第112射:国としての方針
国としての方針
Side:アキラ・ユウキ
「お父様!! どういうおつもりですか!!」
「落ち着け。いきなり怒鳴られてもわからん」
おー、お姫様はかなりお怒りだ。
まあ、わかっていて教えてくれなかったんだから、わからないでもないけど……。
「お姫さん。何も説明無しじゃ、話は進まん」
そう、田中さんの言う通り、何も説明無しに怒っても仕方がない。
お姫様も田中さんの言葉で多少落ち着いたのか、大きく息を吸って……。
「……ふぅー。そうですわね。お父様。魔族の拠点に続く道。ご存じだったのでは?」
ようやく本題を話し始めるお姫様。
そこだ。なんで黙っていたのか。
王様はなんて答えるのかと興味深く見守っていると……。
「知っているぞ。調べればすぐにわかることだ。まあ、一応機密ではあるがな」
と、何も隠すことはないという感じで言ってきた。
「だったら、なぜ言わなかったのですか? その理由をお教えください」
「理由も何も、勇者殿たちは確かに才能ある者たちなのは認めるが、まだまだ未熟。そんな勇者殿たちを無駄死にさせないためだ。お前にあの道を教えれば、すぐにでも向かいかねないからな」
「……流石に、そのようなことは致しません。勝てもしない戦いは挑みません」
「こっちの目を見ていえ」
……うわぁ。下手したら、俺たちすぐにでも魔族の拠点に投入されてた?
「はぁ、まったく。とは言え、それだけではない。聞かれなかったということもある。先ほども言ったように調べればすぐわかることだからな。てっきり、勇者殿たちを鍛えることに集中したとばかり思っていたがな。下手な不安要素があると集中できないからな」
「……」
お姫様はブスッと頬を膨らませる。
ここはお姫様が迂闊なおかげで助かってた感じかな?
「とは言え、知っていて行くといっても止めたがな。魔族を迂闊に刺激するわけにもいかん」
「お父様は、私たちが魔族に負けると?」
うわぁ、お姫様、絶対怒っているよ。
「負けると思っている。確かに強くなったが、それだけだ。攻められてもいないのに、相手を刺激するような真似はしたくない。これは分かるな?」
「……はい」
「それになにより、お前が見たという魔族の軍勢と対峙する話だが、それをできるだけ先延ばしにするためにも必要なことだ」
「先延ばしというのは、どういうことでしょうか? 戦うことが前提ですか? それが避けられるかもしれないんですよ!!」
「そう怒るな。だが王とは、人の上に立つ者とは常に最悪の事態を想定しなくてはいけない。戦争になる可能性を考慮するのならば、まずは街の、アスタリの防衛を固めなければいけない」
「そのための時間がいるということですか?」
「そうだ。魔族に気づかれないようにこっそりと内部で防衛戦力の増強を図っている。まあ、宰相の件でばれている可能性もでてきたがな」
あー、魔族のスパイが沢山出入りしているって感じだもんな。
一番近い町であるアスタリに敵が様子を見に来ていないわけないよな。
「なら、手遅れになる前に、私たちを出すべきではないですか?」
「最低限の準備が整うまでは、お前たちをあの町に行かせるわけにはいかない。勇者があの町に移動したなどと魔族に伝われば、それこそ敵が押し寄せる原因になるだろう」
ごもっともな話だ。
「……しかし、このまま手をこまねいていては」
でも、お姫様の何かをしたいという気持ちも分からなくもない。
ひどい未来が来るとわかっているのにじっとしていられないよな。
と、そんなお姫様と王様の空間に田中さんが遠慮なく切り込む。
「ま、そんな風に話し合う前に、そのアスタリの街で最低限防衛体制が整うまでどれぐらい時間がかかるんだ? それによって、これからとる行動も変わってくるだろう。防衛の準備が整っていないなら、整えるための後方支援をしてもいいし、もう手伝うことがないのなら、俺たちはほかの場所を調べて、別口の侵攻路がないかの確認というのにもまわれる」
「「……」」
田中さんの現実的で的確な話に沈黙する親子。
まあ、こんなことで言い合うより、確実に何かにつながるよな。
「沈黙してないで答えろ。最低限の防衛準備も整えられない可能性だってあるんだ。その場合防衛ラインも下げないといけないぞ? 第一次防衛ラインはアスタリでいいとして、第二次防衛ラインはどこに敷くつもりだ?」
「い、いや、最低限といったように、防衛を行うのは、アスタリのみで……」
「そこが第一次防衛ラインでもあり、最終防衛ラインかよ。ここの王都の守りはなしか?」
「ないわけではないが、アスタリに戦力を集中させる予定だ。なので、そこを破られれば……」
「残存戦力で押さえるのは難しいってことか」
なんというか、田中さんが話し出すと、あっという間に情報が出てくるな。
お姫様が話しているより、確実にましなのはわかる。
そう思っていると、お姫様が口を開く。
「では、万が一魔族が別のルートで侵攻してきた場合はどうしようもないではないですか。ほかの守りにも手を割くべきではないですか?」
お姫様の言うことはわかる。
他のルートで侵攻してきた場合は後手に回ってしまい対応が間に合わない。
だけど、王様は極めて冷静に説明をする。
「その場合は、早急に王都に兵を戻す。そうすれば王都の守りには間に合うだろう。王都へ向かうには、アスタリの町を抜けた方が、大森林からは近いからな。そこを通らずに迂回するのであれば防衛は間に合う」
「それでは、ほかの町を見捨てることになります!!」
「そうだ。ほかの町は見捨てる。その間に、ルーメルの戦力を結集する。そのような危機になれば、有無を言わずに戦力を集中できるからな」
「なにをっ!!」
「いい加減にしろ。全てを救えはしない。戦力を分散しては、守れるものも守れなくなる。それはタナカ殿もわかるだろう?」
そこで意外なことに王様が田中さんに話を振る。
「ん? まあ、そうだな。現実的にすべての拠点を守れるわけがないからな。どこかに守備を固める必要がある」
「タナカ殿。それでは、ほかの場所が襲われたりすれば……」
「そりゃあ人は死ぬが、防衛に回っている戦力が後方を突ける可能性もあるから、必ずしも悪いとは言えない。いや、真っ向勝負の時よりも案外いいかもな」
「そんな……」
田中さんの非情な答えに愕然とするお姫様。
いや、田中さんっていつもこんな感じだよな。
「とは言え、防衛戦力をアスタリの町から引き離すっていう戦法もあり得る。そして、戦力が分散したところを叩かれて大被害。戦力を分けるってことはそれだけリスクの高いことだからな、そこを予想されていると終わりだな」
「ふむ。そういう可能性もあるな」
「とりあえず、お姫さんはここでルーメル王に文句を言うより、今の作戦の穴を突かれて不利にならないための情報を集めるべきだな」
「また情報ですか……」
「そう。何事も情報だ。相手の動きを知れば隙を突けるからな」
ぐうの音も出ないほどの正論。
敵を知り己を知ればってやつだよな。
そして、ここに来てようやく光が口をはさむ。
「となると、今度はどういう情報を調べればいいの? アスタリの町のこと?」
「でも、私たちがアスタリに行けば却って魔族を警戒させるという話ではありませんでしたか?」
「そうだよなー。なら、とりあえず、アスタリの町の地図とか、周辺の地形がどうなっているのかとか調べるのはだめかな? 近寄るわけじゃないし」
「そうだな。結城君の方向性でいいだろう。まずは、地形を把握する。戦いにおいては大事だな」
おお、適当に言ったつもりはなかったけど、当たるとも思っていなかったのが当たった。
「ほかの防衛準備に関する手伝いはあとでルーメル王に情報をもらえばいいだろう。今は俺たちが戦うかもしれない場所の把握だな。万が一の時は逃走経路も考えないといけないからな。というか、戦いばっかりに意識が向いているが、それ以外の方向も模索しないといけないから、これぐらいがちょうどいい」
「……確かに、もう防衛するつもりでいましたわ」
うんうん。今の話の流れだと、もう戦うこと前提だったよな。
なんか極端になっているな。いけないな。
「確かに、タナカ殿の言う通り、戦う以外の道がないとは言えないが、非常に厳しいと思うぞ」
王様は難しい顔をしながらそう言う。
まあ、確かに王様の言う通り、今までに判明した事を考えると、もう魔族との戦争は避けられない気がする。
今までこっちが散々挑発してきたようなものだしな。
だけど、田中さんはそんな王様の話を聞いても平然としていて……。
「やるのとやらないのでは大違いだからな。厳しいのは百も承知だが、血を流さずに済む可能性があるのなら、諦めるべきじゃないだろう」
「確かに。だが、戦いを避けられないと大多数が思っている中で、融和に力を割くものは少ない。それだけ、時間と労力を無駄にすると思っているからな。だからこそ、私もタナカ殿たちに大きな力を貸すことはできない。そして、下手をすると、勇者殿たちも防衛を妨げる敵として認識されてしまう可能性もある」
「それは分かっているさ。だから表向きはそちらの防衛を手伝う形をとるって言っているんだ」
あ、そっか。
だから田中さんは、防衛の準備を手伝うって話をしていたのか。
味方から襲われるなんて嫌だしな。
「よし、話をまとめるぞ。基本的にアスタリの町が仮想敵国、魔族から攻撃を受けやすい場所だ。ここに、ルーメル王たちは防衛のための戦力や物資を集積させている。そして、俺たちはその防衛準備を支援しつつ、魔族との和解の道を探す。ここまではいいな?」
「うん。話は分かったけど、結局さ。僕たちはどうすればいいの?」
「そうですわね。全体的な流れは分かりましたが、アスタリの町に近寄っては魔族を刺激することになるかもという話もありますし、何をどうすればいいのか、正直わかりません」
光や撫子の言うように、具体的に何をしたらいいのかはさっぱり分からない。
和解の道を探すっていっても漠然とし過ぎているよな。
「そこら辺を考えろよ。と言いたいが、そういう問題を出して悩んでいる時間はなさそうだから、率直に答えを言おう。宰相に会って、魔族と話ができる連中を紹介してもらう。あの村の村長より、何か情報を握っている奴がいるだろうさ」
なるほど。確かに、あの宰相なら付き合いがある魔族はいるかもしれない。
「あ、そっか。あの宰相なら色々知ってるかもね」
「いないなら、いないで、村長さんに色々情報提供を求めるというのもありですわね」
「でも、今までのことで、大人しく教えてくれるかな、あの宰相」
今まで散々こっちを良いように扱ってきたんだ。
「防衛に手を貸すといえば、教えてくれるだろうさ。ま、別に教えてくれなくても、それはそれでいいけどな」
そう言って、笑う田中さんには銃が握られているから、やっちまう気満々だよなー。
これは普通喋るだろう。
「ということで、俺たちは宰相に会ってくるが、いいよな?」
「お手柔らかにな。そして警戒してくれ。一度は魔族を使ってタナカ殿たちを暗殺しようとした事実には違いはない。あの男は執念深いぞ?」
「そうでもなけりゃ、宰相になんぞなれてないだろうさ」
こうして俺たちはまた、あの性悪宰相の元へと出向くのであった。
国としては、まあ当然の動き。
敵は倒す。それだけ。
地球での会話で解決しようとするのは、平和を求めてじゃない。
汚い話になるが、横やりが入ってくるから。
大義名分を与えてしまうからね。
でも、こっちの世界じゃ、魔王は悪いという図式が出来ているから、そういう反発は低いってこと。
そして、下手に魔族と和解とかすれば、敵としてみられるという素晴らしい包囲網。
魔族側も必死になるわけだよね。
で、タナカたちは、再び宰相のところへと向かう。




