第九話 危険な香りがしてまいりました
――『最初期の能力者達』。初めて聞く異名にして、それは個をさすものではなく、一時期の能力者のことを指す。
「つまり広義で指せば、ボクも『最初期の能力者達』ということになる」
エドガーは自分は担当する診察室にてコーヒーを嗜みながら、そして俺の前には何も出さずにただ椅子に座らせるだけという待遇でもって迎える。
それは力帝都市が能力者というものを集め始めて最初に集まったメンバーのことを指している。それにしては随分と年齢幅が広いような気がする――ってかエドガーから貰った名簿(これ下手したら情報クリアランスがSランクじゃないのか?)を調べてみたら日向さんとかの名前もあるし、これって結構危険な情報じゃないのかと思ったが、しかしエドガー曰くこれらに関する計画はとっくに凍結しているから大丈夫とのこと。
……いまいち信用ならないけど。
「最初期なんて今となっては古い話だ。キミ達のように後続からでもユニークな能力者がでたらそれまでで、すぐにポイッと放り投げられる」
「それでもやっぱり初期の人って何かと特別扱いされるんじゃないですか?」
俺としては何気ない質問のつもりだったが、エドガーはしばらく黙りこくったまま俺の質問に答えようとしない。
「……あー、答えたくないなら答えなくてもいいんだけど」
「そうか。だったら答えるのは止めておこう」
「おい」
そこは渋りながらも答える流れじゃなかったのか。まあ、その賞金首になっている初期型の人を問いただしてもいいんだろうけど。何せ賞金を掛けられるレベルまで落ちぶれているんだから、その経緯を聞いていくうちに何か手がかりとか掴めるかも。
「で、その賞金首って何処にいるの? どんな奴?」
そうして本題に入ろうとしたところで、エドガーはまたも口を閉じてしまう。
「……あんたまさか、今までの全部でっち上げでしたーなんて言うつもりじゃないでしょうね?」
「残念ながらこの件に関してはふざけるつもりは無い」
じゃあ普段はふざけているってのかよ。
「……それで、今回キミに捕まえて欲しいのは他でもない。コイツだ」
そう言ってエドガーは元々から持っていたのか、手元にあるカルテの一覧の最後に挟んである賞金首に関する一枚の紙を取り出し、俺の前に差し出して指を指す。
「名稗閖威科。懸賞金は解除されていないのであれば、依然として七百二十万だ」
そこにはへらへらとした笑顔で写真を撮っている者にピースサインを突き出すネット中毒者っぽい様相の女性の姿が映っている。
「……ちょっと待って、それじゃあたしの一千万には届かない――」
「いや、奴を生け捕りにしてくれたらボクが残りの分である二百八十万を補てんしよう。それでいいだろう?」
「生け捕りにはするつもりだけど、わざわざそれを言う必要ある?」
確かに手配書には生死問わずって書かれているけど、俺はそんなに積極的に殺しに行くような性格じゃないって分かっていると思うんだけどなー。
「積極的に殺しに行かない割りにはさっき屋上から突き飛ばしたじゃないか」
「それはあんたが死なないって分かっているからでしょ。死ぬ可能性があるなら死ないっての」
「やれやれ、困ったものだ」
エドガーはそうやってため息をつくが、ため息をつきたいのはこっちの方だと言いたい。
それはまあともかく、わざわざ生け捕りにするようにお願いされたということは、そこには別の理由もある筈。
「想像の通り、これにはボクの目的もある。それはキミが彼女を捕まえたところで、ボクが彼女の保釈金を払う。それで彼女に借りを返す」
「借りを返すって……以前に何かあったの?」
「そんなに大きなことではない。ちょっとした手助けを受けただけだ」
な、なんかこの写真に写っている人とエドガーがそろい踏みすると、危険な香りが1+1が200になりそうなレベルなんですけど。十倍ですよ十倍。
「とにかく今は彼女を捕まえてもらえると助かる。報酬はきちんと払う」
「何かいまいち納得いかないけど……いいわよ、やってあげる」
先に言い忘れてましたが、この編はいろんな方面のパロディネタが多いです(汗)。




