第115射:祭りの後
祭りの後
Side:タダノリ・タナカ
コン、カランカラン……。
そんな音を立てて、空になったビール缶が床を転がっていく。
普通なら、そこまで気にならない音でも、こうして深夜に聞くとやたらと耳につく。
「ん? んん、ぐー……」
そして、ビール缶を落としたルクセン君は、そんな音を気にせず、眠りこけている。
いや、他の皆も全然気にした様子が無く、見事に眠りこけている。
そんな感じで、俺が眠りこけているメンバーの様子を窺っていると……。
「恐ろしいほどよく効く睡眠薬だな」
ウィスキーを飲んでいるクォレンがそう言う。
そう、俺は宴会に乗じて、タイミングを見て睡眠薬をぶち込んだのだ。
その結果が、安らかに眠るルクセン君たちというわけだ。
流石に目的を果たせないままは本末転倒だからな。
「本気で、ルクセン君たちとクォレンの飲み勝負を見るつもりはなかったからな。潰れてもらっちゃこっちが困る」
「はっ。流石にあんな小さい嬢ちゃんに負けることはねーよ。しかし、本当に美味い酒だな」
「故郷ではただの安酒だ。安い舌でよかったよ」
「けっ、安い舌で悪かったな」
「これだけ用意して、全部高級酒ってのは流石にな」
出せないことはないが、常にそれを求められるのも困るし、俺の能力がばれる可能性も出てくるからな。
こういうのは制限があるように見せるのが当然だ。
「ま、贅沢に慣れたくはないな。しかし、便利な能力だな。故郷の食べ物を呼び出せるとはな。これで飢え死にすることはないか」
「だな。いざという時はこの身1つで逃げ出せるってわけだ」
「で、聞きたい話ってのはなんだ? 流石にこれだけ美味い物をごちそうになって協力しないってのはないぞ。まあ、出来る限りになるが」
「そうか、なら遠慮なく」
「あ、ちょっとまて、もう少し食べさせろ、じゃないな。このサバ缶。もっとくれ」
「お前も意外と魚が好きなんだな」
「そりゃ、新鮮な魚は食えないからな。そして泥臭い。だけど、このサバは別だ。美味い。しかも海魚らしいじゃないか」
「そうか、ルーメルは海を持っていないのか」
「ないな。元々ルーメルを含む、4大国は魔王への抑えとして、大森林、大山脈中心に東西南北をかためているからな。海の方へ手を伸ばす余裕はないな」
「なるほどな。と、これでいいか」
俺はそんな話をしながら、サバ缶を10個ほど渡す。
「感謝する。これで当分美味い物が食えるな。……しかし、このゴミはどうしたもんか」
クォレンがそう言う先には、飲み食い散らかした後が散乱している。
明日もまた仕事で使うんだ。流石にこの部屋の現状を見れば、部屋の主であるクォレンはげんなりするよな。
だが、そういう心配は無用で……。
「ああ、消しておこう」
俺がそう言うと、食い散らかしたものは、缶や瓶も含めてあっという間に消えていく。
「……本当に便利なもんだな」
「そのサバ缶も消せるぞ」
「ちょっとまて、それはやめろ」
「冗談だ。で、聞きたいことだが、宰相が魔族と繋がっていた男に関しての情報が欲しい」
「ぶっ!?」
俺が単刀直入に話すと、飲んでいた酒を吹き出す。
「げほっ、ごほっ。宰相がなんだって?」
「なんだ知らなかったのか? 魔族への暗殺依頼騒ぎの裏、真犯人は宰相だ」
「ぶぼっ」
俺が素直に事実を話してやると、更に酒を吹き出す。
「ごほっ。マジか」
「ヨフィアから聞いてなかったのか?」
「いや、この野郎。報告忘れてやがったな」
「あー、違うな。事が事だから、報告するのは不味いと思ったんじゃないか? それに、大体そっちだってそう言う予測はできてただろう?」
俺がそう言っている間に、噴き出した酒をぬぐい、落ち着いて口を開く。
「まあ、な。ドトゥス伯爵の処罰がやけに軽かったのは不思議だった。それから考えると、もっと上の存在、宰相がという線は上がっていた。だが、なんの話もでてこないからな。……しかし、確実な話をタナカ殿から聞くとは思わなかった。で、経緯はどうなっているんだ?」
「ここから聞くと、引き返せなくなるぞ?」
「別に、関係者は全員寝ているから聞いても聞かぬふりはできるだろう? そのために寝かせたんだろうが」
「いや、まあ、そう言う面もあるにはあるが、内容を聞くと、聞かなかったというのは結構難しい話だぞ?」
「どういう意味だ?」
「話を聞けばわかる。俺たちが、探している男にも関係する。で、どうする?」
「……」
俺がそう聞くと、クォレンは沈黙して、テーブルに残っている缶ビールを手に取り、蓋を開けて、一気に煽る。
喉を鳴らすいい音がきこえる。
「ぷはっー、美味い! こんな酒を貰ったんだ。最後まで聞こうじゃないか」
「そうか、ちょっと長くなるからな、飲みながら聞いてくれ」
ということで、今までの経緯をクォレンに説明をすることになる。
主に、お姫さんの未来予知スキルから始まり、宰相とドトゥス伯爵の繋がり、そこから見えてくる、魔族との全面戦争の脅威。
そして、その戦争に備えるためのアスタリの町の防衛強化政策。
最後に、敵の動向を知るための情報を知る男の話。
「……」
全てを話した結果、クォレンは酒を飲むことを途中でやめて、酒に酔った顔の赤みも消えている。
「すっかり酔いも醒めたな」
「自分でも驚きだ。あれほど飲んでいたのに、頭がすっきりどころか、どうすればいいのか大混乱だ。酒が不味くなるどころか、酒が吹き飛んだ……」
ま、戦争になるという前提で国が動いていたこと、いや、戦争を起こすために動いていたこと、そして、これから戦争が起こる確率も高いことを聞けば酔いも醒めるわな。
「で、タナカ殿たちは、情報を仕入れるために、今は行方不明になっている魔族と繋がりがあった男を探しているというわけか」
「そうだ。戦うにしても、話し合いを求めるにしても、どこかの伝手を頼った方がいいとは思わないか? それとも、アスタリの町から、魔族の街道へと向かうか?」
「後者は開戦だろうが!! 絶対行くなよ!!」
「やっぱりそうおもうか」
「勇者一行が魔族のところへ向かうなんて、周りを煽るだけだろうが。アスタリの町に近づくのも危険だという、陛下の話もわかる」
予想通りの返事でわかりやすい。
アスタリの町に近づくのはどう考えても悪手か。
「で、アスタリの町についてはどこまで話を知っている? 別に防衛の話以外でもいい。アスタリの町自体の情報も欲しい」
「前王が魔王討伐のために立ち寄った町として有名だな。そして、近くに魔族へ続く道があるという話も聞く」
「もともと話があったのは事実か」
「そりゃな。その前王の軍がそのまま帰ってこなかったんだ。そこのどこかに魔族へつながる道なり拠点なりあると思うだろうさ」
「人の集まりは?」
「縁起が悪いとは言われているな。だが、冒険者ギルドの方の出入りはいい」
「冒険者は多いってことか?」
「ああ。前王の軍勢が消えた、壊滅したから、そのおこぼれをっていう連中が多い。事実、たまにその時の武器や鎧を見つけてくる連中もいるからな。そう言う遺品は王家が依頼主として高めで引き取ってくれるから稼ぎはいいんだ。だが、今日この話を聞くと……」
「……明らかに、金につられて、都合のいい偵察隊に使われているな」
「だな」
ミイラ取りがミイラになるってやつだな。
遺品漁りで稼いでいると思わせていて、死と隣り合せってやつか。
「そこのギルドの情報は得られるか?」
「できる。ルーメル国内はここがトップだからな。俺の命令で探れる」
「じゃ、頼めるか?」
「頼むどころじゃない。自発的に調べないとまずい。引き返せないのは事実だったな」
「だろ?」
「くそっ、酒飲んでてよかったよ」
「そりゃよかった。で、最後に……」
「宰相が魔族との仲介役で使っていた男だな。こっちでもしら……」
「その男が潜伏しているのは、幸いにも王都のスラム地区の方だよ」
そうクォレンが言いかけた時、不意に窓の方から声が聞こえてくる。
「誰だ。って、フクロウか」
「思ったよりも早く来たな」
そこにいたのは、情報屋であるフクロウだ。
先ほど、というわけでもないが、夕方に寄って手紙だけを置いてきたんだが、もうこっちに来るとは思っていなかった。
「申し訳ないね。丁度、その男のことを調べていた最中さ」
「なんだ、ヨフィアから連絡されていたのか?」
「いや、ヨフィアは特になにも言ってないよ。しかし、1つだけお詫びしておかないといけないことがあったね」
そう言って、フクロウは頭を下げる。
「すまなかった。宰相が黒幕で敵対してくるとは思っていなかった。私の情報収集が甘かった。ドトゥスの処罰が軽い時点で、その線も気づくべきだったよ」
「ああ、そのことか」
そうそう、初めてフクロウの所を訪れたのは、俺たちに敵対する連中はいるのかを聞きに行ったからだ。
ルーメルに戻って来たばかりで、王都の様子が分からなかったからな。
お姫さんのことも聞きたかったんだよな。
で、その後安心したわけじゃないが、お姫さんとの話し合いで、ジョシーの襲撃で、ルクセン君、リカルド、キシュア以外重傷という被害を受けた。
これをフクロウは気にしているわけか。
「別に気にするな。って言うのは情報屋としてのプライドに関わるんだろうが、別に情報料を支払ったわけでもないしな。まさか、俺たちも、別の勇者を呼び出すなんて思わなかったからな」
というか、その召喚者は俺の知り合いの最悪トリガーハッピーというおまけ付き。
「ああ、まさか、別の勇者を呼び出すなんて思いもよらなかったよ。おかげでこっちのメンツは丸つぶれだ」
「しかしながら、それで事態の重大さを理解したったことか」
「そうだ。調べれば調べるほど、冷や汗ものだったね。まだまだ、国の中だけの揉め事で済むかと思えば、国の方は既に魔族と勝負をつけるための用意をしていると来たもんだ」
「きっかけは俺たちというか、ルクセン君たちが呼ばれたことには間違いないが、以前から、想定はしていたみたいだな」
アスタリの町の防衛強化案など、俺たちが来てから3か月程度で劇的に変わるわけもない。
というか、気が付かれずに進めているという話だったから、もっと前からやっていたとみていいだろう。
「まあ、攻めたんだから、報復に備えるのは当然だな」
「だね。クォレンの言う通りだよ。しかし、そこのお姫様がタナカ殿たちを呼びだして一気にことが動き出した。国民の戦意を上げるために既に勇者が召喚された事実は流布されていて、各国にもそれは伝わっている。タナカ殿たちもそれは知っているだろう?」
「ああ。というか、ガルツはローエル将軍、リテアは聖女ルルアと面会をしてきたからな。ついでに冒険者ギルドのグランドマスターの爺さんとも」
「俺が紹介してなんだが、今更、勇者がいないなんて言い訳はできんな」
「もう、軍備の方もそれに合わせて、更に増強している。遅かれ早かれ勝負に出るつもりだったんだろうさ」
まあ、予想はしていたが、最初から戦争回避はかなり厳しかったってことか。
こっちは準備ゼロ、しかしルーメルは昔から起こるであろう報復に備えてきた。
ああ、名目上は魔王の侵略に備えてだったな。
そんなことを考えていると、フクロウが真剣に俺を見つめて口を開く。
「それで、あんたは、いや、勇者殿たちは戦争をする為に、その男に会いに行くのかい?」
「いや、回避するためだな。とはいえ、それが非常に厳しいのは分かった」
「……遥か昔の勇者と魔王の友誼なんてあてにできないよ?」
「なんだ、それも知っているのか?」
魔族の村で聞いた勇者と魔王の物語を知っているのか。
いや、流石というべきか、この不便な世界でよくもまあ、色々な情報を集めるもんだ。
「おいおい。その話はおとぎ話じゃないのか? 数多ある中でも、一番信憑性の無い話じゃないか」
「ふうん。そんな話もあるんだな。ま、心配するな。その男に会うのは、無論戦争回避の為でもあるが、戦争が避けられないって自覚するためにも使う予定だからな」
「……あんな純粋な子たちに現実を見せる気かい?」
「現実を知るのに遅いも早いもないさ。さて、俺の聞きたいことは終わったが、どうする? 飲み直すか? どうせ明日から仕事だろう? クォレンもフクロウも」
「「……」」
俺がそう言うと、2人は少し、驚いた顔になり、お互いに顔を見合わせたあと、テーブルに残っているビールを持ち……。
「まあ、明日から大仕事だから、これぐらい、いいよな?」
「私に聞くんじゃないよ。私は美味い物を飲んで食べる。それだけさ」
ということで、地獄の前の晩酌を3人で楽しむのであった。
さて、状況的に、こりゃ、もう暗殺が一番かね?
と、酒を飲みながら思うのであった。
おっさんだけで、情報の共有と把握。
フクロウも合流して、大人だけで再度飲みなおしだが、うまい酒かどうかはわからない。
お姫様たちを起こしたままだとうるさかったろうという思惑ももちろんある。




