第306射:痕跡を発見
痕跡を発見
Side:タダノリ・タナカ
「……ということで、僕たちは無事に冒険者ギルドに入ったよ」
「それはよかった。しかも冒険者になるんじゃなくて見習いだからな。今後も動きやすい」
ルクセン君たちの提案で冒険者ギルドから情報を集めるという作戦だが、思った以上にいい結果になった。
下手をすると冒険者としての実力を認められて最前線に送られる可能性もあったからな。
その場合は、ゼランやギナス経由で圧力をかけてもらう予定だった。
それをしないで済んだんだから喜ぶべきことだ。
ルクセン君たちも成長しているってことだろう。
「ですが、田中さんもゼランさんも冒険者ギルドから情報を集めるのはそんなに難しいでしょうか?」
「いや、そこまで難しくないな。情報だけなら」
「そうだね。でもそんな情報はほかでも集まる。大事なのは冒険者ギルドが持っている独自の情報だよ」
「冒険者ギルド独自?」
「そうだ。戦況なんかは噂話でも十分だろうさ。だが、組織が持っている情報っていうのは、その組織の切り札でもあるからな、それはなるべく自分たちの中で使うのさ。情報っていうのはそれだけ大事なものだからな」
自分たちだけが持っている情報っていうのは、ほかのモノから優位に立てるものだ。
そういうのは必ず外に出さず自分たちの中だけにとどめるものだ。
「俺たちが戦艦や銃を使えることを隠しているみたいにな」
「「「ああ」」」
俺のその言葉に納得する結城君たち。
情報というとわかりにくいからな、それが強大な力だとすれば想像もつきやすい。
俺が力をひた隠しにしているのは目を付けられないためだ。
迂闊なことをすれば俺たちはこの大陸において、ただの戦力としてこき使われる可能性があるからな。
まあ、それで問題が解決すればそれでもいいんだろうが、今はその判断を下すにも情報が圧倒的にたりていない。
「俺は裏組織のギナスから情報を集める。ゼランは知り合いの交易商を通じて領主から、そして結城君たちは冒険者ギルドからってことだ。これであらかた情報は集められると思うが、ゼランはどう思う?」
俺がそう思うだけで、意外と抜け道がある可能性がある。
この大陸の住人であるゼランに確認を取るのは当然の判断だろう。
「そうだね。大体大きな組織とは繋がりがあると思うよ。とはいえ、問題は冒険者ギルドの方は情報を得るのに時間はかかりそうだけどね。そこはどうするんだい?」
「別に集まらないなら集まらないでいい。俺たちの誰かがこの戦いの核心に迫る情報を得られればいいんだからな。それに……」
俺はそう言って、昨日の夜調べていたあの内容を告げるためにタブレットを起動する。
「俺の方は俺の方で別の情報を手に入れたからな」
「え? どういうこと?」
「何かわかったのかい?」
「確定とは言えないが、これを見てどう思う?」
俺はそう言ってゼランを含めて、昨日記録したあの映像を見せる。
「え? 森? なにこれ?」
「ですわね。私にも何も見えませんが……」
ルクセン君や大和君の言う通り最初の映像はただの森の映像なだけで何かが見えるわけではない。
とはいえ、せっかちだ。
この映像はそれで終わりじゃない。
何せ写真じゃないんだからな。
「いや、なんかあの開けたところに何か落ちてないか?」
そして、その何かに気が付いたのは結城君。
そうその開けた場所には……。
「え? 靴?」
「こんな森の中に? 人がいるということですか? ですが、森には魔物がいるのでは? ゼランさん?」
「ああ、森には魔物がいる。浅いところならともかく、見た感じかなり深い森だ。こんなところならかなりの魔物がいるはずだ。だから、こんなところに靴が落ちてるってことは、死んでいるだろうね。森の中で足を守って歩きやすくするための道具を片方とは言え捨てているなんて、自殺行為だね」
ゼランの言う通り、魔物がいる森の中で素足になるなんて、裸足の原住民でもない限り自分の命を縮める行為でしかない。
「まあ、靴がボロボロになって履き替えたというのもあるかもしれないけど」
「あ、そっか。長旅だと靴も履き替えるよね。あんまり僕にはイメージないけど」
「そうですわね。靴もある意味消耗品ではありますから、使いものにならなくなれば履き替えますわね」
「でもさ、その靴を捨てていくもんか? 貴重な材料だろう?」
お、意外といい事実に気が付いたな。
そう、ゼランが切っ掛けかもしれないが、靴っていうのは消耗品だ。
まあ、それも行ったら服もだが、今は靴の話だ。
靴も底がすり減ってしまえば新しい物に履き替えるのが当然だ。
軍も傭兵も靴がボロボロになればすぐに履き替える。
そうしないと命とりだからな。
だが、その事実も映像が次のモノを映して消し去っていく。
「……あー、こりゃ、靴を履き替えたってわけじゃないね。足ごと落としていっているね」
そう次に映ったのは人の右足がちぎれた状態で落ちている。
まあ、人の足だと認識するにはちょっとグロい状態で、骨の見えたかじりかけの肉といった方がいいか?
「うへー。で、田中さん。こんな森の中の映像ってどこのなの?」
「……確かにここはどこの森なのですか?」
「意外と町の近くの森なんですか?」
「いや、結構遠いな。この場所はバウシャイの森をかなり深く入ったところだ」
そう、ここはバウシャイの町から森に入った場所だ。
そしてその意味を理解したのか、大和君が目を鋭くしてこちらを見つめてくる。
「つまり、町の人たちは逃げ出していたということですか?」
「え? そうなの?」
「んー? でも、なんで森の中だ? ゼランさんが言ったよな。森の奥は魔物が多く生息していて危険だって。それをバウシャイの人が知らないわけないと思うんだけど」
「確かにねぇ。アキラの言う通り、逃げるにしても森の中に行くかい? いや、慌てて一人迷い込んだって所かい? 町の人たち全員がこっちに逃げたってのは不自然すぎる」
「ですが、バウシャイの人たちの行方はいまだにしれません。街道を追ってみましたが、ドローンにその痕跡は映りませんでしたし、シャノウの方にもバウシャイの町が無人化したなんて話は来ていなかったでしょう?」
「確かにそうだよねー。で、田中さんはなんで森なんか?」
結局考えが纏まらないようだ。
ま、なんで森の中を探したのかって話になるしな。
「まあ、疑問は色々あるだろうが、簡単に言えば、痕跡を探してみたってことだ」
「痕跡ですか?」
「ああ。町の人たちはどこかに逃げたなんて話は一切なかった。つまりは、誰にも気がつかれないルートを通っているって可能性は考えたわけだ」
「誰にも気がつかれないルートというと、バウシャイの地勢上森の方面だったということですわね?」
「ああ。大和君の言う通りだ。それに今までのことで、魔族側が材料を必要としていることが分かったからな。輸送しているかもしれないと思ったわけだ。アンデッドなら命令に逆らうこともないしな」
「あー、だから魔物が沢山いる道を選んだわけだ。そうすれば、追っ手もかからないから。でも、田中さんが見つけちゃったわけか」
「そう、俺の予想が当たったわけだ。まあ、今の映像だと一人分しかいないが、さらに進んだ先にもっと多くの証拠が転がっていた」
俺は映像を早送りすると、さらに食い散らかされた遺体が転がっているシーンを見せる。
「……少なく見ても10人分のパーツはありますわね」
「こんなところをそんな人数で進むわけないし、当たりですね」
「……でもさ、こんなに魔物に襲われると、なんか遺体を運ぶのって難しいんじゃないかな?」
「結果がどうなるかはそこまで気にしていない可能性もある。持っていけるなら持っていく、無理なら無理で仕方がないという感じだな。何せ、後方の港や町を落とすだけでもかなりの成果だしな」
敵側の後方を脅かすことができるだけでもかなりのことだからな。
今の戦況を見るにそういうことをするだけでも価値がある。
というか、それが目的にも見えてくる。
おまけで死体を持って帰れれば御の字って感じだな。
「そういうことかい。この森を進むルートはただの実験か。でも納得だね。アンデッドを山ほど連れて、街道を進軍すれば騒ぎにしかならない。誰にも気がつかれずに運ぶには、誰も通ってない道を選ぶしかないね。いや、道ですらないから非常に進むのは面倒だろうが……そうか、その結果がこれか」
「魔族は強いから森を進むには問題はなかったが、アンデッドになった町の人たちは魔物にとっちゃいいえさだったわけだ。まあ、それでも10名から50名の犠牲で済んでいるけどな」
「えー、それって犠牲多くない?」
「光さん。町の全体から考えれば多くはないのでしょう。何より、魔族にとってはただの材料でしかないですから」
「胸糞悪くなる話だよな。って、ちょっと待ってください。森の方を抜けているってことは……」
結城君はそのルートに意味に気がついたようで……。
「そうだ。この森を抜けるルートってのはあの山脈を越えていくルートだ。つまり、このシャノウを横切るルートだ」
「え? ちょっとまって、つまりもうバウシャイの人たちはシャノウを通り過ぎているってこと?」
「待ってください。まだあの山脈を移動してるということはないのでしょうか? 見るからに簡単に移動できそうにはないのですが?」
「いま、その足跡を追っているところだ。証拠を見つけたんで、ほぼ確定だからな。まあ、後続を襲われていたことに気がついたのか、これ以降はバラバラ死体ってのが出てこなくなっている」
おかげで、森の上空をドローンでくまなく探している状態だ。
「とはいえ、俺の予想としてはまだ魔族の連中は町の人を連れてシャノウを通り過ぎているとは思っていない」
「なぜでしょうか?」
「欠損した遺体を見ただろう? まだ肉と骨が付いた状態だ。それで考えないといけないが、ゼランがバウシャイを襲われてからこっちに戻ってくるまでどれぐらいかかった?」
「半年以上はかかっているね。そんな時間があれば、骨に肉なんか残らないね。キレイさっぱり魔物の餌になっているはずだよ。バウシャイの町で殺された遺体がほぼ風化していたようにね」
「そう、まだ遺体の骨には肉が、しかもある程度人の物だと見て取れた。つまり移動を始めてからそこまで時間は経っていないってわけだ。理由は分からないが、バウシャイの町を出たのはそこまで時間が経っていないわけだ」
つまり、俺たちは遺体を輸送している魔族たちを襲撃できるかもしれないってことになる。
さぁて、冒険者ギルドにこの町の権力者、そして裏組織。
この事実を伝えればどう動くかな?
ともかく、相手の動きを知らないことには何もできないのは事実だな。
なんとか書き上げることができました。
皆さんお待たせして申し訳ない。
これからもよろしくお願いします。
そして、敵の輸送ルートを見つけることができるのか?
さらに阻止はできるのか?




