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Where Or When  作者: 春隣 豆吉
深緑色にとらわれて
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初めての苦しさ

 あまり寝ないでデザインを考えていたのがいけなかったのか風邪をひいてしまった。それを知ったフロリーがお見舞いに来てくれたらしいけど、兄が断ってくれたらしい。正直、助かった。

 寝込んでいる間もずっと考え続けた……フロリーのことは好きだ。ただ、その好きが幼なじみとして好きなのか、恋人になる対象として好きなのかの答えが出ない。

「フラン、熱が上がってるじゃないの。もしかして起きてデザイン画を描いてた?」

「…してないわよ」

「本当かしらねえ」

 母が何か言いたげだったけど、私は眠ったふりをした。


 2日寝込んだものの、すっかり回復した私はキワの洋服のデザイン画を完成させた。あとはこれをキワに見せて、フロリーの店で生地を購入するだけだ。

 フロリーと話すのはちょっと緊張するけど、彼も私も商人の子供だ。公私混同をしていては仕事ができないことはよく分かっているし、それで好機を逃すなんて愚かなことだ。

 私が出かける支度をして階下に行くと休憩のお茶を飲んでいた兄に声をかけられた。

「フラン、出かけるのか?」

「うん、ちょっとフロリーのところに行ってくる…お見舞いしてくれたお礼に」

「そうか。俺もフロリーもお前が風邪で寝込んだなんて10歳が最後だから驚いちゃったよ。お前、丈夫なのがとりえだからな」

「ちょっとー、それって元側室に言うセリフじゃなーい!!」

「おっと、それは失礼。でも、俺はいまだにお前がよく3年間も“しとやかに”側室ができていたことが信じられなくてさあ」

「……側室もいろんな人がいるから」

「…その間が何か怖いぞ」

 ふいに側室仲間の顔が浮かんだ。皆さん、個性的だったよな…料理好きで部屋に台所作ってもらったとか、朝から王宮植物園に行きっぱなしで夕方まで帰ってこないとか、国中の茶葉を集めて日々お茶の研究とか。正妃になるグロリア様にいたっては側室になったばかりの頃、勝手に宰相室の職員としてばりばり働いてたらしい。念入りに変装して名字まで親戚のに偽装して…変装に協力したのがヴィンシェンツ様で、その動機が“グロリア様の頼みがおもしろそうだったから”と聞いたときの陛下はあごが外れるかと思うくらい衝撃をうけた顔をしてたらしい。

 陛下に泣かれて渋々職員を辞めたグロリア様は図書室の主状態で、その後私たちが側室としてやってくると惜しみなくその知識を教えてくれた。

「おい、フラン。まだ熱があるんじゃないのか?ぼーっとして」

「いや、なんかいろいろ思い出しただけだから大丈夫。じゃあ、行ってきます」

「おー、行ってらっしゃい」

 キワにデザイン画を見せる前に、フロリーにお礼を言っておこうと店に行きいつものように見せの奥に行くとフロリーが誰かと話をしているのが見えた。

 声をかけようとして、思わず隠れてしまったのはどうしてだろう…フロリーが話していたのはキワだった。

 私の部屋で会ったのが初対面だと互いに言っていたのに、ずいぶん親しげだ。しかもフロリーがなにか細長い箱を手渡してる。それを手に取ったキワが微笑むと、フロリーは照れてるみたいだ。

 私に好きだと言っておいて、キワにそんな顔を見せるなんて…なぜか猛然と腹が立ってきたので、私はそのままきびすを返して家に戻った。


 そのまま作業部屋に閉じこもり服飾の本を読んでいると、兄がドアを開けて顔を出した。

「ちょっと兄さん、ノックくらいしてよ」

「ノックしたよ。お茶持ってきてやったのに冷たい妹だなあ」

「…ありがと」

 兄はお茶をテーブルに置くと、私の部屋にあるものを興味深げに眺めている。

「お前の部屋は相変わらず色の洪水だよな。どっから集めてきたんだか……ところでフラン、フロリーの店に行くといつも3時間は戻ってこないお前がどうしてすぐ戻ってきたんだ?」

「…フロリーに来客があったからよ」

「まあ、あいつも将来有望な男だからな。顔を売っておこうとする人間もいるだろう」

「ヴィンシェンツ様の婚約者のキワがいたの。2人ともこの間が初対面だったのに、ずいぶん親しげたった」

「おやおや、それは大変だ。フロリーは大丈夫かな」

「え?!」

「だってキワさんのことをヴィンシェンツ様は溺愛してるって話だろ?その彼女にちょっかいを出してる男がいるなんて知ったら、あの方はどう思うだろうねえ…もしからしたらカエルだけじゃすまないかも」

「!!!」

 私はデザイン画を抱えると、すくっと立ち上がった。

「フラン、出かけるのか?」

「フロリーのところ、行ってくる」

 私を見送った兄の顔が、ものすごいにやけ顔だったのが気になるけど私はそれよりもっと気にしなくちゃいけないことがあるんだ。


 おじさんへのあいさつもそこそこに、私はフロリーがいるであろう奥の部屋に走っていった。案の定、フロリーはそこにいていつものノートに何か書き込んでいた。私は思わずフロリーに抱きついた。

「フラン?どうした…うわっ」

「フロリー、カエルにされる前にあきらめて!!」

「はっ?!カエル?!あきらめる?!」

「キワはヴィンシェンツ様の婚約者だわ。フロリー、きっぱりあきらめないとカエルどころか呪い殺されちゃう!!」

「ちょっと待て。俺がキワさんをいつ口説いた。俺が口説いているのは、お前だ!…俺はあのジェフロアみたいな二股の浮気男じゃない!!」

「だって、フロリーが女の人にプレゼントなんて今まで見たことないもん!!」

「プレゼント?あ、お前今日店に来たけどすぐ帰ったって親父が言ってたけど…なるほど、そういうことか。なあ、これから時間あるならちょっと出かけようぜ」

 なぜか急にフロリーが顔を輝かせた。私を見る目がいつもより甘い感じがするのは気のせい?

「どこに?」

「ヴィンシェンツ様の家」

 そう言うと、フロリーは私の手をつなぐとそのまま店の外に出た。

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