表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョン仕草  作者: 埴輪庭


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/59

第21話:アヴァロン大迷宮第5層【血渇円堂】

 ■


 アヴァロン大迷宮第5層【血渇円堂】。


 なぜそんな物騒な名前が付けられたかは定かではないが、この階層は迷宮型ではなくただの円形の広間である。


 だが……


 5層へ足を踏み入れた君は、くふっと笑った。


 なんとまあ、分かりやすい殺気を馳走してくれるではないか。


 キャリエルは落ち着かなげに辺りを見回している。


 ルクレツィア、モーブも不穏な何かを感じている様だ。


 前方からコツコツと石畳を歩く音が聞こえてくる。


 ──ひひっ……


 ──うふふ。歌がァ……聞こえるなァ……


 やがて足音の主が暗がりからゆらりと姿を見せた。


「エリゴス・ハスラー……。なぜ貴方が……?」


 ルクレツィアが警戒を露に眼前の人物へ問いかける。


 だが君は腕を伸ばし、ルクレツィアが前へ歩み進もうとするのを止めた。


 同時に前方の空間へ鋭い蹴り上げをくれてやる。


 硬質な音が鳴り響き、剣が迷宮の壁へ叩きつけられた。

 ルクレツィアが目を見張る。


 目の前には既にエリゴスが立ち、剣を突き出す体勢で固まっていたからだ。


 ルクレツィアの目にも見えない速さで突き出された平突きを、君の蹴りが弾き飛ばしたのだ。


 君は顎をしゃくり、剣を拾いにいけと合図をする。


 それなりに磨いたのだろうな、と君は思う。


 少なくとも、マスタークラスへ辿りついたばかりの戦士程度では歯が立つまい、とも。


 余裕をかます、相手を舐めている……そういう訳ではないのだが、この先の敵手の格……階梯を知って置きたいと君は思った。


 目に見える階梯と目に見えない階梯がある。


 キャリエルが良い例だ。


 彼女は階梯より大分強い。


 だから有無を言わさず打ち殺すことはやめにして、それなりに見せ場を作ってやろうと思ったのだ。


 相手に何かしら隠し札があったとして、使われる事を込みで考える。


 その上でそれなりに梃子摺る様ならば一時撤退し、研鑽を積んでから出直すという手もある。


 君はモーブから剣を借りた。。


 君の剣の腕はそれなり以上だが、魔法のそれには劣る。


 開幕『核炎』で吹き飛ばしても良かったが、迷宮についての情報を君は求めていた。


 だから殺さない程度の剣で相手をしてやろうという事だ。


 すると君の態度が癪に障ったか、エリゴスという剣士から先程までの狂を発した様な態度が抜け落ち、いまや険しい凶相とも言うべき表情で君を睨みつける。


 ゆらり


 君は体の力を抜いた。


 殺さない程度の剣で相手をしてやるつもりだが、と君は嘯く。


 ──お前が想像以上に弱いせいで死んでしまっても、責任は持たない……


 君の腕がぶるりと震えたかとおもうと、ひゅん、という音と共に振るわれた剣がエリゴスの胴を横薙ぎにしようとする。


 その速度は大して早いものではなく、エリゴスは疎か、キャリエルですら見切る事ができた。


 それでもエリゴスは君の剣をかわすことが出来なかった。


 なぜなら、君の振るった剣の剣先が巻いたからだ。


 いや、実際に形状変化を起こした訳では無い。


 剣が巻いたように見えたのは、脱力状態から振るった剣に君の腕が引き起こした波のような細かい動きが伝導したせいだ。


 剣を握った腕そのものを一本の武器と見做し、その根元(腕の付け根)からブレを伝導させ、剣そのものがあたかも湾曲したかに見せる。


 振るう速度が遅いのは、遅い方が湾曲の度合いが強くなるからだ。


 ライカード魔導部隊屈指の剣達者であるサムライ・マスターが編み出した幻惑の斬撃、これを斬法・曲がり月という。


 魔導部隊なのに剣術なのかという指摘もあるかもしれないが、件のサムライ・マスターは魔法使いとしても熟達しているので全く問題ない。


 君の剣はエリゴスの胴に深々と食い込み、それだけに飽きたらずばっさりと切り飛ばしてしまう。


 あれ? と君は思った。


 そこまで反応が鈍い相手でも無さそうだったのだが、と。


 斬法・曲がり月は初見殺しの側面はあるが、所詮は戯れの剣である。


 余計な小細工などせず、真っ直ぐに振った方が剣は強いのだ。


 件のサムライ・マスターも、この技を編み出した後は以降使う事はなかった。


 君は新しい物好きのミーハーなので色んな技法を色んな場面で使いたいと思ってはいるが……。


「うっ!」


 モーブの呻き声。


 キャリエルやルクレツィアも手で口を押さえている。


 みれば、胴斬りにしたエリゴスの死骸の断面から白いうねくるう触手の様なものが何本も出て、上半身と下半身を接着しようとしていた。


 君はそうでなくては、と喜んだ。


 妙に反応が鈍かったのは、アレのせいなのだろう。


 恐らくは寄生されているのだろうが、生前ほどに体を上手く操縦できないのだろうなと君は考えた。


 優れた技というのは、精密な動作チェックの判定の先に現れる結果である。


 あんなものを宿していては、体の性能任せの雑な動きしか出来まい。


 そしてあのような動きでは、折角の名剣もその輝きが曇ってしまうだろうなと君は剣を惜しむ。


 見た所、少なくともモーブの剣よりは数段格上の剣だからだ。


 ルクレツィアに聞いてみると、あの剣は魔剣ローン・モウアという剣らしい。


 魔剣だの、聖剣だの……そんなもの……と君は言いかけるが、よくよく考えるとちょっと欲しくなってきてしまった。


 いや、ちょっとではない。


 むくむくと物欲がわきあがり、数瞬後には物凄く欲しくなってきてしまった。


 これはライカードの者の悪癖の様なものなのだが、兎に角物欲が強い。


 珍しい剣、珍しい鎧、珍しいアミュレット……こういったものに非常に目がないのだ。君だけではない、国民全体がそうなのだ。


 なんだったら明らかにガラクタであっても持ち帰り、鑑定代を積むという極まり具合なのである。


 君達が見ていると上半身と下半身はやがてぴったりと合わさった。


 エリゴスだったものはゆっくり立ち上がり、君に憎悪の視線を向ける。


 しかしその様な視線が君の心を震わせる事はない。


 君はただ浮かべるだけだ。


 薄ら寒い、殺しの笑みを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/30以降に書いた短編・中編

相沢陽菜は幼馴染の恋人・翔太と幸せな大学生活を送っていた。しかし──。故人の人格を再現することは果たして遺族の慰めとなりうるのか。AI時代の倫理観を問う。
「あなたはそこにいる」

パワハラ夫に苦しむ主婦・伊藤彩は、テレビで見た「王様の耳はロバの耳」にヒントを得て、寝室に置かれた黒い壺に向かって夫への恨み言を吐き出すようになる。最初は小さな呟きだったが、次第にエスカレートしていく。
「壺の女」

「一番幸せな時に一緒に死んでくれるなら、付き合ってあげる」――大学の図書館で告白した僕に、美咲が突きつけた条件。平凡な大学生の僕は、なぜかその約束を受け入れてしまう。献身的で優しい彼女との日々は幸せそのものだったが、幸福を感じるたびに「今が一番なのか」という思いが拭えない。そして──
「青、赤らむ」

妻と娘から蔑まれ、会社でも無能扱いされる46歳の営業マン・佐々木和夫が、AIアプリ「U KNOW」の女性人格ユノと恋に落ちる。孤独な和夫にとって、ユノだけが理解者だった。
「YOU KNOW」

魔術の申し子エルンストと呪術の天才セシリアは、政略結婚の相手同士。しかし二人は「愛を科学的に証明する」という前代未聞の実験を開始する。手を繋ぐ時間を測定し、心拍数の上昇をデータ化し、親密度を数値で管理する奇妙なカップル。一方、彼らの周囲では「愛される祝福」を持つ令嬢アンナが巻き起こす恋愛騒動が王都を揺るがしていた。理論と感情の狭間で、二人の天才魔術師が辿り着く「愛」の答えとは――
「愛の実証的研究 ~侯爵令息と伯爵令嬢の非科学的な結論~」

「逆張り病」を自称する天邪鬼な高校生・坂登春斗は、転校初日から不良と衝突し警察を呼ぶなど、周囲に逆らい続けて孤立していた。そんな中、地味で真面目な女子生徒・佐伯美香が成績優秀を理由にいじめられているのを見て、持ち前の逆張り精神でいじめグループと対立。美香を助けるうちに彼女に惹かれていくが──
「キックオーバー」

ここまで



異世界恋愛。下級令嬢が公爵令嬢の婚約を妨害したらこうなるってこと
毒花、香る

異世界恋愛。タイトル通り。ただ、ざまぁとかではない。ハピエン
血巡る輪廻~テンプレ王太子とお人よし令嬢、二人とも死にました!~

現代恋愛。ハピエン、NTRとあるがテンプレな感じではない。カクコン10短編に出したけど総合33位って凄くない?
NTR・THE・ループ


他に書いてるものをいくつか


戦場の空に描かれた死の円に、青年は過日の思い出を見る。その瞬間、青年の心に火が点った
相死の円、相愛の環(短編恋愛)

過労死寸前の青年はなぜか死なない。ナニカに護られているからだ…
しんどい君(短編ホラー)

夜更かし癖が治らない少年は母親からこんな話を聞いた。それ以来奇妙な夢を見る
おおめだま(短編ホラー)

街灯が少ない田舎町に引っ越してきた少女。夜道で色々なモノに出遭う
おくらいさん(短編ホラー)

彼は彼女を護ると約束した
約束(短編ホラー)

ニコニコ静画・コミックウォーカーなどでコミカライズ連載中。無料なのでぜひ。ダークファンタジー風味のハイファン。術師の青年が大陸を旅する
イマドキのサバサバ冒険者

前世で過労死した青年のハートは完全にブレイクした。100円ライターの様に使い捨てられくたばるのはもうごめんだ。今世では必要とされ、惜しまれながら"死にたい"
Memento Mori~希死念慮冒険者の死に場所探し~

47歳となるおじさんはしょうもないおじさんだ。でもおじさんはしょうもなくないおじさんになりたかった。過日の過ちを認め、社会に再び居場所を作るべく努力する。
しょうもなおじさん、ダンジョンに行く

SF日常系。「君」はろくでなしのクソッタレだ。しかしなぜか憎めない。借金のカタに危険なサイバネ手術を受け、惑星調査で金を稼ぐ
★★ろくでなしSpace Journey★★(連載版)

ハイファン中編。完結済み。"酔いどれ騎士" サイラスは亡国の騎士だ。大切なモノは全て失った。護るべき国は無く、守るべき家族も亡い。そんな彼はある時、やはり自身と同じ様に全てを失った少女と出会う。
継ぐ人

ハイファン、ウィザードリィ風。ダンジョンに「君」の人生がある
ダンジョン仕草

ローファン、バトルホラー。鈴木よしおは霊能者である。怒りこそがよしおの除霊の根源である。そして彼が怒りを忘れる事は決してない。なぜなら彼の元妻は既に浮気相手の子供を出産しているからだ。しかも浮気相手は彼が信頼していた元上司であった。よしおは怒り続ける。「――憎い、憎い、憎い。愛していた元妻が、信頼していた元上司が。そしてなによりも愛と信頼を不変のものだと盲目に信じ込んで、それらを磨き上げる事を怠った自分自身が」
鈴木よしお地獄道



まだまだ沢山書いてますので作者ページからぜひよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ