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Where Or When  作者: 春隣 豆吉
チョコレート色の誘惑
15/32

おまけ:少しだけ前進

クロード視点

「ギスラン、用事が終わったんなら帰れ」

 もうすぐアンジーが試作品を持ってくるお茶の時間だ。こいつにだけは邪魔をされたくない。しっしっと手をふるが、ヤツは動じることもなく執事がいれてくれたお茶を飲んでくつろいでいる。

「アンジェリーナ様が試作品を持ってくるんだろ?私も食べてみたい」

「お前にやる試作品はない」

「お前の半分くれれば万事問題なしだ」

「絶対やらん!!」

 反論しようとしたとき、ドアをノックする音がした。


 ギスランの人懐こさは今に始まったことではないが…おもしろくない。最初は困っていたアンジーだったが挨拶として手の甲にキスをうけたあと、楽しそうに会話をしている。

「へえ、今日の試作品はオレンジのタルトなんだ。美味しそうだなあ」

「よろしかったら一切れいかがですか?」

「え、いいの?アンジェリーナ様の分がないじゃないか」

 余計なことは言わなくていいのに。ギスランが私を見て“ほれ見ろ”とウインクしてくるし。男のウインクなど見たくはない。

「私は何度か作って味はだいたい分かりますの。先ほども少し試食しましたし、これ以上食べたらちょっと体型が心配になります」

「そのようなこと、あなたに心配は無用ですよ」

「まあ。ギスラン様はお上手ですね」

「私は正直者として学生時代から有名なんですよ。それではお言葉に甘えて、いただきます」

 嘘をつけ、嘘を。学生時代に“愛想と頭は使うものさ”とほざいていたくせに。でもオレンジのタルトは本当に美味しいらしく、一口入れた瞬間からギスランの顔が嬉しそうにほころんだ。

「美味しいですね!オレンジの甘さと酸味、クリームの甘さがちょうどいいです。なあクロード、美味しいよなあ!」

 確かにオレンジのタルトはオレンジの酸味と甘さとクリームのしつこくない甘さ、生地のさくさく加減が絶妙だ。まあ、アンジーが今まで持ってきた試作品でまずかったものはないからな。

「アンジー、今回も美味しいですよ」

「よかった。ありがとうございます」

 アンジーが笑うと幸せな気分になる。なぜかギスランが私のことを驚いた顔で見ていたが、それは無視だ、無視。

「今日は美味しいものも食べることができたし、面白いものを見た。じゃあ私はそろそろ帰ろうかな」

「さっさと帰れ」

 私の言葉ににやりとすると、ギスランはアンジーには優雅なお辞儀をして帰って行った。


「ギスランは楽しい人間でしょう」

「ええ、ああいうお兄様がいたら楽しそう。ところでクロード様はギスラン様と話すときと私に対しては言葉遣いが全然違うのですね」

「それはまあ、彼とは学生時代からのつきあいですし」

 私がそう言うと、なぜかアンジーが顔を少しだけ赤らめた。

「実は私、ギスラン様がちょっと羨ましかったんです。私もクロード様ともっと親しげに話してみたいのにって。でも学生時代からのお友達では私なんて敵いませんね」

「それなら、今からそういう話し方をしましょうか」

「えっ、そんな急にですか」

 自分で言っておいてそんなに焦った顔をするなんて。どれだけ可愛いのだろう。

「アンジー、これからはもっと気楽に私と話をしようね」

「……は、はいクロード様」

 ああもう、ものすごく抱きしめたい。でも性急に事を進めると間違いなくメルバが察知してサントノーレ伯爵家から迎えが来そうだ。そうじゃなくても伯爵と王宮で会うと挨拶と少々の嫌味を言われるのだから。

「チョコレート色の誘惑」はこれで完結です。次回からはまた主人公が変わります。

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