第134話 前哨戦ー1
中国へ出発まであと4時間。
俺は田中さん達と五年の空白を埋めていた。
「まるで昨日のように思いだせる。私の家でBBQをしていたね……君が黄金のキューブに包まれた」
「俺にとっては本当に昨日のことのようなんですけどね……というかアーノルドさんとレイナって仲直りしたんですか?」
俺はアーノルドさんとレイナが普通にしゃべっていることにびっくりする。
五年の月日があるとはいえ、レイナにとっては親を殺された相手でもあるはずだ。
「うん、したよ。あのあとアーノルドが謝ったから……」
「滅神教になった奴は全員殺さないといけない。俺はそう思っていた……二度と正常に戻らないことは長年戦ってきて俺はわかっていたからだ。だがお前の力ならわかるんだな……知らなかったとはいえ、すまなかった」
「あれ? アーノルドさん、めっちゃ丸くなりました?」
「こいつ、あの日滅神教に操られてから色々とな……なぁ、暴君? まぁこいつも滅神教に家族殺されてっから……気持ちは汲んでやってくれ」
「ただ……許されないことをしたとは思っている。今は祖国を取り返すためにこの力を使いたい。だが俺一人では奴らには勝てない」
この五年でアーノルドさんは暴君というより、賢君になっているように感じた。
前のような粗暴な感じはどこにもなく、今はただ歴戦の戦士として、その眼は敵を見据えている。
「それは俺も同じ気持ちだ。妹の静が敵に捕らわれている。他にも闘神ギルドの多くが奴らに操られて不当な精神的な奴隷として操られている。許せねぇ」
黒の騎士には、闇の眼という自身の魔力以下の存在を操るという力がある。
王兄の妹さん含め多くの人類は黒の帝国に操られて奴隷としての生活を強要されているらしい。
「静さんが……なら絶対救わないとですね」
「あぁ、中国周辺を支配している円卓は四人。全員倒して全員救い出す」
俺達はそれからも五年の歳月で起きたことを話し合った。
昔話に花を咲かせるという雰囲気ではないが、それでも少しばかり懐かしい雰囲気が漂う。
そして一時間後。
「お兄ちゃん!!」
「凪!!」
別の拠点にいたという凪と景虎会長がこの基地へと戻ってきた。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん!!」
「お前……いつの間にこんなに大きくなって……中1から5年だから……高2ぐらいか……花のJKだな」
俺の胸の中にうずくまる凪は随分と成長していたが、その面影は何も変わらずただ俺の大好きだった凪と変わらない。
無事でよかった。
この五年で凪に何かあったら俺はさすがにアテナさんを許せなかったかもしれない。
「灰君は本当に全く変わらんの……」
「ええ、会長も……ふふ、何も変わりませんね」
五年たっても会長は会長のまま。
その姿は何も変わらずいつも陽気でムードメーカーの会長だった。
「すまなかった……儂がもっと早く気付けていたらこんなことには」
「え?」
「ダンジョン協会に不穏な動きがあるのはずっとわかっていた。いや、創立時からおかしかったんじゃ。だが戦いの日々はそんな余裕もなくな……」
「どういうことですか?」
「世界ダンジョン協会、その設立者こそ、あの滅神教の教祖マーリンの弟子、ビビアンじゃった。これは後から分かったことじゃがな。奴は円卓共が封じられている最大のキューブをダンジョン協会地下に隠して、その封印を解くために魔力石を集めておった。協会がマージンとして魔力石を探索者から納品させていたのはそういう理由があったんじゃろう。実に巧妙に作られておった……側近共は全員ビビアンの精神支配を受けておってな……20年隠されていた」
「……そうだったんですか。でも会長のせいじゃありません。誰も分からなかったんですから」
世界ダンジョン協会は、黒の帝国のビビアンが支配していた。
滅神教もマーリンが支配していた。
そこの関係性は今は分からないが、もしかしたらダンジョン協会にとって不都合な相手を殺したりさせてたんだろうか。
だとしたら彩を狙ったのはダンジョン協会会長の娘だから?
だとしたらなんてマッチポンプだ。
「灰君、中国に渡ると聞いた。彩、王君、アーノルド、レイナの四名で円卓と戦うとも。残念じゃが儂らは円卓との戦いにおいては足手まといじゃろう……奴らは全員超越者じゃからな。ここから儂らは願うことしかできないが……無事帰ってくることを願う」
「はい!」
俺は中国にあるS級キューブをソロ攻略する。
「お兄ちゃん、またいっちゃうの? まだお話全然できてない……」
「大丈夫……ライトニング」
バチッ!
俺は凪の影へとライトニングを発動する。
「もうどこにいても守ってやれる。だから心配するな、すぐに戻るから」
「…………うん。約束!」
俺が凪の頭を撫でると気持ちよさそうに凪は目を閉じる。
辛い思いをたくさんさせたんだろうか、この五年で一体何が変わってしまったのか俺はまだわかっていない。
でも俺にとって大切なものは何一つ変わっていない。
そして各々が部屋に戻って最終準備を始める。
「彩……」
「ん?」
するとレイナと彩がごにょごにょと何か話している。
二人とも顔を赤くしてこちらを見るが、彩がため息を吐くようにわかったわと言う。
「灰さん……許します。でも一番は私ですよ……こ、これは勝つためです! 一回だけ!!」
「なにが?」
「灰……灰の部屋、案内する……ついてきて」
そういって、レイナは俺の腕を掴んで俺の部屋へと案内してくれた。
俺の部屋といっても彩の部屋と同じく簡易的なビジネスホテルのような部屋だったが。
「こんな部屋が何個もあるんだな……巨大地下施設ってちょっとだけワクワクする」
俺がレイナに案内された部屋に入ったとき。
ガチャッ。
「え?」
なぜかレイナが中に入って鍵を閉めた。
「はぁはぁはぁ……」
真っ赤な顔で息を切らせる。
「レ、レイナ? どうし……!?」
俺はレイナにベッドへと押し倒された。
なんかこの感じさっきもあったな……。
「灰、ムラムラする」
「ムラムラ……とは」
レイナはモードレッドに捕まっていた。
その期間は一月ほどだとは聞いている、その間女の敵と言うほどに何かをされた。
「あいつは……変な薬で……私をずっと……でも一切手を出さなかった。だから……ムラムラするの」
もう我慢できないとでも言いそうないつもクールなレイナの顔が真っ赤に火照っている。
正直に言おう、ドエロい。
「鎮めないと、戦えない。だから……灰……いいよね? 彩もいいっていったし」
「あ、あの……レイナさん? 俺は一体どうすれば……」
「……何もしなくていい。全部私がするから」
仕方ないんだ。
こうしないとレイナは戦えないし、仕方ないんだ。
そう、これは人類を守るため。
仕方ないんだ……仕方ないのか? ……仕方ないな!




