第254射:あれからの連合軍
あれからの連合軍
Side:タダノリ・タナカ
「えーっと、お久しぶりです。ヒカリ、ナデシコ、アキラ」
「やっほー! エルジュ久しぶりー!」
「元気そうで何よりですわ」
「だな。なれない環境で具合悪くなってないかとか心配してたよ」
そんな風ににこやかに、ロシュールの第三王女であり、連合軍総大将である聖女エルジュと話しているルクセン君たち。
そして……。
「こらー! 私を無視して和やかに話すなー!」
簀巻きで地面に置かれているローエル将軍。
こいつは戦闘でなら優秀だが、普段は残念なようだ。
あれだな。仕事だけができるOLってやつだ。
私生活はボロボロ。
結婚できない女の代表だな。
いや、お姫様だからお姫さんみたいに専属のメイドとかいるだろうし、家事はしなくてもいいのか。
しかし、こんなのを嫁にもらっても苦労するだけだろうな。
ことあるごとに勝負を挑んでくる脳筋なんてな。
と、俺がそんなことを考えているうちに、聖女様が簀巻きにされているローエル将軍に近寄って……。
「で、ローエルお姉様。一体何をしているのですか?」
「いや、普通に簀巻きにされているんだが。助けてくれないか、エルジュ」
「簀巻きにされているのはわかります。でも、なんで簀巻きにされたんですか?」
「えーと……」
エルジュの問いに視線を逸らすローエル将軍。
とりあえず、自分が馬鹿なことをして簀巻きにされているという自覚はあるようだ。
「はぁ。ヒカリ。一体何かあったんですか?」
「簡単だよ。ローエル姉ちゃんが森の中ほとんど一人で歩いてた」
「ローエルお姉様!!」
「ひぃー!? 怒らないでくれー!」
情けない声が響く。
これが戦いとなると一角の人物になるんだから不思議だよなー。
と、それはいいとして。
「で、聖女さん。この将軍はこのまま簀巻きにしておくとして、なんで町の方に出てるんだ?」
「うぉい!」
そう、この聖女さんはなぜか城の中ではなく、町の中で会ったのだ。
「はい。連合軍野営地で会議してたところです」
「ああ、そうか。まだ連合軍は残っているんだったな。しかし、てっきり城の中に入るかと思っていたが」
「あはは。本来であれば、軍はある程度の数を残して戻るはずだったんですが、皆さん復興のために残ってくれるといいまして……」
「宿泊施設が足りないってわけか」
「はい」
どうやら、共同作戦で魔王を倒したおかげか連合軍の人々たちはうまく魔族とやっているようだ。
これで多少はノールタルたちも他の国を安心して外を歩けるだろう。
「でも、長期戦を覚悟していましたので物資は配るほど余裕があるので問題はありません。とはいえ、流石に損壊した家屋を直すような資材はありませんので、その資材の取り寄せと、担当をどうするかという内容ですね」
「なるほどな。しかし、物資を運ぶとなると大変だな」
このラスト王国は今まで敵を拒むため森林に手を入れてないのだ。
つまりジャングルを抜けてこいというという意味になる。
物資の運搬にこれほど面倒なことはないだろう。
「ああ、そこはそこまで心配はないです。ちぃ姉さまがこのラスト王国とウィードをゲートで繋いだんで物資の移動には困らないんです」
「……そうか」
俺の心配は杞憂だったようだ。
ったく、これだから奴とかかわると一般的な心配が吹き飛んでしまう。
常識を一から疑わないといけないとか、くそ面倒だ。
で、ゲートが繋がっているならある疑問が浮かんでくる。
「しかし、ゲートがあるならそこから出入りは可能じゃないのか? わざわざテント暮らしする必要もないだろう」
「それがそうもいかないみたいです。たとえ、ウィードへ戻るとしても優先されるのは物資の運搬ですし、兵士はウィードに必要はありません。そして、兵士の数も多いので、出入りに時間をかけるのは……」
「そういうことか、納得した。わざわざ説明してくれてありがとう」
「いえ」
つまりだ、ゲートは物資運搬が最優先で人の出入りは二の次というわけだ。
まあ、当然の話だな。
そして、物資の運搬が終われば、そのあとはすぐに拠点に戻れるというわけだから、わざわざ移動が大変な森を進んで戻る理由はないわけだ。
そうなれば、復興に協力したほうが効率がいいと思うのは当然か。
「でも、ゲートがいつでも使えるというわけではないで、いざという時のために陸路、つまり街道の整備も必要だと今の会議で話が出た所です」
「そうだな。移動手段、道が一つだけってのは厄介だからな」
ゲートさえ封殺してしまえば、ラスト王国の生命線を絶てることになる。
そんな弱点を残しておくわけもない。
その事実に気が付くだけの頭はあるようだな。
それとも、あいつの入れ知恵か?
「それに、このラスト王国は4大国の中央に位置していますから、上手く街道の敷設ができれば、交易の中心となる可能性もあります」
「あー、確かにそうだな。ここを通れるなら交易や人の行き来にはいいだろう」
「はい。より一層魔族の方々と人々の交流が増えて、理解が深まるはずです」
相互理解を求めるためにか。
……なんとも綺麗なお話で。
逆を返せば、ここで魔族への理解度を深めておかないと、再び種族大戦に発展するだろうからってことだ。
ま、俺には関係のない話か。
今重要なのは……。
「で、リリアーナ女王から話は聞いているか?」
「あ、はい。帰る方法を探すために来られたのですよね?」
「ああ。それで聖女さんにも協力してもらいたいことがある」
「魔術の国への案内ですよね?」
「話が早くて助かる。ルーメルのマノジル爺さんに帰る方法を調べる上で紹介されたが、こっちは伝手がない。それで……」
「ロシュールの姫である私の力が必要というわけですね」
そういう聖女さんは先ほどのふにゃっとした少女の顔ではなく、一人の女性、いや上に立つものとしてのキリッとした顔になっていた。
ほうほう、こういう顔もできるか。
「なにか?」
俺が関心して聖女さんを眺めていたことに気が付いたようだ。
流石、王族ってところか。
「いや、上に立つと誰もそんな顔になるのかと思ってな。ルーメルの姫さんもそんな感じだった」
「そうですか。ユーリアお姉さまと同じと評価されてうれしい限りです。でもこうなったのはここ一年の間なのです。ちぃお姉さまの旦那様。ご存じなのでしょう?」
「あいつから口止めはされていないのか?」
「されていますよ。だから名前は言いませんでした」
おう、ずいぶん恨み買っているようだな。
よし、後押しして後ろからサクッとやってもらえないだろうか。
と、そんな冗談は置いといて。
「あいつの相手は大変だっただろう」
「……助けられた手前、同意はしたくないのですが、……大変でした」
だろうな。
あいつとつるんで疲れないとか、3人ぐらいのもんだ。
お姫様が聖女にランクアップして戦争の旗頭になるぐらいだ。
どれだけ大変だったか恐ろしい限りだな。
「ま、そういうことで俺は基本的にあいつとかかわりたくはない。リリアーナ女王はかかわりを持たない俺を不思議と思っているようだが、聖女さんは理解してくれているようだな」
「……タナカさんが協力してくれればちぃ姉さまたちも助かるとは思いますが、きっと仕事が倍増しますね」
「だろう? それに、俺は若者たちを故郷に帰すのが先決だからな。下手にあいつの手伝いなんて始めたら……」
「残るなどと言われても困りますね」
結城君たちはまだ帰る気だが、それがいつ変わるかわからないからな。
決意を挫くような行動はしないほうがいいだろう。
「それに、あいつ自身、若者を戦場に送るのは反対だからな」
「はい。あの人は優しいです。まあ、首を突っ込んできた人には容赦はしないですが。私みたいに」
「そうしないと死ぬからな。甘やかすわけにはいかないってことだ」
「あれ? でも、そうなるとタナカさんは……」
「俺はあいつらの保護者だからな。俺を引き抜くと結城君たちもついてくる。だからそれはない」
というか、断固拒否だ。
気が付けばエイリアンの基地に放り込まれたとかあるからな。
「と、話はそれたが、そういうことで魔術の国への渡りをつけて欲しいんだが?」
「はい。その程度でしたら大丈夫です。とはいえ、私の一存ではちょっと難しいので、お姉さまに話を通す必要はあります。その過程で多少お手伝いを頼むかもしれません」
「それは仕方がない。ただで国家が持っている外交ルートを使わせてもらうんだからな」
国を動かすんだ、ちょっとお手伝いしただけで動いてくれるなら喜んで手伝ってやろう。
普通なら何もしてくれないのが当たり前だからな。
とはいえ……。
「人殺し関係は拒否するぞ」
「わかっています。お姉さまもそんなことは言いません」
「……って、ちょっとまってくれ。ロシュール王国は国王だろう? なぜ聖女さんのお姉さんの話が出てくる? この場合は王に連絡じゃないのか?」
俺がそう問いただすと、聖女さんは苦笑いをして。
「あはは……。お父様、陛下はアーリア姉さまに最近はほとんどの仕事を任せているんです。そろそろ代替わりだといいまして。魔王も倒しましたし」
「そういうことか」
もう老兵は静かにただ立ち去るのみっていうことか。
各国も確実に魔族との融和に手を打っているってことか。
「本音は、ちぃ姉さまが妊娠して孫との時間を作るためなんです。毎日毎日ウィードにゲートで遊びに行っては様子を見ているので、お姉さまもちぃ姉さまも怒ってるんですよ」
「……仕事を頑張りすぎた反動だな。ま、後進が育つということで、俺は納得しよう」
「他人事ですね」
「他人事だからな」
と、そんなことを話しながら道を進み魔王城……ただのお城前に到着する。
「おー、結構散らかってたのに綺麗になったね」
「ええ。ここでエルジュ様たちは魔王と戦ったはずです」
「すごいよなー」
「いえ。私は後方の本陣にいただけで、戦ったのは、アレス、クラック殿、そして……」
「私だ! 私が勇猛果敢に戦ったんだ!」
そう吠えるのは簀巻きになったローエル将軍。
いい加減引きずられているからダメージ受けてぐったりしてていいと思うんだがな。
高レベルっていうのは本当に厄介だ。
「ねえ。ローエル姉ちゃん。いい加減にしないと残念だよ」
「凛としたローエル将軍はどこに行ったのでしょうか」
「ですよねぇ。ローエル姉さまはなんでこうも……」
「あれぇ? アキラ、なんか私呆れられてないか?」
「いや、間違いなく呆れられてますよ。というか、なんで門の兵士さんたちが何も気にしていないのが不思議なんですけど」
結城君の言う通り、他国の将軍とはいえ、協力してくれている国のお姫様兼将軍が簀巻きにされて運ばれているのだ。
何も反応がないのはおかしい。
と、思っていると、門の方から見知った顔が出てくる。
「アキラ殿。別に不思議ではありませんよ。ローエル将軍はどうにもやんちゃが過ぎるようで、何度もそんな感じで簀巻きになっているのです」
「あ、リリアーナ女王様」
そう、出てきたのはこのラスト王国のトップ。女王リリアーナ。
「やほー。リリアーナ戻ってきたよ」
「戻っただよ。リリアーナ様」
「はい。姉さん。ゴードルも元気そうで何よりです。そして、勇者様方、こうして我が国に寄っていただきありがとうございます」
リリアーナ女王はそういって頭を下げる。
「え? なんでリリアーナ女王さまが頭下げてるの? 晃わかる?」
「いや、わからん。撫子わかるか?」
「おそらくですが、政治的なことでしょう。私たちという勇者が元とはいえ魔王の国にいくことで魔族への印象改善につながるかと……」
「はい。ナデシコ殿の言う通りです。勇者様が来てくれるだけで我が国の信頼へとつながるのです。だから御礼申し上げております」
「いやー、そこまでしなくてもいいよ。僕たちは帰る方法探しに来ただけなんだし、逆に何か手伝いたいぐらいだよ」
「そうだな。助けてもらうんですからお互い様ですよ」
予想通り、ルクセン君と結城君はただで帰る方法を探すつもりはないらしい。
大和君は理解はしているだろうが口を出さないところを見ると手伝うつもりだな。
ま、これで結城君たちが気持ちよく帰る方法を探せるなら必要なことか。
そう考えていると、リリアーナ女王から視線を投げられ、それにうなずく。
「では、お言葉に甘えて後でお手伝いしてほしいことがございますのでよろしくお願いいたします」
「おっけー」
「はい。任せてください」
「ええ。頑張りましょう」
こうして俺たちは再びラスト王国で過ごすことになったのであった。
魔王城や町は普通に復興をしているようです。
物資もあり、交流もあって穏やかのようです。
さあ、ここで勇者一行は何を見つけるのか?




