第319射:それでもやらないといけない
それでもやらないといけない
Side:ナデシコ・ヤマト
田中さんが提案した魔族を倒せる人を呼び寄せるというのは、案自体は当然の判断ではありました、その相手が最悪でした。
何せ、それはルーメル城で多量殺人を起こし、私や晃さん、そしてヨフィアさんやカチュアさんまでも撃った人物だったからです。
「ジョシー? 誰だいそれは? そんな強い奴がいたのか? ゾンビに使うには忍びないってことかい?」
ジョシーのことを知らないゼランさんは首をかしげてそう言いますが、事情を知っているヨフィアさんは露骨に嫌な表情をして、メイド長であり表情を出さないカチュアさんですら嫌というオーラを出しています。
何せカチュアさんに至っては、実質心肺停止して死亡していましたからね。
ですが、この事実をどう説明するべきかと思っていると、ここはやはり田中さんが遠慮なく……。
「問題があるって言っただろう? 簡単に言えば俺たちと敵対したやつだ。ここのルーメルメンバーの内、お姫さんと爺さん以外は攻撃を受けたな」
「はぁ!? 敵をゾンビとして利用しようっていうのかい? あ、でもそれって魔族の連中がやっているのと変わりは無いか」
「だろ? いうことを聞くようにできるなら即戦力の出来上がりだ。なにせ俺と同類だからな」
「タナカ殿と同類ってそりゃ強力だろうけど。敵になったら目も当てられないんじゃないかい?」
「その対策はたてているさ。このまま無策で魔族の検分をしてもいいが、その時はシャノウの強襲は防げるかどうか微妙って所だな」
「「「……」」」
田中さんが防衛に関しての問題をいうと私たちは何も言い返せません。
確かにあのジョシーという女が味方になれば強力だというのは分かります。
ですが……。
「案は分かったけど、ヒカリたちの顔は浮かないよ? こっちを無視してまで欲しい戦力なのかい?」
「いや、別に。どう対応するかって話だけだ。町の犠牲を容認するか、自分たちを犠牲にするか、それとも、敵を味方にする方法を試してみるかって話だ。まあ、予知が外れて取り越し苦労っていう可能性もある」
これは田中さんは私たちに選べと言っているのでしょう。
憎い相手とリスクも承知で手を組むか。
それとも独力でどうにかしてみるか。
どちらにしろ、メリットデメリットが存在する。
その選択には責任が伴う。
冒険者として仕事を自分たちで選んだ時と一緒。
失敗したときに失うのは自分たちの命だけじゃなく、町の人の命になっただけということでしょう。
いえ、私たちにとっては大きな判断ですが、これをできなければいけないということ。
しかし、私を含めて晃さんや光さんも口を閉じて意見を言えません。
それも当然、私たちの命を奪おうとした相手を味方として信用できるのか、ちゃんと協力しあえるのか。
本当に味方になるのか? そんなことがずっと頭の中をぐるぐるとめぐっていると……。
「わかりました。あのジョシーという女を味方として引き入れるとユーリアが決断します」
そうユーリアが宣言しました。
なぜユーリアがと思っていると、田中さんがすぐに質問をします。
「ほう。結城君たちの意見は聞かないのか?」
そうです。
ジョシーを仲間として信用できるのか。
そして死体を使うことに嫌悪はないのか。
それを問いかけられたのは私たちです。
無視をして答えていいものではないはずですが。
「タナカ殿の意図は分かりますが、勇者様たちにこういう決断は酷です。甘やかしなどではなく責任を取れない者に判断を委ねるのが酷だというのです」
「だべな。タナカ殿はアキラたちに決断する重さを知ってほしかったんだべだろうが、今回は町の人たちだべだからな。一緒に戦うって覚悟したのとはまた違うだべだよ」
「ま、そうだね。こういう時は大人がフォローしてやるべきなんだよ。そのジョシーとやらと会ってみてクソならそのまま処分。利用できそうならやってみる。それでいいと思う。ヒカリたちが嫌だっていうなら場所を分ければいい。そういうことさ。なあ、リリアーナ?」
「はい。仲のいい悪い、相性の問題はどこにでもあるものです。そういうことを考慮して部署や部隊の編成は行いますからね」
「連合軍でもそういうことはありましたね。元々ロシュールとガルツは戦争をしていましたし、なるべくリテア部隊を挟むようにはしていました」
ユーリアをはじめとしてみんなさんが私たちをかばってくれます。
判断をできなくても仕方がない、責任は負うべきではない、そこは私たちがフォローをすると。
「と、いうことだ。別に自分たちだけで完結するわけでもないから、今後は相談もすることだな」
「え? 僕たちは結局選択してないんだけどいいの?」
「いいか悪いかで言うと悪いが、それをフォローするのも仲間だ。そして戦場で味方になるやつが信用がおけない相手がいることもよくある。俺たちのお供にリカルドがついていた時もあっただろう?」
「それは……」
「俺の敵であって大和君の敵ではなかったから、脅威は感じなかったかもしれないけどな。状況としては似ている」
「「「……」」」
確かにその通りです。
結局の所私たちのわがままということでしょうか?
まだまだ子供なのですね。
と、反省していると。
「別に好き嫌いはあって当然だからな。その時ははっきりと個人的には協力できないって伝えて別々で運用する方法を考えるんだよ。ノールタルが言ったようにな」
なるほど。そういう考え方もあるんですね。
確かに世界には多くの人がいますし、気の合う方ばかりというわけにはいかないでしょう。
そういう時には、ちゃんとその間柄に応じた対応の仕方があるというわけですか。
「さて、責任はお姫さんが取るということでいいが、まずはちゃんと従ってくれるかどうかだ。ゾンビ化するための魔術師は爺さんでいいのか?」
「うむ。私はこれでも遺体の管理を任されているのでな」
「遺体の管理ですか?」
始めて聞く言葉に私たちは首をかしげます。
「あー、まあ気持ちのいい話ではないが、ゾンビの運用方法を説明されたってことはルーメルにもゾンビを利用するっていうのがあるんだよ」
えっ。
あまりのも意外な言葉で思わずユーリアに視線を向けたのですが……。
「タナカ殿誤解を招くような言い方はやめてください。ナデシコ。私たち国が行っているのは、英雄の遺体の保管です」
「えいゆうの保管?」
「はい。ゾンビのお話は前々からマノジルから講義があったかと思いますが、元々魔力や才能があるものは高位のゾンビとして知能を有していたり、生前の記憶を覚えていたりします。ですので、遺言で祖国の力になりたいとあれば、その意思を尊重し、有事の際の最終防衛手段として保管をしているのです」
「はぁー。つまり、過去の英雄たちの力を借りれるってことですか?」
「そのとおりです。とはいえ、過去の英雄の遺体を扱うことは恥とも取れるので、めったなことでは口にも出ません。国家存亡の危機ぐらいですな。各国の歴史をさかのぼっても使われたという記録は残っていません。昔に攻め滅ぼされた国が使ったぐらいですな」
「つまり、それほど使うことはためらわれるということですね?」
私が確認をするとユーリアとマノジルさん、そしてカチュアさんが頷きます。
「それを今回使っちゃっていいの?」
「今回使うのは罪人です。我が国に多大な被害をもたらしたものですのでそこはあまり気にしなくていいかと。しかもほかの人を守るためでもあります。また、罪人の調査のために一時ゾンビ化して情報を抜き取るというのもあります」
……確かに遺体から情報を抜き取るというのができればこの上ないことでしょう。
「とはいえ、ほとんどの場合ゾンビ化しても情報を抜き取るほどの知能が戻りませんのでめったにはやりません。また高位の立場のものも駄目ですね。国家の秘事を話すこともありますので、後ろ暗いことは国を動かすうえでは必ずといっていいほどやりますので、お互いのためにまず認められません。」
「それって全然意味なくない?」
「ま、そこは大人の事情ってやつだ。ゾンビ化されてルクセン君のおねしょ記録とか暴露されても遺族は喜ばないだろう?」
「聞いたらよみがえってぶっ殺す」
なるほど。確かにそういう個人の問題も暴露されるのは遺族の方はよくは思わないでしょうね。
そういう意味でも遺体を使うというのは忌諱されているということですか。
「さて、雑談はこの辺でさっそくジョシーの奴の遺体をこっちに運んでくれ。予知の件があるからこの場を離れるわけにはいかないからな」
「わかりました。マノジル行けますか?」
「お任せください。リカルドたちに運ばせましょう」
こうして私たちはあの女をよみがえらせることになったのです。
これが吉と出るのか凶と出るのかは私にはわかりませんが……。
「僕、嫌な予感がするなー。これって好き嫌いかな?」
「多分な。でも代案なく否定もだめだしな。気合を入れて向き合おう」
「……そうですわね。ちゃんと向きあわなければいけませんわね」
嫌な相手とも組むことがあるのが人生。
そこをうまくやっていくのが大事。
まあ、無理を重ねる必要もないけど、距離の置き方ってやつだね。




