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Where Or When  作者: 春隣 豆吉
深緑色にとらわれて
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修羅場のあと

「なんか落ち込むかと思ったんだけど、意外とそうでもなかったのよね~」

「それって、彼のことそんなに好きじゃなかったんじゃないの?」

「小さい頃に親が決めた相手だとはいえ、話もあうし共働きも了解してくれたし悪くない相手だと思ってたのよね。はいちょっと腕あげて。そういえばキワって体型を保つのにどんな運動してるの?」

「ヴィンの部屋の掃除。もう効果覿面よ。フランカもやってみる?」

「ものすごい冗談言うわね。はい、腕おろして。寸法はこれで終わりだから、服を着てお茶を飲みながら生地を選びましょ」

「はーい」

 私はメジャーを片付けて生地の色見本を出した。ここは私の作業部屋で、ひそかにつけた名前は“私の出発部屋”。トルソーもあるし、たくさんの布にデザインを書いた紙、色石に資料になりそうな本まで私の趣味と夢を詰め込みまくった部屋だ。

 ここで私が体のサイズを測っていたのは、国一番の魔法使いであるヴィンシェンツ様の元家政婦で現在は婚約者のキワ。彼女が異世界からやってきたのを聞いた私は、違う世界の服飾を知りたいのだとヴィンシェンツ様にお願いしまくった。

 粘った末になんとか許可が出てキワにここに来てもらったのはジェフロアとルチアの問題が片付いた頃だ。キワと私はすぐ気が合って、自分が脱力した出来事もすんなり口にすることができた。


 あれから父が提供した商会本部の会議室で定休日に集まって話し合いがもたれた。ジェフロアのご両親は息子がやらかしたことを知ると、お父様は激怒しお母様は立ちくらみを起こしてしまった。ルチアの両親のうち父親はひたすら謝罪、母親のほうは…なんというかルチアそっくりで。

 まあ、ルチアにとってはジェフロアとの結婚って玉の輿みたいなものなのかも…なんというか母娘ですごいぎらぎらしてたし。

 結局、私とジェフロアの婚約は正式に解消、ジェフロアとルチアはお腹が目立たないうちに結婚。夫婦でジェフロアの実家に戻って商売の勉強を一からすることで決着がついた。ただ、ジェフロアのお母様が同居を拒否したので近所に小さな家を借りることになり、ルチアが不満そうだったけど。

「念願の玉の輿にのったのにまだ不満があるのか。でもフランは変な男に引っかからないでよかったじゃないの。誠実なふりして下半身ゆるいのって最悪だよ」

「確かに。私もキワみたいにちゃんとした男性と恋愛したいなあ」

「いや、ヴィンも充分変だと思う」

「ちょっと~、のろけ?」

「ま、ヴィンのことはどうでもいいわ。こっちに来てからずっと思ってたんだけどこの世界ってスカートの丈がみんな同じよね」

「だってこれが普通だもの。じゃあ異世界のスカート丈ってどうなの」

「ん~、そうねえ。例えばこのスカート丈は私のいた世界でいうとマキシ丈。で…」

 キワはそういうとスカートをつまむと、なんと膝くらいまで上げた。

「ちょっとキワ、そんなに足を見せていいの?」

「これが膝丈で、これよりちょっと下、膝下からふくらはぎのあたりまでの長さがミモレ丈。私はこれくらいの丈のスカートが一番好き。ミモレよりさらに長いこれがロングスカートよ。で、私としてはミモレか膝丈で作りたいんだけど」

「ヴィンシェンツ様の婚約者が着る斬新なスカート丈…いいかも。うん、注目あびるし」

「え、目立つのは嫌だな。ロングならどう?」

「野外で長距離を歩くときのスカートはくるぶしが見えてるから、ロングならちょっと短くてもそんなに目立たないかもよ」

「じゃあ、ロングにしとこうかな。で、徐々に短くして目指せミモレか膝!あ、そうだスカート丈ってね、これくらいの長さのもあるんだよ」

 そう言うとキワは今度はスカートを膝よりも上、太ももが見えるか見えないかくらいまで上げた。

「ちょっとそれは短すぎ!」

「膝より上はミニスカートって言うの。スカート丈にもいろいろあるのよ」

「ほんとキワのいた世界って面白いね……ん?」

 そのとき、見えてしまったのだ。さっき寸法測ったときには気づかなかった太ももの内側に赤いあと…こ、これって…もしやキワ、気づいてない、とか。

「ちょっと、そんなにミニスカートって変?」

「いや…あのさ、キワ…太ももの内側にその、虫刺されに見えない赤いものがあるよ?」

「へっ?!ヴィン……帰ったらしめる!!」

 ヴィンシェンツ様、別にいいんだけどさ……なにやってんだか。


 キワが真っ赤になって太ももを見ようとしたとき、すごい勢いで階段を駆け上がってくる音がした。そして私の部屋の前で止まると、いきなりドアがバタンと大きな音をたてて開いた。

「フラン!!おまえ大丈夫なのか?!あのくそったれのかっこつけジェフロアがとんでもないこと起こしたって聞いたぞ!!」

 目の前で息を切らしているのは私の幼なじみで近所の大きな生地問屋の息子、フロリード・スカリーだった。

 その瞳は憤りで深緑色がさらに濃くなっていた。


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