第344射:この国の危機感
この国の危機感
Side:タダノリ・タナカ
ホーホー……。
なぜか夜の町にもフクロウの声が聞こえてくる。
木々がないのになぜと思うが、別に町中にもネズミはいるか。
いや、むしろネズミの数はこの町の方が多いだろうからこっちの方がいいのか?
そう思いつつ、窓から路地を除くと転がっている死体に鳥はもちろんネズミが群がっている。
餌も大量だしな。
俺はそんなことを考えつつ、本日使用した戦車のパラメーターを確認していた。
俺がスキルで呼び寄せた戦車や道具は俺が意識をすればその状態が把握できるということに気がついた。
もちろん意識しなければわからないし、呼び出した道具全てを把握することは不可能だ。
だって、覚えてないからな。
フリーゲート艦の状態は分かっていても、搭載されている防衛兵装や常備の武器なんてのはどれだけあるかはわかっていない。
そういうとこは適当というか、魔術の凄い所かもしれない。
まあ、整備士がもぐりこんで確認する必要がないと思えばありがたいことだ。
「……とりあえず、問題はないか」
頭の中に浮かぶ戦車の状態は全部問題なし。
この情報が正しいか間違っているかはわからないが、指針があるというのはありがたい。
幸い今日の砲撃後の移動は問題なく行われていたし、アスタリの防衛戦でも同じように機能していたから正しいとは思う。
信じ込むのは危険だということだ。
思いもよらないことが起こるのが現場ってものだ。
今日の演習を見て、このハウエクブ王国の連中がどう動くのか、よく注意しておく必要はあるし、魔族の連中が来ないとも限らない。
「どちらにしろ油断はしないに限る」
ドローンから送られてくる映像を見るとそこには静かな明かりが消えた城が映っているだけだ。
ジョシーが部屋で展開しているドローンにも異常は見られない。
「……しかし、意外と静かなんだよな」
俺は気配が無くなった夜の町を眺めながらそう呟く。
そう、この町は静かなのだ。
戦争中というのが嘘と思えるほどに。
いや、王都が戦禍に見舞われているとか現代なら敗戦目前なんだろうが、この世界は話が別だ。
通信技術や移動技術が全く発展していないので、国の範囲がものすごく狭い。
簡単に言えば、遠く離れれば離れるほど国の庇護が受け辛く国に所属している意味がない。
つまり、そこが国の大きさの限界となるわけだ。
だから国の大きさが小さくなる。
ということは、連絡は取りやすい。
それは戦場から近いという意味合いでもある。
それなのに、町にはその影響はあまりないとバーの友人が言っていた。
戦争のこと自体は知っているようだが、影響に関してはというやつだ。
裏に生きている連中でこれだ。
まだこの国に来て数日だが、ここまで実感のない物かと首を傾げてしまう感じだ。
まあ、この国は魔族と戦っている連合国の中では後方支援の国ではあるから不思議ではないといえばないのだが……。
どうも違和感を感じるんだよな。
この世界での戦争は地球でテレビ越しの他人事ではないはずだ。
噂が届くということはそれだけ戦地が近いということでもあるし、魔物という脅威もある。
それなのに、この程度でいいのか?という疑問がある。
気のせいといわれればそれまでだが、納得ができるように情報は後日集めるべきだな。
下手をすれば今日見せた力をハウエクブ王国の力といわせて前線に持っていかれる可能性もあるわけだ。
そしてその場所が殿という可能性もある。
捨て駒にされないためにもこちらでも情報は集めておかないといけない。
「ふっ~……。ま、あとは寝るか」
気がつけばモニター監視はフリーゲートに控えている連中に任せる時間だ。
俺はタバコを携帯灰皿に押し付け、窓はきっちり閉めて眠ることにする。
ベッドに横になりすぐに目を瞑る。
あー、家具も自分で出せるのはよかったと心底思う。
戦地じゃ硬い床に転がるどころか、座り込んで寝るのが当たり前だったからな。
そんなことを考えながらすぐに意識は深く沈んでいく。
チュンチュン……。
どこにでもスズメはいるんだなというどうでも良い感想を抱きつつ目が覚める。
まずは枕の下に置いてあるハンドガンを確かめる。
問題なし、周りの気配も特になし。
タブレットを手に取って連絡がないか確認するが、特に何もなし。
戦車群のパラーメーターにも何もない。
昨日よりも何もない。
あれだけの火力を見せた戦車に触れようとする馬鹿がいなくなったということか。
コーヒーを出して飲みながら窓を開けて外を確認するともうすぐ夜明けというところで地平線の向こうから光が漏れている。
空は晴れていて雲も程よく出ていて、写真に撮るといい絵になりそうだ。
時刻はすでに6時を回っているが、城のお姫さんたちに動きは無いか。
まあ、お客さんだからな。
仕事のある城の使用人たちは動き回っているようだが、兵士たちにも特にもの目立った動きは無い。
城の一角にある練兵場で訓練をしている連中が数人といったところだ。
「平和そのものだな。前線に物資を送るような感じもないか……」
やっぱり焦っているようには感じない。
後方だからまだ実感がないのか?
それだけ魔族の連中は攻めあぐねているということか?
……いや俺だけで考えても仕方がない。
そろそろゼランの方も情報を集めているころだろうし、定時連絡かかねて話てみるか。
そう決めた俺はタブレットで連絡をとると、すぐに出てくれた。
『どうしたんだい? 何かあったのかい?』
「いや、城はなにもない。平和そのものだ。それで、ちょっと話を聞きたい」
『話?』
「ああ、この町での情報収集はどんな感じだ? 俺の方はまだ調べている途中なんだがどうにも静かな気がしてな」
『なるほどね。確かに、この町の住人たちはのんびりしているもんさ』
どうやら、ゼランもこの町の空気を感じ取っているようだ。
「戦争に参加中なんだろう? なんでこんな感じなのかわかるか? 紹介してもらった友人たちもあまり答えが芳しくなかった」
『そりゃそうだろうね。ハウエクブ王国は後方だからな。正直に言ってあまり今回の戦争には興味がない』
「後方か、やっぱり実感がないってことか」
『私が調べた限りはそうだね。連合なんて仰々しいことをしているから支援はある程度はしているが、今の所抑え込めては居るし、こっちの戦力を削るための方便なんじゃって意見も多いみたいだよ』
「そっちの方向でとられているってことか」
確かに支援をしろと脅されていると見えなくもないわけだ。
何より、こうやって支援すればそれだけ戦力を持っていかれるということは、攻撃できなくもなるということだ。
まあ、連合にとっては後方を突かれたくないというのもあるだろうが、戦っていない側としては面白くないか。
「戦力の捻出はどうなんだ?」
『一応物資を送る際に1000の兵を送ったとは聞いているね』
「多いのか少ないのかわからないな」
『遠方と考えると、多いと思うね。ハウエクブ王国はルーメルほど大きい国でもないし、1000となると総兵力の大体10分の1はあるんじゃないかい? それだけ物資の消費は激しいわけだし』
確かにこの世界の移動方法は馬か足だ。
全員分の馬を用意するわけもないだろうし、足で物資を馬車に載せて移動するとなるとそれだけ消費も激しいか。
ん? そこであることに気がついた。
「もしかして、俺たちは連合の回し者って思われているか?」
『あるだろうねぇ。もっと戦力だせって脅すための使者と思ってもおかしくない。だけど、それは昨日の実演でなくなったよ』
「あれだけ見せればか」
『ああ、これだけの戦力があれば別にハウエクブ王国に支援を頼む理由も、後ろを気にする理由もない。むしろこれだけの戦力を投入しないといけないって考えるとなると、動き出すんじゃないか?』
「火付け役にはなったか」
『多分ね。とはいえ、詳しい話はもっと調べてみる必要はあるよ。友人たちも寝ぼけているようじゃないか。そこらへんしっかりと尻を叩いて話を聞いてみなむしろ殺すとか脅してみな。平和ボケしてるのさ』
「裏社会の連中が平和ボケねぇ」
『規模が小さいからね。その分器も小さいのさ。私程度に怯むぐらいにはね』
いやぁ、お前は十分器はでかいと思うがな。
とりあえず、俺も詳しく話を聞いてみるか。
ということで、俺は情報収集へ動き出すのであった。
冒険者ギルド側の話もあとで結城君たちに聞いておくとしよう。
ちょっと投稿がおくれました。
いやー、ネタが出てこないときがある。
だけどヤル。
頑張る。それがいいのかもしれない。
時間かけたところで良いものになるとは限らないからね。




