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24. 照れる二人

「……勉強?やりたいことが、勉強なのか?」


 怪訝そうなマクシム様に、私は言った。


「はい。私はこれまで、学園に通ったり家庭教師や教育係をつけてもらったことがありません。だから、他のご令嬢方が嫁ぐまでに学んでいる様々な知識を、何も持たないままここへ来てしまいました。……あ、あの、本当に体が弱かった、ので……」

「……なるほど」

「ですから、これからマクシム様の妻として、領主の妻としてやっていく上で必要なことを学ばせていただきたいんです。きっと今のままでは……私はろくなお手伝いができない気がします……」

「……。」


 マクシム様は私をジッと見つめたまま、何も言わない。この方ならこんな私のことを受け入れてくださるんじゃないかと思って、勇気を出して言ってみたけれど……やっぱり失敗だっただろうか。


「あ、呆れましたか……?ごめんなさい、何も知らない妻で……。ずっと、寝たきりだったものですから……」

「いや、そんなはずがないだろう。むしろ嬉しく思っているよ。お前が俺の妻であるためにそんなにも前向きでいてくれることが。……分かった。なら良さそうな教育係を探させよう。一言で教育と言っても学習科目は多岐に渡るだろうし、いろいろやってみて、お前が特に興味を持ったものを重点的に学ぶのもいい」

「あ、ありがとうございます、マクシム様!」


 マクシム様のその返事が予想以上に嬉しくて、胸が高鳴った。勉強させてもらえる……!人生で初めての経験だ。厳密に言えば、実の両親の元にいた時に誰かから行儀作法などを教えてもらっていた気がするけれど、それらはもうほとんど記憶にも残っていない。頑張ってしっかり勉強しよう……!私もマクシム様のお母様のように、領主の妻として夫を支えられる妻になりたい。

 私にこんなに優しくしてくれる、マクシム様を支えられる妻に……。


「じゃあ、俺はそろそろ出かけてくる。お前は好きなことをしてゆっくりしていろ。何かあったらフェルナンに言え。また帰ったら今日の話を聞かせてくれ」

「は、はい。……あ、あの、マクシム様」

「?どうした?」


 いつものように私を気遣う言葉をかけてくださった後、さっさと食堂を出て行こうとするマクシム様を呼び止めると、私は言った。


「あの……っ、手に塗る、あのクリーム……、ありがとうございました。う、嬉しかった、です。……すごく……」


 ……やだ……。まだちゃんとお礼を言ってなかったから伝えたかっただけなのに……、また思い出してしまった。

 マクシム様にクリームを丁寧に塗られた時の、あのぞくぞくするような妙な感覚と、自分が変な反応をしてしまったことを。


「……ああ……。毎日何度かこまめに塗るといい。……時間がある時は、俺が塗ってやるから……」


 私から顔を背けるようにして完全に向こうを向いてしまっているマクシム様の声が、なぜだか少し上擦っている。


「はい。ありがとうございます。……あと……、あの、玄関ホールまで、お、お見送りさせてください……」

「……。……ああ」


 ドキドキしながらそうお願いしてみると、マクシム様の耳朶がほんのりと赤く染まった。






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