第282射:船に異常なし
船に異常なし
Side:タダノリ・タナカ
アドミ〇ル・フ〇ータ・カス〇ノフの同型艦。
それが俺が出した船の正式名称だ。
いや、正式名称ができる前に亡国の依頼で傭兵団で奪取した軍艦なので正式な名前が付くことはなかった。
俺たちと同じ、世に出ることがなかった名無しというべきか。
「ちょっとまてーい!! そ、その名前から察するに……」
「ああ、ロ〇アからもらってきた」
「そ、そんなことができるわけがありませんわ! これは、イージス艦レベルのモノですわよね!?」
「だな。というかロ〇ア版イージスだなフリゲート級だ」
「いや、普通にいわないでください。こんなもの奪える傭兵とか一体何ですか。というかよく無事でしたね。普通奪われるぐらいなら撃沈されません?」
「普通はな。ちゃんとそれぐらい根回しはしてたさ。もともと某国もこの船は喉から手が出るほど欲しがってたからな。奪ってしまえばあとは外交の方でうまくやってくれたわけさ」
正式には、漂流していた船を某国が偶然回収したというシナリオになった。
いやー、笑った。顔真っ赤だったからな。
「「「……」」」
なぜか俺の説明に全員が沈黙する。
「おい、どうした? 見学するんだろう?」
「あ、うん。なんか田中さんってさ、本当によく生きてたよね」
「……普通に死にますわよ。国を相手にそんなことをしては」
「おう、だから俺の傭兵団は全滅したからな。ま、使い走りにされたところをみると口封じだろうな」
「普通にそんなことよく言えますね」
ルクセン君たちは苦笑いぐらいで済んでいるが、お姫さんたちは顔が青ざめているように見える。
「……エルジュ。私が見る限り、タナカ殿が持っている銃を大きくしたようなものが付いていますわよね」
「はい。間違いなく銃の大きい奴だと思います」
「このような重武装の船を一部隊で奪う? まさか……」
驚いているな。ま、成功した俺たちも驚いた。半数ぐらい逝くかと思ったが、なんと8割生きていた。
そのあとの散財には反省したな。
そして、俺が普段使っている銃しか見たことはないから、船についている砲塔を見れば怖くもなるか。
「さて、パッと見て外装には問題なさそうだな。浸水して傾ているような感じもしないが、そこはCICに行って確認するか」
「「「CIC?」」」
ルクセン君たちが不思議そうに首をかしげる。
あーCICって言ってもわからないか。
「軍艦っていうのは、戦闘指揮所で指揮を執る。通称CIC」
「ああ! 艦橋のこと? あそこ?」
ルクセン君は納得したといわんばかりに船の上部のガラスが張り巡らせている場所を指さすが……。
「いや、あんな防御のないところじゃないぞ。船の真ん中だ」
「真ん中? でも何もみえなくない?」
「別に肉眼で見る必要はないからな。カメラ越しでもいい。それにフリーゲートはレーダーがメインだ」
「れーだー?」
なるほど。ルクセン君にはレーダーといってもピンとこないか。
それも当然か、平和な日本にいたんだ。軍艦のレーダーなんて見たことがないか。
「まあ、とりあえず見てみる方が早い」
俺はそう言って、艦内へと入っていく。
どうやら艦内は電気が通っているようで明るい。
まあ、救命ボートを下ろしていたんだ電源は生きているだろう。
というか燃料はどれだけ残っているんだ? 給油の方法とかも考えないといけいないな。
と、俺がそんなことを考えている間に後ろのメンバーは楽しそうな声を上げている。
「おー! すげー、鉄の扉だ! こういうのってマジであるんだ」
「浸水対策ということでしょうか? ここで完全に隔離できるということですね」
「防御力は高いよなー」
ルクセン君たちはどうやら中に入っても楽しんでいるようだ。
中身は俺にとっては無骨でぶち抜けない厄介な船という認識しかないが、こういうのも初めてなんだろう。
で、残るは現地人だが……。
「うひゃー……。外から見て冗談だろうとおもっていましたが……。中身もぶっ飛んでますね先輩」
「……はい。流石にこの状態は驚きですね。大きさだけでも驚きですが、まさか中身まで鉄の船が存在しているとは」
「中も多少木材が使われてはいますが、基礎は鉄ですね。どういう技術でしょうか」
「へー、凄いですねぇー。リリアーナ様もすごいと思いませんか?」
「ええ。ここまでの船は見たことありません。私たち魔族は精々池に船を浮かべるぐらいでしたから。それも池の魔物に襲われて船を何度壊されたか。……退治に随分手間取りました」
現地人はやはり造船技術が発達していないのか、かなり驚いているようだ。
しかし、最後の女王の言葉が聞き捨てならない。
池の魔物が船を沈めたか。
木造船とはいえ、人がのれるものだから、そう簡単に壊れるものとは思えない。
地球で船が壊れるというのは、魚に襲われてというのはほぼない。
ただ単に操船ミスで岩礁に乗り上げた、氷山にぶつかったなどが一般的だ。
海の生物が襲い掛かってきて沈没なんてのはまずありえない。
まあ本当に小さいボートにホホジロザメがとびかかったぐらいが、ごくわずかにいるだけだ。
サメってのは本来臆病な生き物で、そうそう人を襲うことはない。
つまり、この世界には船を破壊するだけの血の気の多い生物が存在しているってことだ。
魔物っていうのはやっぱり面倒だな。
鉄の船で安心していたが案外まずいか?
装甲の厚い二次大戦の船を用意するべきか?
……ま、とりあえず二隻目が出せるか確認してからだな。
と、俺はそう考えながらCICへと入っていく。
中はブラックライトだけで暗く、代わりに一面のモニターからレーダーが確認できる。
とりあえずCICも普通に稼働しているな。
ここが動いていなかったどうしようかと思った。
とりあえず、問題は一帯の海図がないわ、GPSもないことから現在地はロスト状態か。
できるのはソナー系と自前のレーダーからの対空監視のみか。
流石に俺もここら辺の地形データは手に入れらない。
となると、フリーゲートの本領は半分も発揮できないか。
ますます軍艦の方がいいかもしれないな。
いや、対空に関してはCIWSがあるからましか?
そんな感じでCICで現状の把握をしていると……。
「田中さん。どうですか? 俺たちには何が何だかさっぱりわからないんですけど」
「うん。全然わかんない。でも精密機械があるのはわかる」
「申し訳ありませんが私も見たこともない物ばかりで何も判断ができませんわ」
「ああ、すまないな。残念ながら衛星からの情報と、地形データは使えないな。ほかは問題ないようだ。弾薬も十分。ミサイルも補充も考えて100発以上はあるな」
ついでに武器弾薬は俺から補充可能だ。
「えーと、ミサイルって……どこかと戦争するの?」
「いや、光。俺たちこれから戦いに行くだろう?」
「ええ。晃さんの言う通りですわ。これからの戦いを考えるとここまで強力な船に乗れるのはすごく助かりますわ」
「おー、そうだった。これなら負けないね! 使い方わかんないけど!」
「そこは心配するな。俺がいなくても動かせるように練習はしてもらうさ」
とはいえ、軍船は一人で動かすようなものでもないんだけどな。
そこは俺の遠隔操作でフォローするしかない。
で、あとは……。
「どうだ。お姫さんに聖女さん、そして女王。この船なら問題はなさそうか?」
「え、ええ。この船ならそうそうの困難も問題ないならないと思います」
「はい。まあ鉄の船が浮いているという不思議もありますが、この船なら戦えると思います」
どうやらお姫さんたちもこの船なら文句はないようだ。
魔物を知っている連中が言うんだ。
これは間違いないだろう。
とはいえ、ここは元冒険者であるメイドにも話を聞いておくべきだな。
「ヨフィア。冒険者としての視点から見てどう思う?」
「え? 私はかわいいメイドさんですよ?」
「やかましい。結城君と同じ部屋をくれてやるからさっさと情報をはけ」
「え!?」
「はい! わかりました! この元凄腕冒険者にお任せください!」
「ええ!?」
結城君には大人しく犠牲になってもらおう。
別に悪い話でもないしな。
「で、海の魔物でこの船の脅威になりそうなのは? 無事にゼランの国につけると思うか?」
「そうですねー。海の魔物で脅威になりそうなのは伝説の怪物ぐらいじゃないですか? リヴァイアサンとかクラーケンとか? でもあの大きな銃を見ると木っ端みじんになりそうですけど。で、無事にゼラン様の国につくかという答えですが、タナカさんという物資の補給者もいますから例え遭難しても時間をかければたどり着けると思いますよ? むしろこの船とタナカさんがいてたどり着けないなら、誰もたどり着けませんよ」
うんうん。
ヨフィアの言葉に全員が頷く。
「というか、ノールタルにゴードル、セイールは何にも意見はないのか?」
そうなぜか海に出てから無言なのだ。
というか、魔族の連中と戦ってからなんか静かなんだよな。
「いやぁ、なんか色々世の中起こってるなって」
「んだ。別大陸の人たちとか、おいらたち以外の魔族が出てきたかとおもったら、こんな船までできて……」
「びっくりです」
なるほど、驚きすぎて感情が追い付いてなかったか。
「で、船に関してはどうだ? 船酔いとかは大丈夫か?」
「ああ。そういうのは大丈夫みたいだね。というかゼランの船よりも揺れないしこれは問題ないよ」
「んだ。こっちの方が広いしおいらとしても楽だぁ」
「ですね。安心します」
どうやら魔族の方々も納得のようだ。
とはいえ、ゴードルは体がでかいからなー。
部屋は士官用の個室があるが、それでも狭く感じると思う。どこかの大部屋で布団をもっていってもらうか?
「とりあえず、まだ乗ったばかりだ。これから船の完熟訓練もするからな。そこから一つ一つ問題を解決していこう」
「「「おー!」」」
そう、まだ俺たちは移動の手段を手に入れただけだ。
この操船を覚えてようやく第一歩だ。
ゼランの故郷ではどう考えてもそれなりの戦闘がある。
それを切り抜けるのはこの軍船を使うしかない。
「とりあえず、この船をノルマンディーの近くまでもっていくか。領主にちゃんと説明しないと混乱するだろうしな」
「「「あ」」」
いきなりこんな大きな船が現れたんだ。
まずは説得からだな。
いやー、やることは地道だ。
船に問題は無し。
全力稼働はできないがレーダーが届く範囲はなんとかなる。
そしてノルマンディーは突如として現れた巨大戦艦に大慌てだったとさ。




