第386射:敵から得た情報
敵から得た情報
Side:ナデシコ・ヤマト
「意外と私もタフになったのでしょうか?」
私はお昼ご飯を普通に食べながらそう呟く。
「ん? どうしたんだ? タフになったって?」
その呟きが聞こえたのか、晃さんが質問をしてきます。
「あ、ええと、昨日は意外とひどい物をみたと光さんと話をしたんですが、こうして普通に食事ができているので、そういう意味で丈夫になったというか、タフになったというか……」
「「あー」」
私の言いたいことが分かったのか、晃さんや光さんも納得していて……。
「いやー丈夫どころか、普通の兵士だってアレはきついだよ。ここで普通に食事ができるのは十分に強いだべ」
そうゴードルさんが褒めて?くれる。
「うん。あれは凄いよ。人があんなになるんなんてね。いやー威力は知ってたけど実際やられると、ね。私たちもゾンビの集団をぶっ飛ばしたのは見てたけどさ。こうして、現場を生で見るとね」
そう言って苦笑いするノールタル姉さんと横で頷くセイールさん。
よくよく見ていると、あまり顔色は良くないように見える。
「あの、お二人は大丈夫なのですか?」
「あー、大丈夫だとは思う。あれだけ混ぜ返されて原形が無ければ……ね」
「魔物に食い荒らされたと思えば……なんとか」
「それにアスタリの戦いには私たちも参加していたし二度目だよ」
言葉を濁す2人ですが、そんな態度を取られればきついというのは分かります。
原形が無くなっていたとしても、魔物に食い荒らされていたとしても、あまり見ない光景なのでしょう。
人や魔物の中身があんなになっているなんて、マジマジと見る機会は無いでしょうし。
とはいえ、あのアスタリを一緒に経験していますから、慣れているというとそうなのかもしれません。
そんなことを考えていると……。
「戦争中なんていつ食べられるかわからないからな。具合が悪いかもしれないが、身体的なものでもないし、出されたものは食っとけ、そうでもないと動けなくなるからな。ああ、身体的に食べられないなら食うなよ。逆に動けなくなるから」
ジョシーさんがそういいます。
実に理にかなっています。
確かにご飯を食べなくてはいざという時に動けなくなるでしょう。
そして身体的に食べれないのに食べてしまえば、さらに体調を悪化させるのは目に見えています。
ですが、精神的に弱っているのを考慮しないのは……。
いえ、考慮しているからこそ食べられるだけ食べろと言っているのでしょうね。
「わかっているよ。あ、そういえばゼランの方はどうなんだい? 一応物資を集めて売り飛ばすとか言ってたけど」
「そういえばそんなこと言ってたね。あの状況で売れる物なんてあったの?」
そう光さんがいって視線がゼランさんに集まる。
ゼランさんは名目上、私たちルーメルの補給担当であり、他国への物資提供の役割も担っています。
ここの戦場でも、もちろん何かお金になりそうなことがあれば動くと言って、敵が撤退した際には放棄した物資を回収して売りつけようという話だったはずですが、あの砲撃の後です。
まともに売れるものが残っているのかという疑問が浮かぶのも当然ですね。
「ん? ああ、確かにすぐに売り物になるモノは少なかったけど、別に鉄が消失したわけじゃないからね。金物は集めて鍛冶ギルドにでも売ればいいお金になるし、あの砲撃を見て横取りしようなんて連中もいなかったからね。思ったより実入りは多いよ」
「多いんだ」
「普通はこういう大規模な戦いは、持って逃げる連中もいれば、兵士たちも報酬として略奪するからね。上に献上されるのはその一部さ。それを考えると今回のは多かったよ」
なるほど。
確かにこの手合いの戦争では兵士たちは自分たちで報酬のための略奪を行うのは当たり前だというのは聞いています。
ですから、砲撃のおかげで委縮している分大人しいというわけですね。
「あと、食品系も散らばっていたけど無事だったものもあるけどね……」
「ああ、それは連合軍の方に回してやれ。俺たちはそういうのは食べない。毒とかしこまれると面倒だしな」
「現地調達って便利に見えるけど、仕込まれると動けなくなるからね。こういう時は自分の持ち回りで何とかするもんさ。ま、向こうもわかってないわけないだろうけど」
……焦土作戦というやつですね。
食べ物はもちろん、水にも毒を仕込んで動けなくする。
村なども水源もダメージを受ける酷い物ですが、確かにこういう足の遅い兵たちにとっては現地で補給できないことはかなりの痛手になるでしょう。
と、そんな話をしているうちにお昼を食べ終わり、そのまま田中さんの話が始まります。
「さて、昼を食べて落ち着いたから捕虜のことを話そうと思うが、いいか姫さん?」
「ええ。お願いします」
ユーリアさんは特に動揺した様子なくうなずきます。
先ほどの昼食の時も一緒にしていたのですけど、大丈夫なのでしょうか?
そう思っていると……。
「ちょっとまった。ねえ、ユーリア無理してない?」
光さんがユーリアさんの体調を確認してくれます。
本当にこういう時には頼りになりますね。
心配されたユーリアさんは少し驚いた感じでしたが、すぐに笑顔になって……。
「大丈夫ですよ。多少は驚きはしましたが、一応私もアスタリの町にいましたし慣れているというのとは違いますが、耐性はあります」
なるほど。
確かにユーリアもあの時いましたね。
私たちと一緒に嘔吐していた側でした。
その分今は平気なのでしょうか?
うーん、やっぱり人は慣れる生き物ということなのでしょう。
「ま、気分が悪くなれば休めばいいさ。じゃ、情報収集の結果を話すぞ」
田中さんはきつければ休めばいいと言って話を始めます。
「簡潔に言うと、西側の連中はあえて東側に逃げた連中をたたき出したって感じだな」
「ん? いや、それって魔王が周りを制圧したって話だよね?」
「間違いじゃないが、それに人が協力しているってことを考えると、ただ魔王が悪の親玉ってわけじゃなくて、相手のトップであり、組織が相手になっているってことだ。つまり、東側に逃げた連中はよほどのことをしたってことだ。自国を追われる程にな」
「ああー、確かにそういわれるとそうですよね。人を別に滅ぼしているわけじゃないですもんね」
そういえば、魔王デキラのように人を排斥しようなどという意思はないですわね。
敵にも普通に人がいましたから、不思議なことではあります。
「フィエオンという当初魔族騒動が起こった国が中心というのは捕まえた連中が揃えて口にしていることから間違いはなさそうだ。魔王というのもいるようだ」
「つまり、そこを落とせばいいってことだね」
「さーて、そうも単純な話にはなりそうにないんだよな」
光さんの言葉に難しい顔をする田中さん。
その言葉に反応したのはユーリアで……。
「確かフィエオンは小国だったはず。その小国を代表にして周りが連合をするものでしょうか?」
「そこが俺もジョシーも引っ掛かっている。連合を組むっていっても結局のところ利害関係があるんだ。つまり代表になる国も面子を重視する。こっちの東側では一番幅を利かせているノウゼン王国がトップだろう?」
「フィエオンをトップにする何かがあったということでしょうか?」
「だろうな。とはいえ、普通に考えればフィエオンをトップにするなんて普通じゃない。魔族を生み出して多くの国を荒廃させたっていうのが東側に逃げてきた連中の言い分だ。そんなフィエオンをトップするってことは支配されているって考えるところだが……」
「普通に人がいますからね」
「そこなんだよな。まあ、無理やり従わされているって可能性もあるが、それにしては、敵はいままで半年も持ってきた実績があるしな。そもそも西側の連中をたたき出すぐらいには協力していたわけだ。一体何があればって話なんだよ」
確かに不思議な話です。
一概にフィエオンの魔王が悪いという話ではないのでしょうか?
「まあ、こういう戦争にはどっちにも正義があるって話だ。助けを求められた東側は領土を取り戻す必要性はあるだろうし、追い出した西側としては戻ってほしくないというのもあるだろうな」
ジョシーさんは特に感慨もなくそういいます。
「もっと詳しい話は分からなかったの?」
「今のところはこれぐらいだな。参加していた連中もこの戦いが始まって士官したようで詳しい諸事情を知っているわけじゃないようだ」
「え? そうなの? そんな人に戦いを任せる?」
「普通にあることだな。兵士っていうのは政治に不介入っていうのが当然だ。ただ命令をこなすのが大事ってわけだ」
田中さんもそう答える。
確かに兵士はそうあるべき見たいな話は聞いたことがありますが。
「というか、事情がわかったとして、西側に寝返るか? ハブエクブ王国が攻められるぞ?」
「「「……」」」
それを言われると何も言えなくなります。
「まあ、落ち着いて情報を集めて何を目的にしているか判断しよう。そこが大事だ」
田中さんはそうまとめて尋問による情報の話は終わります。
……戦いに正義はないといいますが、こうして直面すると、色々感情が混ざり合いますね……。




