第332射:話し合いまでが意外と大変
話し合いまでが意外と大変
Side:タダノリ・タナカ
無事に子爵の襲撃を躱したところで、再び俺はタバコに火を点けて一服をする。
しかし、騎士たちはだらしがなかったな。
攻撃されているのは明白なんだからせめてこちらを発見ぐらいはしてほしかったんだが……。
これが味方になっても全く役に立たないというのは分かっただけましなのか?
絶対にあいつらと行動を共にするのはやめたいな。
お姫さんと話し合って今後子爵たちとは別行動って話をしておいた方がいいだろう。
あれは、俺たちを自分の戦力として考えそうだしな。
『アレがこの町の警察かい?』
「警察っていうと違うかもしれないが、似たようなもんだな。武装勢力というか町長の子飼いの戦力か?」
騎士団だから税金で賄われているんだから警察官が正しいのか?
いや、戦闘能力が一般とは違うから……。
「どちらかというと軍だな」
『はっ! なんだい笑い死にさせたいのかい? あれが軍? 子供のおままごとじゃないかい』
「気持ちは分かるが、今まで資料を用意して見せただろう? こっちの世界には遠距離で敵を仕留める方法が魔術以外に弓ぐらいしか存在していないからな。隊伍を組んで前進するのが当たり前なんだよ」
『それ以前の問題だよ。あいつらは攻撃されても慌てるしかできなかった。護衛対象に覆いかぶさるぐらいはできただろうに。せめてこっちの位置ぐらい見つけられないとね』
ジョシーのいうことは分かる。
子爵の護衛の騎士団は馬鹿の集まりだったからな。
昔懐かしい、ルーメルの近衛騎士団を思い出す。
……名前は、り、り、リカント?だっけか?
いや、リカルドだったか?
まあ、ちゃんと訓練をしていることを祈ろう。
次に遊ぶときに死ぬかどうかだしな。
『それで、これからどうするんだい? 馬鹿共は引き上げていったし、追いかけてトドメでも刺すのかい?』
「そんなことしねえよ。この港町をまとめるやつがいなくなるし、この国とことを構えることにもなる。敵を増やす理由はないって話をしただろう?」
『あそこまで馬鹿だと話が変わってくるよ。一度まっさらにした方がこっちとしてもやりやすい。上も挿げ替えればいいだけさ。あの程度なら私たちでも簡単にやれる』
「ヤルことだけならな。その前に挿げ替える事前準備もやらなくちゃいけないが、そんな余裕はないからな。簡単にできるのは上を始末するだけだな」
『……ちっ。下手すると国が機能不全で魔族ってやつに押し切られるか。せめて盾を使えるぐらいにはしておきたいってことか』
こういう時の頭の回転は速いよな。
「そういうことだ。俺たちはどうしても人数がいないからな。数による盾は有った方がいい。向こうは自国を守るために勝手に頑張るしな」
『それは私たちじゃ用意できないか。でも、あの馬鹿共はこっちを都合よく使おうとするだろう』
「そこはお姫さんの力の見せどころだろう。さっきもちゃんと脅しを込めてミサイル撃って見せたからな」
『もったいないことをするねー。一発いくらだと思ってるんだよ』
「幸い俺がいる限り無料だからな」
『それなら数なんて問題にならないね。とはいえ、管理は難しいか』
そういうことだ。
絶対的な数が足りていない。
始末するだけなら何とでもなるが、帰るという目的が達成できなくなる可能性がある。
それは避けるべきだからな。
「まあ、もうすぐゾンビを倒しに行った勇敢な兵士が戻ってくるだろうさ」
『ゆうかん!! ぷぷっ! まてまて……』
ジョシーの奴は悶絶しているようだ。
失礼な奴だな。
「文明の差だ。本人たちの意識はしっかりしている。まあ、練度が伴っているかはわからんが」
『それこそだめだろう。ぶわーはっはっは!』
今度はこらえきれずに大笑いをする。
「おい馬鹿、誰かにばれるだろうが」
『あん? バレたら移動するに決まっているだろう。というか、そろそろ休憩に入る』
「あ? ああ、もうそんな時間か。こっちが変わるから戻ってこい」
『飯は美味いのを頼むよ』
「それは俺じゃないからな。ノールタルに聞いてくれ」
『あん? ノールタルのパンならあたりだよ。美味いんだぞ』
本当に仲良くなっているな。
こいつが敵になるなら、身内の半数以上は無くす覚悟がいるな。
そんなことを考えつつ、ジョシーのいる屋上へと移動する。
「ほら行ってこい」
「任せたよ」
そう言ってさっさと行ってしまうジョシー。
俺は狙撃ポイントの屋上から辺りを見回す。
領主を追い返したことでのトラブルはないようだな。
無事にゼランからの商品販売が始まって町の人たちは安堵しているようにも見える。
これで、領主がまた横暴をしてくれば町の人たちはこっちにつくか?
餌付けは大事だよな。
俺はドローンからの映像を確認しながらのんびりと監視を続ける。
ゾンビの集団を退治に出発した連中はというと……。
「お。もう爆心地に到着したみたいだな」
領主軍と冒険者たちの集団は爆心地の前で陣取って、いつ何があってもいいように陣形を整えていた。
そして少数の部隊が爆心地を調査しているようだ。
正しい行動ではあるが、こっちとしては笑えるよなー。
何せ領主や冒険者ギルドが協力して敵を倒すために出発したのに空振りだしな。
本人たちは拍子抜けもいいところだろう。
多少残っているゾンビのかけらを集めて戻るだけになるからなー。
いや、敵を探して奥に行くならもっと時間が掛かるかな?
とりあえず、第一報ということで、連絡兵がシャノウに戻ったのは確認したから、領主がどう反応するか楽しみだね。
タバコを取り出して一服する。
「あー、煙が美味い」
それはそんなことを言いながら海に浮かぶフリーゲート艦を見つめていた。
空は晴天で海はどこまで広がっている。
水平線がまぶしい。
しかし、話し合いも意外と時間が掛かりそうだ。
こういう所も不便だよな。
情報は即伝達できることがどれだけ有利かって話だ。
この世界を体験すればするほど、地球での戦いがどれだけ効率化して、便利だったかが分かる。
そんなことを考つつ今後の予定をメンバーと相談していれば1日経っていて。
「お邪魔いたします」
そう言って、頭を下げて俺たちの前に現れたのは冒険者ギルドの長であるシャノンだ。
どうやら冒険者ギルドの方が動きが早かったみたいだな。
それとも領主の代わりにこっちに来たってことか?
まあ、どっちにしても対応するのは俺じゃない。
ルーメル代表のお姫さんが対応するだけだ。
「それで、シャノン殿はどういった趣で? 私に御用とか?」
「はい。先日のご提供してくれたお話についてです」
「色々お話はしていますので、どのことに対してでしょうか?」
「ゾンビの集団をすでに倒したという件です」
「ああ、そんな話もしましたね。何か新しい情報が届きましたか?」
お姫さんはいやらしいぐらいにのほほんと話をしている。
シャノンの方はそれでも笑顔で返答をする。
「はい。ユーリア姫の言う通りゾンビの集団は発見されませんでした。痕跡は僅かにあるようですが」
「あら、ではほかに逃げたかもしれませんね。もっとよく探してみてはどうでしょうか?」
「ええ。その可能性も考慮はして捜索は続けています。ですが、私は先日のあの船からの攻撃を見ていますので確実に全滅しているものと判断をしております」
「そうですか。それで、ゾンビの集団がいなくなったというのが事実としてこれからどうするのですか?」
そうだなお姫さんの言う通りだ。
敵がいないのは確認できた。
それでこれから冒険者ギルドはどうするんだ?
俺たちの実力が事実とわかってどう動く?
「私たち冒険者ギルドとしては、ユーリア姫のいう海の向こうにあるというルーメル王国は存在していると認め、各国に連絡を入れようと思っています。勝手に話しては迷惑かとおもいまして、まずは許可をいただきに来ました」
「なるほど、確かに勝手に話されては迷惑ですからね。どんなふうに話をする予定ですか? まさか、ルーメルが悪いなどとは言いませんよね?」
先にくぎを刺しておく。
ここでどう各国の説明するかで、今後の俺たちの立場が決まるわけだ。
先ほどの敵対行動を強調されれば俺たちは魔族側にされるかもしれない。
あるいは連合に加わることにもなるだろう。
まあ、問題がある立場ならこっちもこっちで適当にやるからいいんだがな。
その分、冒険者ギルドやここの子爵の立場が悪くなるだけだ。
で、シャノンはなんていうのかと思っていると。
「はい。それも含めてお話させていただければと思っています。先日の子爵の対応は問題があると判断しておりますので、私たち、そして子爵とは別にお話していただいて判断の基準にしていただければと思っています」
なるほど、あの領主の対応には冒険者ギルドも疑問を持っているわけか。
いや、一緒にまとめて殲滅されることを避けたいだけか?
どちらにしろ自分たちを見極めてくれっていうのは間違いないだろう。
ハウエクブ王国と冒険者ギルドがこちらを見定めるという意味もあるだろうけどな。
ま、そういうのは世の中の常だ。
こっちが見極めている時あいてもこっちを見極めている。
「では、こちらの要望、目的を改めてお話しましょう」
お姫さんはそう前置きして、改めてこの大陸に来た経緯を説明するのだった。
もちろん露骨に結城君たちの帰る方法を探しに来たとかいうのではなく、隣人を助けて新しい文化に触れるためとぼかしはしたが……。
どうなることやら。




