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一般人の男の子でも反転すれば最強の女の子に!『チェンジ・オブ・ワールド』  作者: ふくあき
暗躍する者達  前編

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第十四話 黒

 結局のところ例の壁を這う男を取り逃してしまい、俺と小晴さん、そしてアクアは徒労に終わってしまったことに肩の力が抜けてしまう。


「取り逃がしてしまったわね……それにしても、どうやって逃げたのかしらね」

「それよりも、数藤を探さないと……」


 倒壊するビルにヘリコプターを寄せる小晴さんと、機体から身を乗り出して数藤を探すアクアをよそにして、俺は顎に手を当てて思案を巡らせていた。これほどまでに神出鬼没な存在でありながら、こうしてビルの周囲をぐるりと一周しても痕跡も見当たらないまま取り逃がしてしまっては足取りを追うのも難しい。

 かといって報道などで流れる可能性はと聞かれたら、Sランクの時点で皆無という他無い。既に端末での緊急ブレイキングニュース検索でも謎の爆発としてしか扱われておらず、どうしても隠しきれないと判断したのか俺達のことについては軽く触れられている。軽く触れられているだけで、報道としてはサラリと流されているが。


「やっぱりそうなっちゃうよねー……」

「……仕方ないわね!」


 俺の隣でいきなり叫ぶなり水蒸気となってヘリコプターから離脱するアクア。俺はひとまず小晴さんに一言断って、離脱するアクアの後を追う。


「いくら水を操れるとはいっても、流石に火事の中に突っ込んでくのはまずいと思うけど!」


 いつものごとく適当な瓦礫と自分の位置を入れ替えることで俺は燃え盛る屋上へと降り立つ。しかし丁度その瞬間、それまで晴れていた空から突然と雨が降り始め、それと同時に水蒸気から元の人の形を模ったアクアの姿がその場に現れる。


「……ちょっとそれは無いんじゃない?」

「あら? 身体強化フィジカルチューン型は身体に接していればできるって聞いた事が無いのかしら?」

「知ってるけど、大気と接しているからってこんな空間影響エリアエフェクトまがいのことされたらあたしの立場ないじゃん」


 手助けが必要かと思えば自己完結されちゃって、しかも見事に鎮火に成功してしまっては勝手に降りてきた俺の方が滑稽なことになってしまっている気がしなくもない。


「それで、数藤博士は見つかったの?」

「それなら今から……あら?」


 鎮火しつつあるビルを下っての捜索を考え始めたところで、アクアの持っている携帯端末(VP)が振動し始める。


「え? 何……数藤!? 貴方どこに――へ? まだ研究所? 被験体が暴れたから取り押さえ――って、だったら早く連絡しなさいよ! 貴方と落ち合う予定のビルが倒壊したからこっちは大変だったのよ!?」


 こっちの騒動をよそに研究所に屯していたとは、なんとも言えない幕切れ――ん?


「……なに、これ?」


 そこで俺が見つけたのは、黒くこびりついた液体。最初は錆か何かかと考えることができたが、どうもそのようなものではなくどこか生物的な――具体的に言えば『血戦ブラッドライン』のような、血のようにも思えた。


「……ねえ、アクア」

「ちょっと待って、電話を切るから……それで? 何か用かしら」

「これを見てよ」


 液体の扱いが得意なアクアに黒い液体を指さして問いかけると、アクアはまるで初めて見るかのようにまじまじと見つめ、そして俺ですら触ろうとしていなかったその黒い液体に人差し指を伸ばす。


「えっ、ちょっとあんた何やってんの!」

「何って、成分調査よ」

「どう考えても汚いでしょうが!」

「汚いのは見ればわかるわよ。でもこうしないと何なのか分からないじゃない」


 しかし俺の警告を振り切ってアクアはその身に黒い液体を取り込み。そしてその場で考え込むようにして両手を組み、静かに目を閉じて瞑想を始める。


「うーん……ただの古くなった血だと思うけど……」

「血? 黒かったけどそうなの?」

「そうだけど……この血、Rh nullなのよねぇ」

「あーるえいち……何それ?」


 いきなり専門用語を言われても素人の俺に分かるはずもない。しかしアクアが言った言葉自体を、全く以て聞いたことが無いということはない。


「『黄金の血』って言葉、聞いたことあるかしら?」

「ッ! それならある」


 その地の持ち主なら、知り合いに一人いる。戦争屋のヴラド一族の少女、ロレッタ=ヴラドの顔がここで少しばかりちらつくが、あの子がこの場所に訪れて血を流したなどといったことがあっただろうか。あったとしてもあの狼男が黙っていないだろうし、そもそもあの少女はこの場所に来て兵器を出したのは第十四区画だからこの場所には関係ない筈。


「黄金の血って確か表立って公表されてるのは四十六人だけなんでしょ? 特定するのは簡単なんじゃない?」

ワタクシも黄金の血を取り込むのはこれが初めてじゃないから分かるのだけど、それだけじゃない気がするのよね……」


 曰くすべて合致するわけでは無く、何かがずれているような感覚があるのだという。俺は不思議に思いながらも、血液程度ならばそこまで心配する必要はないのではないかとアクアに伝える。


「そもそもこの黄金の血、誰の血に混じっても拒絶反応を示さない凄い血なんだから」

「それも知ってるけどさー」


 なーんか引っかかるんだよねー、という俺の感想をよそにして、アクアは再び目の前で霧散し消えていく。


「あっ! ちょっとどこいくつもりよ!」

「決まってるじゃない。数藤の所に行って、たっぷりと説教しないと」


 そう言ってその場から霧と化して消えていくアクアであったが――


「あれ?」


 ――あいつの霧って、あんなに黒っぽかったっけ?

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