第八話 発想の逆転
「よ、よりにもよって私の昔の写真を……!」
「いやそれよりこれSランクだったら誰でも見ることができ――」
次の言葉もなく代わりに飛んできたのは超高水圧の飛刃。とっさにしゃがみ込むことで回避ができたものの遮蔽物として寄りかかっていたビル一棟が見事に一刀両断され、瓦解を始める。
「ヤバッ! 反転・修繕!」
この距離で倒壊は面倒だと考えた俺は、とっさに破壊の反転として修理を行う。
目の前で倒壊しかけていたビルは破片ごと時を巻き戻すかのように元の姿へと戻っていく。
「チッ!」
「舌打ちしているような状況じゃないでしょ! あんたあたしを殺すためなら何でもアリってこと!?」
「うるさい!」
どうやら言葉が荒くなってきているところから、先ほどの写真に何かしらのトラウマがありそうな予感がする。というより、あの写真から目の前に立つゴスロリ少女を俺は想像しにくいんだが……写真の方が間違っているということか? それとも、あるいは――
「――実際に能力を使っているのはあいつじゃない可能性……?」
他人につかうことで、あくまでそいつが能力者であるかのように見せかける……なくは無い話だが、この筋だとあの研究所でわざわざ無能力者を囲う必要など無い筈。
「何? 私との戦いの合間に考え事? 随分と余裕ぶっちゃってるじゃないの!」
思考を巡らせながらも、目の前の敵の猛攻は回避しなければならない。目の前の敵は待ってくれない。
「高水圧の銃弾、うけるといいわ!」
アクアは右手を銃の様に構えると、文字通り水鉄砲を放ち始めた。
「まずい!」
最初の通り、あの攻撃は自販機程度ならやすやすと貫通するほどの威力を持っている。だからこそそう簡単に物陰に隠れてやり過ごすわけにもいかない。
「反転!」
俺は銃弾の時と同様、目の前に迫りくる水の弾丸の進行方向を反転させ、そっくりそのままアクアの方へと撃ち返す。
「何? 効かないんだけど?」
しかしアクアの身体は水を吸収するだけで決して傷つくことはなく、平然とした様子でこちらを挑発している。
「偶然ね。あたしも肌がきれいすぎてその水鉄砲弾いちゃうから」
そもそも肌のことなんて気にしたことないけど。しかし俺の挑発の方が効いたのか、アクアは先ほどより明らかに不機嫌な表情へと変化していく。
「……くっ! この技、気分的に汚れるから嫌いなんだけど……いいわ! この辺一帯ごとまとめて消し飛ばしてあげる!!」
そういうとアクアは自身の身体を水へと変化させ、そして自ら道路わきの排水溝の方へと吸い寄せられるかのように消えていく。
「下水道にいってどうするのよ……ハッ!」
俺が気づくと同時に、道路を割って巨大な水柱が打ち上がる。
「ッ!?」
続いて巨大な水の塊となったアクアがその場に姿を現し、辺り一面に豪雨と言わんばかりの水を振り注がせる。
「汚れるって言った割には透明な水用意できてるじゃない」
「私の能力をもってすれば、液体をろ過することくらいお茶の子さいさいですわよ」
下水道から水を調達することで、自分の能力をより強化する――なるほど、能力の扱いに長けているご様子で。
「アッハハハハ! このまま超高水圧で押し潰してあげようかしら!」
「そんなのゴメンに決まってるでしょ!」
額から汗が流れ落ちる中、俺は必死で考える。
「それにしても、夜なのに夏だからなのか暑過ぎ……ん?」
今は真夏。となれば――
「少しは頭を冷やしてもらいましょうか」
俺は夏の夜の快晴を、極寒の悪天候へと反転させるために空に手を掲げる。
「反転! 吹雪!!」
風すら吹かない熱帯夜に極寒の吹雪が吹き荒ぶ。そしてそれだけ気温が下がろうものなら、水も徐々に凍り始めるに違いない。
「何っ!?」
予測通り巨大な水の像は指先から凍り始め、動かぬ氷像へと姿を変えていく。思惑通りに敵が動きを鈍らせていく中、ここで難点が一つ現れる。
「はーっはっはっは! ヘックシ!」
半袖の俺の方がものすごく寒い。いや、寒いからある意味こっちの思い通りになっているということなのだろう。こうなったら俺が風邪を引くのが先か、アクアの全身が凍るのが先か勝負。
「我慢大会と行きましょ! 『液』!!」
「くっ……そんなのごめんよ!」
薄氷を打ち破り、アクア本体が再び姿を現す。
「いいわ、ここは一旦勝負を預けておいてあげる」
「いや、明らかにあんたが不利な状況で終わってるからあんたの負け――」
「いいこと!? どちらが先にオズワルドを捕まえられるか、勝負よ!」
その場に捨て台詞を吐くと、アクアは自身を液状化させてその場から消えていく。
……どんどん話がこじれていくような気がするのは、俺だけだろうか。




