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三度目は奥へ

「この魔剣、今も騎士団の部屋に安置されているのでしょうか……あるとしたら、脱出の役に立ちませんかね」


 現代日本に生きて様々なファンタジー作品に触れてきたアカリからすれば、聞くだに一発逆転のキーアイテムのように思えるのだが――どうにも、フィルの声色には影が差したままのように思えた。

 アデルもまた、声のトーンが明るくなる事はない様子だ。


「仮にそうでも、俺とお前じゃ使うのは無理だろ。魔力がほぼ無い獣人に月神レネティースの力以外使えない僧侶じゃな……」


 ふと、溜息混じりに告げた彼とフィルの視線がアカリに集まる。

 半分他人事で聞いていた彼女だったが、二人の意図を察して間抜けな声を出す羽目になる。


「へっ? あたし?」


「いや他に誰が居るっつーんだよ」


 藪から棒、である。

 よもや魔法はおろか武器全般にすら触れた事が無い自分に矛先が向くとは思わなかったのだ。


「で、でもあたし話したよね……? 武器も魔法も全く縁のない、戦いもない世界から来たって……。そんな剣扱えるとは思えないんだけど……」


 狼狽するアカリに対し、アデルがぶっきらぼうに指を指す。


「んな事言ってる場合かよ?

 出入り口が塞がれてる以上、他に脱出経路を探さないといけねえだろ。

 あんなゾンビ共、対策無しで何度も出くわしてたら消耗激しすぎてすぐ死ぬぞ」


 そんな二人の遣り取りを眺めていたフィルはというと、可笑しそうに小さく笑っていた。


「あはは、まあ使えなかったら使えなかったで潔く諦めましょう。

 とりあえず他に行くべき場所も思い当たりませんし、騎士棟を目指しますかね」


 何故騎士棟があると解ったのか訊こうとするも、どうやら日記の主が騎士棟へ用事で向かった際の何気ない一文を見つけ出していたようである。

 なんとも抜け目ない、とアカリは関心しつつ、場合によっては自分が剣を振るい敵と戦う可能性を頭に入れておく。


 フィルが騎士棟の方角を文章から割り出し、恐らくこの階の渡り廊下の先が目的の場所であると見当をつけた後、彼が最後尾に、アデルがアカリを挟んで先頭に立つ。


 アデルの背後に立つアカリは、彼の背中を見ながら先の魔剣についての会話を思い出す。


 別に敵と戦わなくてはならない事自体は、恐怖には恐怖だが全く予想していなかった訳でもないし覚悟もしている。

 だからこそまともな武器無しで二人を助けに行くなどという無謀な事もしたのだ。


 ではアカリが真に恐怖していたのは何であるかというと――小説で読んだ範囲では欠片も存在を伺わせなかった魔剣、その使い手が自分になる可能性である。

 いや、仮にもし自分に使い手としての適正があり、敵を次々と斬り伏せるだけの力を発揮出来るのなら寧ろ万々歳だ。


 だが、もし件の剣をやっとの思いで見つけ出した上に、アカリが全く使い物にならなかったら――

 それが今、彼女が最も恐れている事態である。

 フィルやアデルは、自分にどんな眼差しを向けるだろうか。


 託された期待は、裏切られた際に同じ大きさで、同じ重さで己にのしかかるのではないか。


 そんな不安が、黒くアカリの心で渦巻いていた。


 つかの間の信頼と、それを容易く破壊する裏切り。

 折角命を危険に晒してまで異世界に転移したというのに、現実と同じ呪縛がここまでつき纏うというのか。

 例え元いた世界を捨てようとも、求めていた楽園は手に入らないとでもいうのだろうか。


 軋む音を立てて開く木の扉と、四角い木枠の向こうに敷き詰められた深い闇。

 警戒しながら漆黒に身を投じる獣人は髪も服装も黒に近いため、ともすれば見失いそうになる。


 アカリの胸中にはまだ暗い感情や不安があれど、今は精神的にも物理的にも前に進むより他は無い。

 心の(もや)を吹き払うようにかぶりを振って、少女もまた闇への一歩を踏み出した。

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