第375射:狙いを探り始める
狙いを探り始める
Side:タダノリ・タナカ
なんか、トラックの中に引きこもっている連中は楽しそうだな。
というか、ここまで距離が近いと下手に何かの屋内に入るよりは、外にいた方が音が反響することなく逃げるからいいんだけどな。
あ、もちろん耳栓や耳のカバーは必須だが。
しかし、そこはいいとして、こんな近距離で連続砲撃や一斉砲撃は駄目だな。
こっちまでそれなりの石が飛んできた。
岩壁と言えどもそこまで丈夫なところではなかったようだ。
ガンガンと戦車内部からも聞き取れているから、それなりの大きさで頭にでも当たれば死ぬだろう。
見物客は一応ヘルメット?を付けてはいるから安心か?
と、そこはまず確認か。
「お姫さん、見物客は無事か? 死んでないか?」
『もうちょっとオブラートに言っていただけますか。もちろん、全員無事ですわ。あれだけ平気だと豪語しておりましたので、直立したまま気絶していますが』
『ブハハハ! そりゃ面白い。レベルが高いと便利だね~。でも気絶はしちゃうのか~。ぎゃははは!』
ジョシーの笑い声が耳に届く。
とりあえず無事なら何よりだ。
さて俺はその間に狭い戦車内で煙が収まり目標がどうなっているかを確認する。
岩壁は着弾地点を中心にえぐれていて、砲撃の威力の高さが分かろうというものだ。
というか、やりすぎたかと思うレベルだ。
あの岩壁付近は接近禁止だな。
いつ崩落するかわからない。
「お姫さん。とりあえず近寄って砲撃跡を確認するのはやめとけ。岩が落ちてきて死ぬ」
『わかりました。そこは注意します』
俺は忠告をした後ジョシーに通信をする。
「ジョシー。そっちで管理している車両に問題は?」
『問題は無し。ああ、石が飛んできて多少車体が傷ついているぐらいか?』
「ああ、そっちにも飛んだか。走行には?」
『問題ないね。その程度の損傷さ』
なら問題は本当にない。
いつでも動かせる。
『で、さっきの砲撃で最前線はどうなっている? 聞こえていないわけじゃないだろう?』
「ドローンから確認する限り、特に問題はなさそうだな。というかここ最近はにらみ合いだ」
『にらみ合いね。魔物にしても理性的だね。何が狙いなんだか』
「さあ、というか人も混じっているからな。何を目的であそこで戦っているのかわからん。そこら辺の情報も持ち帰ってきたいね。こっち側の連中の情報提供をそのまま信じられるわけないしな」
『そりゃ当然だ。私たちを味方にしたいから都合の悪いことは包み隠すだろうさ』
この西と東との戦いには不可解な点がありすぎる。
そこを詳しく調べない限りは下手に動けない。
魔族は確かに邪魔になるなら討伐をしたいが、向こうにも人がいるのは確認できているからな。
何を目的に東側に西側の魔族連中は侵攻しているのだろうか?
状況を見れば魔族側と思しき集団は西側をまとめているからこそ東側に攻め込んできているというわけだ。
つまり、相手の目的は東側にあるということ。
まあ、単純に世界征服をしたいという可能性もなくはないが……。
「ともかく、どこかで前線に出て敵さんから情報を集めたいところだな」
『だが、この程度でびっくりしている連中が私たちを手放すか?』
「そこはお姫さんの手腕だろう。別に敵対してもいいが、面倒が減るならそれに越したことはない」
そう、東側のノウゼン王国を中心とする連合も下手をすると俺たちの敵になるが、連合の内情は西側の魔族がいるからこそまとまっているようなもの。
そこらへんをつつけば連携もクソもなくなるだろう。
『そこは私にお任せを。皆さま正気に戻ったようで、崖を見て驚いています』
「順調なのかそれは?」
まだ驚いてるのかよ。
話が進むか問題だと思うのだが。
『十分です。私が言葉をかけるとビクッとしていますから、私たちが持つ力をしっかりと認識していただけたようです』
『そりゃよかった。で、私たちはどうする? もう車両は陣地に戻すか?』
『私たちが戻ったあとでお願いします。ああ、冒険者ギルドの方々にうまく進んでいると連絡もお願いします』
「了解」
今後の方針が伝えられたことで、車両の整理はジョシーに任せつつ、俺は結城君たちが控えている場所へと向かう。
一応防音対策はしているが、それでも爆発音を完全に防げるものではない。
さてさて、どうなっているのやら。
そんなことを考えながらトラックの後部のドアを開けると……。
「あ、田中さん」
そう言って俺に真っ先に気が付いたのは意外とルクセン君だった。
「なんだ。てっきり目を回しているかと思ったのにな」
「いや、最初は目を回したけど、なんか慣れてきたし耳栓間に合ったし」
「ああ、なるほど」
耳栓というか射撃時につけるヘッドホン、イヤーマフをしている。
耳栓は間に合わなかったってことか。
結城君たちは普通の耳栓か。
というか、意外と全員平気そうにしているな。
「ま、戦場に慣れてきたようで何よりだ」
「えーと、褒められているかちょっと微妙ですねそれ」
「砲撃音が子守歌になるって話があったような気がしますわ……」
なんだその言葉。
戦場で育った子供か?
ま、ありそうで怖いな。
というかその場合砲撃音はレクイエムってところだろう。
いや、それは別にいい今は……。
「ギルドのシシルとギネルはどうした?」
一応冒険者ギルドから派遣で俺たちとギルドの仲介役だろうに。
トラックの中にはその仲介役はいない。
一緒に行動をしていたはずだが?
「ああ、あの二人なら、慣れない砲撃音で目を回したから顔を洗ってくるって言ってたべ」
ゴードルがそういって視線を給水車の方へと向ける。
俺もつられてそちらを見ると、ノールタル、セイールと一緒に顔を洗っている。
あいつらもつらかったか。
まあ、あの砲撃音に慣れるのもそれはそれでだめだろうがな。
そんなことを考えつつ、俺はゴードルにお礼を言ってシシルたちのところへと向かう。
「……まだ頭がくらくらしますね」
「……ええ、凄まじい。ハブエクブ王都でも見たはずですが、近距離となるとここまでとは」
ああ、そういえば王都で見せた時のデモンストレーションとは状況が違うからな。
反響音も別格だっただろう。
とはいえ、そんな事情があろうと現実は待っていない。
「目を回しているところ悪いが、冒険者ギルドと連絡が取りたい。仲介頼めるか」
俺がそう聞くと二人はすぐにすっと顔を上げて頷く。
ほっ、ここら辺はちゃんとできるタイプか。
これで動けないようならホント使えね~っていう所だった。
『なるほど、そちらでも無事に戦車を使ったデモンストレーションは行ったか』
ギルド長のルクエルは苦笑いしながらそう告げる。
向こうはアレを経験済みだからな。
「無事に向こう側は済んでいないようだがな。慌ててお姫さんと会議に入っているようだ」
『それはそうだろう。あの戦力を見て会議をしないなどノウゼン王国や連合は馬鹿ではない。それで目的は達成できそうか?』
「そこは何とも。とはいえ、西側に対して攻めあぐねているって感じはしたな」
『詳しく聞いても?』
向こうも戦況が今どうなっているかは興味があるようだ。
無料で教えるわけにはいかないんだが、向こうには色々手伝ってもらっているし、ここで情報を前渡ししてもいいだろう。
「ああ、あとでちゃんと手伝ってもらえるならな」
『それはもちろん。それで攻めあぐねているとは?』
ということで俺はドローンで確認した最前線のことや、前線基地となりつつある山道のことを伝える。
すると向こうは納得した様子で……。
『確かにすでにもう一年近くは小競り合いを続けているからな。資金や物資はきつくなるのは当然。その予測は外れてはいないと思う』
「ほかに理由はあるか? それがハブエクブ王国や他国での動きは?」
『特に珍しい情報はないな……』
「物資の高騰とかはないのか? これだけ戦争をしているんだ。買い取り額が跳ね上がるんじゃないのか?」
『ハブエクブ王国には戦禍は及んでないからな。そうなると商業ギルドや商会から情報を集める方がいいが、その場合そっちにいるゼラン殿の了解が欲しいところだが……』
俺はそう聞いてゼランの方に視線を向ける。
ゼランも話は聞いていたようで。
「まったくタダで仕事はしないんだよ。だが、タナカ殿のおかげでかなり儲けさせてもらっているしね。そっちの恩じゃなくてこっちのために許可をするよ」
しぶしぶという感じでゼランが許可を出す。
『助かる。といっても私が許可出されたといっても向こうは信じないだろうが、どうする?』
「こっちから手紙を出す。シシルかギネルはそのためにいるんだろう。それを受け取って調べてくれ」
『わかった』
ということで、物資の流れについても調べるということで話が付いた。
『それでそちらはどうするつもりだ?』
「そこは上の話次第だな。とはいえ、押し込んでも占領して維持する戦力がない以上は下手に動かさないとも思うが」
押し込んだところで維持をする能力がないのだ。
なら現状を保つしかない。
他から増員するにしてもその分時間がかかる。
一時的に押し込んでも意味がないからな。
「ま、様子見だろう。のんびりさせてもらうさ」
俺はそう言ってコーヒーを飲む。
ああ、一仕事終わったって所だな。




