命名、バカノ先輩
なんでだろう、すごく眠い。
まあ、深夜にソファーから落ちて目が覚めちゃったわけですし、その後で樟葉先輩に襲われそうになったわけですし、眠れなかったのも仕方ないと思う。別に、ドキッとして心臓が早鐘を打ってたせいで眠れなかったとかじゃないんだから!
それから、今朝の朝食だが、流石に僕は残した。お櫃に入った白ご飯、アジの開き、お代わり自由のお味噌汁、卵、海苔、ほうれん草の胡麻和え、お漬物、あとなんだっけ。ともかく少食な僕には流石に多すぎる。深草さんも食べきれなかったみたいだし。
ちなみに樟葉先輩は、また同じことをやってた。ちょっとは反省しろ!
そんなわけで、僕と樟葉先輩の調子があまりよくないので、予定していた外湯めぐりは午後にすることにして、午前中はあたりを散策することになった。と言っても、僕は深草さんと山科さんの3人でカフェで休んでいただけだが。抹茶ラテ、おいしくいただきました。
それと、あのおかしい人の言動を追記しておくと、十条さんと一緒に1.5キロくらい遠くの山の上にある神社に徒歩で行って帰って来たらしい。しかも、その後にはソフトクリームを食べていたとか。あの人はどんな体力を持ってるんでしょうね。それと、胃袋は何でできてるんだ? 鋼以上は確定として、まさかミスリルとかアダマンティンとかじゃないだろうな。だとしたら人類の大発見だ。
「それじゃあ、晩御飯のこともあるし、お昼ご飯は軽めにしとこっか」
「賛成です」
「お姉さまに同じく」
「えー」
「あなたはちょっとは反省しなさい」
そういうわけで賛成4と満場一致で可決されました。え、他に誰かいた? 気のせいでしょ。
「そこらへんにいい感じのカフェがあったから、そこにしましょっか」
「賛成です」
「お姉さまに同じく」
「私はもっとがっつりしたものが」
「いい加減反省しなさい」
樟葉先輩の頭を小突く。絶対晩御飯も全部食べようってするつもりでしょ。控えとけ。
樟葉先輩を無視し、近くにあったカフェに入った。軽めのものが食べたい。そして食べさせるべきである。
「僕はホットサンドで」
「えっと、スパゲティポモドーロを」
「私はオムライスで」
「私はパンケーキでお願いします。加乃ちゃん決まった?」
口々にみな違うものを店員さんに頼む。どれも軽めのものだ。とここで一人集中してメニュー読んでいた樟葉先輩に十条さんが話を振る。樟葉先輩の下の名前は加乃だったか。じゃあ、頭にバをつけたらバカノ先輩だな。
いかんいかん、変なことを考えてしまった。一応この人は先輩だ。
「それじゃあ、リンゴカレーと抹茶パフェと……」
「リンゴカレーだけにしときなさい」
十条さんに注意される。ああ、もうバカノ先輩でいいか。店員さん困ってるし。
結局、バカノ先輩は不満たらたらで一品だけにさせられたのだった。だめだ、しっくりきすぎるこの呼び名。
午後からは、5人で外湯めぐりである。でも、5人組というのも何なので別れようということになったらなぜか4対1の部屋割りと同じになった。なぜだ、解せぬ。
「それじゃあ、私はまた秘湯に行こうかな」
「あ、それなら僕もつれてってください」
「ゆーくんが行くなら私も」
別れようとしたところで十条さんが行く。それに僕とバカノ先輩、もとい樟葉先輩が言う。
「あ、でも、秘湯って湯船一つしかないよ。当然混浴だし、悠杜君大丈夫?」
「あ、やめときます」
一瞬頭を昨日の出来事がよぎる。うん、もう宿の男湯には二度と行かない。今日は外湯めぐりの時に体洗っとこう。
「それじゃあ、17時ころかな? 宿のロビーで待ち合わせっていうことで」
ちなみに樟葉先輩はついていかなかった。押し付けられなかったか。
「あ、悠杜君こんなところにいたんだ」
「ええ、ちょっと湯あたりしたかもしれないです」
何軒か回った後で、僕が足湯に浸かっていると女湯から3人が戻ってきた。
「ああ、でも足湯もいいかもね。気持ちいい~」
「景色もきれいですしね」
なんか爺さんみたいなことを言ってる気がする。
「まあ、それは否定しませんが」
そうだった、山科さんは人の心が読めるんだった。
「でも、ここんとこ生徒会だったりバイトだったりで結構疲れがたまってたからさ。やっぱり、温泉っていうのはいいものだと思うよ」
「それは男色家に遭遇してもですか」
「うっ」
でもまあ、こうやっていると気持ちいいのは本当だし、それに、大分ほっこりするし癒される。デメリットを払って十分おつりがくるくらいじゃないかなあ。
「のんびりと、ゆるゆると。こういう日もあっていいんじゃないかと思うよ」
「そうですね。でも、計画の方は忘れないでくださいよ」
「あ、うん」
そんな話をのんびりとする。正面に座った深草さんが、なんか、髪が濡れてるのが今更ながら艶っぽい。樟葉先輩は、なんかゲームコーナーで遊んでるし。
「あれ、みんな足湯中? 次のとこ行かないの?」
「ああ、バカノ先輩。ちょっと体が火照って来たので冷ましてるところです」
「ん、あれ、今私の名前の前に何かつけなかった?」
あ、しまった。つい樟葉先輩をバカノ先輩って呼んじゃった。
「そうですね、確かに今、バカノって言ってました」
「ちょっと酷いよ悠杜君!」
「ごめんなさい、つい」
「まあ、確かに馬鹿ですからね」
「ちょっと京香ちゃんも酷いよ! 先輩に対する敬意はないの!」
ごめんなさい、ありません。特に先輩と『恋人』達に関しては。それと、昨日今日の行動は紙一重で馬鹿に分類されると思う。
「でも、バカノ先輩ってなんか面白くてつい笑っちゃいますよね。すいません」
「未悠ちゃんまで!」
「いいじゃないですか、愛されてるってことで。バカノ先輩で愛称決定!」
「あ、こら!」
ちょっとした意趣返しだ。普段からかわれてる分のお返しだ。ああ、なんかスッキリした。
段々樟葉先輩の扱いが酷くなる。
まあでも、先輩を主要登場人物にしようと思ったらポンコツにするしかないよね(開き直り)




