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一般人の男の子でも反転すれば最強の女の子に!『チェンジ・オブ・ワールド』  作者: ふくあき
―赤い帽子のヒーロー編―

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第十九話 逃走劇

「ちょっと! いたなら最初から加勢しなさいよ!」

「すまないすまない、ちょっと野暮用もあってね」

「おっと! まさかの新たな悪党かい!?」

「あんたはまだそっちで『冷血クルエル』と戦っていなさいよ」

「あ、はい……」


 全く、きちんと決着ケリをつけてもらいたいものですね。向こうで『冷血』が退屈そうに待っていますよっと。

 俺はまたも面倒事に首を突っ込もうとしてくるレッドキャップを適当に追い返すと、名稗を倒した事により自由を得たライダーもとい緋山さんの方を振り向く。


「っと、ようやく操り糸が無くなったか」

「何やってんですか全く……」


 ぶっちゃけ砂になれば操作を回避できたんじゃないかという今更なツッコミを思い出す俺であったが、ここはひとつ緋山さんが変身を解除して元の真人間に戻ったことで何もなかったということに。


「ったく、やっぱりライダーはテレビの中だけで十分だな」

「そもそも高校二年になってもライダーを見ているのが――」

「何か文句でもあるのか?」

「いえ何もありません」


 なんでこの人はこのここまで日曜朝に心血を注げるんだよ……ていうか今の明らかに殺意こもっていたんですけど。


「そういえばどうして『冷血クルエル』とつるんでいたんですか?」

「あ? ああ、それはこの前の戦いが結局決着をつけられなくてな。いつでも戦えるように連絡先を交換してたんだよ」


 いつからあんた達そんなに仲が良くなってんですかね……? 仮にもアンタ凍らされて殺されそうだったんですよ?


「『冷血』はどうするんですか?」

「あれは放っておいてもいいだろ。いずれ戦いに飽きて帰る」

「なんじゃそりゃ」


 とまあ緩やかな会話が交わされている裏では『冷血』とレッドキャップが雨の中戦い、そしてどこから傘を取り寄せたのか、傘をさしたエドガーが首だけの名稗の上に影を落としながら会話を交わしていた。


「どうも、本当ならもっと早く会いたかったんだが」

「どうせどっかの誰かを解体バラしてたんだろ? 裏切り者がよぉ」


 名稗は含み笑いを交えているが、それまでとは違う明らかな敵意を持ってエドガーに向かって噛みつくように言い放つが、エドガーはというと特に気にも留める事無くまるで何もなかったかのような、旧知の仲のままとでもいうような雰囲気で名稗に対して取引を仕掛ける。


「それで、どうする気かな?」

「何がだよ?」

「このまま大人しく均衡警備隊に身柄を拘束されてもいいのかと聞いているんだが」

「……何が言いたい」


 答えが分かりきっていながらも敢えてしらばっくれた様子で、名稗は敢えてエドガーの口から言うように仕向ける。


「簡単な話だ。ボクが保釈金を払おう」

「断る」

「うんうん、感謝すると――って、えっ?」

「てめぇの手を借りるくらいなら、まだ屈強な男十人くらいにマワされた方がマシだってのぉ」


 さりげなくとんでもない言葉が出てきたが、それくらいに名稗はエドガーの事を嫌っているらしく、エドガーの差し伸べる手を叩くどころか唾まで吐きかける始末である。


「てことでぇ、あたしはそこの榊マコちゃんに愛の連行をされてお仕置き受けてくるからねぇ」


 名稗はあくまでエドガーの手を借りる気はない、貸しを作るつもりは無いと言った様子であり、エドガーにとっては取りつく島もないようである。

 しかしエドガーはその原因を知っている様子で、とある一人の能力者の名を口に出す。


「……まさかとは思うが、『苦労人G(クローリング)』のことをまだ――」

「あいつは関係ないだろ。あんな失敗作が、あたしに何の関係があるってんだよ」

「だったらなぜ自分の保釈金すら支払わずに金を溜め続けているんだ? あいつを釈放するなんて理論上不可能な――」

「うっせぇな。あたしがやるっつってんだから黙ってろ。それと、マジで『苦労人G(クローリング)』のことは関係ないからな」

「あっそう。まあアレは投獄というより封印されていると言った方が正しいからね」

「そういうことだ」


 名稗はこれ以上は何も話すことは無いといった様子でそっぽを向くが、エドガーもまたため息をついてその場を立ち去っていく。しかしエドガーはまだ諦めたわけでは無いと言った様子で、一言だけその場に残してこういった。


「とにかく、いい加減賞金首生活は止めた方がいい。さもなくば、『吸収アサルト』に追われることになる」

「あっはっはー、それこそ願ったりかなったりだぁ。返り討ちにして晒し首にしてやるよぉ」


 エドガーはそういうと空間移動テレポーテーションでもってその場から消えてしまった。


「……あいつも冷静に考えたら多重能力者マルチタスクじゃないの?」

「けっ、どうでもいー」


 名稗はすっかり刺々しい態度となってしまったが、俺はひとまず自分の保釈金を完済するべく均衡警備隊に連絡を取り始める。


「そういえばあんた、もう完済したの?」

「僕? 僕はとっくに」

「ちぇっ、ヒーローの癖にちゃっかりしてんじゃん」


 とっくに無実の身となったレッドキャップと、ようやく自由の身となった俺。しばらくして均衡警備隊の車が十数台ほど駆けつけてきて、辺りを封鎖し始める。


「流石に『喰々(イートショック)』と聞いたらこれだけ集まってくるんだね」

「そりゃガキの頃からあたしは賞金首だったわけだしぃ」


 それにしても異様すぎる。明らかに名稗一人を捕まえるにしては大仰すぎる。


「……まさか」

「そのまさかだ」

「ん? いっ!?」


 なんで魔人がこんなところに!?


「いいからさっさと交換チェンジで何処となり遠くに行け。あの頭の固ぇ刑務官が来る前になぁ」


 魔人は全く気が付いていないようであるが、今魔人が立っているのは名稗と俺の間であって、名稗の姿は俺からは全くもって見えない。


「……おいあんた」

「アァン?」

「あんた、噂の魔人か?」


 名稗は魔人のことを知っている様子で、警戒心を最大にして睨みつけている。が、魔人の方はというと道端に落ちた石ころから話しかけられたような、どうでもいい応対を返す。


「ならあんた、『グラビティ』の事を知っているか?」

「アァン? 知らねぇな」

「そうかよ……」


 名稗がため息をついているところで、車から続々と均衡警備隊の隊員が銃を持って降りてくる。


「……いいか? 俺が合図を出したら即刻飛べ。テメェもだ、名稗閖威科」

「あっれ? あたしも逃げていい感じ?」

「今は、な」

「えっ……」


 俺の賞金が――って言っている間に、ワゴンタイプの大型の車からひときわ大きなガタイの男が姿を現す。

 その瞬間に名稗の顔に殺意が宿り、そして魔人の表情が険しいものとなる。


「来たか……」

「賞金首が三人雁首揃えているとは、随分と舐められたものだな」


 頭に被っているのは都市の外の警察官が被っているようなものであるが、そのガタイからすれば小さく見える。二の腕はまるで大木のようで、対する俺の腕なんて枯れ木の枝と評価されそうだ。そんな筋骨隆々、まさに犯罪者を威圧するかのような肉体とその険しい表情を持つ者がこの場に降り立つ――ってかちょっと待て! 俺犯罪者扱い!?


「出やがったか……」

「『吸収アサルト』……!」


 名稗はその男を知っているようで、男もまた名稗の方を知っている様子でにやりと笑みを浮かべる。


「榊マコ!」

「はい!?」

「今だ、行け! 名稗閖威科テメェもだ!!」

「ッ! 逃がすかッ!!」


 その瞬間、俺の視界から男の姿が消え――「後ろだッ!!」


「ッ!?」


 俺がとっさにしゃがみ込めば、男の裏拳がすぐ上を通過する。そして裏拳はそのまま魔人を捕らえるかと思われたが、魔人はその裏拳に既に反応しており岩のような拳を片手で受け止めている。


「サッサといけ!! 時間は稼いでやるから!」

「おっ、ラッキィ」


 名稗はニヤリと笑うと地面を衝撃で割って飛びだし、そのまま糸を射出して包囲網の一角を薙ぎ払う。


「そんじゃ、バイビー」


 名稗はそのまま手慣れたような滑らかな動作で車をハイジャックすると、猛スピードでその場を走り去っていく。


「榊! テメェもだ!」

「よ、よく分からないですけど後で説明――」

「気が向いたらしてやるよォ!!」


 俺はひとまずその場を立ち去ったが、これが新たな戦いの火蓋になるとは思わなかった。

 そしてあいつ等とも、今まで戦ってきたあいつ等とも顔を合わせることになるとは思わなかった。

これでレッドキャップ編の榊中心で動く話は終了です。「ちょっと僕の扱い雑過ぎない!?」とヒーローから言われそうですが、彼はもう少し続投する予定です。次はアクセラを中心に動く話になります。そうして何人かの視点でそれぞれが起きた事を振り返り、最後は全てこの逃走劇に繋げていく予定となっていますので、少しだけお待ちいただければ幸いです。

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