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レベル1の今は一般人さん  作者: 雪だるま


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第307射:地図を得るために

地図を得るために



Side:ナデシコ・ヤマト



「地図が見たい?」

「はい。シャノンさん」


私はそう冒険者のギルドマスターであるシャノンさんに伝える。

昨日、田中さんからもたらされたバウシャイの町の人たちを連れて移動している魔族を捕捉するために少しでも情報を集めているのです。

まあ、町の近くの地図はドローンをつかって把握すればいいのですが、この大陸全体の地図は持っていません。

一応ゼランさんが適当に書いてくれたものはありましたが、それは地形も何もないような簡単なものです。

私たちが必要なのは、敵がどのルートを通るのかが分かるような詳細な地図です。

ですが……。


「ふむ。いい着眼点ね。地形を把握して行動をするというのは正しいわ。でも、そう簡単に地図を見せるわけにもいかないわ」

「え? なんで?」

「地図というのは国家機密よ。だから私たちも正確な地図を持っているわけではないの。あくまでも冒険者ギルドが持ち寄ってできた地図があるだけ。とはいえ、各国に支部がある私たちの地図情報はそれだけ価値のあるもので正確でもあるわ」

「なるほど」


確かにそういう話はユーリアさんからも聞きました。

この世界において詳細な地図というのは戦略的価値の高い物だと。

まあ、ゼランさんに地図を描いてもらって大体想像は出来ていましたが。


「地図が貴重なものだというのは分かりましたが、それでは私たちは何を頼りにしたらいいのでしょうか?」

「そうね。私たちが持っている地図を見せるに足る人物になっているのであれば見せることは可能よ。でも貴方たちはこの一帯の地図じゃだめなのかしら? この大陸全土の地図となると貴重度が跳ね上がるわよ」

「……そういうことですか。近隣の地図であれば見せていただけるのですね」

「ええ。それぐらいは大丈夫よ」


そう言って、シャノンさんは一枚の紙を取り出してテーブルに置いてくれますが、やはりそれは……。


「うーん、正直にいうね。雑」

「正直に言いすぎだ。って言っても同じ意見かな」


光さんと晃さんの言う通り、見せてくれた地図はやはり適当に大体の位置を書いただけの手書き地図でした。

……これじゃ田中さんに見せるわけにもいきませんね。


「おや、君たちはそれだけじゃ不満? 大陸全体の地図が欲しいなんて何が目的?」

「え? いや、ホラ魔族が攻めてきてるんでしょう? 敵の動きとか知りたいし」


と、シャノンさんの疑問にあっさりと光さんが答えてしまいました。

そこは簡単に話していいことではありません、下手をすると魔族の仲間とみられる可能性もあります。

これはまずいと思っていると……。


「なるほど。君たちはいいところの家の出だったわね。だからこそ地図を欲しいわけか。しかし、ここ一体の地理を知らないとなると意外と遠くからやってきたのかしら?」

「あー、そこは内緒で。でも、魔族と戦うってのは間違いじゃないよ。ね、撫子、晃」

「はい。そこは間違いありません。私たちはこの戦いを終わらせるために少しでも情報が欲しいのです」

「まあ、色々無茶かと思うかもしれませんけど、何もしないよりはって思いまして」

「ふむ。君たちが地図を見てどうするのかは気になるけど、正式に冒険者にもなっていないし。……うーん、君たちは今起こっている戦争に対して何か行動を起こしているってことで間違いないかしら?」


確認を取るようにそう聞いてくるシャノンさん。


「うん。間違いないよ。冒険者になればそういう情報も入ってくるかなーって。だって押されているんでしょう?」

「そっちの情報も入っているのね。それで冒険者になろうっていう発想が不思議なのだけれど、親御さんに止められているって所かしら?」

「詳しいことは秘密でお願いします。言えることは冒険者ギルドに迷惑をかけようと思ったわけではありません。少しでも情報を集めておこうと思っただけですわ」


ここで私は敵ではないとアピールをしておきます。

光さんが結構きわどいことばかり言うのでひやひやしますが、やっていることは確かにその通りなので訂正することはありません。


「わかっているわ。私が偶然居合わせなければ、貴方たちは普通に冒険者から教えを受けて普通に冒険者になっていたと思うわ。その場合活躍をしながら情報を集めるつもりだったのでしょう?」

「そうだよ。まあ、こうしてシャノンさんと会えるとは思ってなかったし」

「ええ。ということで、私たちはその情報が少しでももらえないかと思っているわけです」

「無暗に突っ込んでも返り討ちだしなー」

「確かに、アキラ君の言う通りね。魔族の力は強大。多くの名のある騎士や冒険者が犠牲になっている。いまや大陸の半分以上を制圧されていて、そんな相手に無策に突っ込むのは自殺行使よ」


なるほど。このシャノンさんも今の戦況は把握しているようです。

冒険者ギルドにはちゃんとそういう情報は回っていると見ていいでしょう。

後は独自の情報があれば聞きだしたいのですが……。


「やっぱり君たちは滅ぼされた国の生き残りなのかしら? ……いえ、聞かない約束だったわね。話を戻すけど君たちの希望である詳しい地図を見たいのであれば、冒険者として実績を積み重ねる必要ね」

「あーやっぱりそうなるよね。となると冒険者として仕事ってこと」

「ええ。ヒカリの言う通り。冒険者としても上位になれば活動範囲が広がるから、その立場におうじて地図の情報も公開していくわ。時間が掛かることではあるけど、それは我慢するしかないわ。というか、信頼を得られるほどに強く、そして賢くなければただの無駄死になるだけ」


シャノンさんは笑顔でそう告げるます。

無暗に突っ込んでも死ぬだけだと。

そのためにちゃんと仕事をこなせと。

まあ、仕事をこなすのは納得です。

何も知らない子供に貴重な地図を見せるわけにはいかないですからね。


「では、その信頼を得るために仕事をしたいのですが、よろしいでしょうか?」

「はぁ。そうなるわよね。もっと勉強をしたかったのだけれど、依頼を受けたんだし、冒険者として義務は果たすわ」


シャノンさんはあきらめた様子で、席から立ち上がります。


「さあ、冒険者として腕を上げるには仕事をするしかないわ。つまり、これから私が見繕った仕事をこなしていってもらうわよ。もちろんサポートはさせてもらわ。でもメインはあなたたちよ」

「おおっ。冒険者といったら仕事だもんね」


ということで私たちは早速下の受付の方へ移動します。


「あ、ギルドマスター。もう指導は終わりですか?」

「ええ。冒険者の心構えとかを教えてただけだしね。実戦が指導の続きよ。それで、何かいい仕事はないかしら?」

「彼女たちができる仕事ですか。あ、その前に冒険者としての登録はどういたしますか?」

「腕前からすると上位でもいいんだけれど、無茶はさせたくないから最下位でいいわ」

「え? それだと受けれる仕事は町中のみになりますけど?」

「それでいいわ。まずはそこからよ。見せてくれない?」

「わかりました。お待ちください」


ちゃんと私たちの教育内容は考えてくれているようで、ちゃんと町中のお仕事からになりそうです。


「懐かしいよな。俺たち最初はお店の手伝いだったし」

「そうだったねー。おっちゃんの料理久々に食べたけどおいしかったよね」

「ですわね。ついでに私たちの方も町の情報を集めましょう」


田中さんやゼランさんが集めてきた情報と違いがないか確かめる必要もありますから。

まあ、町の人のうわさの方が信用がない可能性は高いですが、私たちがちゃんと情報を集められるかという練習にも最適でしょう。

そんな風に私たちが町中でどう動くかを考えていると、シャノンさんが一切れのクエスト用紙をもってやってきた。


「今日はこれを受けてみなさい」


そう言って渡されたクエストは……。


「家具の移動お願い?」

「ええ。そうよ。近所のおばあさんが家具の移動をお願いしてきているの。受けてくれるかしら?」

「わかりました。早速手続きをしていきましょう」

「……嫌がらないのね。まあ、いいわ」

「別に嫌がる理由はありませんから。ちゃんと拠点に住む人たちとは仲良くなっておいて損はないと思いますから」


さっき話した情報などは仲良くなっていなければ話てもらえない可能性が高いですわ。

だからこそ、こういう町の人と仲良くできる仕事はなるべく受けた方がいいと思います。


こうしてこの依頼を受けた私たちは早速依頼主であるおばあさんの家へと向かい……。


「おやぁ。シャノンちゃんが受けてくれたんじゃないのかい?」

「今日はこの子たちが依頼をうけたのよ」

「ほー、こんなおばあの手伝いをしてくれる冒険者がいるなんて珍しいね。いつもはシャノンちゃんがこういう安い仕事は受けてくれるんだけどね」


どうやら、シャノウの冒険者の皆さんはこういう雑務系の仕事は嫌がるようですわね。

一番大事なことであり、安全にお金が稼げる手段をあきらめるというのは冒険者全体の質はあまり高くないのではないかと思います。

代わりにシャノンさんがこういうお仕事を受けているのは好感が持てます。

実力自体はちょっと残念ではありますが、シャノンさんは文字通り後方支援をしているのですね。

と、少しギルドマスターを見直しつつ、私たちは仕事を始めます。


「私は監督するだけだから、おばあちゃんはこき使ってちょうだい」

「わかったよ。みんなよろしく頼むよ」

「「「はい」」」


こうして、お婆さん家具移動を手伝って無事に仕事をこなします。


「力持ちだねー。驚いちゃったよ」

「えへへ。レベルだけは高いからね」

「そこはシャノンちゃんが紹介するだけあるね。また機会があったら頼むよ」

「はい。その時はお願いします」

「おばあさまもお元気で」

「何かあったらすぐに頼ってください。じゃ、行くわよ」


こうして私たちのシャノウでの新人冒険者生活が始まるのでした。

そういえば、そろそろノールタルさんやセイールさんが戻ってくるんでしたね。

合流していろいろやればその分効率も上がるでしょうか?



こういうことは一気にやるのではなく、地道にやるのが一番だと思っています。

その方が周りとの摩擦を生まないしね。


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