第138話 騎士団長アーサー・ペンドラゴン
「なぁ? 神の騎士?」
気づいた時には俺の肩は掴まれていた。
油断。
俺はすぐさま振り向き剣を抜いて振り切った。
驚いたようにおどけるアーサー、俺の体から手を離したのを確認し、真・ライトニングを発動する。
体に触れられていたら一緒に転移してしまうからだ。
「ほっほぉ! それが噂の稲妻の如き転移か!! なるほどなるほど!」
俺の力を見て興味深そうに目を輝かせる。
アーサーはまるで子供がおもちゃを見つけた時のように純粋な目で。
「しかし、どこにでも行けるなんて凄い力だな。確か昔見た時は影にしか飛べなかったはずなんだがな」
「!? ……どういうことだ」
まるでこの力を知っているかのような口ぶり。
だが俺がこの力を見せたのは初めてのはず。
……いや、違う。俺じゃない。
「しかしあいつは強かった。私が殺した男の中でも3本の指には入るだろうな。確か名前は……」
俺は思い出していた。
うっすらだが、たしかに受け継いだあの人の記憶。
黒の騎士に囲まれ、そして一際強い男に倒された記憶。
「ライトニング!!」
「そうそれだ!」
俺はアーサーの影、つまり背後にライトニングを発動し、転移して、剣を振り切る。
だが止められた。
俺は驚き目を見開く。
振り返ったアーサーに俺の振り切った剣は、指で摘むように止められていたから。
すぐさま蹴りをいれたが、もう片方の手で掴まれる。
さらに身を捩って、俺はアーサーの顔面にもう片方の足で蹴りこんだ。が、簡単に交わされる。
しかし距離を取ることには成功した。
「交戦的だなー、ちょっとは会話を楽しむ余裕はないものか?」
「はぁはぁはぁ……」
本当少しの攻防。
それでも感じるのは圧倒的なまでの技量だった。
それもそのはず、なぜならこいつは。
「ライトニングさんを殺したのはお前か」
「あぁそうだよ、だがまんまと奴が生み出した結界に囚われてしまったがな! ははは! 彼は本当に良き戦士だった。願わくば一対一で戦いたかった。彼はすでに疲労していたからな……」
俺の師匠、いや、俺が全てを受け継いだランスロットさんの師匠であるライトニングさんをも倒した相手。
俺の中のランスロットさんの記憶が怒りで震えている。だがそれと同時に俺の中の全ての警鐘が鳴り響く。
逃げろ。
こいつは今までとは次元が違うと。
「よっと」
「なぜ……」
俺が冷や汗をかいていると、突然アーサーと名乗る円卓の騎士の騎士団長はその場で腰を下ろした。
「まぁ、座りたまえよ。少しぐらい話そうじゃないか。もうわかっただろ? 君では俺には勝てない」
「そんなことはやってみなければわからない」
「ふむ……ではやってみるといい」
完全に舐められている。
だか確かに魔力600万、ありえないほどに高い数値。
俺の実に6倍。
まだS級キューブの魔力を受け継いでいない俺では勝てる相手ではない。
でも。
「勝敗は数値だけでは決まらない!」
それは俺が一番知っている。
何度もそんな差はひっくり返してきた。
真・ライトニングを発動し、座っているままのアーサーの周囲を高速転移。窓を絞らせない光の速度。
「ははは! 早い早い! 光と同等か。流石の私も光よりは早く動けない。かけっこならば私の負けだな!」
余裕のアーサー、立とうともしない。
油断している。
なら今がチャンスだ。
俺は死角へと転移してそして。
「!?」
切りかかろうとした。
しかし、ほぼ同時にアーサーが笑いながら死角にいたはずの俺の方を見る。なぜ? 見切られた? 光の速度を? 一体なんで。
俺は思わず固まってしまった。
するとアーサーはにっこり笑いながら反撃するでもなく喋り出す。
「素晴らしい力だ。だが欠点がある。視界だろう? 少し観察すればわかる。移動する前に君の眼は移動先を見ている。いかに早く移動できても移動しようと思わねば飛べぬが道理。そこに人の意思が介在するのならば、光の速度には程遠い。捕まえることは容易いな」
「くっ! 真・ミラージュ!!」
「おお!? 増えたぞ!? なんだなんだ?」
俺の分身を生み出し、二体一。
ワクワクするようなアーサー。
だが、俺の分身が切り掛かった瞬間だった。
ドン!!
まるで隕石が落ちたような衝撃で屋敷が吹き飛ぶ。
それは俺の分身がアーサーに頭を掴まれて地面に叩きつけられたことで起きた衝撃だった。
砂煙が舞い上がり、その煙が落ち着くと俺の分身がアーサーの片腕によって頭を潰れていた。そして蜃気楼のように消えていく。
「ふむ、幻影を作り出すか。見た目で見分けるのは難しいが、動きは単調。そこに意志を感じない。さらにいえばスキルを発動しようともしなかった。ただの惑わすだけの人形か」
俺はそれをみて一歩後ずさる。
強い。
魔力がとかそういう話ではない。
戦闘経験とでもいうのだろうか、圧倒的な実践経験の差。神の眼もないのに、俺のスキルの仕組みを一瞬で看破してくる洞察力。
これがおれが倒そうとしている黒の帝国、最強の敵。
円卓の騎士、騎士団長。アーサー・ペンドラゴン。
今の俺ではまだ…………。
「よっこいしょ、では座ろうか」
「ま、まだ!!」
「はぁ……」
ドン!!!!!!
直後屋敷が全て吹き飛び、俺も同時に吹き飛ばされた。
ただ地面を叩いただけ。
その衝撃で周りすべてが消し飛んだ。
砂煙が消えた後、アーサーは大きなため息を吐いて俺を見る。
そして静かに言った。
「座れといっている。次はないぞ」
「――!?」
まるで心臓を鷲掴みにされたようなプレッシャーと共に。




