、それはない。多分勘が外れたんだろう。で、どれが神の騎士だ?」
「あの小さいのだろ」
「思ったより若いな。あぁ……アテナが時飛ばしを使ってるからか」
「とりあえず全員殺せばいい?」
「アホか。ハデス様は絶対に殺すなと言ってただろ」
「生け捕りだな」
「他はどうします? 副団長」
「抵抗するなら殺せ」
ランスロット、アーサー、モードレッドを除く。
9人の円卓の騎士と、捕まっている凪たちだった。




