第362射:敵の戦力
敵の戦力
Side:タダノリ・タナカ
結城君の言う通りだな。
今は連合がどういう意図で5つに主戦場を分けているのかを探っても仕方がない。
憶測の域をでないからな。
大事なのは敵の戦力情報だ。
この情報で俺たちがまず勝てるかどうかの話になる。
もちろん勝てるにしても、被害は最小限で、どうやって最大戦果を挙げるかというのも大事だ。
地形を見て配置をして、戦いというのはそういう所から始まる。
まあ、こういう視野が武器の射程が短いこの世界では育たないのも納得ではある。
それを考えるとゼランの商会も冒険者ギルドも悪意はないんだろうなと思ってしまう。
なにせ連合に参加すれば本陣に置かれることは稀だろう。
そのままこの5つの主戦場に放り込まれるだけだ。
だからこそこの地図をよこしたわけだよな。
そんなことを考えつつ、地図を拡大していく。
結城君に言われるまでもなく、俺は事前に敵の主軍の調査などは行って来たからな。
ということで俺は調査をしてきた写真の一つをホワイトボードに張り付ける。
『『『え?』』』
という言葉が全員から聞こえてきた気がする。
まあそれも当然。
俺が張った写真に写っているのは……。
『人ですよね?』
『だね。そう見える』
『魔族はどこ?』
そう、俺が張った写真には武装した人が映っているだけである。
「そうだ。連合軍が戦っているのは人だ。まあ、中にいるだけだが」
『どういうことでしょうか? 魔族が指揮を執っているとでも?』
「当たらずとも遠からずって所だな」
俺はそう返事をしつつ、別の写真を複数張る。
そこには、ゴブリンやオーク、オオカミなどの魔物らしい集団がいる写真。
そして、別の写真にはやはり継ぎはぎの改造生物のような生き物が映っているのが確認できる。
『魔物と魔族?にしてはなんか違うよね?』
『ああ、人型じゃないか?』
「結城君当たりだ。確かに、継ぎはぎではあるという魔族の特徴はあるが、人と思しきものは見当たらない」
ご指摘の通り、写真に写った魔族と思しき怪物には人の部品は見当たらない。
会話が出来そうな感じがしないのだ。
今までの魔族は意思疎通が出来そうな頭部は存在していて、どちらかというと人型寄りだったが、写真に写っているのはベースが四足の獣を使っていて、頭部もいかつい野生動物だ。
実際会うと脳みそだけ入れ替えていて意思疎通ができるかもしれないが、それはあってみないとわからないので今の所は判断できない。
『タナカ殿。これは比率的にどんなもんなんじゃ?』
と、写真を見て思考停止している連中とは違いマノジルの爺さんは的確に戦力評価について聞いてきた。
まあ、当然だ。
この連中を相手にドンパチする予定だからな。
これを聞かなければ意味がない。
相手の容姿にビビッて攻撃しないとか、ありえないからな。
軍はやると決めたら、相手がどんなものでも戦うもんだ。
だからこそ、こうして勝つために必要な情報を集めている。
「じゃ、一度上空写真に戻るぞ」
俺はそう言って、映している映像を切り替える。
こういう時は、タブレットでの説明って便利だよな。
卓上からホワイトボードを眺めていると認識しずらいからな。
とはいえ、ホワイトボードがいらないってわけでもないが。
そんなことを考えながら、上空写真について説明を始める。
「まずは、西側。つまり見て右側が俺たちが加わる予定の連合陣営だ。つまり反対側の東側に布陣しているのが魔族側ってことになる」
『えーと、田中さん上空過ぎて黒い点が集まっているようにしか見えないんだけど』
ルクセン君がそうツッコミを入れる。
確かにその通りだが、そこまで近寄る必要もない。
何故なら、画像編集ソフトですでに色分けしているからだ。
「そこは心配するな。近づきすぎると逆にわからなくなるからな。で、これが比率、軍の構成だな」
俺は写真を切り替えると、色分けした写真になる。
「まず、色分けがしていない部分。これが普通に兵士で、このルートでは本陣に構えているが数はそこまで多くない。そしてゴブリンやオークなどの二足歩行の魔物が主な軍の主力だ。そして、機動部隊。あー、騎馬みたいなもので狼に乗っているゴブリンの個体が見られる」
それはそういいつつ、敵軍の構成数を上げていく。
人:1000
ゴブリン:3000
オーク:2000
狼(騎馬?):1000
トロール:500
人ゾンビ:1000
魔族動物型?:500
魔族?:10
これが全体の数だ。
『魔族いるじゃん』
「魔族っていうのは断定できないからな。あくまでも魔族っぽいやつがいて、それは中央、おそらく本陣の人と一緒に行動しているのは確認できている。だが、それはどういう意味の一緒かはわかっていない」
俺はそういいつつご希望の魔族だと思われる写真に切り替えると……。
『ぶっ!?』
結城君が噴出した。
まあ、それもそうだろう。
若者には刺激が強い。
何せ映っているのは金髪美人の体をベースに下がクモみたいな感じだからだ。
そして人の体の方は髪で大事なところが隠れているだけだ。
『晃さん』
『晃。おっぱいみすぎ~』
『見たいなら私が見せてあげますよ~』
結城君の反応に大和君、ルクセン君は冷たいまなざしを。
ヨフィアは露骨なセクハラをしてくるが……。
『いえ、これは魔族ではありません』
と、意外なことにお姫さんから否定の言葉が入る。
「どういうことだ? 人の体をベースに色々な生物をくっつけていると思うが?」
『いや、これはアラクルネという魔物じゃな。上半身が女性、下半身がクモというやつじゃ。まあ、実物を見たのはいつ以来かのう? かなり強力な個体であるのは間違いない』
「即座にそういえるっているのはそれなりの資料や知識があるからか。となると魔族がいるかどうかわからなくなったな」
『つまり、タナカ殿が見つけた魔族と思しき10体はこのアラクルネということでよろしいでしょうか?』
「ああ」
俺はそう返事をしつつ、ほかにも撮った写真を映す。
そこには髪型の違うアラクルネが映っている。
『これが10体。これだけでもかなりの戦力じゃな』
「そうなのか?」
『魔族ほどまでとは思わんが、それでも独特の攻撃や移動方法があるから、1体だけでも冒険者で言うならランク5のパーティーが3つはいると言われているのう』
『うげ。それってめちゃくちゃ強くない?』
「冒険者のランク5っていうと熟練者レベルか。まあ冒険者だと探すのは大変だが、軍ならもっと安定して倒せるんじゃないか?」
『場所が平野なら楽に行けるじゃろうな。しかしアラクルネはあの容姿からわかるようにクモであり、戦う場所は森じゃ。そうなると軍の持ち味を生かせなくなる』
なるほど、多人戦はそこまで得意じゃないから、単独撃破に持ち込むタイプか。
「となると、軍は村などを迂回して裏を突かないのは……」
『相手にアラクルネがいるのを確認している。あるいはすでに森にはアラクルネが配置されているとみてよいじゃろう』
『あはは、洒落にならないレベルの場所ですね~。これすでに何個かの部隊やられていると思いますよ』
と、ヨフィアが空笑いするレベルの相手のようだ。
「つまりだ。裏はつけないからこそ、こうして正面でぶつかっていると。だが、そうなると魔族側が側面をつく可能性はあるんじゃないか?」
『そこらへんは現状を知らぬから何ともいえんのう。まあ、ある程度予想はできるが』
「その予想は?」
『森から迂回すると、それだけ正面戦力が減るわけじゃ。つまり……』
「現状戦況が動いていないということは、側面に回している戦力がないってことか?」
『あくまでも予測じゃがな。連合側の兵士は2万はいるようじゃし、正面からだと不意打ちを主にするアラクルネは実力を発揮できまい。つまり下手に減らすと押し切られるわけじゃ』
拮抗しているってところか。
とはいえ、それで半年とか不思議すぎるな。
物資が無駄すぎるな。
何かほかに理由があるんだろうな。
『タナカさんこちらのルートの配備は分かりましたが、ほかの4つの主要街道の方はどうなっているのですか?』
「多少違いはありつつも、構成は同じだ」
俺はそう返事をしつつ、ほかの主要街道4つの戦力比を見せていく。
アラクルネが多かったり少なかったり、魔物のちょっとの違いはあるものの、そこまで違うかといえば俺にはそうは見えない。
『結局、魔族はいないってこと?』
「ああ、マノジル爺さんやお姫さんが言うようにアラクルネが魔物ならな。まあ、テントとかも存在しているからそこに魔族がいるかもしれないが、それでも数は多くないだろう。つまり、あの大軍の前にはさすがに分が悪いとは思っているってことだな」
崩せるのならさっさと突っ込んでいるだろうし。
やっぱり何か裏があるな。
なんだ? 突っ込んでも後が続かないか?
いや、推測はやめるべきだ。
ちゃんと情報を集めておかないと思い込みは裏をかかれる。
下手をすればこの流れが全部予定通りって可能性もあるからな。
むやみに中に突っ込んだら、両軍から挟み撃ちになることもありえる。
「ともかく、現状の戦力を相手にするだけなら俺たちだけでどうにかなるが、なんでこの状態で硬直しているのかよくわかっていない。まだまだ情報収集がいる。今の情報だけで安心するな」
そういって、今ある情報を伝えてこれからについて話していくことになる。




