第380射:味方と敵と
味方と敵と
Side:ナデシコ・ヤマト
遂に私たちは出発の日を迎えました。
先日ユーリアが連合の上層部と話し合った結果、私たちは5つあるルートの内、海からの支援がおこなえる最南端のルートを私たちが押し上げることになりました。
というか、私たちのルートから敵を崩すようです。
まあ、当然の話なのですが……。
「うへー。あの兵士たちに合わせて動くの?」
光さんは車の跡から付いてくる連合の兵士たちを見て顔をゆがめています。
私も同じように視線を向けるとそこには1万はいるであろう兵士たちが戦車群の後ろから付いてきているのが見えます。
平地な分かなりの数がはっきりと見えるのです。
「いえ、戦闘に関しては別ですよ。彼らは基本的に開放した町や城などの拠点の維持ですから」
そうこの大勢とも見える兵士たちは戦争のためというわけではないのです。
私たちが開放した町などの維持のためにいる兵士で、戦闘に参加できるのは半分以下となります。
連合の数は15万にも届くといいますが、実際戦闘するのは半数ほどで残りは建設や物資の運搬などにあてがわれます。
まあ、いざとなれば戦えるのですが、戦闘を想定した兵よりも実力が劣るのは当然。
そして物資の運搬が滞り、その後の進軍が上手く行かなくなることでしょう。
「え? でもさ、物資の運搬って僕たちがするんじゃないの?」
「そこは本陣までだよ。そこからは上の人が決めた分配で最前線に送られる。5つも戦線があるんだし、そこに俺たちのトラックが分けて運ぶのは駄目だってさ」
「どうして? トラックの方が楽じゃん」
「楽だけど、道中スタック、えーとタイヤが取られるかもしれないし、万が一襲われでもすると、トラックだけだと兵士が少ないから駄目なんだろうさ」
「あー。そっちの心配か~」
そう、私たちが、というより田中さんがトラックを出して運搬を手伝おうにも、トラックの運転ができません。
遠隔操作をしてもいいのですが、それはまだ教える気がないと言うので無理です。
まあ、晃さんが言うように物資が一気に喪失する可能性もありますから、それを嫌っているのも事実です。
「でもさ、このルートだけでもって、そうか僕たちはこれからずっと奥に行くわけだもんね」
「はい。そういうことですわ。私たちが町を幾つ開放したところで、その町にとどまるわけではありませんし、なにより船から支援を受けるということになっていますから」
「そうだった」
私たちが船が近い、つまり海がある南側のルートを選んだのは船から直接支援を受けるという目的があったからです。
つまり、私たちは本陣からトラックの支援を受けるわけではありません。
なのでついでに通る町に支援をするというわけにはいきません。
「もちろん、ユーリアを通して支援を要請するのであれば会議の結果、動くことはあるでしょうが……」
「滅多にあることじゃないってことか」
「そういうことですわ。その分私たちの進軍が遅れますから」
それこそ本末転倒というモノですわ。
目的が南側の国の解放なのに、それが支援をするために滞るというのは連合としても避けたいところでしょう。
「とは言ってもまずはこのルートで戦っている最前線を突破しないといけないんだけどな」
そう晃さんが言います。
確かに、南側の開放とは言いつつも、まずは戦線が硬直している状況を打破しないと何も始まりません。
そこは私たちが何とかしないといけないのですが……。
「いやいや、僕たちの戦力で突破できないとかないでしょ」
「まあな~。でも、やってみないとわからないことだし、油断はしない方がいいと思う」
「そうですわね。たとえ田中さんが出してくれた戦車が強くても私たちが強いわけじゃありませんし、敵が戦車を無視して私たちを襲ってくることもあるでしょう」
戦車が倒せないなら、倒せる敵を倒すというのも当たり前です。
「でも、戦車の弾幕を抜けてこられるのかな?」
「地図じゃ、道で対峙しているだけで横は普通に草原だし、迂回すればできないことはないと思うぞ」
「じゃ、なんでお互い草に隠れて奇襲とかしなかったんだろう?」
「そこはあれだろ? そこを突破しても次がないと意味がないし。その分補給距離は伸びるし、あまりうまみがないんじゃないか?」
「あー、そっか。突破できても奥の拠点をどうにかできないと、結局後ろを心配しないといけないのか」
「むしろ距離がある分心配事は増えますわ。敵の方は少数で物資拠点に火でもかければいいのですから」
「うへー。確かに守る方は面倒だよね。そうなると一気に突破できる力がいるってことか。僕たちみたいに」
「ええ。だからこそ突破できると信じて戦力を送ってくれたのですから、失敗はできませんわ」
これで解放が失敗となると次は信用してもらえないでしょう。
当然の話ですけど。
「で、その最前線にはどれぐらいで付くの? いい加減飽きてきたけど」
「兵士が一緒だしな~。一応車だと1時間もしない距離なんだよな。せいぜい20キロ」
「ですが人となると馬車と徒歩での移動ですからせいぜい一時間に3、4キロですわね。ですから5時間前後ですわね」
「うぎゃー!? 暇すぎる!」
気持ちはわかりますが、叫んでも何も変わりませんわよ。
そう言おうと思っていると……。
「じゃ、訓練ついでに兵士たちと一緒に荷物かついで歩くか?」
田中さんが運転しながらそう声をかけてきて、そのあとにジョシーさんも続いて。
「それか先行して最前線の様子みて報告に戻ってくるか?」
と、言われ……。
「いや、間に合ってます」
そう言って大人しくなります。
相変わらずこういう所は現金ですわね。
等と思っていると、晃さんが田中さんたちに質問を始めます。
「そういえば田中さん、俺たちが向かう南側の戦況とか敵の戦力とかってわかっているんですか?」
「ああ、一応そっちのジョシーに頼んでドローン偵察はしてもらっているな。まあ、詳しい話は到着してからのブリーフィング、作戦会議で話してもらうとは思っているけど、どうだ?」
「ん~? 特に目新しいものはないね。敵4000に対して味方が3500ぐらいだね」
「それって良いの悪いの?」
「数で言えば負けているからよくはないだろうが、とりあえず持っているのは事実だよ。そしてこれと同じと前提に考えてるとのこり4つあるから、総数として17500。支援も考えると後ろにさらに3万以上はいるだろうね。とはいえ、相手は魔物を使っているから人的被害は少ないと」
「そういわれますと、私たちは不利だと?」
「さあ、相手は魔物を使うしかないって判断もできる。人よりも補充が簡単だとは思わないし、いうことも簡単に聞くとは私は思わないね」
言われてみればその通りですわね。
魔物を捕まえるのしても、いうことを聞かせるにしても、一朝一夕とはいかないでしょう。
それと比べてある程度人はまとまっている場所が決まっていますし、徴兵とすれば集めやすさは人の方が上の気もします。
「ま、私の感想だけどね。相手が魔物を生産してすぐ戦線に送り出せる手はずを整えているなら話は別だ。まあ、それもあり得ない話じゃない。そうでもないとすぐに魔物は枯渇するだろうしね。それをもう半年は続けているって話だし、何かしら補給方法を考えているのか、それとも連合と何か話しを通しているのか……」
「え? ここで連合が出てくるの?」
「減るしかない魔物を主力に置いている相手を押し込めないって点でおかしいだろう?」
「ああ、そうか。上で話を済ませているから、こうなっていると」
「そうそう。お姫さんの話では、半年前はもっと敵は多く、勇敢な兵士のおかげでここまで持っていけたとか言ってるがな。信用なんてできないからな。何せいまだに各戦線の敵の構成を詳しく教えない、いや知らないっていうからな」
「敵を知らないってアリですか?」
晃さんもその言い草に驚きを隠せないで聞く。
私も同じですわ。
半年も戦っている敵の正体を知らない、構成もわからないってどういうことでしょうか?
「ほら、敵を捕らえて情報を集められていないとかいうだろう? それが理由だと。まあ当然のように聞こえるが、こっちは東側や西側の残党を集めて連合を組んで戦っているんだ。それをここまで持ちこたえる相手に対して何も知らないとか馬鹿だろう?」
ジョシーさんの言う通りです。
本当に調べていないのだとしたら馬鹿でしかありませんが、状況を考えればあえて情報を隠しているとしか思えません。
「それなのに俺たちを前に出した。後ろには多くの兵士。まあ、向こうの言うように事情が分かっても押し込めないなら不満が積もるばかりだから対外的にそう言っている可能性もあるけどな。上層部の連中の言い分を鵜呑みにするわけにもいかないってことだ。とりあえず、当初の予定通りにまずはこの戦線を突破して敵を捕まえて情報を集める。上からの監視もして敵の動きはもちろん、味方の動きも見る。面倒ではあるがやらないと、上手く使われてぽいだからな。気を付けろよ」
田中さんのその言葉に私たちは頷いて改めて気を引き締めるのでした。




