第384射:戦闘後の夜
戦闘後の夜
Side:ヒカリ・アールス・ルクセン
夜、今日は雲が少なくて月明りが綺麗な日だ。
「うーん!」
僕はその夜空の下で背伸びをする。
ああ、縮こまっていた体が伸びる。
僕が元々小さくても車の中に座りっぱなしなのは疲れるんだよ。
そう、僕たちは無事に南の戦線突破に成功した。
それも圧倒的勝利で。
此方の被害はほぼゼロ。
捕虜とか、死んでいるかの確認の時に反撃を受けてケガをした人がいたらしい。
もちろん僕たちルーメル軍には被害はない。
連合軍の人たちは正直言ってなんの役にも立たなかった。
戦車の攻撃の後、突撃するとか言ってたけど、それもせずに腰を抜かして座り込んでいた人たちが多数。
まあ、当然だとは思うけどね。
僕も初めてであれだけ盛大に砲撃すれば、腰抜かすと思うし。
後は捕まえた人たちから情報を聞ければいいんだけど、捕まえた人たちも砲撃により心神喪失している人が大半でまずはそこをどうにかしないといけないって田中さんやジョシーさんが言っていた。
というか、尋問は2人がやるっていって僕たちは待機なんだよねー。
どういう尋問をするのか……。
「ま、僕が考えても仕方ないか」
「こんなところにいたんですね」
そんなことをつぶやいていると、車の陰から撫子が出てくる。
「こんなところって普通に夜風を浴びてただけだよ」
隠れたわけでもないし、普通に車に囲まれた広場にいるだけだ。
「夕食が終わって片付けたらいなくなってたんで、探してたんですよ」
「探してたって、何かあった?」
「いいえ、光さんに何かあったかと思っただけです。今日の戦場もあまりいい物ではありませんでしたからね。いえ、戦争にいい場所なんてありませんか」
「そりゃそうだ」
うん、確かに気分転換に外にでたのは、日中の戦いを思い出したから。
僕たちはちらっとしか見なかったけど、砲撃が生み出した死体はひどい物だったからね。
ついてきてた連合の兵士さんたちもその場で吐いてたぐらいだし。
いや、一瞬で死んじゃったほうがよかったのかな?
生き残った兵士さんたちにはもう人の言葉を喋っていなくて焦点が合ってない人もいた。
田中さん曰く。
『シェルショックだな』
『しぇるしょっく?』
『あー、日本語で言うと戦闘ストレス反応だったか? まあ、いわゆるトラウマ、PTSD、心的外傷後ストレス障害だな。映画のラン○ーとかもそうだ』
『そっかー。ってあれ? 僕たちってそのストレスは?』
『最初はその手合いはあっただろう? ゴブリンを倒した時に吐いたりとか』
『あったような……』
という感じだった。
僕たちも一応そのストレス障害を起こしていたみたいだけど、乗り越えたって感じらしい。
「……田中さんに慣れたって言われたのはちょっとショックだったなー」
「それは分かります。慣れたくないことに慣れてしまったんですからね」
撫子は同意して同じように星空を見つめる。
「空は、いえ自然はこんなに綺麗ですが、通り過ぎたとはいえ、あの周りは死体だらけっていうのは思い出しますから。……ロマンがありませんわね。いえ、唯一の良心というということでしょうか?」
「どうだろうね~。まあ、地面を見つめるよりはマシだと思うのは同意かな」
なんか空を見ていないとバラバラになった死体や焦点が合っていない人たちを思い出すんだよね。
うーん、僕たちもそのシェルショックになっているんじゃないかな?
自分の手で魔物を倒した時もこうして心を落ち着けていたし。
そんな感じで撫子と一緒に空を見ながら話していると。
「お、いたいた。少女たちよ」
そんな声をかけられて振り返ると、そこにはジョシーがいた。
なんか仰々しいセリフを言っているから胡散臭いことこの上ない。
「ん? なんだその怪しい人を見るような眼は」
「いや、そのまんまだよ。普通に呼べばいいのに少女たちっていうしさ」
「ええ。ジョシーさんはそういうタイプではないでしょう?」
僕たちが露骨に遠慮なく言い返すと、ジョシーは笑い始めた。
「ぶははは。そう悪態を返せるなら大丈夫だな」
「え? どういうこと?」
僕は状況がよくわからなかったけど、撫子は納得したように頷いて。
「なるほど、私たちの様子を見に来たのですね」
「そういうこと。剣や魔法でのシェルショックもあるだろうが、本来シェルショックっていうのは砲撃の音、シェル、砲弾による爆発によるものっていうのがあるんだよ」
「あー、別物ってことか。で、ジョシーは私たちを見て大丈夫だって思ったの?」
「少なからず、こういう所で自分の精神安定を図っているから、多少のシェルショックはあるけどな。その程度なら問題はない」
「……私たちはシェルショックなのですか?」
「厳密に定義があるわけじゃない。まあ、私たちが対処するべきは日常生活に困難をきたすとか、武器が持てないとか兵士の基礎ができないならって話だ。そうじゃないだろう。ほれ」
ジョシーはそういうと、僕たちに何かを投げ渡す。
咄嗟に受け取ってしまったが。
「うげっ!? ハンドガンじゃん!?」
「投げ渡すものじゃありませんわよ!?」
あまりのことに大声が出た。
間違って暴発したら自分に穴をあけるところだ。
「心配するな。弾倉は入っていない。そして、普通に対処できているのは見ればわかる。その程度なら十分さ」
そう言ってジョシーは笑う。
「はぁ、で、僕たちが大丈夫だって確認できてよかった?」
「ああ、よかったよ。これから戦闘はもっと派手になっていく。特に攻城戦とかな。敵は城に籠っていれば勝てる大丈夫だと思うだろう?」
「そりゃーねえ」
城に籠るって巨大な防壁に囲まれているようなものだし、安心感があるのは分かる。
「ですが、戦車や船からの支援には無意味ということですね」
「そういうこと。本人たちは安心しきっているところに砲弾の雨あられだ。一応こっちの軍にも投石器ぐらいはあるみたいだけどな。それを想定しているんじゃ話にならない」
だよねー。
ただ岩を飛ばすだけと、砲弾じゃ全く威力が違う。
一斉射撃で城が崩壊するイメージまである。
でも、そんな想像もジョシーに言えばまだ甘いらしく。
「あはは、まあ城ぐらいは簡単に落ちるだろうが、ヒカリたちが考えているよりももっと悲惨さ。何せ相手は城を盾にしていれば大丈夫だって考えるんだ。これがどういう意味かわかるかい?」
「え? どういう……?」
僕はよくわからなかったけど、撫子は言っていることが分かったのか青ざめていて。
「もっと多くの人が死ぬということでしょうか?」
「え?」
僕はなんでと思っている間にジョシーは頷いて話を続ける。
「ああ、城に籠っているから安全だと思うが、そこに砲弾が飛び込む。どうなると思う?」
「あ」
言いたいことが分かった。
逃げるならともかく大丈夫だと思っていて動ないなら、死ぬしかない。
「まあ、それも逃げた人が情報を伝えて徐々に逃げるようにはなるだろうけど、この情報伝達速度が低いこの地域じゃ被害はなかなか減らないだろうな。何より戦車の存在とか信じないんじゃないか?」
「「……」」
確かにその通りだ。
言い分けのしようもない。
味方だって僕たちのことを信じてなかったし、敵がこっちの戦力をしっかり把握できるとは思いえないよね。
「つまり、今後城とか町での攻防戦では死者多数になるだろうな。もちろん避難勧告とか攻撃箇所はいうけどな。こっちとしても開放するつもりの場所を壊してたら拠点として利用はできないしな」
ジョシーたちとしては拠点の再利用というか、解放奪還作戦の意味は分かっているようで無意味に攻撃をするつもりはないようだけど……。
「被害が出るぐらいなら、連合の連中もぶっ飛ばせっていうだろうな。敵の被害よりも味方の安全だ」
確かに、撫子や晃がケガをするぐらいなら僕だって敵を倒すことを選ぶ。
それだけの話ってことだよね。
そこで不意に敵のことで思い出す。
「そういば、ここにいるってことは敵から情報を得られたの?」
「いや、交代中だ。まあ、シェルショックで話にならない奴も多いしな。情報に関しては明日の昼ぐらいに一報を入れるってさ」
「あーそうか。情報聞きだすにも聞き出せないよね」
「まあ、そこはやりようっていうのが合ってな」
にこっと笑うジョシーに僕と撫子は苦笑いで返すのであった。




