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一般人の男の子でも反転すれば最強の女の子に!『チェンジ・オブ・ワールド』  作者: ふくあき
―赤い帽子のヒーロー編―

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第二十三話 耐火と対価

「それにしても励二、大丈夫?」

「何がだ?」


 日も暮れた夜、意気揚々とひなた荘を去っていく『冷血』だったが、詩乃はというと心配そうに見送っている。


「だって、そんなに人は簡単に変わることはできないでしょ?」

「そりゃそうかもしれないが、少しは違うんじゃないか?」


 あいつに、『冷血』に見せて分かった事が一つある。あいつはああいったものを生まれてから今までに一度も見た事が無いということだ。

 別に日曜朝に限った話ではない。普通なら何かしらの影響を受けるか、あるいは親から叱られるか。俺の場合だとテレビなんて無かったから、シスターに口酸っぱく言われ続けられてきた。


 ――悪事に手を染めることが、いかに人間を堕落させていくのかを。


「恐らくあいつは、生まれてから一度も疑問に思った事が無いんだろう。人を殺すということの重みを」


 物心つくころから殺意に満ちた空間で生きて来たのだろうか。そう思えるほどに昼間の最後の一振りに、迷いなど無かった。その手を血で染めることに、躊躇など一切なかった。


「…………」

「うん? どうしたの励二、そんなにじっと見つめられると恥ずかしいかも……」


 どうして俺が、ここまであの男のことを気にしているのか。それはどこかでこう思っているのかもしれない。

 あいつは、シスターや澄田詩乃と出会わなかった場合の俺の姿なのだと。


「……いや、考え過ぎか」

「えっ、何が?」

「何でもねぇ。それより今日の晩飯当番日向さんだけど、あの人まだ台所に言ってないよな?」


 無駄に大広間を占拠していたせいもあるのだろうが、テレビのある部屋の隣が台所であるこのひなた荘で、肝心の当番がまだ台所に立っていないことに俺は気が付く。


「日向さんなら励二が大広間を占拠しているせいでご飯が作れないって拗ねて部屋に戻っていったよ」

「マジかよあの人今度はその手できたか……」


 面倒くさがりの大家はどうやら俺に当番を押しつける気満々らしい。毎回というわけでは無いが、日向さんは気乗りしないときは詩乃でもなければ之喜原でもなく俺に当番を押し付けてくることが多い。


「冷蔵庫の中を確認するか」

「私も手伝うよ」


 結局この日は冷蔵庫にある有り合わせを使った料理を作ったが、肝心の当番を押し付けてきた大家にとって、あまり受けのいい料理ではなかったようだ。



          ◆◆◆



「――今日の分の買い出しはこんなもんか」

「昨日当番だったから連続しちゃったね」

「仕方ねぇよ。それよりまたお前に手伝わせる方が申し訳ねぇ」

「そんなの気にする必要ないってば」

「そうかよ……ありがとうな」

「ふふっ、どういたしまして」


 そんな感じで月曜日の午後、俺は詩乃と一緒に学校の帰路を歩いているところまで時間が過ぎていった時の事であった。


「……あれ? 励二」

「ん? ……何の用だ」


 ここは都市でも比較的郊外とでもいうべき第九区画。当然ながら住宅地のど真ん中でバトルを仕掛けようとする者などあまりおらず、いたとしてもすぐ近くに戦闘不可区域がある上にそこにいるSランクに喧嘩を売る行為をする者などそうそうにいない。

 しかし帰ろうとしている俺達の前に立ちふさがるように、こうして一つの人影が姿を現している。


「…………」

「何の用だと聞いているんだ、『冷血』。答えろ」


 それは昨日正義の心に目覚めたはずの男だった。俺はその身に纏う雰囲気が少なくとも友好的ではないことを悟ると、詩乃を先に帰らせるべく道を一本外して帰らせる。


「私なら透明化すれば――」

「しばらく透明化は控えろと魔人から言われてるだろ。いざという時は魔人に迎えを頼め。俺はこいつをどうにかする」

「…………」


 冷血:覚悟決めてる感じ?


「ああ、その通りだ」


 俺は静かに身体の一部を砂へと変えれば、目の前の男は腰元の鞘から柄を引き抜いて氷の刃を目の前で創り上げる。


「昨日のあれはやっぱり違うってか?」


 冷血:俺はただ確かめたいだけだ


「そうかよ」


 何をとは言わない。そんな野暮なことを聞くよりも殴り合って理解した方が手っ取り早い。


「場所を移す気はないか?」


 冷血:この場で決着ケリをつける


「……チッ、分かったよ」


 どうやら壁もせり上がりそうにない――ということはこいつが申請をしていないか、あるいは先を見通せる『全知ソシオリズム』とかいう二人の市長の内の片割れが必要ないと判断したのか。いずれにせよ決着は早く着くということでよさそうだ。


「しかしいいのか? いまや全身をマグマに変えられるようになった俺に、てめぇが勝てる算段なんざ――」

「シィッ!!」

「ッ!」


 相手は俺に分からないうちに足の裏に氷を張っていた様で、それこそ居合の構えのまますらほとんど足を動かさずに接近、高速の抜刀を俺に仕掛けてきた。


「ッ、面白いじゃねぇか!」


 抜刀スピードが前回よりも数段早くなっている。下手すればこっちが意識して身体を変化させる前にまっぷたつに斬られてしまう可能性があるかもしれない。


「ある意味、俺の様な身体強化フィジカルチューン対策にはなるかもな……ッ!?」


 そして何より驚愕するべくは今の一撃は一撃では無かったということ。俺の身体には避けた首の一撃以外に本来なら太腿の筋を斬るような一撃と腹を掻っ捌くような一撃、計三階の斬撃が加えられていたということ。


 冷血:今のスピードだと三回が限度だが、斬撃一回だけで更に早くすることもできるぞよ


「ケッ、相手との戦いで悠長にVPいじくってんじゃねぇよ! C(クリープ).V(ヴォルケーノ)!」


 以前に榊から見せてもらった光を収束しての光線レーザーを応用して、地面から一直線に噴火を次々と起こし、直線状に相手の方へと進撃していく遠距離攻撃を発射する。


「ッ!」

F(フレイム).S(サーペント)!」


 そして噴火した炎がまるで意志を持つ蛇のごとくうごめき、相手の方へと襲い掛かっていく。


「これが空間影響エリアエフェクト型の特徴だ。基本に立ち返れるだろ?」


 冷血:余計な高説ありがとう!


 そうして片手でVPを扱いながら火蛇の首を氷刃で刎ねていく『冷血』を前に、俺はむしろ沸々と昂揚感を感じ取っていた。


「ふっ、少しは腕を上げたか?」


 冷血:そっちこそ、りがいがまた増えたよ


「相変わらず殺すか殺さないかの物差しでしか測る気はねぇってか!」


 いいだろう、俺が更生させる最初の相手としては上等だ。

 俺は腰元のベルトに一瞬目を落とし、そして自分の心臓を右の拳で強く叩く。


「変身!」


 次の瞬間――俺の身体を熔岩が覆い始めると共に、意識や感情が相手への嫉妬へと駆り立てられていく。

 これが『大罪』ってヤツの代償とでもいうのか。ならばこれに耐えながらも戦えれば――


 冷血:なんだよ、その姿は? ずるいぞカッコ良すぎる!


「だからどうしたってんだ。コッチは制御するのに精一杯なんだよ」


 俺は自身の姿が、以前に魔人に教えられた『嫉妬エンヴィー』とやらの姿に変わっていくのをその身で感じ取っていった。

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