第七話 他人の秘密を知った時の優越感
夜に霧というものは、最高に視界が悪くなる条件を満たしていた。
「くっ……どこから来るか読めない……!」
上か? 下か? 右か? 左か――
「――まずは小手調べ」
「っ、ッ!」
身体能力を反転して極限まで神経を張りつめていた俺が取った回避行動は、背後からの攻撃に対して前の方へと転がることだった。
「あら、やるじゃない」
転がった後に後ろの方を振り向くと、そこには体の半分が霧と化したアクアの姿が。そしてその右手にはうっすらと透明な水でできた刃物が握られている。
「さっきから小手調べばっかじゃない」
「だったらこれはどうかしら?」
今度は大量の水でつくられた狂犬を四方八方から呼び出し、俺の方へと向かわせてくる。しかしこうも視界が悪い中での戦闘は初めてなもので、俺は一方的な攻撃に対して回避行動しかとれずにいる。
「ッ……まずは霧を晴らさないと」
現状無風だからこそのこの濃霧。ならばいっそ強風で!
「反転! 大嵐!」
無風から強風吹き荒ぶ悪天候へと反転。強風渦巻く交差点に、周囲の切りは一瞬にして晴れていくが――
「――あらいい風、利用させてもらおうかしら」
竜巻は一瞬で水流に支配され、巨大な水竜へと変化して再び俺の方へと襲い掛かる。
「くっ……さっきチラ見した限りだと、『液』だから液体を操るってことでいいのかな?」
だとしたらさっきの霧で直接攻撃しなかったことにも納得がいく……けど、霧ってそもそも気体でいいのか? 液体から気体にする分には能力の範囲内なのか?
「……考えていても仕方がない!」
相手が流石にこのまま相手に主導権を握られる訳にはいかない。俺はとっさに水を反転させて炎へと変え、そのまま燃え尽きさせることで竜をその場から消滅させる。
「やるじゃない……」
「女子の身で伊達にSランクやってるわけじゃないからね」
周りの男子率の高さがね……というより、俺自身も元は男だから今のところSランクは殆ど男になるのか。
「ッ……それにしても、いちいち癇に障るわね」
えっ? 俺何か悪いこと言ったっけ?
明らかに不機嫌になったアクアに対して俺は思わず動揺してしまったが、相手は苛立ちに任せて空気中から再び水分を集めて今度は純粋に巨大な水の塊をそのまま俺の方へと打ち出してくる。
「超高水圧に押し潰されなさい!」
純粋な力による圧殺。なるほど、怒ると攻撃が単純になるのね。
「でもその攻撃はお断りかな!」
俺は再び水の弾を炎へと変え、アクアが制御できないように仕掛けた。すると当然ながら炎の玉はその場に落ちることになるが、その際にちょっとした爆発を巻き起こしてしまう。
「うぅっ!?」
「くっ!」
俺はとっさに物陰にある石ころと自分の位置を入れ替えることで難を逃れたが、アクアの方はというとどうなっているのかは分からない。
「……今の内に!」
現状向こうも手傷を負っているか、少なくとも俺を見失っている筈。このわずかな時間を使って俺は壊されていたVPを反転させて修理し、そして再び『液』について再度検索をかけた。
すると――
「――何この写真? 本人とは違う……地味?」
そこには今戦っているゴスロリ少女ではなく、無造作な髪形にそばかすをつけたインドア派をそのまま姿模ったような少女の写真が検索結果として映し出されていた。
「どういうこと……今戦っているのは――」
「見ぃーたぁーなぁー……!」
「はっ!?」
気が付くとすぐそばに水でできた巨大な刃を腕から生やしたアクアの姿が。
「ど、どういう事よこの写真!?」
「あんたは……あんたって人はぁああああああ!!」
顔を真っ赤にして……ヤバいこれ怒らせたパターンだ。




