第314射:予知対策
予知対策
Side:タダノリ・タナカ
正直、お姫さんの言う予知は俺はあまり信じてない。
とはいえ、聞いてしまったからには警戒をしないといけないのは事実。
俺も、後方を突かれると面倒だなと思ったからこそ、対応することにしただけの話。
「まあ、結局やることは変わらないんだがな」
ドローンで偵察に出ている各組織の様子を伺いつつ、敵の本隊の偵察を行う。
そして、プラスで……。
「海の方はなんにもないねー」
「そもそも海の方を警戒するって言ってもどう警戒すればいいのは分からないよな」
「どういうルートで来るかわかりませんものね」
そう言って頭をひねっている結城君たち。
敵が海からくる予知を聞いて海の警戒を強めているが、海も範囲が広すぎて警戒するのは難しい。
何より、本当に海からやってきたのかも微妙なところだ。
海岸線ギリギリを進んで、裏を取ったという可能性もあるからな。
……これは警戒頑張りすぎて、寝不足で出撃できないとかもありそうだな。
こういうのは未来を知ったからこそ回避できなくなったというのもある。
はぁ、まあとりあえず森の連中はルクセン君に話したようにキルゾーンに誘い込んで偶然生きていたら情報を引き出す程度がいいだろう。
あの連中が逃亡して俺たちの対策を取られた未来っていうのは避けたいからな。
こちらの情報は渡さず確実に殲滅する方向に確定だ、火薬も確殺レベルで配置して、偶然生き残ればレベルに設定だ。
「で、タナカ殿は何にもない街道を見て何しているんだい?」
不意に声をかけられて振り返ると、そこには仮眠を終えたノールタルが立っている。
「起きたのか」
「ああ。いい加減ドローンの監視はつらいね。で、何度も聞くのもあれだけど何をしているんだい?」
「ああすまない。ただ単に、ここをキルゾーンにしようかと思ってな」
「きるぞーん? ああ、ここで敵を倒すって話だね。でも、こんな開けたところに陣取ってもすぐに押しつぶされるんじゃないかい? 確かにアキラたちは強いし、タナカ殿もいるけど、前みたいに後ろに味方がいて援護しているわけじゃないんだ。あの戦車だっけ? あれで殲滅するのは難しいだろう」
ノールタルが言っているのはアスタリの防衛戦のことだろう。
あれは戦車が使えるのかと、わかりやす武力誇示のために用意して戦っただけだ。
あと、敵の中に味方がいたからなまとめて叩きつぶす方法は取れなかった。
だが、今回は前提が違う。
「別に今回は敵に遠慮する必要がないからな。全力で殲滅する方法と、手加減する方法は違う」
「……あの戦車もものすごい力だったと聞いているけど、それ以上があるのかい?」
「ある。単純なだけに範囲にいれば敵味方問わずぶっ飛ばすから、使い辛いのがあるが、今回は敵だけの予定だからな」
「偵察隊は逃げてそれを追っているところを狙うのかい?」
「その通り。相手はこっちのことを知らないからな。俺たちがそういう武器を持っているのも当然しらないだろう。町を襲ってゾンビを増やしたい連中だ。襲ってくるだろう」
「襲ってこなかったら?」
「その時は普通に尾行すればいいだけだ。偵察隊も情報を持って帰っているだろうし、各国に連絡が行くだろうな」
そうなったときはそうなったときで各国がどれだけ対応できるか見るのも面白いな。
「それは連合が後ろを突かれて大混乱するから避けたいって言ってなかったか?」
「言ったな。とはいえ、逃亡に専念されると全員潰すのは難しいからな」
この地域の脱出を優先されればこちらは手の打ちようがない。
まあ、上から爆弾での襲撃ぐらいはしてやるが、森の中を進められると完全に殲滅するのは難しいだろう。
何人かは抜けるはずだ。
「なるほど。その追い打ちで多数はやってしまうつもりってことかい」
「流石に連合に瓦解してもらったら面倒だからな。盾はちゃんと機能してもらう」
魔族と前面で衝突している連中が交代すれば俺たちも忙しいことになるからな。
状況把握ができるまでは何とか踏ん張ってほしいもんだ。
押し込まれればフリーゲートをつかっての艦砲射撃ではなく、ミサイルの雨あられで何とかしないといけなくなる。
それだけで済めばいいが、最悪この大陸のリーダーとして祭り上げられる可能性もある。
レジスタンスのリーダーとか面倒極まりないからな。
「盾ね。タナカ殿はそういう所遠慮ないね」
「遠慮する必要がないからな。こっちの戦力はなるべく減らさずに敵を倒す。それが最善だ」
「確かにね。それをやるために下準備をしているわけだ」
「ああ。こういうのは地形をちゃんと把握して、準備をするのが大事だからな」
罠を仕掛けるには効果的なところをちゃんと見極めないといけない。
あからさまな罠に飛びこむような奴はいないし、罠がバレるのを恐れて小規模にしてしまえば目的を達成できない。
意外と罠を張るっていうのは繊細な仕事というわけだ。
なにせ失敗すれば多くのモノが失われることになる。
費用、時間、そして人材。
まあ、真っ向勝負するよりは消費は少ないがそれでも無くすものが普通ならある。
俺も当初の予定なら、この現場に赴いて直接罠を張る予定だったからな。
でも、今回はドローンを展開して爆撃に切り替えることにした。
だからこそ場所選びという事前準備がより大事なったわけだ。
「しかし、こんな見晴らしのいい道があるだけの場所でどう罠を仕掛けるんだい? 草原が多少広がっているだけで、隠れる場所はなさそうだよ?」
「だからこそいい。俺たちは上空から敵の位置を確認できる。敵が逃げることも確認できるからな」
まずは俺たちの情報を持って帰るような奴の存在を決して許さないために、常に監視ができる場所を選ぶ必要がある。
だからこその開けた街道だ。
森はこの位置だと10キロは進まないと戻れない場所にある。
だからこそ確実に敵を殲滅できるわけだ。
代わりにこの街道が使い物にならなくなるが、そこは魔族のせいだといってシャノウの領主とか冒険者に頑張って復旧してもらおう。
最小限の犠牲で敵軍を撃破できるんだからそれぐらいやって当然だ。
「これで、タナカ殿は常にこのシャノウにいて、敵の攻撃が来ても対応できるってことだね」
「ま、今回の間の予知であればな。だが、その確証はない。とりあえずこの場を安全にするためだ」
状況が変われば俺がシャノウを離れることもあるだろう。
その時に襲われないとも限りらないが、そこまで面倒を見る気はない。
なんでその時点でお姫さんがこのシャノウに来ているかはわからないが、俺がいないときに訪れてピンチになるなら訪れないようにしろよと思うのは俺だけだろうか?
そもそも、予知は姫さん本人の視界で見るようだし、お姫さんは城でじっとしていた方がいいのではと思ったが本人には言わないで置いた俺はよくやったと思う。
あれだな、探偵が現れるところで常に殺人事件が起きるみたいな話だな。
「それでいいとおもうよ。今を乗り切れば後は防衛や監視方法を考えて徹底すればいいだけだからね。そこまで面倒見ろとかいわないさ」
「そうだといいがな。で、そういえば、ノールタルの姉とそのお友達はどうした?」
俺がノールタルと話していて思い出した、向こうに戻ってから音沙汰のないリリアーナ女王と聖女のことだ。
ここについてきて報告をしているはずだが、何も連絡がこないのがちょっと微妙だ。
いきなり後ろを封鎖されているとかないよな?
こういう時に面倒なのは後方の拠点がつぶされて四面楚歌になることだ。
「ん? ああリリアーナとエルジュはこっちの事情を連合に話しているみたいだよ。魔族による襲撃はなかったってね」
「ああ、そういえばあの二人はロガリ連合の窓口でもあったな」
「そうだよ。ユーリアも暇だとは言わないけど、リリアーナやエルジュよりは忙しくないだろうさ」
「確かにな。それでその報告で俺たちの立場がまずくなりそうなことは……」
「大丈夫ですよ。問題ありません」
「はい。そこは皆さんにちゃんと説明して納得してもらいました」
俺の言葉を遮って答えをくれたのは、噂をすれば影が差すということで……。
「なんだ、そっちも戻ったのか」
「はい。しばらく空けて申し訳ございません」
「すみません。皆さんも別大陸の存在と敵の話は聞きたいみたいで」
いや、話を聞けば当然だと思うがな。
というか元から一国の女王に、ロガリ連合の総大将である聖女がこっちに来ていること自体もおかしい話だ。
まあ、それだけ別大陸の存在を気にしているってことにはなるんだろうが。
「それで、俺たちに対して何か制約とか出てきたか?」
「いえ、そういうことはありませんね。引き続き自由にしていいと」
「はい。勇者様たちは帰る方法を探しているだけですから、そのついでに各国を救っているということになっています」
なんだその都合のいい話は……ってそうか。
「ロガリ連合も戦力派遣には否定的か」
「……申し訳ございません。まだそれができるほど落ち着いてはいないのです」
「あはは、まだ戦争が終わったばかりですから、ロガリ連合内部での関係改善が先ですね」
「それは当然だな。別にあてはしてないから気にするな」
下手に手助けしてもらうと、今度はそのお礼とかで大変になりそうだしな。
で、問題は……。
「その話を伝えるためにわざわざ戻ってきたのか?」
「ええ。この大陸で勇者様たちが何をしてきたかを伝えなくてはルーメルの立場が悪くなりますからね」
「これ以上戦争はしたくないですし、こうして私たちがルーメルと一緒にいるというのは戦争する気はないという意思表示にもなるでしょう」
言っているとことは分かるが、それでも女王と聖女が来る必要はないだろうとおもうが、この世界は自分に続けっていうのが当たり前の世界だから、こういうこともあるかと納得しておく。
それに便利な技能があるのはありがたいしな。
と、納得していると……。
「あの、それで今の状況はどうなっているのでしょうか?」
「そうですね。リリアーナの言うように何やらみんなピリピリしているように見えますが?」
ああ、そういえばこの二人はバウシャイを襲った魔族の連中を発見したってことを知らなかったな。
「とりあえず、長くなるから。明日の朝にでも結城君たちから聞くといい。俺はちょっと忙しくてな」
今キルゾーンを仕上げておかないと後がつらい。
海のほうの防衛上げないといけないしな。
結城君たちがどの程度の防衛作戦を考えているか見ものだな。
予知対策、前提を崩すこと。
これが一番だよね。




