フロリーの心配
「あれ、フロリー?」
「あれ、フロリー?じゃねえよ。仕事に没頭するのはいいけど食事はしろ!!まったく、側室になる前とそういうのは全然変わらないのな」
「側室になったからって性格がガラッと変わるわけないじゃない。どうしてフロリーが食事のお盆持ってるの?」
「おまえの家におすそ分け持って来たら、おばさんに頼まれたんだよ。ほんとおまえさあ…」
「わあ、ありがとう!おお、美味しそうなサンドイッチ!!」
「人の話を聞けよ」
「ごめんごめん。今日キワといろいろ話していたら楽しくなっちゃって、その興奮をデザイン画にぶつけてた。そうだ、ちょっと見てみてよ」
「俺、服には全然詳しくないんだけど」
「フロリーの率直な意見が聞きたいの。私、すぐ没頭しちゃうし周りが見えてないときがあるから」
私はそう言ってデザインを描いたノートをフロリーにわたすと、食事に専念することにした。
「南の地方に多い長さに近いな。特に夏場はこれより少し長い丈を着てる人が多いぞ」
「そうなの?!じゃあ靴とかは?」
「靴?!俺に女性をじろじろ見る趣味はねえよ。でもフランのデザインした服は南の服とは似ているようで違うな。これはキワさんに作る服なのか?」
「そうよ。私も同じような丈で一着作るつもり。似たような丈が存在してるなら受け入れられる可能性が高いってことよね。よおしっ!いいこと聞いた!!」
サンドイッチの最後のひとかけらを口にいれて、お茶で流し込む。もう食べている時間も惜しいくらい。でも、私の前に座っているフロリーが眉間にしわをよせている。
「ちょっとー、何でフロリーが眉間にしわよせてるのよ。ほらほらあとがついちゃうよ」
いつものように軽口たたいて額に手をのばそうとしたら、その手をとられた。
「フラン…お前、大丈夫か?あのアホで浮気者でまぬけな馬鹿のジェフロアに裏切られた反動で仕事に熱中しすぎてるんじゃないか?」
「なんでジェフロアが出てくるの?」
「だって、いつものフランならもっとのんびり仕事をしてたのに、キワさんの洋服になったら勢いがすごいというか…とにかく、なんか尋常じゃないものを感じたから」
そんなにすごかったのだろうか。私はただデザイン画に没頭していただけなんだけど。
「別に婚約破棄はショックじゃないって前も言ったじゃない。私は冷静に受け止めてるわよ。今回の仕事にフロリーが驚くほど熱中してるのは、私にとっての好機だと思ったからよ」
「確かに王都では見かけないスカートだから新鮮だよな。お前、本当に仕事に熱中してるだけなんだな?」
「そうだよ。フロリーにも協力してもらおうと……うお?!」
いきなりフロリーに抱きしめられる。
「よかった…俺、お前の婚約がだめになったって聞いたときすごく心配したんだ。フランは落ち込むと部屋にこもって創作活動に没頭するから今回もそうかと思ってた」
「心配してくれてありがとね。でも本当に大丈夫だから…フロリー?」
「……好きだ。ジェフロアと婚約してたから言わないでおこうと思ってた。誰かとつきあえば忘れられるかと思ったけど、やっぱり無理だ。俺は、フランが好きだ」
思わずぐいっと腕を伸ばして距離をとる。
「フロリー、私は」
「そんなこと思いもしなかったって顔だ。俺だって、まだ言うつもりなかったんだ…でも、言いたくなった」
「言いたくなったって…私、婚約破棄したばかりだし…結婚も恋愛も頭になくて」
「知ってる。だけどこれで俺のこと頭から離れなくなるだろ?今日はこれで帰るよ。あんまり根を詰めるなよ」
「う、うん」
何も手がつかず、私はフロリーが出て行ったドアをしばらく見つめていた。




