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異世界での職業適性  作者: 子儀
1章 異世界への移住者募集中
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18話 灯火の魔法使い

すみません、異世界に召喚されていたんで遅くなりました。

 

「提案しておいて何だが、えげつないなー……」

 小鬼(ゴブリン)が一通り片付いたので火壁を解除してみれば、そこに残るのは点々と連なる死骸の道。それをたどって、武器を収めたモミさんがこちらへと戻って来た。

「いやー、さすがに暑かったわ」

 パタパタと手で仰いでいるが、額にはびっしりと汗が浮かんでいる。殆ど炎の中を駆け抜けたようなものなのだから、それは暑くもなるだろう。

 彼が肩に担いだ盾を見てみればその表面には幾つもの弾けたような血の痕が残っており、その臭いに少し気分が悪くなったが意地でも顔には出さない。

「それにしても大した体力だな」

「お、そうか?」

 感想を述べると、ちょっと嬉しそうな表情になった。

 ただ体当たりで吹き飛ばすだけならともかく、重装備のまま衝突の衝撃にまったく勢いを緩めずに駆け抜けるというのは、相当な膂力と強靭な足腰でも無いと真似出来ないだろう。さらに言えば右手の長剣などは、振り回すならともかくあんな使い方でダメージを与えられるとは思っていなかった。

 俺もモミさんも、<突進(チャージ)>は覚えたばかりなので共に最低のD-。だがこの威力からするに、スキルを使った時の効果はそのもののランクだけでなく使用者の基礎体力が結構な影響を与えるようだ。

 

 内心でこの世界の仕組み(スキル制度)について整理していると、くいくいと袖を引かれた。振り返れば、再開した時のドン引きぶりが嘘のような間近で、ルシャがじっと見つめていた。

「魔術……使えるの?」

「ん? あぁ、そうそう。1週間ずっと……じゃないけど、ちょっと実験して使えるようになった」

 ポケットから取り出してぴらぴらと振ってみせたスキルカードにはしっかりと、

 

 ◆称号

 灯火の 魔法使い

 

 最初に[火壁]の発動に成功してこの称号を手に入れた時は、これでようやく堂々と人様に見せられる物になったと小躍りしたものだ。

 実際の所は本腰を入れてあれこれ試した訳ではないので、現状使えるのは先日ルシャが使った2つの魔法と同系統の[火壁][火弾]の2つだけ、というのが少々情けない限り。称号の“灯火”というのは火系の入門者にあたるものなのだろうか。他の属性だったら何だったろうな。氷系で……“低温の”とか? 

 うわ、ダサすぎる。良かった、火で。

 

 ファンタジー物で定番の魔法には様々な設定(法則)があるとは思うが、その大半に共通するのは“呪文”の存在だろう。例外としては道具が必須だったり、呪文はイメージの補助的なものに過ぎなかったりというパターンもあるが、幸か不幸かこの世界では呪文そのもの……というより、呪文として使用される言語に意味があるらしい。

 そして“言語”である以上は、この世界に来てからある意味最も世話になっている恩恵(ギフト)、【異国語理解】の対象となるのだ。

 この恩恵(ギフト)、あまり意識していなかったが効果はあくまで異国語“翻訳”ではなく異国語“理解”である。思考自体は慣れ親しんだ日本語ベースで行なっているが、会話はこの世界……少なくともこの地域で使用されている公用語で行なっている。なのでルシャ唱えた呪文を聞いたとき、それが普段会話で使っている言語ではないこと、そしてその意味が俺には理解できるという2つの事に気がついたのだ。

 そして同時に感じたのが、「まだるっこしい言い回しをしているな」という事だ。

 “詩的”と言えば聞こえはいいが、例えるなら「火」という単語を使わずに「火」という概念を表現しようとしているようなもの。最初はわざとそのような言い方にしているのかとも思ったが、何音節も使っている詠唱部分を試しに「火」に相当する単語で言い換えても問題なく魔法として発動したのだ。

 つまりはあの長ったらしい詠唱は、語彙が足らないという問題が原因の多くを占めているという事のようだ。

 ただ、意味が理解できるからといって思いつくままに詠唱を並べてみても上手く魔法として発動しなかったので、他にもルールがあるのだろう。【異国語理解】だけで自由自在といかないのは、同じ日本語でも状況によって適した言い回しがあるのと同じものなのかもしれない。

 だんだん面白くなってきたので色々と実験してみたい所ではあったが、没頭すると肝心のスキル集めが疎かになってしまうので今は泣く泣く断念した。時間が出来たら改めてやるぞー。

 

「……というわけで、ルシャの詠唱で覚えていた部分をベースに、どうしても思い出せなかった部分は適当にアレンジした上で再現してみました」

 【異国語理解】の部分は適当にごまかした上での大雑把な説明を、ルシャはぽかんとした表情で聞いていた。

「……はぁ、思っていたよりもずっと規格外のようね、あなた」

「んー、でも結局語彙の問題さえ解決すれば後は大した事したわけじゃないしなぁ」

 魔法を再現するための労力はともかく一番大変そうな部分を恩恵(ギフト)であっさりスルーしてしまった身としては、感心されてもいまいち素直に受け止められないというか。カンニングで満点とって褒められたような心境というか。

 同じようにこの世界に来た連中もみんな【異国語理解】持ってそうだしなぁ。こういう使い方をしたかどうかはともかく。

「その源語を解析するのにどれだけの人が苦労してるか……」

 はぁ、と溜息をついた。

 ちなみに源語とは、詠唱に使っていた言葉のことだそうな。この世界のあらゆる言語の源になった言葉、という意味らしい。

 そういえば解析ってどうやってるんだろうな。異国語であればそれを使用する相手とのコミュニケーションを介して少しずつ翻訳していくこともできるだろうけど、源語は何を持ってして音と意味の整合をとっているのだろうか。

 途中で思考が脇道に逸れてどうでもいいことを考えていると、何やら躊躇ってていたルシャがおずおずと口を開いた

「……それで、なんだけど。今度良かったら私に源語を教えてくれないかしら」

「え?」

 随分と小さな声だったので思わず聞き返すと、彼女はわたわたと慌てたように両手を振った。

「も、もちろんタダとは言わないわ。知られてない源語にどれだけの価値があるか分かっているつもりよ。私の出せるだけの対価は払うつもりだし、教えてくれるのはそれに見合うだけで構わないわ」

 そして赤い顔でそっぽを向き、ポツリと小さな声で付け加える。

「……それでも足りないのなら、わ、私を好きにしてくれてもいいから……」

「いやいやいやいや」

「そ、そっちを教えるのに夢中になられても困るけど……」

「待て待て待て待て」

 いきなりなんて事を言うんだこの幼女様は。

 源語の価値がどれ程のものかはさっぱり分からないが、この様子を見ると相当なものなのだろうか。ルシャからしてみれば自分が出せる一番の価値があるものは自分自身だということか。

 高く評価してくれるのは有難いのだが、評価を素直に受け取ると今度は俺の評価がだだ下がりするというジレンマ。世間体的な意味で。少なくとも孤児院は叩き出されるなー。

 以前、下ネタが嫌いと聞いたけれど、潔癖な理由から苦手なんじゃなくてつい妄想爆発するベクトルで苦手なのか。それはむしろ好きと言うんじゃなかろうか。無表情のまま顔真っ赤にしてる様子から推測するに、以前の反応は照れ隠しだったのかもしれない。

 

 何やら不穏当な発言をボソボソと囁いてくるルシャをどうしたものかと悩んでいると、小鬼の死骸を調べていたモミさんがこちらに歩いてきていた。もじもじしてるルシャを見て首を傾げる。

「ルシャはどうしたんだ?」

「持病の発作っぽいぞ」

「へー」

 何だかよく分かってなさそうだけど問題ない。俺も適当に言っただけだ。

「ところでそれは?」

 モミさんが片手にぶら下げた、幾つかの小さな装飾品に気づいた。

「これ? 戦利品。たまにかっぱらった宝石とか持ってるやつがいるんだ。獣とかと違って素材も取れないんで、こういうので細かく稼がないとな」

 それじゃあ、ほとんど狩り損なのか。

「ただ、あいつら光物が好きだけど光ってればそれでいいみたいだからゴミも多いぜ」

 カラスかよ。

 そのくせ数は多いわ好戦的だわ臭いわで、ホント厄介な奴らだ。

「今度出くわしたら、適当にガラス片でもばら撒いてやればそっちに行くんじゃないのか」

 投げやりにそう言うと、モミさんは「おぉ」と呟いて手を打った。

「それは行けそうだな」

「行けるのか!?」

 前言撤回。ちょろいな、ゴブ。

 

「ところで、なんだが」

 いくつかの戦利品を荷物にしまい込むと、モミさんは傍に転がっていたゴブの死体をひっくり返した。

「普段こんな所まで出てこないゴブがいた事を考えると、多分何かから逃げてきたんじゃないか。こいつらも森から出てきたばかりみたいだし……」

 そう言って手にとったのは、小鬼の身体に引っかかっていた幾つかの木の枝。差し出された物をよく見てみれば、その断面はまだ湿っており、折れたばかりのもののようだ。

「……随分森も騒がしくなってきてるから、そろそろゴブを追いかけてきた奴が出てくるかもしれないぜ」

 そう言いながら、背中に担いでいた盾をよいしょと下ろす。それを合図にしたわけでも無いのだろうが、精々100m程度の距離にある森の中から、モフモフ……というよりはボフっとした汚い巨大毛玉がいくつも飛び出してきた。大きさは平均してサッカーボール大。

 ボフンモフンと幾つもの毛玉が四方に跳ね回りながら次々と飛び出し近づいてくる様子はある意味ファンシーなものだったが、毛玉の中から飛び出した長いしっぽと、その先に光る大きな刺を目の当たりして緊張が走る。

「なんだよ、あれは?」

「俺だって知らんよ」

 森の方はほとんど行ったことないからな。そう言いながら盾を持つのとは反対の手で、まだ悶えるルシャの襟首を猫を持つようにひっつかむと背後にいるこちらへと軽々放り投げる。

「ひぅっ!」

「ナイスパス」

 ぞんざいな扱いに抗議の悲鳴をあげるルシャが、狙い過たず俺の腕にすっぽりと収まる。子供のように高い体温と華奢な感触に少し驚きつつも傍らへと下ろし、まだほとんど使っていない小剣を身構えた。

 小鬼よりも遥かに速い動きと、跳ね回る故に捉えにくい軌道。おまけに数が多い。これはさすがに後方支援なんて言ってのんびりしていられないな。

 森から出ててんでバラバラに跳ね回るうちの半数はそのままスルーして跳び去っていったが、残りは目の前に立つ俺等に気づいて一気に集まってくる。

 むしろこういう奴らを“炎の道”で一網打尽にしてやりたかったのだけど。半分奇襲を受けたような形で、ルシャも詠唱を始めたばかり。そもそも“炎の道”作戦は散らばる前に先手を撃たないと効果が薄いのが難点だ。

 [火壁]を盾にすることも考えたが、ルシャならともかく俺が使っても高さが無くあっさり飛び越えられてしまいそうだ。むしろ視界が遮られた上で頭越しに狙われるのが怖い。

 ――それに、もう間に合わない。

 詠唱するルシャに死角から飛びかかる毛玉を何とか小剣で叩き落とし、右手に伝わる古タイヤのような弾力と、重い衝撃に眉をしかめた。

 あー、これは斬れないわ。

モミさんは物理的に暴走するタイプですが、ルシャさんは精神的に暴走するタイプのようで、ベクトルは逆ですが案外似たもの姉弟なのかもしれません。

しかしどっちも火力過剰気味で、パーティーとしてはいまいちバランスが良くないです。

フォロー出来るようになるのかなぁ

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