第341射:証明の必要性
証明の必要性
Side:ヒカリ・アールス・ルクセン
「いらっしゃいませ。お嬢さん何か依頼ですか?」
そう僕は受付のお姉さんに顔を覗きこまれている。
後ろには晃に撫子、ヨフィアさんもいるのになんでそういう感じになるんだろう?
いや、もしかして2人の子供だと思われている?
それともただ単に子供がかわいいからこっちに構ってくれている?
どちらにしても僕にとっては屈辱だよね!?
「いや、落ち着け。悪意はないんだから」
「ですわね。それに光さんだけではありませんわ。私たちも同じようにみられていますわ」
「あはは。それは仕方ないですよー。私のようなメイドを連れているんですから、何かの依頼を持ってきたと思うのも当然です」
後ろからそういわれて怒りを我慢する。
そうだ、僕が怒っても受付のお姉さんが困るだけだ。
今日の目的を果たすことを目指そう。
昨日は宿屋でのんびりしつつ、使用人、ホテルマンの人たちに話を聞いて情報を集めた。
次は本命の冒険者ギルドってわけ。
だからここで話をこじらせる理由はない。
なので笑顔を保ちつつ、シャノンさんから預かった手紙を受付のお姉さんに差し出して……。
「シャノウの冒険者ギルドのシャノンさんから手紙を預かってきたよー」
「え? シャノンギルド長からですか?」
どうやら受付のお姉さんはシャノンさんを知っているようで驚いた感じに目を見開いていた。
「うん。そのギルド長からこっちのギルド長に手紙」
僕はさらに手紙をテーブルに置いてグイッと押し込む。
そうするとようやくお姉さんは手紙を受け取って確認をする。
「……確かにこれは間違いなくシャノンギルド長の封蝋。こっちの筆跡も確かに」
うん。偽物じゃないし、分かる人には分かる封蝋に署名がある。
こっちと手紙を見比べをして……。
「しばらくお待ちいただけますか?」
「はい。いいですよー」
僕がそう返事をすると、お姉さんは奥に引っ込んでいく。
「さあ、どうなるかなー」
「普通に、上の人がでてくるでしょう」
「だよなー。というか手紙を渡した後はどうするんだ?」
「えーと……。どうするんだっけ?」
「はぁ、このまま冒険者ギルドで情報収集ですわ」
「あー、それだそれ」
僕たちはこのハウブエクブ王都冒険者ギルドで情報収集をする予定だ。
この王都の情報は当然のこと、連合軍と魔族の戦いに関しても集める予定。
あと近辺の魔物様子とかもね。
「というか、一番に警戒しておかないといけないのは、明日の演習じゃないか?」
「……そうですわね。とはいえ、私たちがそこに行くのは許されないかと」
「無理かな? どうおもうヨフィアさん?」
「難しいでしょうね。姫様たちがのってきた戦車群は兵士たちが見張りをしていますし、触って確かめていますし」
「え? それって駄目じゃない? 人の物でしょう?」
「外観ぐらいですよ。戦車内部は入れないようにタナカさんがロックかけていますし」
「田中さんがそれを認めたということでしょうか?」
「まあ、これぐらいはってことでしょう。向こう側も得体のしれない物ですからね。調べたいと思う気持ちはあるでしょうし。何より、盗むのは不可能でしょうから」
「「「あー」」」
田中さんがそこまでこだわっていない理由は分かった。
どうしたところで、戦車が盗まれるようなことはないもんね。
重さは50トン前後とか、頭おかしい重量だし。
「ちょっとした破損もスキルで新品と入れ替えが可能ですからねー」
「それを考えると盗難や破損について心配することはありませんわね」
「はい。で、話は見学の方に戻しますけど、場所を用意しているってことは、それだけ隠すつもりでしょう。私たちはあくまでも冒険者という立場で来ていますから、そこに近づくのも駄目ですね」
「たしかになー。じゃ、俺たちは戦車砲が向いていない方向で調べものするか」
「そうですねー。何かあったときに射線上にいたら誤射でってあるかもしれませんしー」
「その時は、城が壊滅してそうですわね」
「あははー。それは、そうだよね……」
戦車の射程って数キロだし、もう勝負どころの話じゃないんだよねー。
兵士を沢山並べて戦いを挑むというのがすでに負けている。
こっちは人的被害はないし、戦車に追いつける速度もない。
うーん、田中さんに戦車のスペックを教えてもらってはいるけど、本当に理解できないほど高スペックだよね。
田中さんが正々堂々とかいうと鼻で笑うのはこういった戦力差を知っているからだろうなーと。
そして正々堂々なんて成り立たないってこと。
まあ競い合うっていうなら正々堂々でいいんだろうけど、殺し合いに正々堂々もない。
とはいえルールがあればそれを守らないと、お互い際限のない殺し合いにつながるっていうのは分かるけどねー。
と、そんなことを考えていると受付のお姉さんが戻ってくる。
「お待たせいたしました。皆様、ギルド長の執務室へご案内いたします」
どうやら僕たちの相手はギルド長になるみたい。
まあ、シャノンさんがどういうことを手紙に書いたのかはわからないけど、あれだけ派手に暴れたんだから、むげにはしないだろうとは思ってた。
だけど……。
「油断は禁物ですよー」
そうヨフィアさんに言われて頷く。
敵対する可能性は低いかもしれないけど、冒険者ギルドと国は情報共有でつながっていることはある。
下手をすると僕たちも拘束されかねない。
だからすぐに信頼するなってこと。
僕たちは3階部分の一室に通されると、そこには……。
「いらっしゃい」
そう言って髭を生やしたダンディなおじさんが座っていた。
シャノンさんと比べるといかつくはあるけど、別に筋骨隆々というわけでもなく白いシャツに黒いスーツみたいなものを着けて執事さんのような印象をうける。
冒険者って感じがしないよねー。
それを言うと受付のお姉さんもそうだけど。
そう思っていると……。
「どうぞ、ソファーに」
促されて僕たちはソファーに座ると受付のお姉さんがそのまま給仕のように働いてお茶を用意する。
「あ、ども」
僕は用意されたことに対してお礼をいう。
というか晃も撫子も同じように頭をさげている。
するとそれを見たギルド長は微笑んで。
「いや、君たちは本当によくできている。お茶を煎れられただけで給仕の者に礼を言うとはね」
「こういう環境だったしねー。で、ギルド長さんはなんて呼べばいいの?」
そう返事をしながらお茶を飲む。
毒物が仕込まれているかもってことに関しては、僕たちは事前に解毒の魔術をかけているから問題なし。
「そうだな。まずは自己紹介からだな。私はこのハブエクブ王都の冒険者ギルドをまとめているルクエルという。君たちに名前を伺っていいかな?」
「冒険者の……あれ? 見習いだっけ? まあいいや、名前はヒカリだよ」
「私はナデシコと申します」
「俺はアキラです」
「私は3人の付き人であるメイドのヨフィアと申します」
僕たち3人はともかく、ヨフィアさんははっちゃけた様子はなくソファーに座ることもなく丁寧にあいさつをする。
うん、分かってはいるけどヨフィアさんの切り替え方ってすごいよねー。
で、僕たちの紹介を聞いたルクエルさんはというと……。
「冒険者の見習いってことだったね。シャノンを倒したとか」
「偶然が重なっただけだよー」
そう、偶然が重なってシャノンさんがぼろ負けしないですんだ。
様子見しててよかったよ。本当に。
最初から全力だったら、シャノンさんをぶっころになってたかもしれないし。
「はは、謙遜することはない。シャノンはああ見えてトップ冒険者パーティーの一人だったんだ。後方だったとはいえ、前線での戦闘ができないわけじゃない。むしろ下手な冒険者よりも強いはずだ。それを倒しただけでもすごいことだ」
「そりゃどーも。でも、そういうことはいいとしてさ、シャノンさんは手紙になんて書いてたの?」
問題はそこだ。
一応僕たちに協力をするようにとは書いたって言ってたけど。
どういうレベルなのかは聞いていない。
「そうだな。簡潔に言えば君たちの全面的な支援だな。裏の内容も報告は来ている。しかしどうも信じられない内容も記載されている。かなり遠方の山を吹き飛ばしたとか、五千の軍勢を10人にも満たない数であっという間に倒したとか」
「「「あー」」」
確かに信用できないよねー。
というかシャノンさんはそこら辺まで話しているんだ。
とはいえ、証明しようにもなー。
ユーリアたちとつながっているといって良いものかと悩んでいると。
「君たちの立場はシャノンから聞いている。よその大陸から来たと。そして今王城に入っているお姫様の付き添いであることも」
「ありゃ、じゃあ王様に知らせた?」
「いや、王は信用しているが、部下は色々あるからな。どう動くかわからない。だからここだけにとどめているし、まず信じられない」
「だよねー」
「それで、明日お姫様が連れてきたあの鉄の馬が強さを見せるといっている。その演習に私たちも呼ばれていてね。それを確認してから、君たちを支援するかを判断しようと思う」
「はい。それが良いかと思いますわ」
「だな。ここでその力を見せろとか言うと町がそのまま吹っ飛ぶし」
「ギルド長も気をつけてねー」
「あ、ああ」
いやー、気を付けたとしてもどうしようもないと思うけど。
音速を越えて飛んでくる砲弾をどうにかするとか無理だし。
どれだけ人がレベル上がって強くなってもどうしようもないものがそこにはある。
「当然の話をしたつもりではあるが、君たちは意外と冷静なのだな。自分たちのことを疑われているということなのだが」
「そういうのは慣れましたわ。別に信頼してもらわなくても普通にやりようもありますし」
「ただの情報集めだからな。ギルド長が協力してくれるなら楽だけど、自分たちでやれないことはないし」
「そうそう。まあ、詳しいことは明日の演習見てからってことで、僕たちはここら辺の魔物とか何がいるか調べさせてもらっていい?」
「なるほどな。できることをする。当然のことか。調べものなら資料室があるからそこを利用するといい。案内してやってくれ」
「かしこまりまりました」
ということで、僕たちはそのまま冒険者ギルドで調べものを始めるのだった。




