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異世界の気象予報士~世界最強の天属性魔法術師~  作者: 榊原モンショー
第三章 オートル魔法科学研究所(後編)
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共同戦線

 入学試験同様、舞台は王都。

 あえて、同じ形にしたところにオートル学園の興行的な魅せ方が窺える。

 ただ、一つ違うことがあるとすれば――。


「今年は粒揃いだって聞いてるんだ。がっかりさせてくれるなよ受験生!」


 まるでピクニックだとでも言わんばかりのウキウキぶりで王都中央通りを闊歩するのは、焱燚(えんいつ)の魔法術師、イカルス・イヴァン。

 イカルスと反対方向を歩いて行ったウィス・シルキーも含めて、ここにいる全ての生徒達が彼らの一挙手一投足を注視していた。

 最初から目まぐるしい魔法戦が繰り広げられるかと思いきや、その出だしは思った以上に全員が慎重だった。


 イカルス・イヴァン――またの名を、炎の不死鳥とも呼ばれるその男は、掌にポゥッと小さな炎を作り上げた。

 アランは、建物と建物の物陰に身を隠しながらも手にはすぐに防御結界を張れるだけの魔法力を込めた。

 

「……むぅ、誰も出てこないな。それならそれで、ちょっと炙りだしてみようかな」


 にこり、屈託のない笑みを浮かべたイカルスは掌に出した炎を、大きく振りかぶって空に掲げた。

 それは、アランもかつてよくやった白球浮動に属性魔法を付与させているだけのように思えた、だが。


「ッキュゥ!」


「と、鳥?」


 アランはいつでも魔法力を射出出来るようにはしていたが、思いがけず空に現れた炎を纏った鳥に驚きを隠せずにいた。

 同じく、属性魔法に魂を付与させて魔法を操るものとしては、エーテルの海竜(レヴィ)などが挙げられる。


 空に昇った炎の鳥はその場でぐるぐると旋回を始めて、再び「キュゥ!」と雄叫びを上げる。


 ――ゴゥッ。


 瞬間、炎の鳥は口から極大の魔法力を詰め込んだ火弾を王都中央通り端の物陰に向かって突き刺した。


『普通科3位、サルファ・ディオール。戦闘不能により退場残り十三人です』


 直後、場内に響くアナウンス。


「――って、はや!?」


 あの一瞬で、受験者の一人が脱落したというのだ。

 異変を感じ取った諸々の受験者達が次々と裏で行動しているのが分かる。


「ッキュゥ!」


 だが、炎の鳥は一息つくこともなく王都中央通りを横切って次々と、正確に火柱を立ち上げていく。

 それはまるで生体爆撃機。

 上空から来る避けようもない炎の砲撃に、無情な場内アナウンスが次々と響き渡る。


「天属性魔法」


 そんななかでもアランは冷静だった。

 初めて唱えた、天属性魔法(・・・・・)のその言葉。

 目を瞑ると同時に、アランの直上に暗雲が立ち込める。

 まるで自分が天空から見下ろしているかのような錯覚になる。

 炎の鳥が、目線の遥か下を飛んでいるかのようだった。

 謎の巨大な龍の頭に飲み込まれてから、今までとは全てが別格に違う。

 魔法の使い方が、手に取るように分かる。

 空から、大地から渦巻く様々な力が味方に付いたかのように。


吹雪の盾(ブリザードゲート)


 炎の鳥がアランの直上に来た瞬間、手を天に掲げる。

 渦を巻くように暗雲からは白い結晶が渦を巻いて地上付近へと舞い降りて、アランの頭上をランダムに駆け巡っていく。

 一瞬にして、局所的に氷点下にまで至った氷雪の盾は、空から降りて来る火の手を沈下させていく。


「……ッキュゥッ!!」


 炎の鳥は、初めて自身の攻撃が通らなかったことに違和感を覚えて、眼下のアランをじっと見つめる。

 炎で象られた翼がはためくと同時に、ゆらりと空間が熱を帯びる。

 炎弾を吐き出すのを辞めて、直接アランに突貫して急降下してくるその鳥を見据えて、アランは再び直上に手を掲げる。


「消えろッ! 集中豪雨ゲリラ!」


 直後、炎の鳥を目がけて局所的に、槍のような激しい雨が降り注ぐ。

 ジュワッと音を立てて沈下した炎の鳥を遠くで見ていたイカルスが、小さく「ほぅ」と驚きの声を上げていた。


「おーおー、俺のエリアにはもう骨のある奴が残ってないかと思えば、君がいたのか。天属性の魔法使いくんが……」


 ――とはいえ。


「二発目出されたら、ちょっと厳しいな……」


 アランは額に汗を滲ませながらふと呟いた。

 天属性の魔法を使用した際の頭痛は完全に治まっているものの、魔法力の強大さに身体がついて行っていないのが事実だ。

 魔法を発動させた腕が、反動によってピリピリと小さな痺れを生じていた。

 頭上に広がる魔法力の渦が、アランの位置を明確にしている。


「よし、もう一発、行ってこい!」


「キュゥッ!!」


 ふらふらと、イカルス()の元に戻っていった小さな火の球に再び魔法力を吹き込んでいくのを遠目で確認したアランは、一時的に重くなった身体を引きずって足を動かした。


「キャゥッ!!」


 すぐさま復活した炎の鳥がアランの直上まで迫り来ると、アランは再び痺れの収まりきらない腕の中に魔法力を込めた。

 先ほどよりも遥かに大きな炎球が、アランに向かって放出される。

 まばゆいまでの炎の球に向けて、暗雲に魔法力を送り込もうとしたその瞬間だった。


「邪魔するぜ、アラン」


 白銀の剣身で、アランの眼前に現れたのは一人の少年だった。

 持っていた直剣を下段から、切れるはずのない炎球を風圧だけで真っ二つにしたその少年が時間稼ぎをしてくれたおかげで、体力を取り戻したアランは立ち上がることが出来ていた。


「シドか……お前、なんでここに」


 魔法力を充填したアランは、走りながら再び集中豪雨ゲリラの魔法によって、炎の鳥を消失させていく。


「さっきの馬鹿でけぇ魔法力見て飛んできたんだ」


 シドは剣の峰を肩にトントンと宛がって不適な笑みを浮かべる。

 アランは、むっとしたようにくってかかる。


「別に手助けが欲しかったわけじゃないんだけどね」


「あぁ、もちろん俺とてそんなお人好しじゃないさ」


「……じゃあ、なんで」


 アランが問うと、シドは空に今だ色濃く浮かぶ暗雲を指さして呟いた。


「あれ、まだ使えるか?」


「あぁ。今まさに魔法力を充填し終わった所だよ」

 

「なら話は早い。俺とお前で、焱燚の魔法術師(あのバケモン)食い散らかすぞ」


 その瞳は、初めて会ったあの日のように、自身を遥かに上回る生物に対する下克上を狙う野性味にあふれたものだった。

書籍化続報です。


タイトル:異世界の気象予報士~世界最強の天属性魔法術師~

レーベル:UGnovels

イラスト:TEDDY先生 @TEDDYPOCKY

発売日 :3月30日


Amazonさんなどでは既に予約も開始されています。

書き下ろし、番外編を新規に書いたり、二章からは少しばかりWeb版と進む方向が変わったりしてより良いものに仕上げています。

逆お気に入りユーザー登録などしていただけると、活動報告などで続報が早めに分かることがあります。

是非、よろしくお願いします。

次回更新は来週月曜日です。

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