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レベル1の今は一般人さん  作者: 雪だるま


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第263射:宴と次

宴と次



Side:ヒカリ・アールス・ルクセン



「では皆の者乾杯!」

「「「かんぱーい!」」」


そう言って、あの戦いでなにもしてなかった人たちが盛り上がっている。

僕としては面白くないけど、まあ平和になったお祝いと思えばいいのかな?


「って、そんなことより田中さん。あのモカロ将軍だっけ? あの人に武器をって言われてたけど……」


なぜか目出度い席でわざわざ武器の要求をしてくる馬鹿な将軍がいたんだよね。

しかも、この田中さんに要求だよ?

馬鹿もいいところだけど、下手するとまたトラブルになるのかなっていう不安がある。


「ん? ああ、別に気にしなくていい。あとで話し合う予定だ」

「そうなの?」

「ああ。向こうも将軍ってことで大変みたいだな。あれはわざとだ。俺に断られるところを、聖女さんやローエル将軍に見せつけたってわけさ」

「どういうこと?」


なんでそんなことわざわざするわけ?

と、首をかしげていると、撫子が代わりに説明をしてくれる。


「つまり、あの将軍が欲しているのではなく、後ろで言っている人がいるということですか?」

「そういうことだな。将軍本人は気乗りしていない。諸外国が警戒するからな。そしてルクセン君たちもな。それをわからせるためにやっているみたいだ」

「それって、あの人はやらなければいいだけじゃないですか?」


うん、晃の言う通り。

最初からやらなきゃいいんだよ。


「そうもいかないんだべさ。それが権力ってもんだべ」

「ですねー。ゴードルさんの言う通り、ダメとわかっていてもやらないといけないんですよねー。そうしないと使えないって思われてモカロ将軍は今の立場から引き摺り下ろされちゃいますね」

「そんな立場なんていらないじゃないか。私なら隠居してパン屋でもやるね」


うんうん。ノールタル姉さんの言う通り、そんな面倒な立場ならさっさとやめてのんびりしちゃえばいいんだよ。


「そう簡単にいかないのです」

「あ、お姫様」


声をかけられて振り返るとそこにはグラスを持ったユーリア姫様とエルジュが立っていた。


「ヒカリ様。私のことはユーリアでいいですわ。これから旅をするのですから。それに、エルジュとは友達なんでしょう?」

「はい。ヒカリさんたちとは友達ですよ」

「ということでお願いします」

「わかったよ、ユーリアこれからよろしくー。で、そういうわけにもいかないっていうのはどういうこと? というか、エルジュも一緒でいいわけ? さっきの将軍の話聞かれちゃまずいんじゃないの?」


そうこの話っていうのはルーメル内の秘密みたいなものだったんじゃないかな?


「今更ですわね。あんな大きな声で武器を要求したのです。エルジュやローエル様が気にならないわけないでしょう」

「まあ、そうだけど。エルジュ的にはまずいんじゃないの?」

「あはは。そうでもないんですよ。あ、本当にタナカさんが武器を提供するなら大変なんですけど?」

「そんなことはしないから心配するな」

「なら大丈夫です。ヒカリさんたちから見れば、確かにモカロ将軍がとんでもないことを言ったと思いますが、モカロ将軍がいなければどうなると思いますか?」

「え? モカロ将軍がいなければ?」


想像がつかない質問が来て頭が回らない。

そんな僕に代わって、晃が代わりに口を開く。


「あ。つまり、モカロ将軍がいなければ誰かが代わりに将軍になるってことですよね?」

「その通りですアキラ様。モカロ将軍はお父様、ルーメル王の信頼厚い臣下です。ですから、あのように穏便に済ませてくれました。万が一モカロ将軍が解任されようものなら……」


ここまで言われれば僕も理解できる。


「次の将軍が田中さんに露骨なことを仕掛けてくるかもしれないってこと?」

「はい。その可能性はあるでしょう。モカロ将軍はそういう馬鹿たちの言うことを聞くふりをして、バランスを保ってくれているのです。まあ、馬鹿どもも、自分なりに考えてそう進言しているわけですので、しょっ引くわけにもいかないのです」

「あー。なんか面倒なんだね」


僕の中では田中さんと敵対とかただの自殺志願者としか思えないんだけど、それが分からない人からすれば確かに欲しいと思うのは当然だよね。


「はい。政治は面倒なんです」


そう苦笑いをするエルジュを見れば本当に面倒な世界なんだなーと実感する。

僕は絶対政治家になんかならないね。


「ま、あとでそこらへんの情報をモカロ将軍と話すってことだ。怪しいやつとかな。この前俺たちは相手もせずにスルーしたからな。そういうところもあって圧力がかかったんだろうさ」

「あれ? でも魔王討伐とかいって式典に僕たち全員出てたよね?」

「出てたがすぐに調べものとかで他の相手をしていないだろう?」

「あー。そういえばそうだった」

「それに、あの時は皆様疲れているだろうから、訪問するなと言っていましたから」


おー、ユーリアがそういうところ気遣ってくれてたんだ。


「一度スルーしているからこそ、武器の要求をして来いって言われたのかもな」

「ありえますね。これ以上無視しているのは難しいからこそモカロ将軍はあの場で言ったのかもしれませんね。実際、モカロ将軍の言葉に賛同する声を上げる者もいましたから」

「うへー。そんなのいるんだ」


厄介だー。

あんなあからさまな言葉に賛同するって馬鹿じゃん。

と、思っていると。


「別に不思議な話じゃない。確かに祝いの席で堂々と言うのはあれだが、国に仕える貴族としては自国の増強につながる事だしな。賛同する奴は多いだろう」

「あ、ローエル姉ちゃん」


今度はローエル姉ちゃんがやってくる。

しかも僕の質問に答えてくれた。


「そんなもんかー。って、ローエル姉ちゃんって意外と頭いいよね」

「意外とは失礼だな。これでも普通に王族としての教育は受けてきたぞ」

「はい。ローエル姉さまはちゃんとできますよ。まあ……軍を動かすときは大雑把になりますが」

「エルジュ。それが大事なのだ。戦いというのは機を逃してはいけないのだ」

「んだ。戦いっていうのはそういうのも大事だべな」

「おお! わかってくれるかゴードル!」

「んだ。だども、迷惑も考えないとダメだべよ?」

「うっ」


おおっ。ゴードルのおっちゃんの言葉はローエル姉ちゃんにも届くみたい。


「ま、モカロ将軍のことはいいとしてだ。これから連合軍の方はどう動く予定なんだ? 俺たちの準備は明日明後日にでも終わるが、そっちはそっちで話し合いがあるんじゃないか? 連合軍としてきたんだろう?」

「はい。物資の受け渡しの手続きなどをする必要はありますが、それは文官もついてきていますので、書類のやり取りなどはそちらに任せることになりますので、勇者様たちに合わせて行動できます」

「そりゃありがたいことだ。じゃ、魔術の国に行くまでの物資とかの相談に乗ってもらっていいか? 意外と長旅になりそうだしな」

「はい。お任せください」


あー、そうか。

ただ単にみんなで楽しい冒険ってことじゃないよね。

結構遠くの国に行くんだから準備もしないといけないよね。

また物資集めかー。それはそれで面倒だよねー。


「じゃ、そうと決まれば後は飯を食べて明日に備えて寝るだな。もう酒も入ってのんびりしているやつも多そうだしな。俺たちに絡んできたら酔っ払いを追い払うって感じでいいだ……」


と、田中さんが言いかけた時、不意にドアが乱暴に開く音がして、一人の兵士が走っていく姿が見える。

それは田中さんというかみんなも気が付いたようでそちらに視線を向ける。

その兵士は迷うことなく王様がいる場所へと走っていく。


「何かあったのかな?」

「ま、兵士があれだけ急いでいるんだ。すぐに報告をしておかないといけないことだろうな。それに、ほれ、モカロ将軍の方にも兵士が行ってる」


確かに、田中さんに言われてモカロ将軍の方に視線を向けると別に兵士がいつの間にかモカロ将軍の前で膝をついて報告しているみたいだ。


「ちょっと待ってください。将軍に報告ってことは……」


撫子は何かに気が付いたようでものすごく驚いたような顔になっている。

僕もうっすらと何かこう腕っぷしが必要なことかなーって思っていると、モカロ将軍が報告を聞き終わったかと思ったらこちらにやってきて……。


「タナカ殿、勇者様方、先ほどは無礼をいたしました。先ほどのことがあって何を言うかと思いますが、どうかご同行願えないでしょうか?」


そう言って頭を下げるモカロ将軍は先ほどの嫌な奴というイメージからかけ離れていて、なんか仕事が忙しそうなサラリーマンのおじさんに見えてくるよ。

と、僕がそんなことを考えているうちに田中さんが口を開く。


「何があった?」

「ここでは申し上げられません。陛下もすでに退席しております」

「それだけ、大変なことなのですね?」


撫子の質問にはモカロ将軍は返事せず頭を下げたままだ。

さて、どうしたもんかと思っていると、今度はエルジュが質問をする。


「モカロ将軍。その話は私たちも同席してよいということでしょうか?」

「だな。わざわざ私たちがいる前でそんな話をするということはそういうことだろう?」

「はっ。聖女様、ローエル将軍も同席をお願いいたします」

「わかりました。同席いたしましょう」

「うむ。では行こうか。って、どうするのだタナカ?」


あ、結局田中さんの答えは聞いてなかったよね。

どうするのって視線が僕たち全員から集まった田中さんは……。


「はぁ。これじゃ断れないか。じゃ、いい酒と食事用意しろよ」

「ええ。最高級のワインと料理を別室で御用意しております。勇者様方、そして連合の皆様こちらへどうぞ」


ということで、僕たちは別の部屋へと移動して、何があったかを聞くことになったんだけど……。



「で、ルーメル王。わざわざ戦勝祝賀会ほったらかして別室で食事とか悲しくないか?」

「悲しいな。とはいえ、世の中そうもいかんようだ」


そんな感じでフランクに話す田中さんとルーメル王。

なに? なんか緊急事態じゃなかったの?


「お父様、田中様、そのようなことはもう言わなくてよろしいでしょう。エルジュやローエル将軍もいるのです。早く本題を」


あ、ユーリアがイラっとしている。

なんか、ユーリアって魔王とのことが終わってから感情がでてきたよねー。


「ふむ。こういうのは様式美というのだがな」

「ま、本題に入ったほうがいいか。で、どうした?」

「うむ。タナカ殿たちの目的は知っているが、手伝ってほしいことが起きた。我がルーメルが抱える支援国のひとつで海に面した国なのだが、つい一週間前に船団が到着したようだ」


船? それがどうしたの?

海があるんだからほかの土地から船がやってくるなんてことよく……。


「ないじゃん!? マノジルさん言ってたよね。この世界って船で海渡ろうとすると魔物に沈没させられるって!」

「言ったのう。よく覚えておいでで、ヒカル殿」


って、これかなりの大ごとじゃない?



田中たちはこうして新たなるトラブルへと巻き込まれることになります。

海から船団。

一体何があったのでしょうか?

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