第389射:ノスアム攻撃開始
ノスアム攻撃開始
Side:タダノリ・タナカ
敵は前日の忠告では動かなったようで、門を閉じたままじっとしている。
こっちの情報が漏れていない証拠だな。
俺たちの戦果を知っているなら、あの門を閉じたところで意味なんてないからな。
それとも伝えた連中がいたが信じ切れなかったか。
いや、行軍速度を考えると、逃げ散った連中が俺たちを追い越すというのはちょっと無理があるか?
「ふぅ。まあ、どのみちやることは変わらない」
町の連中が降伏しないのであれば、攻撃をしてしまうだけだ。
これ以上の交渉には意味がない。
攻撃の後にこそ意味が出てくる。
タバコを地面におとし、踏みつけて火を消し、指揮車に戻る。
既に、中にはお姫さんたちもそろっていて、これからの攻撃開始を待っている。
俺が戻ったのを見たお姫さんは……。
「いかがでしたか?」
「全然」
「そうですか。残念です」
そこまで残念そうでもなくそう告げる。
「後詰の連中の到着予定は?」
「予定では今日の午後には」
「それなら、制圧と統治は任せていいな」
「ええ。それでよろしいかと」
元々その予定だったから、あっさりと頷くお姫さん。
まあ、俺たちだけでノスアムの町を制圧して維持するなんて無理な話だ。
俺たちは攻撃するための戦力だからな。
数がいる治安維持とかはまったく無理。
全員殺していいなら楽なんだが、そんなことをすればこの町を拠点として使えないからな。
「よし。じゃあ予定通りに作戦を開始する。全員戦闘配置に付け」
「「「はい」」」
返事をするが、別にどこに行くわけでもない。
指揮車の中で上空からの映像を見て戦況の変化を確認するぐらいしかやることがない。
戦車の前に出られても邪魔なだけだしな。
そして……。
「ジョシー。車両の状態はどうだ?」
「問題ないね。オールグリーン。そっちでも確認しているんだろう?」
「ああ、確認はしている。ほかに知らない障害物とかあったりとかは?」
「そういうのもないね。いや、平地で助かるね。北側は山岳部だっけか? 戦車が使いづらいよな」
「それを知っているからこっちに来たんだがな。問題ないなら攻撃を開始するぞ」
「了解。と、ほれ」
そう言ってジョシーは俺に無線機を投げてくる。
「拡声器とつないである。一応、礼儀としてやっておけ」
「お前がそういうこというのか」
「戦犯として追い回されるのは嫌だからねぇ。戦いは好きだが、犯罪者として追われるのは嫌なのさ」
「はぁ。お前らしいな」
こいつは本当にどこまでも戦場で生きていくしかないんだろうな。
とりあえず受け取った無線機を使った。
「あー、こちら東側連合である。ただいまより、攻撃を開始する。西魔連合が戦うという意思なのは承知した。だが、無差別にノスアムの人々を殺すつもりはないということを改めて告げて置く。戦闘に参加しない一般人は家屋に入ってじっとしてくれ。そちらは攻撃の対象外とする。こちらが攻撃する場所は、南門、兵の駐屯地、冒険者ギルド、そして領主館である。巻き込まれたくない場合はそちらには近寄らないように。繰り返す……」
ということで、俺はノスアムの人々にそう告げ、戦車隊を100メートルほど押し上げる。
敵は動くことはない。
防壁の上に陣取って弓を構えている兵士は冒険者っぽいのが見える。
討って出てくることがなかったのは幸いだ。
こっちの数は少ないからな。
向こうも少なすぎるからこそ壁を盾にして戦おうと思ったんだろう。
とはいえ、戦車は歩兵を相手にするような兵器ではないからな。
もちろん対人武装もあるにはあるが、本来は……。
「よし。砲撃用意。目標、ノスアム南門」
「了解。照準合わせよし」
「全車両照準合わせてないだろうな?」
「そんな馬鹿な事するか。門に打ち込むのは3両。ほかは支援待機だ。というか門の構造強度を考えれば1両でも十分だろう」
「だな。お前が全部砲撃とか言っていたら全力で止める必要があるからな」
あんな石造りの壁に50両の戦車砲の一斉射撃とか木っ端みじんになるに決まっている。
しかも連射とかになれば町も消し飛ぶだろう。
そうなっては拠点としても再利用するのは面倒だし、死傷者多数で恨みを買うことは間違いない。
背中から刺されるなんて面倒なことは本当にやめたいからな。
ジョシーにそういう常識があって何よりだ。
「ほれ。砲撃スイッチはお前さんに任せる」
そう言ってジョシーは席を離れる。
一応俺は遠隔でスキルを通じて操作はできるのだが、こういう時はちゃんと手慣れた方法を取りたいというやつだ。
普通はタイミングを合わせて兵士たちがやるものだが、戦車とかは遠隔操作で砲撃タイミングを合わせることもできる。
データリンクってやつだな。
本当に便利になったもんだ。
とはいえ、門の強度はたかがしれているので連射するつもりはない。
車両からの映像もちゃんと照準はあっている。
それを確認してから、俺は再び無線機を持ち……。
「これより、南門に攻撃を仕掛ける。門の兵士は死にたくなければなるべき離れておくように。ノスアムの住民たちは大きな音が出るので耳をふさいでいるように。繰り返す……」
一応の最後の警告を加え。
「では、10、9、8、7……」
露骨にカウントダウンもして相手に備えさせる。
だが、防壁の上にいる兵士たちに動きはない。
近寄りもしないのにって感じだな。
攻城戦に魔術師の姿も見えない、あるのは見慣れたない馬車?ぐらいのものだ。
……知らないというのはつくづくと思いながらカウントが減っていく。
「3、2、1、0。発射」
ドンッ。
重低音の砲撃音が辺りに響き、即座に。
ドゴーンッ!
という爆発音がノスアムの南門に響く。
煙が当たりに立ち込めてどうなっているかわからない。
「ジョシー。そっちは何か見えるか?」
『こっちは煙でまったく。そっちは?』
「こっちも煙でまったく見えん」
『連射はするか?』
「いや、しない。門が吹き飛んでいるかを確認してからだ」
むやみに町に被害を出すわけにはいかないからな。
先ほど言ったばかりだ。
それを無視しちゃ今後良好な関係を築くのは無理だろう。
敵よりも非戦闘員の方が面倒なんだよな。
敵は倒せばいいが、非戦闘員はそうもいかない。
ちゃんと丁寧に接する必要がある。
排除でも考えていない限りな。
「敵の動きはなさそうだな」
『あの煙の中から出てくる様子はないな。移動音も聞こえてこない』
最も警戒していたのが、門が煙で包まれている間に後方に控えていた兵士がこっちに討って出ることだ。
その場合狙いはつけにくいし、人を地面ごと吹き飛ばすことになったりハチの巣にすることになる。
そうなると結城君たちの士気低下が物凄く気になる。
死体の欠損がひどいと現職の兵士だってメンタル崩す連中がいるからな。
圧倒的な暴力を持っている側も意外と大変なわけだ。
無抵抗の市民を撃てって命令でもないんだがな。
ま、それでいいんだろう。
結城君たちが人殺しに何も思わなくなるのは、それはそれで怖いものがあるしな。
いつも思うが、こういう思考の連中は俺やジョシーたちと言った傭兵や特殊部隊ぐらいでいい。
そんなことを考えているうちに、煙が晴れてきて……。
「門は壊れているな」
『壊れているが、意外と門だけだな』
煙が晴れた先には門戸があっただろうとされる部品がついているぐらいで、木製の門はなくなっているが、意外と防壁は丈夫だったのかそのままで残っている。
まあ、門との耐久性の違いでこうなったか?
「敵は、出てきてないな。防壁上の連中は混乱ってところか」
『だな。門の裏側にいた連中は死んだ奴らもいるみたいだが』
そりゃ、門を吹き飛ばされて後ろ側にいた兵たちが無事なわけないな。
「とりあえず、入り口を広げる」
『ま、ある程度は壊しておいた方がいいだろうな』
ということで、俺たちは敵が紺頼している間に南門をちょっと広げるために砲撃を続けるのであった。
さて、相手はこれからどう動くのかね。




