第七章 四十一話 追放された英雄に穏やかな日々を過ごさせたい
あの丘に住まう人々と、たまたまその日そこを訪れていた自らの部下。
それらを救うために、ナイジェルは珍しくも勇んで歩みを進めている最中、とても奇妙なことが起きた。
その奇妙なことは、それぞれとても肝が太いはずの軍人たちですら、口々に戸惑いの声を上げるほどにインパクトがあった。
「これは……一体」
そしてそれは良くも悪くも穏やかで、安定した気性の持ち主であるナイジェルも同じであった。
思わず、といった体で困惑の声を紡いでしまった。
単純に踏み固められて出来た道を歩む軍人たち。
彼らの度肝を抜いたその奇妙なことの正体はなにか。
それは今もなお、空高くから晩夏の日差しを返しながら、地面へと落ち続けていた。
ゆらゆら、ひらりひらり、ゆったりとそれは落ちてゆく。
舞い落ちる、という表現がこれ以上なく当てはまり、まるで雪のようにすら見えた。
だから軍人たちが驚いてしまったのだ。
たしかに、盛夏は過ぎ去り残暑も少しずつ穏やかになった最近とはいえ、だ。
夏に、それも晴れ日に雪が降るにはあまりにも速すぎた。
夏の降雪。
迷信深い人間が見たのならば、神の警告だとか、天変地異の前触れだと大騒ぎすることであろう。
だが、現役軍人という生き物は、一人の例外もなく現実主義者だ。
そんなオカルトティックな結論に至る者は一人として現れなかった。
夏に雪なんて降るわけがない、そうであるならば目の前のこれは、雪以外のなにかに違いない、では舞い落ちるこれは、一体全体何物か?
各々の頭蓋でこのようなロジックが組み立てられたはずだ。
その証拠とばかりに、行進を続けつつも軍人たちは掌を空に向け、舞い落ちるそれを受け止めて、その正体を確かめようとした。
そんな軍人たちの中に、ナイジェルも含まれていた。
今、丁度彼はひらりと舞い降りた白いそれを捕まえて、ゆったりとした所作で顔の前に近づけて、観察を始めていた。
手に舞い降りてからしばらく時間が経っているけれども、件のそれは、ナイジェルの体温で溶けなかった。
いくら待てども溶ける兆候は認められないし、そもそも受け止めた掌はこれっぽっちも冷たくなっていない。
やはり、それは雪ではないようだ。
では、一体?
ナイジェルは一層掌を顔に、目元に近づけて、目を細めて睨み付けて。
そして、ぽそり。
呟いた。
「これは……灰、かな?」
今もひらひらと舞い落ちるそれを、灰だと断定した。
正体がわかるや否や、ざわざわとざわめき駆けていた兵たちは落ち着きを取り戻していった。
空から灰が降ってくることなど、珍しいことではあるが、けっしてあり得ぬことではない。
どこかで大火事があったか、それとも遠くの火山が噴火してしまったか。
いずれにせよ風に運ばれて、この場に灰がやって来てもおかしくはない。
今の時期に降雪するよりは、何千、何万倍もありえる話だろう。
だから以降、灰に気を取られる者は居なくなった。
兵たちは真っ白な灰が降りしきる中を歩む。
もし、この場に写真家がいたのであらば、これは迷うことなくシャッターを切っていた光景であろう。
夏の日差しと、舞い落ちる雪にしか見えない真っ白な灰。
この二つの取り合わせは、なるほど、一種の芸術性を感じさせるかもしれない。
けれどもナイジェルを含めて、軍人たちにそんな感慨にふける余裕はなかった。
当然だ。
なにせ、彼らはこれから邪神と戦い、運が悪ければ死んでしまうかもしれないからだ。
ああ、これは絶景なり、と感嘆の息を漏らす余裕、今の彼らにはこれが完全に欠如していた。
降り止む気配のない純白の灰の中で進軍をしばらく続けた頃合いであった。
斥候が、ナイジェルの下に情報を携えながら戻ってきた。
さて、ただいまの丘の状況はいかに。
難しい状況になっていなければいいけど、と願いつつナイジェルは報告を受けた。
「……えっ? ええっと……それって本当? マジ?」
降りゆく灰を認めたとき以上に、ナイジェルは大きな驚嘆を見せてしまった。
目を大きく見開き、口は半開き。
そんな間抜けな表情を斥候へと向けていた。
「はっ、フィリップス大佐。間違いありません。どのような経緯を辿ったのか。それはわかりませんが……」
そしてナイジェルを驚かしたそれは、実際にその現場を見た斥候とて、信じられぬ代物であったのだろう。
言葉を一度区切った彼のその目には訝しみが隠しきれていなかった。
自分がこの目で見たものは、本当に真実であったのか。
自分は正気を失ってしまったのではないか。
斥候はそんな疑いを自分自身に向けているように見えた。
けれども、斥候がそんな疑念を抱いても無理からぬことであろう。
何故であるならば、彼があの丘で見たものが、予想外にも程がある代物であったのだから。
「あの丘を包囲していた邪神の群れは……影も形も認められませんでした。戦闘を繰り広げた形跡はたしかにあるのに。宿敵である邪神どもは、綺麗さっぱり姿を消していました」
「うーん。なんて奇妙な。他になにかあった?」
「はっ。異常と呼べるものは、なにも。強いて挙げるのであれば」
斥候は目線をわずかに右斜め上に上げて、口元に手を当てた。
物思いにふけるポーズ。
彼のその様子から鑑みるに、どうやら異常とは言えないものの、なにか気になることがあるようだ。
「ひらひら舞い降りる灰の密度が。ここよりもずっとずっと濃密であった、ってところでしょうか。さながら真冬の雪国に居るようでした」
「そっか。報告、ご苦労様。それじゃあ、引き続き警戒は密にしつつも向かおうか」
一拍の間を置いて斥候が語ったことは、なるほど、たしかに危急の異常とは言い難かった。
まったく無害な灰が増えただけならば、進軍を続けても問題あるまい。
ナイジェルはそう判断して、報告を受ける前同様、兵たちを街外れの丘へと進めた。
その間、邪神に襲撃されることはなかった。
進軍は怖いくらいに順調に進んでいき、そしてとうとうナイジェルは行軍隊形から、戦闘隊形に移行することなく丘の麓へとたどり着いてしまった。
丘はやはり静かであった。
銃声も打擲の音色がこれっぽっちも耳に届いてこない。
報告通り、戦闘が行われている気配はそこになかった。
この分なら大事に発展する可能性は低そうだ。
ナイジェルはそう判断して、全隊停止の号令を下す。
そののちに彼は二、三の付き人を連れただけで丘を登ろうとした。
当然、兵たちからは制止の声が聞こえてきたが、ナイジェルはそれらを知らんぷりすることにした。
一歩、二歩。
歩を刻む度に、下草と低い木々によって濃緑に彩られた丘が近付いていく。
報告通り空から落ち行く灰の密度はどんどんと濃くなってゆく。
そしてその丘がナイジェルの視界一杯にまで占められるようになった頃合い、彼はずいぶんと久しぶりに見たような気がする人物を見つけた。
その人を見つけたとき、ナイジェルは心の底からほっとした。
よかった。
五体満足、傷一つなく元気そうだ、と。
そんな安心をナイジェルにもたらしたのは、ずいぶんと熟れてきて、一端の将校の顔になった彼の副官、ソフィー・ドイルの姿であった。
「ソフィーちゃん」
「フィ、フィリップス大佐。お戻りになっていたのですか?」
「うん。朝方にね。それよりも……一体どうしたんだい? こんなところで困った顔しながら、立ち止まって」
「それが……私たちにもよくわからないのです」
ソフィーは戦傷を受けた形跡がなかった。
そしてざっとこの場を見渡してみても、かすり傷ならばともかく、畢生残るような重症を負った人物も居ないようだ。
ならば、晴れ晴れとした顔をしてもいいのに、ソフィーの顔ときたら鈍色に曇っていた。
すっきりとしない様子で、誰がどう見ても困惑した顔付きをしている。
いや、そんな面持ちをしているのは、なにもソフィーだけではない。
ゾクリュ守備隊も、不運にもこの場に居合わせてしまった王女殿下に、親衛隊、そして遊撃分隊の面々。
彼らも揃って、首を傾げたり、露骨な例となると自らの頬を引っ張って、目の前の光景が夢でないかと確かめる者も見かける始末。
みな、一様に戸惑いを隠せないでいた。
何故そうなったのか。
ナイジェルは至極当然の質問を彼女に投げかけるも、返ってきた答えは、ただただ一言。
わからない、というもの。
それは普段理路整然としたソフィーにしては、珍しくもはっきりとした答えではなかった。
「よくわからない?」
「ええ」
ソフィーは首肯した。
そして語る。
彼女が困惑してしまった、そのわけのわからないことってやつを。
「たしかに、私たちは邪神に包囲されていたはずなのですが……気がついたら、邪神どもが急に息絶えて……このような灰に変わってしまって」
「へえ、この灰。邪神のなれの果てなんだ。それはそうとして、そうなった原因を。まったく覚えていない?」
ソフィーは申し訳なさそうに肯んじた。
軍人には常に明瞭とした答えを出す義務があるのに、それを果たせないことを恥じているようであった。
出来た上官であれば、義務の不履行をなじる場面なのだろう。
けれども、ナイジェルはそうしようとはしなかった。
なにせ素行面では自分よりもずっと模範的なソフィーが、義務を果たせなくなったのだ。
誰であっても正確な報告は無理だろうとナイジェルは思ったし、不可能を不可能と報告したことに腹を立てるほど、彼の性格は荒んではいなかった。
一仕事ご苦労様。
ねぎらいを含ませた声を、いまだ自らを恥じるソフィーにかけた。
「でも、まあいいや。見たところ人員の損耗はしていないようだし。みんな生きて帰れたのなら、万々歳だよ。それで? ウィリアムさんは?」
「……それが」
慰めの声をかけたというのに、ソフィーの顔は浮かばないまま。
はて、どうしたことか。
まだ、なにかあるのだろうか?
ナイジェルがそう訝しんでいると、件の副官は、そっとマメでゴツゴツになった人差し指で一点を指した。
その指先につうと視線を沿わしてみれば――
「……なるほど」
ナイジェルは納得した。
どうしてソフィーがいまだ戸惑っているのか。
その原因が、丘の屋敷に閉じ込められていたウィリアム・スウィンバーンにある、とナイジェルは認めた。
新米少尉からホップ、ステップ、ジャンプで届くか否かといった距離に問題の彼はいた。
坂道にへたれ込む形でそこに居た。
傍らにメイド服を着こなす、アリス・クーパーとともにそこに居た。
二人揃って。
ぼろぼろと大粒の涙を落としながらそこに居た。
ソフィーより年嵩は重ねているものの、それでも泣いている人に接するというのは、ずいぶんな大仕事だ。
出来ることならばそんなことは、御免被りたいと思うのが人類の怠惰な本性。
けれども、同時に仁愛が働いて、慰めたいと思うのもまた人情。
こんな矛盾をその身に抱えてしまうのが、人間という生物の面白いところと言えよう。
ナイジェルのケースで言えば、後者の仁愛が勝ったようだ。
彼はふうと一息吐いて、意を決して。
ゆったりとした歩調で、吹雪のように降りしきる灰を浴びながら。
地面にしゃがみ込んで泣き崩れる二人へと歩み寄った。
一歩、二歩、そしてぴたり。
ナイジェルは、二人の背中に手を伸ばせば届く距離でその歩みを止めた。
長い間そのままにしていたのか。
二人の頭には、肩には、邪神のなれの果てだという灰が分厚く降り積もっていた。
「お二人は。どうして、泣いているのです?」
「……わからないのです。なにがあったのか、それすら思い出せないのです。でも……」
洟を啜る音混じりに答えたのはウィリアムであった。
わからない。
彼はそう答えた。
その台詞は、さっきのソフィーと似たり寄ったりであった。
二人は、どうして泣いているのか、その正確な答えを自分自身で導き出せないでいるらしい。
しかし、さきのソフィーと違う点もある。
正確な理由はわからないものの、けれどもどうして悲しんでいるのか。
漠然としながらも、そのわけを知っているようであった。
罪悪感に満ち満ちた声でアリスがこう続けた。
「私と、ウィリアムさんにとっては。とても悲しいことがあったのは、間違いないはずなのです。さっきからずっと……涙が止まらなくて。まるで……大事な誰かを亡くしてしまったかのように悲しくて……なのに」
この悲しさの源泉はきっと誰かを亡くしてしまったからだ。
彼女はそう言った。
そんなアリスの推測はウィリアムと共有するものであったらしい。
彼はそのくすんだ赤毛を、そうだそうだ、と言わんばかりに、何度も何度も縦に揺らす。
その度に頭の上に積もった灰が、ぼろぼろと崩れて彼の膝元へと落ちていった。
「酷いでしょう? 俺も、アリスも。二人揃って思い出せないのですよ。涙を止められなくなるくらいに悲しんでいるのに……誰が居なくなってしまったのか。それすらわからない。フィリップス大佐、どうして人は……こんなにも容易く大切なことを忘れてしまうのでしょうか?」
誰かを亡くしたのは間違いない。
けれども、亡くしたのが誰なのか、それがわからない。
そんな不思議な境地に二人はおかれているらしい。
そして、そんな風になってしまった自分たちを、ひどく嫌っているようだ。
その泣き声混じりの台詞には、ひどく自罰的な色が含まれていた。
これはまずい。
ナイジェルは反射的にそう思った。
ここまで自罰的になってしまうと。
その内自分で自分を殺しかねないのではないか。
彼はそんな懸念を覚えた。
だからナイジェルの頭は激しく回転する。
目の前の彼らに重くのしかかる罪悪感、これを軽くするために。
ナイジェルは必死に考えた。
「……忘れることは。なにも悪いことではありませんよ」
そしてはじき出した答えを口にする。
罪の意識を感じる二人に、それは抱く必要のないもの、と断言した。
その慰めの声は流石に二人の気を引くものであったか。
それまでずっとナイジェルに背中を向けていたウィリアムとアリスであったが、わずかに顔を横に向け、ちらと斜眼を使って年上の大佐を見た。
二人の顔には涙のせいで真っ白な灰がびっしりとこびり付いていた。
その顔にナイジェルは圧倒されそうになる。
ここまで深い悲しみを抱いていたのか。
しかし――
友情を抱いた人物を救わねば。
そんな義務感が彼を踏みとどまらせた。
「辛い過去を忘れられるから、人はたくましく、明日へと向かって歩むことができるのですから」
「でも……それじゃあ! 忘れてしまった人が浮かばれない!」
忘れたことは悪ではない。
むしろ悲しみを抱いた人々にとっては、いい作用をもたらすものだ。
ナイジェルはそう言ってみるも、悲しみの種類が種類だけにウィリアムの反感を招いたようだ。
よろず大人しい赤毛の青年にしては珍しく、噛みつく勢いでナイジェルの言に反駁した。
「……貴方たちがそこまで大事に思っているのならば、間違いなく向こうも貴方たちを大事に思っていたことでしょう。そうであるならば――」
だが、壮年の大佐からすればその反応は予想していたものであった。
むしろ、待ち望んでいたものですらあった。
なぜならこうも感情的になってくれていたのならば、である。
彼らは今、理性的に物を語る余裕がないということである。
そんな人にきちんとした理屈を語りかけていけば、いずれ彼らは何も言い返せなくなってしまう。
理性の働きが弱いがために、反論を上手に考えられなくなるからだ。
言い返せなくなってしまえば、彼らは説得を受け入れざるを得なくなる。
故にナイジェルはここが正念場とみた。
ここで一気にたたみ掛けることにした。
「むしろ、いつまでも悲しんで。その場に留まり続ける方が、その人が浮かばない。お二人は折角明日へと歩める足があるのに、それを使おうとしない姿を見たら……その人は、罪悪感を覚えることでしょう。ああ、私のせいで二人が心を病んでしまっている、とね」
「それは……しかし。それは、自己正当化なのでは?」
「そうでしょうか? では、ウィリアムさん。貴方がその立場になったとしましょう。アリスさんが自分のことでいつまでも悲しんでいて、前に進めないでいる……そんな姿、ずっと見ていたいですか?」
「それは……」
ナイジェルは言う。
想像してみよ、と。
一番大切な人が、自分の死のせいでいつまでも塞ぎ込んでしまっている姿を、と。
彼女のそんな姿を鮮明に想像してしまったのか、ウィリアムの言葉が奪われた。
それは明らかに、彼がそうなることを望んではいないが故の反応であった。
「でも……でも……」
「ウィリアムさん。貴方がそうなってしまったとき、アリスさんにどうしてもらいたいですか? なんとか気持ちに折り合いを付けて、前に進む姿を見たいと思いませんか?」
ウィリアムは控え目に肯んじた。
それを見て、ナイジェルも満足げに頷いた。
「そういうことです。ただただ追憶にふけるだけが、故人を偲ぶ方法ではないのです。前向きに生きる姿を堂々と示すだけでもいいのです。それだけでも、天国から見守るその人は喜ぶはずですから。その人が貴方たちと親しければ、親しいほどにね」
そしてナイジェルはわずかに開いていた二人との間合い、これを詰めた。
一歩を刻んで、しゃがみ込んで、目を同じ高さに合わせて。
互いの虹彩の模様すら認められるまでに詰め寄って。
ぽんと、優しく二人の肩に手を置いた。
「そんなわけで、しっかりと毎日を生きていきましょうよ。忘れてしまったその人のためにも。一瞬でも長く笑顔を作りながら生きていきましょうよ」
「俺たちが……忘れてしまったその人のために?」
「その通りです。そうやって日々を重ねて、いつの日か貴方たちがその人が居るところに移り住んだとき。遅れてしまったお詫びとして、お土産を持っていけばいいのです。そうすればきっと許してくれます」
「土産?」
「ええ、お土産です。お土産話です。どんな日々を過ごしてきたのか。それを話すのです。ですから……」
いつの日か命尽きた時、その人に語る物語。
どのような物を持って行けばその人が喜ぶのであろうか。
ナイジェルは考える。
社会的に成功して自慢したくなる人生か?
いや、それは違う。
その手の人生の場合、日々が激動な代物になってしまう。
まだまだ若いのに、すでにこの二人は十分にロクでもない運命に翻弄されてきたのだ。
これ以上慌ただしいさだめにもがく所なんて、彼らと親しい人間はこれっぽっちも見たくはないだろう。
そうであるならば。
居なくなってしまった人がこの二人に望む生活は。
そんなのたった一つだ。
「皆さんで、その人に語って恥のない、そして穏やかな日々を作っていきましょうよ。一つでも多く。お土産を作ってあげましょうよ。貴方たちが遺された、この世界で」
穏やかな日々。
他でもない彼ら自身が救ったこの世界で。
気に病むようなことに襲われない、ゆったりとした生活を送ってほしいと。
きっとその人はそう願っているに違いない。
ナイジェルはそんな強い確信を抱いたから。
ぼろぼろと涙を流し続ける二人に、そう優しく語りかけた。




