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47. マクシム様の執念

 人払いをした部屋の中で、マクシム様はソファーに腰かけた私の手をそっと握り、静かな口調で語りはじめた。


「お前に言っていなかったことがある。……実は、お前があのオーブリー子爵家で過ごしていた頃のことを、俺に打ち明けてくれたことがあったろう?お前がどんな風に暮らしてきたのか。奴らにどんな目に遭わされてきたのか」

「……はい」

「それと前後して、俺はその頃人を使って調べはじめていた。お前の様子がおかしいことや、他にもいろいろと疑問に感じることがあってな。オーブリー子爵夫妻が一体どういう人物なのか、何故お前を屋敷に閉じ込めたまま一度も外に出さなかったのか、……どうしても腑に落ちなかった」

「……。」


 そうか……。

 やっぱりマクシム様は、私の様子から何か感じることがあったのね。子爵夫妻に言われたとおりに隠したって、この人にはバレていたんだ。

 マクシム様は続ける。


「ひそかに調べていくうちに、お前が話してくれたように、長年お前を痛めつけ傷付けてきたこと、そして、その他にも奴らが許しがたい悪行を働いた可能性が高いことを知った」

「……悪行、ですか……?」


 私が問いかけると、マクシム様は少し悲しげな、苦しそうな顔になる。そのお顔を見ているだけで、なんだか不安で私まで胸が苦しくなる。


「マクシム様……?」

「エディット、今から話すことは、あくまで俺の推測だ。決定的な証拠はない。……落ち着いて聞いてくれ。お前がこれ以上聞きたくないと思ったら、話すのは止める」

「……はい」


 そう言うとマクシム様は、にわかには信じがたい話を始めた。私の両親、バロー侯爵夫妻の滑落事故の真相と思われる、オーブリー子爵、もしくは子爵夫妻の企みと悪事。子爵が私の両親の死に関わっていると判断できる、当時の使用人たちの数々の証言。そしてその頃の子爵夫妻の借金や浪費癖、事故後の私の身元引き受けや財産の相続。

 途中何度も私の様子を気遣いながら全てを話し終えたマクシム様は言った。


「奴らがバロー侯爵夫妻を死に追いやったのだとすれば、全ての行動に辻褄が合う。お前を屋敷から一歩も外に出さなかったのも、いずれ成長したお前が周囲から様々な情報を得ることで、自分たちの悪事が露呈するのを防ぎたかったのかもしれん」

「…………。」

「……大丈夫か、エディット」

「……はい……」


 マクシム様の問いに無意識にそう答えながらも、あまりの衝撃に呆然としていた。信じられない。信じたくない。ずっと私を虐げ続けてきたばかりか、まさか……お父様とお母様を、財産欲しさに殺した、なんて……。

 

 それが真実なら、そんなの、絶対に許せるはずがない……!


 ブルブルと全身を震わせながら怒りと悲しみに耐える私を、マクシム様は優しく抱きしめ、背中をゆっくりと擦ってくれる。


 私が少し落ち着きを取り戻した頃、マクシム様は静かな声で言った。


「妻の養家ということで、祝賀会にはオーブリー子爵家の面々も招いてもらい、皆の前で俺なりの断罪をしたいと思っている。エディット、一緒に来てくれるつもりがあるのなら、俺はお前の前で今まで一度も見せたことのないような顔を見せてしまうことになるだろう。きっとお前を怯えさせてしまう。……だが、何事もなかったように奴らをこのままのさばらせるつもりは、俺にはない。お前の大切な人たちに手をかけたことを、そして長年お前を苦しめてきたことを、奴らが最も苦しむ形で後悔させてやりたい。それを諦める選択肢は、俺にはないんだ。……エディット、もう一度聞くが、それでも俺と一緒に来るか?この屋敷で静かに俺の帰りを待っていてもいいんだぞ」


 言い聞かせるようにじっくりとそう説明するマクシム様の顔は、もうすでに恐ろしい。グレーの瞳の奥にある銀色の光は怒りに燃えていて、静かに揺らめく炎のようだった。そしてその怒りは、全て私のためのものだった。

 その瞳をしっかりと見据え、私は迷いなく答える。むしろより強く、私の意志は固まっていた。


「お供させてください、マクシム様。私はあなたと一緒に行きます。あなたのそばで、全てを見届けます」


 私のために怒り、あの人たちを罰しようとしてくれているマクシム様。

 彼がその時何をするつもりなのか、どう罰するのかは分からないけれど、私はそんなマクシム様のおそばにいたいと思った。


 私の返事を聞いたマクシム様は、しばらくするとフッと微笑み言った。


「……そうか。決意は固いようだな。……分かった。お前の体に決して負担がかからない行程を組もう。それと、お前の気持ちを落ち着かせてくれる供もちゃんと連れて行かないとな」






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