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53. 恫喝

 マクシム様が私のそばを離れ、広間の中央に進み出る。国王陛下のお言葉に落ち着いた様子で挨拶を返し、そして私の育ての家族、オーブリー子爵一家を自分のそばに呼び寄せた。オーブリー子爵と子爵夫人、そして娘二人もそれぞれの夫と思われる男性を伴い、皆まんざらでもなさげな顔をしてゆっくりとマクシム様の元に進み出てくる。

 今、会場中の視線が一斉に彼らに向いている。

 その様子を、私は離れたところで椅子に座ったままドキドキしながら見つめていた。


(マクシム様……、一体何をするつもりなんだろう……)


 マクシム様は言っていた。私の大切な人たちに手をかけたことを、そして長年私を苦しめてきたことを、彼らが最も苦しむ形で後悔させてやりたい、と。


「さぁて、どうなることやら。楽しみですねーエディットさん。まぁ気楽に見てたらいいですよ。どうせ団長は自分の気の済むようにやるんですから」

「エディット様、寒くはございませんか?」

「……だ、大丈夫よ」


 セレスタン様やカロルたちは、私が不安にならないようにと気を遣ってくれているのだろう。小さな声で時折話しかけてくれる。半分上の空でそれに返事をしながら、私は食い入るようにマクシム様と彼らを見つめていた。

 ツンと澄ましかえった表情で周囲の視線を受け止めているオーブリー子爵一家にマクシム様が言った。


「こうしてあなた方とお会いするのは随分久しぶりだ。以前お会いしたのは一年ほど前だったか。今夜と同じように、この王宮で開かれた夜会の日だった」

「さようで。このたびは誠におめでとうございます。大切な娘の夫となられたお方の素晴らしい武勲を、こうして共に祝うことができ、我々オーブリー子爵家もこの上ない喜びに感じておりますぞ」


 “大切な娘の夫となられたお方”というところで、オーブリー子爵の声が少し大きくなる。まるでこの大広間の貴族たちに知らしめるかのように。不快さに、お腹の中が熱くなる感覚がした。……大切な娘……?どの口でそんなことを言うの……?あなたたち一家が私を大切に扱ってくれたことなんか、ただの一度たりともなかったのに。


 私がそんなことを考えたその瞬間、マクシム様が言った。


「ほぉ、大切な娘、か。不思議な話もあるものだ。あなた方は大切な娘を15年間も屋敷の中に閉じ込め一歩たりとも外には出さず、人目につかない場所で虐待の限りを尽くし苦しめながら育てたのか。変わった愛情表現もあるものだな」

「…………。……は……」


 ざわ…………。


 マクシム様のその言葉に、会場の空気が張り詰めた。そしてあちこちでざわめきが起こる。一気に不穏な空気になり、辺りに緊張が走った。オーブリー子爵と子爵夫人の表情が強張る。


「……な……、何を仰るか、ナヴァール辺境伯閣下。全く意味が分からな……」

「妻が嫁いできて以来あまりにも不審な点が多いことに気付き、時間をかけて何もかも調べさせてもらった。オーブリー子爵、そして子爵夫人。あなた方はバロー侯爵夫妻の死後エディットを引き取り侯爵家の財産を得、それらを全て自分たちのために浪費した。上手くいっていなかった領地経営の資金にまわして食い潰し、さらに様々な贅沢費としても金を使い切った。そしてエディットに余計な知識をつけさせないようにと屋敷の中に閉じ込め、折檻の恐怖で彼女を抑えつけた。日に二度だけの粗末な食事を与え、朝から晩まで過酷な労働で酷使し、教育さえ何一つ受けさせず、地獄のような生活を彼女に強いた。……間違いないな?」

「な……っ、な、何を……、……くっ……!」


 愕然とした顔でマクシム様を見上げていた子爵夫妻は、揃って私の方に視線を向ける。血走った目でギロッと強く睨みつけられ、恐怖で一瞬息が止まった。


 すると、


「その薄汚い目で俺のエディットを見るな!!」


(…………っ!)


大広間全体に響き渡る大きな声で、マクシム様が子爵夫妻を怒鳴りつけた。そのあまりの迫力に、またも広間は静まり返る。時間が止まったかのように、誰一人物音さえ立てない。

 二人はビクッと大きく飛び上がり、震えながらマクシム様の顔を見上げている。オーブリー子爵の額にはすでにびっしりと汗の粒が浮かんでいた。

 マクシム様は凍りつくような冷たい目で二人を見下ろすと、死の宣告のように言い放った。


「二度とエディットの顔を見るな。これまで貴様らがやってきたように彼女を怯えさせ、抑えつけるような真似は許さん」

「……っ、」


 オーブリー子爵と子爵夫人は、彼のその言葉を聞いてゴクリと喉を鳴らすと、そのままぎこちない動きで目を伏せた。






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