表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/65

最終話. 風の吹く丘

 心地良い風がふわりと吹き抜け、辺り一面に咲き誇る色とりどりの花々が一斉に踊る。甘く爽やかな香りが漂う中、全速力で走るシャルロットの後を追う二人の男の子。きゃあきゃあと声を上げ、満面の笑みではしゃぐ子どもたちの後を必死で追いかける。


「シャルロット、エミール、ロラン!そんなに速く走ると転んでしまうわ!気を付けて」


 ハラハラしながら後を追う私のことなどお構いなしに、三人はふざけ合いながら目的地に向かって一直線だ。カロルとルイーズが慌てて子どもたちの後をついていってくれる。シャルロットなんてもう7歳にもなるというのに、いつまでもお転婆すぎて困ってしまう……。一体誰に似たんだか。

 そう思う反面、私の7歳のころとは比べ物にもならないくらいに、毎日元気いっぱい笑顔で過ごしている愛しい娘を見ていると、心の底から安堵する自分がいる。この子の人生は幸せなものなのだと。


「そんなに心配するな。転んでもどうせ大した怪我にはならないだろう。これだけ草が生い茂っているのだからな」


 そう言って私の後をついてくるマクシム様の腕には、まだ1歳にもならない次女のアリス。マクシム様はまるで小ぶりな花束でも抱えるかのように、片腕で軽々と娘を抱いている。


「……そうですわね。ふふ。つい過保護になってしまうわ」


 そう返事をし、私はマクシム様と並んで三人の後を歩いていく。




 南方の別邸近くにある、湖が見える小高い丘の上。そこが私たちの最初の目的地だった。


「おじいさまー!おばあさまー!ごきげんよーう!」

「ごきげんよーーーう!あちょびにきたよ!」

「たよー」


 三人がそれぞれ元気いっぱいに声をかけたのは、私の両親が眠る場所。バロー侯爵夫妻の墓は今、美しい景色が見渡せるこの花々の中にあった。


 オーブリー子爵夫妻のことを調べてくれていた頃、マクシム様はひそかに、私の両親の墓についても探してくれていたのだった。そしてかつてのバロー侯爵領の片隅に両親の墓があることを知り、シャルロットが生まれた後、このナヴァール辺境伯領の南方にある、見晴らしのいい美しい場所に父と母を連れてきてくれた。私がいつでも両親に会いに来られるように、そして父と母が、私たちをそばで見守っていてくれるようにと。


 三人の子どもたちはお墓参りもそこそこに、もう辺りを駆け回っている。……お父様とお母様は、見てくれているかしら。健やかに成長し、毎日を精一杯生きているこの子たちの姿を。


「元気なものだ」

「ええ。……きっとあなたの子どもの頃も、あんな風だったのでしょうね。ふふ」


 そう言って、私はマクシム様にそっと寄り添う。するとマクシム様は私を抱き寄せ、アリスを片腕に抱いたままそっと私の額にキスをする。アリスはキョトンとした顔で私たちを見ていた。可愛くてつい笑みが漏れる。


 それから思う存分走り回り遊び転げる三人を、しばらく一緒に見守った。ある程度時間が経ち、マクシム様が子どもたちに声をかける。


「お前たち、戻ってこい!お祖父様とお祖母様にもう一度ご挨拶をするぞ」

「はぁい!」

「はーい!」

「あいっ」


 7歳と5歳と3歳が父の声にそれぞれすばやく返事をし、慌てて戻ってきた。マクシム様は普段とても温厚で子どもたちに優しいけれど、怒るとものすごく怖いものだから、三人は彼の言うことには逆らわない。




 家族六人で、お墓の前で祈りを捧げる。するとその時、優しく温かな風が私たちの周りをふわりと吹き抜けた。

 ふいに例えようのない幸福感に満たされ、涙がこみ上げる。


(……また来るからね、お父様、お母様。子どもたちを、マクシム様を見守っていてね)


 いつもずっと。

 私もあなたたちのことを、ずっとずっと想っているわ。


「……では、そろそろ行くか。もう一人のお祖父様とお祖母様にも顔を見せなければな」

「わぁーい!行こう行こう」

「ねぇ、今回は何日お泊りできるの?お父様」


 はしゃぐ男の子二人と、マクシム様にそう尋ねるシャルロット。マクシム様は、さぁ、三日ぐらいかな、などと返事をしながら馬車を待たせていたところまで戻り、三人を順に乗せていく。


「……おいで、エディット」


 昔から変わらぬ優しい瞳で私を見つめ、手を差し出してくれるマクシム様。その手に自分の手を重ねると、マクシム様は私の指にそっとキスをした。


 私たち家族が乗った馬車が、ゆっくりと動き出す。




 真っ青な空の下、子どもたちのはしゃぎ声の中、馬車は弾むように進んでいく。

 花々が踊る小高い丘が、だんだん遠くなっていった。






   ーーーーーー end ーーーーーー







 最後まで読んでくださった皆様、ありがとうございました。


 面白かったよ!と思っていただけましたら、ぜひブックマークしていただいたり、下の☆☆☆☆☆を押していただけますと、この上ない創作の励みになります。

 よろしくお願いいたします(*^^*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ