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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

歴史っぽいもの

幕末の聖女はおにぎりを差し出すだけじゃなく、麟太郎を呼びつける

作者: 陸 なるみ
掲載日:2020/12/26

これは「なろうラジオ大賞2」応募作品です。参加規定上、1000文字以下になっています。


 持久走中、心臓破りの丘頂上手前で、美弥(みや)は倒れた。

「ここ、苦の坂って名前、不吉〜」と思いながら。


「おみや、握り飯を皆に配れ」

 気が付くと目の前で、こどもの日コスプレ男が見下ろしていた。

 兜に甲冑、緋縅(ひおどし)、刀、本格的。


 隣の古いかまどでおばさんが飯炊き、自分は無数のおにぎりを作っている。

 武将の立ち姿の向こうには、境内らしい平地に足軽たちが座り込んでいた。


「炊き出しってやつ?」

 美弥は手の中のおにぎりを足元のおかもちに詰めて、

「よいしょ」と外に出た。


 元気な者が美弥の前に行列し、負傷兵にも配ってくれる。

 後ろではおばさんが次から次へと満杯のおかもちを運び出した。


「さすが彦根さま、白まんまがたんまり」

「ひこね?」


「変なモンペの嬢ちゃんは知らんか? お殿様は京の向こうから来ておられて」


「ま、待ったあーー!」


 美弥は自分の服を見た。

「ジャージ、うん、ヘンなモンペ。で、も、もしかして今、慶応二年水無月?」


 おにぎりに人心地ついた兵たちは爆笑しながら頷く。


「ヤバい……私の町が教科書に載る唯一の、長州戦争だよぉぉぉ!」

 美弥は坂を駆け上り、西を眺めた。

 眼下に蛇行する小瀬川(おぜがわ)は既に血の色。


 山寺に転がり戻って偉いさんに尋ねた。

「竹原さんは? 竹原七郎平(たけはらしちろべえ)さんはもう殺された?」


「ああ、あれは酷い。幕府の書状を掲げて馬で川渡ってるとこ、ずどーんと」

「西洋銃いきなりぶっ放して」

「朝敵長州も必死だな」


 朝敵が官軍に変わる前夜なんだよ!


 敵はもう渡河して潜んでる。

 この坂を利用して、銃撃ち下ろしの奇襲が来る。刀では相手にならない。

 撤退、ひとりでも生き延びること。


「逃げて! お願いだから!」

 美弥の声が寺に響いた。

「そうはいかん」


 美弥はせめてもと、寺の文机上に目についた写経用の紙をむんずと掴んだ。

芸州口(げいしゅうぐち)特産手漉き和紙! これを鎧の下、心の臓に当てて」


 皆に配り終わらないうちに、銃声がした。

「来た!」


「おみや、早く逃げなさい」

 そう言われて頷くわけにはいかない。


「殿様こそ江戸城に飛脚、麟太郎を召喚して!」

「麟太郎? もしかして、勝軍艦奉行殿か?」

「長州も勝さんは無視しない!」


「だが敵はこちらの伝令も撃ち殺す」

「そこは私が話を通すから!」


 美弥は苦の坂の、自分が倒れた辺りにふらりと立った。

 坂の頂点から、髪を、耳を銃弾が掠める。

 だが、この世のものでないとみたのか、次第に銃撃が収まった。


「私は既に死んでる筈」

 美弥は銃撃が起こした砂埃の中で不敵に笑った。

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― 新着の感想 ―
[一言]  読ませていただきました。 幕末、浪漫滾る熱い時代ですね。 感想が難しいっ(笑)。 大政奉還直前の話かな。 歴女の女の子が持久走で倒れ、長州戦争の真っ只中へ。 よく1000字の規定で書こう…
[良い点] 畳みかける感じ、 ドタバタと、戦乱の、騒然とした様子が、良かったです。 陸様は、歴史にも、お詳しい…。 博識ですね…。 僕は、歴史ものと、推理だけは、どう足掻いても、書けそうにないと、思い…
[一言]  拝読しました。 「あら? ホントに1000文字?」が最初の感想でした。  たっぷりとした感がありました。  濃密というのとは違う、なんというか、よく知ってられるものを描かれたのが影響し…
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